超人類
七海の腕を掴み、スーパーを出た。
辺り一帯は皆焼け野原となっている。もう此処に住み続けるのは無理だろうな。
少し寂しいような感情に浸っていると、逃げ惑う人間の一人が、こっちに気付いて近づいてきた。まずい、見られた。
「ねぇ、あの人こっちに来るよ?」七海も気付いている。
近づいてくるのは、20代前半くらいの青年だった。地毛だろうか、髪は茶色で、優しそうな目をしている。いかにも好青年風だ。足早にこちらに近づいて来る。
いざと言う時のために右手を木の棒に変形させておく。
「ちょっと君たち、こんなところで何してんの」少し不審そうな表情で青年が聞く。
僕は表情を緩ませ、笑顔を作った。
「いやすいません。ちょっと二人で肝試しに来ていて。急に外から凄い音がして出てきたんですよ」
「そうなんです」後ろで七海が合わせて来る
少しの沈黙の後、彼は納得してくれた。
「ここは危険だよ。君たちの言う通り、さっきソリトンの奴らが街にミサイル攻撃を仕掛けてきたんだ。
クソ!超人類共もソリトンも好き勝手しやがって」僕は黙っていた。
「まあいいや二人とも怪我とかはない?」
僕らは同時に頷く。
「よし、じゃあすぐにここから逃げよう。ここから2キロ先に大きな公園があるから、取り敢えずそこまで行こう」
その公園の辺りには淳太がいる。僕は大人しく従う事にした。
街の崩壊は目前まで迫って来ているようだ。1.5キロ離れた地点でもミサイル弾が撃ち込まれていたようで、民家も雑居ビルも居酒屋もどこもかしこから火の手があがっている
どう考えても市民が巻き込まれている時点でソリトンのやり方は狂っている。まるで魔女狩りの如く手当たり次第に殺しまくる。
目の前で大きな銃を持って巡回しているソリトンの歩兵を睨んだ。厚い防護服に包まれた姿は、まるで野生のゴリラを彷彿とさせる。両目にゴーグルを掛けながら辺りを見渡している。
装甲車には捕らえられたであろう超人類達。中には必死に自分が人間である事を主張する者がいたが、お構いなしに車内にぶち込まれる。その中に一人僕ほどの年齢だと思われる少年と目が合った。ダイヤの形をしたネックレスを首から下げた彼は、僕と目が合うと驚いたような表情をした。
彼の黒い瞳が妙に印象に残った。
街を進み続けて辿り着いた場所は、豪華な噴水が中で出迎えてくれる、大きな公園だった。
ここまでだいぶ走って来たので、七海も青年も激しく呼吸していた。周りを見渡しても火の手が上がっていたりはしない。平和な日常の景色がそこに広がっていた。
目の前の噴水では小さな子供が遊んでいる。
横ではベンチに座って優雅に読書をする婦人。
先程まで見てきた地獄とは別世界のようだ
「淳太はいつこっちに来るの?」不意に七海が聞いてくる。
そういえば、あいつはまだ姿を見せていないな。あいつが死ぬなんて考えられないけど。
「仕方ないな、僕たちの方からあいつに会いに行くか」
先程から何かそわそわした様子の青年に、友達に会いに行くからと、別れを告げようとした時だった。
一瞬、空間が歪んだような気がして後ろを振り返った。“ドガーン“凄まじい爆発音と共に後方のビルが爆発した。
爆発の衝撃は強く、ビルの近くにいた車や人は勿論、公園内にいた僕らまで吹き飛ばされた。
閉じていた目蓋を開くと、辺りを見渡した。爆発元のビルは上部が消え去り、鉄骨が剥き出しになっている。車は炎上し、道路や歩道には吹き飛ばされた市民の“破片“が散らばっていた。さっきまで街を歩いていた人間は物言わぬ肉塊と化して辺りを赤く染めているこんな死体を見たのは淳太と初めて会った時以来だ。
気持ち悪いのを堪えつつ、忘れている人物が居ることに気がついた。
「七海!」
パニック状態の人々をかき分け、かき分けて探したが、どこにも居ない。
その内救急車や消防車が来て多数の人が運ばれていく。
「公園内にいる人間は直ちに立ち去れ」空からプロペラの爆音をたてて一台のヘリ。側面には“SORITON“の文字が書かれている。公園の入り口には数台の戦車が待ち構えている。
僕は公園内を走った。彼女の名前を呼びながら。
「止まれ!!」
ソリトンの隊員の怒号を無視して走った。
その内、放たれた砲弾が直撃した。