表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

竜の姫

ハリバットの操縦する船で、リヴヤタン王国に向かう一行。

船内で、ハリバットが今回の任務について話始めた。

ハリバット「まず、リヴヤタン族について説明しておきましょうか。」

ハリバット「リヴヤタン族は知力、体力ともに優れた強靭な種族で、

      その王国では強力な軍隊も編成されています。」

ハリバット「いくらトラフィアといえどもまともに戦えば被害は甚大でしょう…」

ハリバット「なので、まず不可侵条約で油断させようという魂胆が

      透けて見えます。」

ハリバット「今回、みなさんにはリヴヤタン王の娘、

      つまりリヴヤタン王国の姫君に会っていただきたい。」

アルビン「何故、王ではなく姫に?」

ハリバット「ええ、リヴヤタンの姫は争いを好まない温和な性格だそうで…」

ハリバット「実は、今リヴヤタン王国はトラフィアに対する徹底抗戦派と、

      不可侵条約締結派で揉めているのですが…」

ハリバット「その姫が、不可侵条約締結派の筆頭的存在なのです。」

アルビン「争いを好まない姫、か…」

ハリバット「リヴヤタンの姫は国民にも絶大な人気があり、王も寵愛しています。」

ハリバット「姫を説得することができれば、リヴヤタン王国の風向きを一気に

      徹底抗戦の流れにすることができるはずです。」

話を聞いていたトリエステが、少し不安そうに言う。

トリエステ「今の話を聞いていると、まるで戦争をけしかけるような…」

今まで前を向いて話していたハリバットが、横顔を四人に向けた。

ハリバット「どのみち、いずれトラフィアはリヴヤタンを侵攻します。」

ハリバット「アビス全土を手中に収めるのがトラフィア帝国の野望ですから。」

ハリバット「トリエステさん、あなたもトラフィアのやり方は

      よく知っているはずです。」

トリエステ「…」

アルビン「それで…どうやって姫に会えばいい?」

再び前を向くハリバット。

ハリバット「我々は徹底抗戦派の大臣と接触を持ちました。」

ハリバット「その大臣を通じ、姫との面会の機会を得ることができました。」

ハリバット「後は、フランクリン司令の言うように、

      みなさんの経験を踏まえ、姫を説得していただきたい。」

アルビン「ハリバットさんはどうするんだ?」

ハリバット「私は反乱軍としての活動も長く、トラフィアに

      面が割れている可能性もあるので…」

ハリバット「船内で待機しておきます。」

アルビン「分かった。」


そうこう話しているうちに、船はリヴヤタン王国に到着した。

船から降りる五人。

目の前には美しい自然と、大きな都市、そしてその中央には立派な宮殿が見える。

トリエステ「こんな美しい場所がアビスにあったなんて…」

ハリバット「都市の入り口へ向かってください。」

ハリバット「こちらが手配した宮殿内の協力者を待たせているので。」

アルビン「分かった。」

ハリバットを除く四人は、リヴヤタン王国へ向かって歩き始めた。

ハリバットは途中までその様子を見送ると、船の中へ消えていった。


四人が都市の入り口の大きな門の前に辿り着くと、

門番と思われる兵士に止められる。

門番「待て、何者だ?」

アルビン「えっと…あの…」

別の門番が言う。

門番「トラフィアの連中じゃないか?人間だし…妙な種族も紛れているが。」

サイアナとトリエステがお互いの顔を見る。

そのとき、門の向こうから別のリヴヤタン族の男が現れた。

リヴヤタン族の男「その方たちは姫の客人だ、お通ししなさい。」

門番「は…ハッ!」

男が声を潜め言った。

リヴヤタン族の男「反乱軍の方々ですね?大臣がお待ちです。

         宮殿まで案内しましょう。」

アルビンは、この男がハリバットの言っていた宮殿内の協力者なのだと思った。

一言で外部の人間を中に招くことができる辺り、

この男もそれなりに位が高いのだろう。

反乱軍とはなんとも抜け目のない組織だと改めて感じていた。


四人は男について宮殿内へ通された。

宮殿の中では、いかにも威厳に満ちたリヴヤタン族の男が待っていた。

四人を案内してきた男が言う。

リヴヤタン族の男「こちらが、リヴヤタン王国のドラクオ大臣です。」

ドラクオ大臣「よくぞ参られた、反乱軍の諸君。」

ドラクオ大臣「話しには聞いていると思うが…我々は王国内でも

       トラフィア帝国と徹底抗戦の考えを持っている勢力だ。」

ドラクオ大臣「だが…影響力の大きい姫様が争いはいかんと言うてなあ…」

ドラクオ大臣「果たして諸君らに説得できるかな?さあ、きてくれ。」


四人は大臣の案内で宮殿内を進む…

大きな扉の前についた。

大臣が扉をノックし、言った。

ドラクオ大臣「姫、面会予定の客人を連れてまいりました。」

中から美しい声が聞こえる…

美しい声「入れ。」

大きな扉がゆっくりと開く…

四人と大臣が中に入ると、そこには美しいリヴヤタンの女性が座っていた。

リヴヤタン族は、みなアルビンたちよりずっと体が大きく、

頭部からは角のようなもの、背中からは翼のようなものが生え、

どこか気品すら感じさせる美しい容姿をしているが、

目の前の女性はそれら一般のリヴヤタン族とすら一線を画す、

優雅な姿をしていた。

その姿に思わず見とれてしまうアルビンたち。

大臣が言う。

ドラクオ大臣「こちらが、リヴヤタン王国の姫、メイダ姫だ。」

ドラクオ大臣「姫、この者たちが例の…」

姫が大臣の言葉を遮るように言う。

メイダ姫「アビス中の様々な種族の代表者じゃな?」

メイダ姫「妾は生まれて已来、この島から出たことがなくてのう…」

メイダ姫「リヴヤタン族以外の種族を見るのは初めてじゃ。」

まじまじと四人を見つめるメイダ姫。

メイダ姫「その…ひときわ小さい者は…生きておるのか?」

メイダ姫の視線の先には、極度の緊張から石のように固まったサイアナがいた。

ミール「はい…生きております…多分…」

大臣が一歩前に出るとこう言った。

ドラクオ大臣「姫、この者たちはトラフィアから弾圧を受けている種族や都市の

       代表者たちです。」

ドラクオ大臣「トラフィアはアビス中で少数種族の弾圧を続けております。」

ドラクオ大臣「我々リヴヤタン族だけが例外になるとは思えませぬ…」

ドラクオ大臣「どうか、この者たちの話に耳を傾けてくだされ…」

アルビンたちは、自分たちが見てきたトラフィア帝国について語った…

アルビンは故郷を滅ぼされたこと…

サイアナは今まさに故郷が占領されていること…

トリエステは自分たちの種族が過酷な労働を強いられていること…

メイダ姫はそれを黙って聞いていた。

アルビンたちが話し終わったと見ると、大臣が口を開く。

ドラクオ大臣「姫…お聞きになられましたか?」

ドラクオ大臣「トラフィアの悍しき本性…やつらを信用してはなりませぬ!」

ドラクオ大臣「リヴヤタン族を守るために、

       どうか不可侵条約締結に反対していただきたい!」

黙っていた姫が口を開く…

メイダ姫「…ならぬ。」

アルビン「…!」

メイダ姫「そなたらの身の上には同情する…

     が、リヴヤタンの民に血を流させるわけにはいかぬ。」

メイダ姫「それに…リヴヤタン族は力を持っておる。」

メイダ姫「それがトラフィアとぶつかればアビスもどうなるかも分からぬ。」

メイダ姫「妾には、今アビスがかろうじて均衡の状態にあるように思える。」

メイダ姫「リヴヤタンが動けば均衡は崩れる…妾はそれが恐ろしいのじゃ。」

ドラクオ大臣「分かりました…」

四人と大臣はメイダ姫に頭を下げると部屋を出た。


四人と大臣は姫の部屋を後にすると、宮殿の通路を歩く…

アルビンが小声で話す。

アルビン「説得が失敗した場合…どうするんだ?」

ミール「…失敗したときのことを聞いていなかったわね。」

話が大臣にも聞こえていたようだ。

大臣はこちらに振り返ることなく話す。

ドラクオ大臣「今までも様々な者が様々な方法で説得を試みてきた…」

ドラクオ大臣「いずれも失敗に終わり、今回も期待はしていなかったよ。」

ドラクオ大臣「だが、心配は無用だ。」

そう大臣が言ったか言わぬかの間、姫の部屋から悲鳴が聞こえた。

「きゃああああああああああ!!!」

四人と大臣、そして宮殿内の者たちが慌てて姫の部屋の前に駆けつけた。

大臣が部屋の扉を開ける。

すると、中でトラフィア軍の黒い装甲に身を包んだ兵が、

メイダ姫の胸元に深々と剣を突き刺していた!

ドラクオ大臣「トラフィアの兵が…捕らえろ!」

大臣が叫ぶ。

トラフィア兵はメイダ姫から剣を引き抜くと、

窓を突き破り飛び降りてしまった。

侍従たちが姫に駆け寄る…

姫はすでに事切れていた。

トリエステ「…ひどい…!」

アルビンたちもトラフィア兵を追うため、下に降りる。

大混乱に陥る宮殿内。

大臣が兵に言った。

ドラクオ大臣「捜索を続けろ、私は王に報告に行かねばならぬ。」


アルビンたちはトラフィア兵が飛び降りた場所に向かう。

そこには飛び散ったガラス片があるのみで、すでにトラフィア兵の姿はなかった。

アルビン「逃げられたか…」

ミール「何故トラフィア兵が姫を…なんにせよ、きっと大変なことになるわ…」

トリエステ「私たちはこれからどうすれば…」

ミール「そうね、とりあえず船に戻ってこの件をハリバットに報告しないと…」

四人はひとまず船に戻ることにした。


四人は船を停めている場所に戻った。

アルビンが船の扉を開け、中に入る。

なんと、船の中にトラフィアの兵が立っていた。

アルビンはとっさに剣を引き抜く。

トラフィア兵「もう戻られましたか。早かったですね。」

アルビン「!?」

トラフィア兵はそう言うと、ゆっくりとメットを脱いだ…

メットの向こうから、ハリバットがこちらを鋭い目つきで見ていた。

トラフィア兵はハリバットだった。

アルビン「どういうことだ!?説明しろ!」

アルビンは、目の前の光景だけでおおよそ事態を理解していたが、

一応、説明を求めた。

ハリバット「説得が失敗した場合のプランを実行したまでです。」

アルビン「失敗した場合のプラン!?トラフィア兵の装甲まで用意して…

     最初からそうするつもりだったんだろう!」

ハリバット「正直、説得には期待していませんでした。」

ハリバット「反乱軍にも穏便に事を進めたい者たちはいるのでね…」

ミール「私たちに黙って…」

ハリバット「作戦は実行に必要な最低限の人員にだけ知らされていれば

      よいのですよ、ミール。」

トリエステ「私はトラフィアからグード族を救いたい…

      でもこんなやり方には納得できません!」

ハリバット「あなたが納得するか否かとは無関係に、

      もうリヴヤタンは止まりませんよ。」

ハリバット「今頃大臣が…」


そのころ、リヴヤタン宮殿の王の間では…

体の大きいリヴヤタン族の中でも、さらに一際巨大なリヴヤタン王が、

王座に鎮座し大臣の話を聞いていた。

ドラクオ大臣「アビスの他種族の代表者たちの中にトラフィアの刺客が

       紛れていたようで…」

ドラクオ大臣「やはり、トラフィアの連中は我々を油断させ、

       攻め滅ぼすつもりだったとしか考えられません!」

ドラクオ大臣「王、ご決断を…姫の仇を…」

黙って聞いていた王が、地鳴りのような声を響かせる。

リヴヤタン王「…全軍を集めよ…セントラルランドへ進軍の準備を…」

ドラクオ大臣「直ちに!」


ハリバット「これからトラフィアとリヴヤタンの全面戦争が始まります。」

ハリバット「トラフィア軍の大部分が、リヴヤタンとの戦線に

      投入されるでしょう。」

ハリバット「これでセントラルランドの警戒も突破できるようになる。」

ハリバット「我々もこれから他の反乱軍の船と合流し、

      一気にセントラルランドを攻め落とす手はずです。」

そう言い終わると、ハリバットはトラフィアの装甲を脱ぎ、

操縦席に座った。

サイアナ「さっきから勝手なことばかり喋りやがって…!」

サイアナが操縦席に座るハリバットに飛びかかった。

「バチィ!」

「ぐわっ!」

次の瞬間、サイアナはあたかも透明な壁にぶつかり跳ね返されるように、

船体後方まで吹き飛んでいた。

アルビン「サイアナ!」

トリエステがサイアナを抱き起こす。

サイアナ「うう…」

ハリバット「船の中で暴れられては困ります。」

ハリバット「いいですか、これはトラフィア帝国を倒す千載一遇の機会なのです。」

ハリバット「この戦いが終われば、みなさんの故郷も開放されるでしょう。」

ハリバット「それとも、ここで私と戦い故郷の人々を見殺しにしますか?」

四人はハリバットの言葉と、その威圧感に押し黙ってしまった。

もうすでに四人は飲まれていたのだ。

動き出したアビスの大きなうねりに…


ハリバットは船を動かした。

一行を乗せた船はトラフィアの本拠地セントラルランドへと向かう…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ