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兄弟

負傷したミールを治療してもらうため、

医者を探していたアルビンとサイアナに声をかけてきた住民。

その透き通るような声はこの種族の女性のものだろうか?

真っ白なフード付きの外套を着たその住民が路地を進む。

住民がある建物の扉の前で立ち止まった。

住民「さあ、中へ…」

住民はそう言うと扉の中へ入った。

アルビンとサイアナも続く。


建物の中へ入ると、そこは平凡な民家のようだった。

住民「その怪我人をここに寝かせてください。」

住民は部屋の奥にあるベッドへミールを寝かせるよう促す。

その住民が何者かわからずについてきたアルビンだったが、

いざミールを委ねるとなると少し不安な気持ちが強くなった。

アルビン「あなたは医者なんですか?」

住民「ああ…まだ名前も名乗っていませんでしたね。」

住民「私はトリエステ。医者…を目指しているものです。」

トリエステ「ですが、怪我の治療はできます、さあ早く…」

アルビンはミールをベッドの上に仰向けに寝かせた。

アルビン「おれはアルビン、怪我人の名前はミール。こっちは…」

サイアナ「サイアナだ。」

トリエステ「ミールさん、ですね…」

そう言うと、トリエステはミールの怪我の箇所に手を当て念じ始めた。

ただ手を当ててじっとしているだけ…

アルビンは、自身の知っている医療行為とはかけ離れた目の前の光景に戸惑う。

しかし、自分には何も出来ないことも分かっているので、

ただ祈るようにそれを見つめていた。


数分が過ぎただろうか。

ミール「ん…」

なんと、ミールが目を覚まし体を起こそうとする。

アルビン「ミール!」

トリエステ「傷は治りましたが失血があります。まだ横になっていてください。」

アルビン「ありがとう…トリエステ。」

サイアナ「よかったなぁ。」

ミール「ここはどこ…何が起きたの…

    確かパイシーズと名乗るトラフィア兵と戦っていて…」


状況を把握できていないミールに、アルビンは全て説明した。

パイシーズとの戦いの最中、自らの権能で脱出したこと…

亀裂から出た先がこの島でこのトリエステという人物に治療してもらったこと…

トリエステも自分のことを三人に話した。

自分たちはグード族という種族であること、

ここはジャウワランドと呼ばれる島であること…

そしてこう続ける。

トリエステ「私はてっきり、

      みなさんはトラフィアの方たちなんだと思っていました。」

トリエステ「アルビンさんとミールさんは人間族だから…

      トラフィア人以外にも人間族がいたなんて…」

トリエステ「このジャウワの住民はみなさんに冷たかったと思います。」

サイアナ「ああ、無愛想な連中だと思ったよ。」

トリエステ「決して無愛想な種族ではないんです…実は…」


トリエステはジャウワの住民がアルビンたちに冷たかった理由を話し始めた。

それによると、このジャウワの近くにはアリュート石の採掘場があり、

トラフィアがそこを管轄しているのだという。

そして、ジャウワの住民、特に男性が、

労働力として採掘場に駆り出されているのだという。

逃げ出してきた住民の証言によると、

労働環境は劣悪で、駆り出された男性たちは過酷な環境におかれていると…

トリエステ「実は、私の兄も採掘場に送られてしまったんです…」

アルビン「そんなことが…」

トリエステ「私の兄は医者なのですが、体が弱く採掘場の労働に耐えられるとは…」

サイアナ「ちょっと待てよ、じゃあなんであんたは

     トラフィアのやつかも知れないミールを助けたんだ?」

トリエステ「それは…怪我をしていたから…」

サイアナ「あんた…いいやつすぎるぜ…」

トリエステの慈愛に、しみじみ痛み入るサイアナ。

横になっていたミールが体を起こす。

トリエステ「まだ安静にしておかないと…」

ミール「もう大丈夫、こう見えて結構体力には自身があるの。」

ミール「ねえ、アルビン…」

ミール「この近くにトラフィアのアリュート石採掘場があるって…」

アルビン「ああ。」

ミール「なら、そこにいけばアリュート石をトラフィアに運搬する船があるはず…」

アルビン「なるほど、ジャウワランドから脱出するための船を手に入れるには

     採掘場にいくしかなさそうだな。」

ミール「それに…」

アルビン「もちろん、トリエステに助けてもらったお礼もしないとな。」

トリエステ「えっ?」

アルビンとミールの顔を交互に見るトリエステ。

アルビン「君のお兄さんの話を聞いて…放っておくことはできない。」

トリエステ「…採掘場に向かうのなら…私も連れて行ってください!」

トリエステ「兄はきっと過酷な労働で体もボロボロなはず…

      私の力で治してあげないと…」

サイアナ「なら、四人でいこう!…だけどその前に腹が減らないか?」


サイアナの提案とミールの体力回復のため、出発は翌日となった。

三人にはトリエステのつくった食事が振る舞われる。

その場で、三人はこれまでの旅の話をトリエステにした。

短い時間ではあるが、親睦が深まったように思えた。

…そして夜が明けた。


トリエステの兄救出と、船を手に入れるため出発する四人。

ミール「そう言えば…採掘場に侵入する方法だけど…」

トリエステ「はい、実はあの採掘場で消費される食料も

      この街から供給されていて…」

トリエステ「毎日荷車で採掘場内部まで運ばれるのですが…」

トリエステ「その荷物の中に紛れ込もうと…」

アルビン「そんな方法で大丈夫なのか?」

トリエステ「なにせ、昨日の夜考えた方法なのでこれくらいしか…」

アルビン「採掘場にいくことが決まったのも昨日の夜だしな、仕方ないか…」

アルビン「いざとなれば、おれたちがなんとかするさ。」

話が終わると四人は街の食料倉庫へと向かった。


食料倉庫の前には荷物を満載した大きな荷車が何台かおかれていた。

アルビン「ここの荷物をどかすの、少し手伝ってくれ。」

四人は一台の荷車の荷物を動かすと隙間をつくりその中に潜んだ。

トリエステ「昼前には採掘場に運ばれるはずです。」

四人がしばらく潜んでいると外から声が聞こえる…。

街の男「えー、今日採掘場に持っていく食料はここにあるので全部だな。」

ガラガラと車輪が音をたて、荷車が動き始めた。


荷車の、荷物の間で揺られる四人。

サイアナ「まだつかないのか…」

ミール「シッ…」

荷車が止まり、外から声が聞こえる。

荷車の外では、採掘場の入り口でトラフィアの監視員が、

荷車を引いてきた街の男と会話していた。

街の男「食料を持ってきました。」

監視員「よし、倉庫まで運んでおけ。」

荷車が再び動き出す。

アルビン「どうやら、採掘場の中に入ったみたいだな…」


荷車は倉庫の前に到着し、そこにおかれた。

そのとき、トラフィアの監視員の声が響く。

監視員「おい!そこのグード族の男!」

街の男「は、はい!」

監視員「別の荷車を引いてきた男がここにくる途中で倒れたそうだ。

    代わりにお前が運べ。」

街の男「は、はい…」

荷車の周囲から人の気配が消える…

アルビン「今だ…」

四人は内側から荷物をどかすと、外に出た。

四人は人目につかぬよう、採掘場の中を移動する…

グード族が働く採掘現場に出た。

グード族の男性たちが、壁をつるはしで掘ったり、

出てきたアリュート石をトロッコに乗せて運んでいる。

岩陰からその様子を伺う四人…

アルビン「どうだ?君のお兄さんはいるのか?」

トリエステ「いいえ…」

労働者として連れてこられたはずなのに採掘場にはいない…

四人は最悪の結果を想像した。

そのとき、労働者同士の会話が聞こえてきた…

労働者「ピカール先生の体調がかなり悪いんだって?」

労働者「ああ、先生は体が弱く働けないから食事を与えられていないそうなんだ…」

労働者「先生がいなくなったら、

    おれたちが怪我をしたときどうすればいいんだよ…」

会話を聞いたトリエステが動揺する。

トリエステ「ピカール…私の兄の名です…!」

トリエステ「ああ、兄が食事もとっていないなんて、どうすれば…」

ミール「でも、話によるとまだ生きているみたい。」

ミール「ここにいないのなら…おそらく、

    労働者が寝泊まりしているようなところにいるんじゃないかしら?」


四人は採掘場内を密かに探った。

そして、採掘現場のすぐ隣に、労働者が寝泊まりしている施設を見つける。

建物内に侵入すると、中にはいくつかの部屋があった。

いずれも鉄格子のついた、牢屋のようなつくりになっている。

アルビン「今はみんな採掘現場にいっているからか、だれもいないようだな…」

そのとき、アルビンはうめき声のようなものを耳にした。

???「う…う…」

アルビン「だれかいる…」

四人がその声のするほうへおそるおそる近づく…

牢屋のような部屋の一つに、ひどくやせ細ったグード族の男が横たわっていた。

トリエステ「兄さん!」

それはトリエステの兄ピカールだった。

ピカール「この声は…トリエステ…いや…幻聴か…」

トリエステ「兄さん!幻聴なんかじゃない!助けに来たの!

      今治療するから、喋らないで…」

ピカール「トリエステ…逃げなさい…私はもう助からない…

     私も医者だ…自分の体のことくらいはわかっているつもりだ…」

トリエステ「弱気にならないで…今治すから…」

ピカール「トラフィアの連中に…見つかっ…て…しまう…」

トリエステ「兄さん!しっかり!」

ピカール「最後に…妹の…声が聞け…よかっ…」

ピカールの頭はトリエステの腕の中で力なくうなだれた。

トリエステ「うっ…うっ…」

三人は、トリエステにかける言葉が見つからなかった。

しばらくしてトリエステが立ち上がる。

トリエステ「みなさんはトラフィアにいくために旅を続けているんですよね…」

アルビン「ああ…」

トリエステ「私も…連れて行ってもらえませんか…?」

トリエステ「これ以上トラフィアの好き勝手にさせて…

      兄や…私のような思いをする人を生みたくないんです…」

トリエステ「それに…この採掘場で働かされているグード族も助けないと…」

ミール「そのためにはトラフィアを倒すしかないわね。」

アルビン「わかった…船のところへいこう。」


トリエステを正式に仲間に加えた一行は、

採掘場内にあるアリュート石を運搬する船の停泊する港へ向かった。

アリュート石が満載された貨物箱の陰に隠れる四人。

何隻かの運搬船が停泊しているが、見張りは一人しか見当たらない。

アルビン「警備が手薄だな…

     まさか船を奪いにくるやつがいるなんて思ってもいないか。」

アルビンは、隠れている貨物箱からすばやくアリュート石を一つ掴むと、

それを見張りの前に投げた。

アリュート石が音を立て転がる。

見張り「ん?」

見張りが貨物箱に近づいてくる…

見張りが落ちているアリュート石を拾おうとしたその瞬間、

サイアナが長い舌をすばやく伸ばし見張りの首に巻き付け、

そしてそのまま貨物箱の陰へと引きずり込む。

アルビンが剣の柄で見張りの後頭部を殴り気絶させた。

アルビン「さあ、今のうちに!」

アルビンがそう言うと、四人は一斉に運搬船の一つに乗り込んだ。


乗組員「なんだ!お前たちは!?」

船内には乗組員が一人いた。

ミールは乗組員にハンドガンを向ける。

ミール「動かないで!両手を上げて!」

乗組員はミールの言う通りにする。

アルビンはすばやく乗組員の手足と口を布で縛ると、

乗組員を出入り口から放り出した。

アルビン「さあ、見つかる前に出発しよう!」

ミールが操縦席に座り、船を動かす。

トリエステは窓から、徐々に遠くなるジャウワランドを見つめていた。


船がジャウワランドから離れたころ、サイアナが口を開く。

サイアナ「なあ、あの約束、覚えてるか?」

アルビン「約束?」

サイアナ「やっぱり忘れているじゃないか!」

サイアナ「ほら、船を手に入れたらおれをフローギの村に送るって…」

アルビン「ああ…」

アルビンは本当に約束を忘れており、このとき思い出した。

アルビン「そうだな…船が手に入ったし、サイアナを村まで送ろう。」

アルビン「ミール、デザートランドに向かえるか?」

ミール「…ええ、わかったわ。」

トリエステ「せっかく仲間になったばかりなのに、もうお別れなんですか?」

サイアナ「おれは元々、遺跡までの道案内でついてきただけだし…」

サイアナ「それに、村の様子も心配だ。」

サイアナ「戦士であるおれがいないと、だれも村を守れないからな。」

トリエステ「そうなんですか…残念です…」

アルビン「これからトラフィアを目指すんだ、危険も増すかもしれない。」

アルビン「サイアナを巻き込むわけにはいかないよ。」

ミール「…」


一行を乗せた船は、サイアナの故郷デザートランドへ向かっていた…。

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