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海渡り人の痕跡

突然現れ、こちらにつっかかるサイアナというカエルに、

アルビンとミールは困惑していた。


サイアナの啖呵に、族長は諭すように静かに語った。

族長「確かにお前はフローギ族で唯一、リゼル族と戦うことのできる戦士…」

族長「だがこちらの戦士様たちは伝説の海渡り人…」

族長「砂漠を救えるのはこの方たちしかおらぬ。」

アルビンとミールは海渡り人という初めて聞く言葉に戸惑った。

確かに、海を渡ってきたといえばそうなのだが…。

アルビン「待ってください。海渡り人…伝説…全く身に覚えが…」

族長「海渡り人とは我々フローギ族だけに伝わる伝説。

   みなさんがご存じないのも無理はない。」

族長「この砂漠には我々と、リゼル族、

   あとは獣と虫くらいしか住んでおりませぬ。」

族長「お二方は海の向こうからこられたのでしょう?それにその姿…

   まさに海渡り人の遺跡に描かれる海渡り人の姿そのもの。」

アルビン「海渡り人の遺跡?」

族長「おお、そう言えば随分と話が横にそれましたな…」

族長「我々が今困っているのは、まさにその海渡り人の遺跡についてなのです。」

族長は大きな木の実をくり抜いてつくられた椀の中の水を飲み干すと、続けた。

族長「この砂漠は元々我々フローギ族とリゼル族、

   それぞれ半分ずつ土地を分け、住み分けておりました。」

族長「ところが少し前から…リゼル族の連中が取り決めを破り

   我々の土地に侵攻してきたのです。」

族長「海渡り人の遺跡には湧き水があり、

   元々は我々の貴重な水源となっていたのですが…」

族長「そこがリゼル族に占拠されてしまい、

   我々は水不足に悩まされることになったのです。」

族長「リゼル族にはリゼル族の水源があったはずなのに、

   何故我々のほうの水源まで奪おうとするのか…。」

アルビン「では、その水源にいるリゼル族を我々に追い払ってほしいと?」

族長は元々大きな目玉をさらに見開きこう言った。

族長「そのとおりです!さすがは海渡り人!察しがいい!」

ミールが小さな声でアルビンに語りかける。

ミール「アルビン…その海渡り人の話のことなんだけど…」

アルビン「ん?」

ミール「おそらく…それは古代アリューン人のことなんじゃないかしら。」

アルビン「古代アリューン人?」

ミール「かつて…このアビス中を支配していたという古代文明…」

ミール「フローギ族と私たちが会話できるのも

    同じアリューン語を使っているから…」

ミール「私たちが乗っていた船も、元々はアリューン人の発明と言われているわ。」

ミール「だから、もし海渡り人の遺跡がアリューン人の遺跡ならそこに船も…」

アルビン「なるほど、そもそも船がないとこの島からは出られないんだったな。」

アルビンは族長のほうを向き、こう言った。

アルビン「分かりました。海渡り人の遺跡に向かいましょう。」

族長「おお!引き受けてくださいますか!」

族長「では遺跡までの道案内を…サイアナよ、頼んだぞ。」

少しばかり驚くアルビンとミール。

その様子を察し族長が話す。

族長「先ほども言ったように、遺跡にはリゼル族が…」

族長「我々の中でリゼル族と戦えるのはサイアナしかおりませんのでどうか…」

族長の話も終わらぬうちにサイアナは勢いよく立ち上がりこう言った。

サイアナ「遺跡へいくぞ!海渡り人ども、ついてこい!」

アルビンとミールは少し不安を覚えながらも、続けて立ち上がった。


フローギ族たちが総出で、サイアナ、アルビンとミールの三人を見送る。


砂漠を進むサイアナ、その小さな背中の後ろをいくアルビンとミール。

サイアナが口を開く。

サイアナ「そう言えば、お前たちの名前、聞いてなかったな。」

アルビン「おれはアルビンだ。よろしく。」

ミール「…私はミール…。」

サイアナ「アルビンとミールか…おっ、見えてきたぞ、あそこだ。」

砂漠の蜃気楼の向こうに、場違いな建造物が姿を現した。


三人は、遠くから、岩陰に隠れ様子を伺う。

サイアナ「問題はここからだ。見えるだろう?あそこに…」

サイアナの視線の先には見張りと思われるリゼル族の姿があった。

他にも何体か、リゼル族が遺跡の周辺をうろついているのが見える。

サイアナ「中にもリゼル族がいる。正面から突っ込むのは無理だ。どうする?」

アルビンとミールは驚いた表情でサイアナを見る。

アルビン「中に入る方法、考えてないのか?」

サイアナ「当たり前だ、海渡り人は知恵者だったと聞くぞ。

     さあ何かいい案はないか?」

アルビンとミールは呆れるもすぐに中に入る方法を考え始める。

アルビン「遺跡の外から中にまで水路が続いているようだが…」

アルビン「この水路を泳いで中に侵入できないか?」

アルビンはサイアナのほうを見て言った。

サイアナ「何故おれのほうを見る?」

アルビン「君は泳ぎが得意そうだから…様子を見てきてもらえないかと…」

サイアナ「何故おれが泳ぎが得意だと思った?おれは砂漠の種族だぞ!」

アルビン「…泳げないのか?」

サイアナ「…泳げない。」

カエルが泳げないという、その答えに、

アルビンはここが異世界であることを改めて思い起こしていた。

ミール「…三人でいきましょう。」


三人は水路に身を潜めながら進んだ。

サイアナはアルビンにしがみつく。

水路の中は無警戒なようで、すんなりと中に侵入できた。

三人は、リゼル族の気配のない場所で陸に上がった。

アルビンとミールは、服を着たまま、手で服を絞り始めた。

それを見たサイアナも、自分の外套を絞り始めた。

アルビンは、服を絞りながらサイアナに聞いた。

アルビン「サイアナ、中の構造は知っているのか?」

サイアナ「まかせろ。以前は水を汲みにきていたんだ。」

サイアナの口から、初めて頼もしい言葉が発せられた。

アルビン「中に入ったはいいが…どうやってリゼル族を追い払うか…」

サイアナ「リゼル族はよく統制のとれた戦闘部族だ。」

サイアナ「この遺跡を占領している部隊にも指揮官がいるはずだ。」

サイアナ「そいつを倒すことができれば部隊はバラバラだ。」

アルビン「なるほど。」


サイアナの案内で遺跡内を進む…。

リゼル族の足音が聞こえる。

三人はすばやく脇の通路に身を隠す。

リゼル族の足音がだんだんと近づいてくる…。

リゼル族が通路を横切ろうとしたそのとき、サイアナが長い舌を伸ばした!

その舌はリゼル族の首に巻き付き、三人の待つ通路の中に引きずり込む。

音もなく始末されるリゼル族…。

三人は、先ほど知り合ったばかりにしては、中々の連携をみせた。


そのようにして、三人は遺跡の奥へと進んでいく。

しばらく進むと、大きな広間、その上をとおる通路に出た。

広間を見下ろすと、他のリゼル族より一回り大きな、

身につけた装飾も派手なリゼル族がいるのが見えた。

サイアナが声を潜め言う。

サイアナ「あれがリゼル族の指揮官に違いない。」

ミール「私にまかせて。」

ミールはハンドガンを取り出すとリゼル族の指揮官に狙いを定める。

しっかりと狙い…引き金を引いて…。


時を同じくして、リゼル族の指揮官は、

床に彼らの好物であるケタケタ虫がいるのを見つけていた。

リゼル族の指揮官「ギィ。」

リゼル族の指揮官はケタケタ虫を捕まえるため、スッと身を屈めた。

「ガキィン!」

リゼル族の指揮官の、先ほどまで頭があった位置の壁が少しえぐれた。

「ギャアッ!ギャアッ!」

広場にいたリゼル族たちが、上の通路にいる三人を見つけ大騒ぎする。

ミール「しまった…外した…っ!」

アルビン「見つかったか!…仕方ない、戦うしか…」

「ゴゴゴゴゴゴゴ…!!!」

三人が覚悟を決めたそのとき。突然大きな音とともに遺跡が揺れた!

アルビン「なんだ!?地震か!?」

「ギャアッ!ギャアッ!」

リゼル族も混乱している。

「ドンッ!」

「グギャアッ!」

広場の入り口付近から銃声が鳴り、

リゼル族の指揮官が撃ち抜かれた!

指揮官は吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。

リゼル族たちが一斉に広場の入り口のほうを見る。

アルビンたちも見る。

入り口の陰から、黒い装甲に身を包んだものたちが姿を見せる。

手に持つ銃からは煙が立ち上っていた。

アルビンは、見覚えあるその光景に目を丸くしていた。

ミール「まさか…トラフィア軍…!」

サイアナ「なんだあいつらは!?お前らの仲間か!?」

ミール「いいえ…!」


指揮官を殺されたリゼル族たちはパニックに陥っていた。

逃げようとするもの、黒い装甲たちに襲いかかろうとするもの…

黒い装甲たちは、それらの区別をつけることなく次々に発泡した。

広場は地獄絵図と化した。

ミール「逃げるのよ!」

ミールはその光景に目を釘付けにしていた他の二人に言った。

ハッと我に返ったようにサイアナは言った。

サイアナ「こっちだ!」

黒い装甲の一人が言った。

黒い装甲「上にもいるぞ!逃がすな!」

下にいる黒い装甲たちから、上の通路にいた三人に向け一斉に銃撃が浴びせられる。

三人は、身を屈めながら遺跡のさらに奥へと逃げ込んだ。


走りながら、アルビンが言う。

アルビン「何者なんだ、あいつらは!」

ミール「トラフィア軍よ…アビスを支配する帝国の…」

ミール「このデザートランドはまだトラフィアの領地ではなかったはず。」

ミール「きっと占領するために攻め込んできたんだわ。」

サイアナ「こっちだ!」

先頭を走っていたサイアナが、二人を急かした。

奇妙な部屋に辿り着いた。

部屋の中には機械の残骸のようなものが散らばっていた。

水の流れる音が聞こえる。

サイアナ「この水路から外に出るぞ!」

ミール「待って!あれは…」

ミールが叫ぶ。

その視線の先には…水路の広まったところに何かが浮かんでいるのが見える。

アルビン「あれは…船か!?」

ミールは船に駆け寄ると、水面から出た部分にある蓋のようなものを開けた。

ミール「乗って!」

ミールは他の二人を急かす。

アルビン「待て、動くのか?」

ミール「分からない…でも船があるってことは

    この水路は海につながっているんだと思う。」

ミール「海には、泳いでは出られないわ。」

ミールはそう言うと、船に乗り込んだ。

ミールのその言葉を聞くと、アルビンも船に乗り込んだ。

サイアナ「ちょっ、ちょっと待て、この金属の塊は昔からここにあったが

     中に入れたのか…」

サイアナはキョロキョロと船の外部を見て回った。

ミール「早く!」

ミールに急かされ、サイアナも慌てて船に乗り込む。


船内に入ると、ミールはなにやら操縦席で機械の操作を始めた。

アルビン「どうだ、動きそうか?」

ミール「待って…動いた!」

なんと、船はまだ動くようだ。

船の推進機構が動き出すと、船体は水の中に身を沈め始めた…。

水路の中を進む船。


しばらく遅れて、トラフィアの軍勢が船の留まっていた部屋になだれ込んだ。

トラフィアの兵の一人が言う。

トラフィア兵「先ほど人間の姿が見えたが…この部屋にもいないな。」

トラフィア兵「一応、パイシーズ殿に報告しておくか。」


三人の乗る船は、水路から海に出ていた。

船内では、生まれて初めて乗る船に、サイアナが戸惑っていた。

サイアナ「なんだこれは…今海の中を進んでいるのか?」

サイアナ「これが海渡り人の力か…」

アルビンが操縦席に座るミールに近づき、話しかけた。

アルビン「どこに向かっているんだ?」

ミール「それが…自動操縦になっていて…解除できないの。」

アルビン「どこにいくかは分からない、か…

     妙なところに連れていかれなければいいが…」

サイアナ「もう村には帰れないのか?」

二人の話を聞いていたサイアナが不安そうに尋ねる。

アルビンとミールは、一人村を離れたサイアナの心中を慮った。

アルビン「大丈夫だ。新しい船が見つかったら、必ず君を村に送り届ける。」

アルビンは根拠のないことを約束してしまった、と思った。

しかし、それはサイアナを安心させたい一心からのものだった。

サイアナは、少し落ち着きを取り戻したのか椅子に腰掛けた。

アルビンも、その隣に座った。


ところ変わって、ここはトラフィア軍デザートランド駐屯基地…

やはり黒い装甲に身を包んだ将校と思しき人物が、部下から報告を受けている。

トラフィア兵「デザートランドへの侵攻、滞りなく進んでおります。」

将校「うむ…」

将校は椅子に腰掛け、おそらく自身のものであろう大きな剣を磨きながら、

兵のほうへは顔も向けずに話を聞いていた。

そこに別のトラフィア兵が駆けてくる。

トラフィア兵「パイシーズ殿、ご報告があります。」

そのトラフィア兵は椅子に座る将校をそう呼んだ。

パイシーズ「なんだ?」

トライフィア兵「はっ!アリューン人の遺跡を攻略していた部隊からの連絡で、

        遺跡の内部で二名の人間を目撃したと…」

パイシーズ「ほう…で?」

パイシーズは剣を磨く手を止め、トラフィア兵のほうへ顔を向けた。

トラフィア兵「はっ、…現場からは取り逃したと…申し訳ありません!」

パイシーズ「まあよいだろう…しかしあの島にはトカゲの連中と…

      カエルのような部族しかいないとの情報だったが…」

パイシーズ「おい…」

トラフィア兵「はっ!」

パイシーズ「現場部隊に全力で捜索にあたるよう伝えろ!

      そしてわずかな情報でも私に報告しろ!」

トラフィア兵「はっ!」


「ガリガリガリガリガリッ!」

三人を乗せた船は、突然大きな音を立て揺れていた。

床に投げ出されるアルビン。

アルビン「なんだ!?まさかまたアビスウォーカーか!?」

同じく床に投げ出されるも、起き上がり窓から外を覗くミール。

ミール「いいえ…どうやら海から出て陸地に放り出されたみたい。」

安堵するアルビン。

ミールの言う通り、船体は海から陸地に上がり横転していた。

丁度、横になったため船体上部についていた蓋のような出入り口が、

横向きの扉のような形なった。

その扉から外に出るミールと、サイアナと、そしてアルビン。


目の前には荒れ果てた荒野と、そして遠くに都市のようなものが見える。

アルビンはこの光景に言葉を失った。

それは変わり果ててはいるが…その青を基調とした都市、

この土の匂い、この風の匂い…

例えどれほど時が経とうとも忘れもしない。

それは紛れもなく、故郷マナリアの景色だった。

ミール「どうしたの…アルビン?」

蝋で固めたような様子のアルビンをミールは心配する。


アルビン「ここは…おれの故郷だ。」

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