太陽
反乱軍の本拠地、アリューンランドへ上陸した五人。
そこは見渡す限りの荒野…
そんな殺風景の中に、場違いな建造物が主張しているのが見える。
アルビン「あそこか…」
五人は建物の入り口へ向かう…
アルビン「妙だな…見張りもいないなんて…」
ミール「まさかもうアビスを脱出するために出発したんじゃ…」
アルビン「急ごう。」
扉をこじ開け建物の中に侵入する。
入るとすぐ大きな部屋に出る…人の気配はなくがらんどうとしていた。
部屋の奥に見える通路をさらに進む…
反乱軍の兵「だれだ!?」
通路を曲がった先に反乱軍の兵が二名いた。
五人を見つけるや否や、銃を構える。
パイシーズがすばやく他の四人の前に立つ。
「ドンッ!ドンッ!」
「ガキィン!ガキィン!」
反乱軍の兵の銃から放たれる銃弾は、全てパイシーズの装甲に弾かれる。
パイシーズが左腕の装甲を外し、中に仕込んだハンドガンを撃つ。
「ドンッ!ドンッ!」
「ぐおっ!」
「ぐふっ…!」
反乱軍の兵たちが倒れる。
パイシーズが静かに左腕に装甲をはめ直す。
サイアナ「敵にすると恐ろしいが…味方にすると頼もしいな…」
アルビン「敵がいないってわけじゃないようだ、気をつけないと。」
五人は通路を塞ぐように横たわる反乱軍の兵をまたぎ、さらに奥へと進む…
また開けた部屋に出る…部屋の奥には水の張られたエリアがあり…
そこには巨大な船が浮かべられていた。
そして船のデッキには…フランクリンとハリバットの姿があった。
アルビン「フランクリン!」
「ガコンッ!」
突然アルビンたちの後ろで大きな音が響く。
部屋の入り口が鉄の扉で塞がれてしまった。
アルビン「閉じ込められた…?」
デッキの上から五人を見下ろし、フランクリンが語り始める。
フランクリン「ミール…やはりお前か…そしてアルビンも…」
フランクリン「丁度、今から出発するところだったのだ。」
フランクリン「アルビン…君には感謝している…君がこのアビスに来てから…
アビスの運命は変わり始めたのだ…」
フランクリン「無限の大地アリューシア…それは伝承の中だけに存在する
夢の世界などではなかった!」
フランクリン「それを我々に教えてくれた君に免じて…
ミールの裏切りを水に流し、アリューンの血を引く
君とミールだけはこの”方舟”に乗せてやってもいい。」
フランクリン「どうかね?」
アルビンとミールはハンドガンを構えると、フランクリンに向け発砲した。
「ドンッ!ドンッ!」
「バチィ!」
銃弾はハリバットの放った電撃に弾かれフランクリンまで届かない。
フランクリン「ならばこのアビスとともに滅びるがよい。」
そう言うと、フランクリンは船の中に入っていった。
ハリバットが船から飛び降りる…
と同時に、船が轟音とともに水の中に沈んでいった。
ゆっくりとこちらに向かってくるハリバット。
アルビン「まずい、出発されてしまった!」
ミール「追わなきゃ!」
トリエステ「でも入り口が…」
ミール「あそこに…!」
ミールが先ほどまで方舟が浮かんでいた場所を指差す。
よく見るとその脇に小さな船がもう一隻ある。
ハリバットの脱出用の船だろうか?
ハリバット「逃しませんよ…」
ハリバットが右手を構える…
パイシーズ「行け!こいつの相手は私がする!」
ミール「パイシーズ…」
ハリバットの右手から、アルビンたちに向け電撃が放たれる!
パイシーズはすばやく左腕の装甲を外すと、それを宙に放り投げた。
「バチィ!」
電撃は宙に舞う装甲のほうへ吸い寄せられた。
パイシーズはハンドガンをハリバットに放つ。
「ドンッ!ドンッ!」
ハリバット「くっ…!」
ハリバットは電撃の放出をやめ、横に走りながら銃弾をかわす。
パイシーズ「行けぇ!」
パイシーズは叫んだ。
アルビンたちは船に向け走り出す。
ハリバットが、今度はアルビンたちに向けて電撃を放った。
サイアナ「うわあっ!こっちにきたぞ!」
ミールが、先ほど放り投げられたパイシーズの装甲へ権能を使う。
装甲がアルビンたちとハリバットの間に移動すると、
電撃を受け止めた。
ハリバット「くっ…!」
その隙に、パイシーズがハリバットとの距離をつめる。
パイシーズ「ぬんっ!」
パイシーズは剣を引き抜き、ハリバットを斬りつけた!
ハリバットはすんでのところでそれをかわす。
が、肩口にわずかに傷を負う。
船に乗り込んだ四人…
ミールがすぐさま操縦席に座る。
トリエステ「あ、あの…パイシーズさんを待たなくても…」
ミール「パイシーズもアビスを救いたいのよ…」
ミール「その想いを無駄にはできない…!」
そう言うと、ミールは船を出発させた。
船が水の中へと沈んでいく…
パイシーズとハリバットはそれを横目に見届けた。
ハリバット「はあ…はあ…あなたはトラフィアの…
まだ生きていたとは…」
ハリバット「それにしても…元トラフィア軍のあなたが
彼らと共闘するとは…」
パイシーズ「勘違いするな…敵の敵は味方…
それにお前にやられたままでは寝覚めが悪くてな。」
一方、フランクリンたちを乗せた方舟は、アビスの太陽…コアを目指していた。
フランクリンは船の前方のブリッジの窓から、アビスのコアを見つめている…
フランクリン「ん?」
アビスのコアの表面に、なにやらうごめくものが見える…
よく見ると、それは鳥のような形をしたアビスウォーカー…
それもものすごい数が、方舟に向かってきている。
フランクリン「なんだ、あれは!?」
フランクリン「迎撃しろ!」
方舟から魚雷が発射される。
魚雷がアビスウォーカーに命中し、爆発四散…
しかし他のアビスウォーカーは、全く意に介することなく、
真っ直ぐ方舟に突っ込んでくる。
フランクリン「なんだこれは…まさかアビスを守ろうとしているのか!?」
鳥のよう姿のアビスウォーカーがブリッジの窓に突撃した!
「ドシャアッ!」
「うわあっ!」
思わず、フランクリンや操縦席に座る反乱軍の人間たちが怯む。
が、窓には傷一つついていない…
フランクリン「…驚かせよって…構わん、このままコアに突入しろ!」
アルビンたちの船が方舟を追う…
ミール「何やら前方が騒がしいわね…」
アルビンたちの船に向かって、方舟のほうから何かが流れてくる…
ミール「!?」
その何かが船をかすめていく…
それは方舟にぶつかり潰れたアビスウォーカーだった。
ミール「一体何が起こっているの…?」
アルビン「追いつけそうか?」
ミール「こちらのほうが速度はあるみたい…」
ミール「追いつけそう…!」
反乱軍の基地では…
ハリバットが壁に背中を付け座り、うなだれかかっている…
腹部にはパイシーズの剣が突き刺さっていた。
基地の外にはボロボロになったパイシーズがいる…
パイシーズは頭上に浮かぶアビスの太陽を見つめていた。
そのとき、アビスのコアでは…
方舟の先端、槍のように尖った部位がアビスのコアに突き刺さる。
それまで球体を保っていたアビスのコアの形が崩れる。
まるで中身が漏れ出すかのように、槍の突き刺さった部分から、
海中に光が溢れた。
アビスのコアが強い光を放つ…
普段とは違うその様子に、アビスの住民たちは太陽を眺めた。
グリーンランドではラビア族たちが…
デザートランドではフローギ族たちとリゼル族たちが…
マナリアランドではマナリアの人々が…
ジャウワランドではグード族たちが…
リヴヤタンランドではリヴヤタン族たちが…
セントラルランドではトラフィアの人々が…
トタルランドではトタル族たちが…
みな、この光が破滅の光だとは知らずとも、
胸騒ぎと不安を覚えていた…
アルビンたちの船は、方舟に追いつき、その横につけていた。
ミール「くっ…眩しい…っ!」
アルビン「コアの破壊が始まったか…!?」
トリエステ「そんな…」
サイアナ「追いついたはいいが、どうやって止めるんだよ!」
方舟のブリッジでは、フランクリンが両腕を大きく広げ、
コアの放つ光を浴びていた。
フランクリン「おお…この光の向こうに、無限の大地が…」
ブリッジは、いっそう強い光で真っ白に染まった。
そのとき、方舟からアルビンたちの船に向け、魚雷が発射される。
魚雷はアルビンたちの船に命中した。
船は粉々に砕け散り…アルビンたちは海中に放り出された…
「ゴボゴボ…」
アルビンは、ますます光を増すアビスのコアを背景に、
海中を漂っていた…
アルビン「(もう、だめなのか…)」
アルビンの全身から力が抜けていく。
アルビンが目を閉じようとしたそのとき、海中を漂うミールの姿が見えた。
アルビン「(ミール…っ!)」
アルビンは気力を振り絞り、ミールの元へと泳いだ。
アルビンが左手を伸ばしミールの手を握ると、ミールが目を開けた。
水中で見つめ合う二人…
アルビンには、不思議とミールの考えていることが伝わってきたような
気がしていた。
そして、ミールは自分と同じことを考えていると…
アルビンは右手で剣を引き抜くと、強く想った。
アルビン「(みんなを助けたい…!
ミールと二人で…これからも生きていきたい…!
もう一度アリューシアへ…!)」
アルビンは、海中を斬り裂いた。
アルビンとミールは、目の前が真っ白になった…
アビスのコアが完全に崩壊する。
アビス中が、コアの放つ強い光に包まれる…
アビスの太陽を見ていた住民たちも、光に飲み込まれていった…
とある診療所…椅子に腰かける人間の男…
男は上半身の服を脱いでおり、背中には火傷の跡があった。
その火傷の痕に薬を塗る…トリエステの姿があった。
トリエステ「もうかなり良くなりましたね。」
トリエステ「また一ヶ月後、薬を塗るのできてくださいね。」
男は黙って立ち上がると、服を着て部屋から出ようとする…
トリエステ「あ、そうだ。パイシーズさん、こちらで仕事は見つかりましたか?」
トリエステ「サイアナさんが、砂漠で観光の仕事を始めるって…
いってみたらどうですか?」
パイシーズ「この私に、あのカエルの下で働けというのか?」
そう言うと、パイシーズは部屋を出ていった。
砂漠では…一人のフローギ族が、水辺で喉を潤していた。
サイアナ「ふー、生き返る!全く…こっちの砂漠は暑くてかなわない…
アビスの砂漠が懐かしいぜ。」
森の中に朽ちた倒木があった。
その上にアルビンとミールが並んで座っている。
「ガサッ…」
そのとき、茂みから物音が聞こえる。
茂みのほうを見る二人…
茂みからラビア族が姿を現した。
フランクリンたちを乗せた方舟は、闇の中を進んでいた。
フランクリン「ここは…アビスからは脱出できたのか…」
ブリッジの窓から見える景色には、明るい光を放つ太陽が輝いている。
フランクリン「あれが…伝承にある明るく輝く太陽なら…
無限の大地はどこに…」
船の窓からは、ところどころアビスにあった島のようなものが見える。
フランクリン「これでは…まるでアビスの中と同じ…
アビスの外もまたアビスだったというのか…!」
見晴らしのいい丘に、一人の人間の女が大の字に寝転んでいる。
どうやら、日向ぼっこをしているようだ。
リリアン「なんて暖かい光なんでしょう…」