アビスの形
船の元に着く三人…
船に乗り込むと、ミールは操縦席へ向かう。
パイシーズ「待て、私が操縦しよう。」
パイシーズ「横で道案内をするより、そのほうが早いだろう。」
ミール「…」
ミールは座りかけていた操縦席をパイシーズに譲る。
船はパイシーズの操縦でトタルランドを目指すこととなった。
船内には、いつも船は自分が操縦していたからなのか、
他人の操縦する船で落ち着かない様子のミールがあった。
パイシーズには特におかしな様子もない。
本当に反乱軍を倒すために協力するつもりのように見える。
パイシーズ「着いたぞ。」
しばらくして、船がトタルランドに到着した。
トタルランドは一面が白い砂に覆われた美しい世界だった。
ところどころサンゴのような植物も見える…
三人は上陸してすぐに見える集落へと向かった。
トタル族の集落に入る…
トタル族は、アリューシアでは「カメ」と呼ばれていた生き物にそっくりだった。
しかしアルビンがアリューシアで見たカメよりもずっと巨大で…
そんなトタル族たちは、部外者である三人を奇異の目で見る。
ミール「ちょっと、来たのはいいけど、だれに話を聞けばいいの…?」
そのとき、三人に声をかけてくるトタル族がいた。
トタル族「トラフィア帝国は滅んだと聞いていたが…
そのトラフィアの軍人がこんな辺境の島に何用かね?」
パイシーズ「…」
アルビン「あなたは…?」
トタル族「私はコロモス。この島で古代アリューン人の遺物の管理人をしておる。」
アルビン「…古代アリューン人に詳しいんですか?」
コロモス「詳しいも何も、一緒に暮らしていたこともあるわい。」
ミール「アルビン、この人なら…」
アルビン「実は…」
アルビンは自分たちがこの島にやってきた目的を話す。
反乱軍がアビスを滅ぼそうとしていること、
それを阻止するため、古代アリューン人が暮らしていた場所を探していること…
アルビン「何か知っていますか?」
コロモス「お主らを見たとき、胸騒ぎを覚えてな…それで声をかけてみた
んじゃが…正解だったようじゃな。」
コロモス「この集落の近くに、古代人の遺跡と呼ばれる場所がある。」
コロモス「わしはそこを管理していてな、そこにお主らの探しているものも
あるじゃろう。」
コロモスの案内で、古代人の遺跡へ向かう三人…
遺跡の中に入ると、アルビンには見覚えのある光景が広がっていた。
デザートランドで見た海渡人の遺跡と同じようなつくりになっている。
コロモス「ここは遺跡などと呼ばれているが…実際はアリューン人がつくった
研究施設のようなものでな。」
コロモス「アリューン人はこんなものをそこいら中につくり、アビスのことを
調べていたんじゃ。」
コロモスが何やら端末を操作し始める…
突然壁に映像が映し出される。
どうやらアルビンたちが壁だと思っていたものはディスプレイだったらしい。
コロモス「今からお主らにアリューン人が残したアビスについての記録を見せる。」
壁に美しい景色の映像が流れる…太陽が明るく輝いていることから、
アビスの景色ではないようだ。
すると、音声が流れ始める…
「ここはかつて我々アリューン人が暮らしていた世界、アリューシア。」
アルビン「(アリューシア…?)」
「我々アリューン人は、この無限に広がる大地で、輝く太陽の元、暮らしていた。」
「しかし、我々の文明は突如現れたアビスに飲み込まれた。」
「我々はアビスから元の世界に戻る方法を探した。」
「何世代にも渡って…どれほどの時間が経っただろうか、我々はついに答えに
辿り着いた」
映像が切り替わり、アビスの太陽が映し出される。
「このアビスの…我々が太陽と呼んでいるものが、その答えだった。」
「この物体はアビス空間にエネルギーを供給しているコアであり、
このコアを破壊すればアビスは空間ごと消滅し、我々は脱出できるということが
わかった。」
「しかし問題があった…アビスのコアを破壊したとして、我々は元の世界に戻れる
のだろうか?」
「今アビス空間がどの次元を彷徨っているのか…それを把握する手段がない以上、
コアを破壊してアビスから脱出するのは危険だ。」
「アビスの外の状況を把握する手段を探さなければならない。」
「我々の子孫が、いつか再び無限の大地に戻ることができるよう、この記録を
映像として残す…」
その音声を最後に、映像が途絶えた。
アルビン「………」
アルビンは映像が消えた後も、ディスプレイのほうを見つめていた。
コロモス「おそらく、反乱軍…アリューン人の末裔たちは、
なんらかの方法で、今アビス空間がアリューシアと同じ次元にいることを
知ったのではないか。」
コロモス「そして今…アビスのコアを破壊しアビスを消滅させようとしていると。」
ミール「フランクリンはアビスの太陽を破壊するつもり…」
コロモス「この映像によると、アビスの太陽はアビス空間を維持するためのコア…」
コロモス「コアが消滅すれば、アビス中に存在する島々はどうなってしまう
んじゃろうなあ…」
アルビンはアリューシアで見たアビスのことを思い出していた。
もしアビス空間が消滅すれば、アビスの島々は海の底へ沈んでしまうのだろうか…
ミール「それで…古代アリューン人の居場所は…」
コロモスが棚から紙のようなものを取り出す…
そして取り出したものをミールに見せた。
コロモス「これは古代アビスの地図じゃ。」
コロモス「この中心に描かれている島こそ古代アリューン人の住んでいた島、
アリューンランドじゃ。」
ミール「ありがとう…コロモスさん。」
コロモス「往くのじゃな…」
ミール「ええ…フランクリンを止めないと。」
コロモス「アリューン人たちは…このアビスが気に入らんかったようじゃが…
ワシのようにアビスで生まれたものにとっては、こんな世界でも
故郷なんじゃ…」
コロモス「どうか、アビスを守ってくれ…」
ミール「はい…」
三人は遺跡を後にすると、船へと戻った。
パイシーズ「すぐに反乱軍のところへ向かうか?」
ミール「いいえ…一度リリアンのところに戻りましょう。」
ミール「次は私が操縦するから。」
三人は船に乗り込み、出発した。
コロモスはそれをトタルランドの果てで見送る…
コロモス「頼んだぞ…」
ミールの操縦でセントラルランドへ向かう船内…
アルビンは、遺跡の中で映像を見てから、ずっと押し黙ったままだった。
パイシーズは腕組みをしてアルビンをじっと見ていた。
アルビン「…」
パイシーズ「…どうした?…反乱軍との戦いを前にして、怖気づいたか?」
アルビン「…」
ミールもアルビンの様子がおかしいことに気付く。
ミール「具合でも悪いの、アルビン?」
アルビン「ミール…以前反乱軍の基地で大きな船をつくっているのを見た…」
ミール「ええ…私はてっきりトラフィアと戦うための戦艦なんだと
思っていたけど…今思えばあの船はアビス脱出用の船だったのね…」
アルビン「その船…いつ頃からつくり始めたんだ?」
ミール「確か…二年くらい前からかしら…」
アルビン「丁度…おれがアビスに出入りを始めたくらいの時期か…」
ミール「ええ…そう言えばそれくらいの時期、フランクリンがアビスを
出入りしている人間がいるって言っていたわね。」
アルビン「…」
そこで会話は途絶えた。
三人を乗せた船がセントラルランドに到着した。
三人はリリアンのいる宿へ向かう…
部屋の扉を開けた瞬間、アルビンは思わず声を上げた。
アルビン「うわっ!」
部屋の中にはリリアンと…なんと、サイアナとトリエステの姿があった。
サイアナ「うわっ、じゃないよ。」
サイアナ「話は全部、この女から聞いたぜ。」
トリエステ「ひどい…私たちを置いていこうとするなんて…」
ミール「違うの…そうじゃなくて…」
ミール「ところで、二人はどうしてここに…?」
サイアナ「おれはお前たちと別れた後、ビジネスを始めてね。」
アルビン「ビジネス?」
サイアナ「砂漠を盛り上げるために、観光の仕事を始めたんだ。」
サイアナ「その宣伝のためにトラフィアの街にきたら、この女を見つけたんだ。」
リリアン「すみません、見つかってしまいました…」
トリエステ「私はみなさんと別れた後、医者を目指して勉強していて…」
トリエステ「トラフィアに医学を学ぶためにきていたんです。」
トリエステ「そうしたら、街でサイアナさんを見つけて…」
ミール「なるほど…」
そのとき、アルビンとミールの背後から、ぬっとパイシーズが姿を現す。
サイアナ、トリエステ「!?」
サイアナ「う、後ろ…っ!」
後ろを振り返るアルビンとミール。
アルビン「ああ…これはな…」
アルビンは、パイシーズと旅をすることになった理由を二人に話す。
サイアナ「…本当に大丈夫なんだろうな?」
パイシーズ「…」
トリエステ「と、ともかく、アビスの危機なら私たちも無関係じゃありません。」
サイアナ「反乱軍と戦うんだろ?おれたちも行くぜ!」
アルビンのほうを見るミール。
アルビン「しょうがないな…」
リリアン「ところで…反乱軍の居場所、分かりました?」
ミール「ああ、そうだったわね…」
ミールはトタルランドで見たことを全て話した。
アビスの秘密、反乱軍のやろうとしていること…
トリエステ「アビスの外に、別の世界があるだなんて…」
リリアン「反乱軍の居場所が分かったのなら、いよいよ…」
アルビン「リリアン、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」
リリアン「はい?」
アルビンには、どうしても確かめておきたいことがあった。
アルビン「おれが…以前アルビンに話した、無限の大地の話…
フランクリンにも話したのか?」
リリアン「え、ええ…」
アルビン「…やっぱりおれのせいだったんだ…」
ミール「どういうこと?」
アルビン「おれが暮らしていた世界…そこはアリューシアと呼ばれていた。」
ミール「アリューシア…」
アルビン「古代アリューン人が暮らしていたという世界と同じ名前だ…」
サイアナ「どういうことなんだ?」
アルビン「おれが…アビスに戻ってきたことで…フランクリンたちは
今アビス空間が外の世界とつながっていることを知った…
それで、アビスからの脱出計画を実行に移したんだ…」
リリアン「私がアルビンさんから聞いた話を、フランクリン司令に話したのも
まずかったんでしょうか…?」
アルビン「…」
それまで黙って話を聞いていたパイシーズが口を開く。
パイシーズ「いつまでくだらない話をしている…」
パイシーズ「フランクリンの計画を阻止できれば関係のないことだ。」
ミール「確かに…パイシーズの言う通りね。」
ミール「フランクリンは待ってはくれないわ。」
アルビン「そうだな…行こう、アリューンランドへ!」
リリアン「行きましょう!」
みながリリアンのほうを向く…
リリアン「えっ…まさか…また留守番なんですか…?」
アルビン、ミール、パイシーズ、そしてサイアナとトリエステを加えた五人が、
停めてあった船に乗り込む。
ミール「それじゃ、出発するわね。」
五人を乗せた船が、アリューンランドへ向かう…
そのころ、アリューンランドでは…
反乱軍の基地の内部に、先端が槍のように鋭く尖った巨大な船が置かれている。
そして…それを眺めるフランクリンの姿があった。
反乱軍の技師「”方舟”はほぼ完成しました。最終チェックが終わり次第
出発可能です。」
フランクリン「もうすぐ…我らアリューン人の悲願が達成される…」
そこにハリバットがやってくる…
ハリバット「司令…」
フランクリン「ん?」
ハリバット「セントラルランドから報告が…最近我々のことを嗅ぎ回っている
者たちがいると…おそらくミールではないかと思うのですが…」
フランクリン「…構わん、好きにさせておけ…どうせ何もできやせん。」
ハリバット「…分かりました。」
フランクリンは一人でつぶやく…
フランクリン「ミール…馬鹿なやつめ…故郷へ戻る機会をみすみす捨て去るとは…」
フランクリン「アリューン人の頭上に輝くは、アビスの冷たき太陽にあらず!」
フランクリン「戻るのだ…無限の大地アリューシアへ…」