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第八話 閃光玉の威力

 ボボンガの巣から一㎞離れた場所に開けた地形があった。雨季の時に河になる地形なのか、縦に長い。幅も五十mはあった。

 河の跡から三十m離れた場所に直径一・二m、長さ十五mほどの洞窟があった。セシリアが作戦を実行する場所を見つけて、満足そうな顔をする。


「河の跡の中央に餌を置いて、ボボンガを誘き出すわ。それで、ボボンガが下りたら私が走り出す」

「あまり足場が良くないが大丈夫か? 我なら、これくらいの場所でも走り慣れておる。やはり役目を交替するか?」


 セシリアが緊張した顔で拒否する。

「危険な役目は、私がやるわ。これは決定よ」

(大丈夫かのう。かなり肩に力が入っているようじゃ。だが、セシリアの性格からして、いくら言って無駄じゃろう。あまり言い過ぎて、中がギクシャクしても困る。いざとなったら、我が助ければ良いか)

「あいわかった、説明を続けよ」


 セシリアが険しい顔で作戦を伝える。

「カエサルは閃光玉でボボンガの視力を奪って。成功したら洞窟に避難して、ボボンガをやり過ごすわ」

「それで、餌はどうする? 我々が案山子(かかし)のように突っ立っておれば良いのか? 簡単すぎて、眠くなりそうじゃ」


 セシリアが穏やかな顔で簡単に提案する。

「狐でも狩って、置いておけばいいでしょう。この辺りなら狐がけっこういるのよ」

(ボボンガの生態を熟知しており、狩りの獲物がどこにいるかも知っておる。セシリアはこの荒野を知り尽くしておるのかもしれんのう。地元の強みか)

「狐を狩るのはいい。罠で取るのか?」


 セシリアは自信たっぷりに宣言する。

「いいえ、弓で仕留めるわ」

「弓など用意して来ておらぬ。セシリアも持っておらぬであろう」


 セシリアは自信ありげに笑う。

「それは、狐を見つけてからのお楽しみよ」

「弓も矢も持たず、その自信がどこから来るか気になるのう。ただ、期待を裏切らないでほしいものよ」

(弓矢はどうにか都合するとして、腕前が気になるのう。剣の腕はいまいちだが、弓の腕はいかほどなのか不安が尽きぬ。まあ良いか、いざとなったら我が石で狐を仕留めれば問題なかろう)


 狐は十分ほどで見つかった。

 セシリアが明るい顔をして、小声で呟く。

「いたわ。狐よ。見せてあげるわ。勇者の力を」

「勇者の力とな? あまり関係ない気がするがのう」


 セシリアが弓を引く姿勢を採る。姿勢に合わせて仄かに輝く光る弓矢が現れた。

(これも、勇者技の一つか。こやつは、見掛けに反して、多芸なのかもしれぬのう)

 セシリアが弓を射ると、光る矢が飛んで行き狐に命中する。

 狐は声を上げるまもなく絶命した。


「なかなか、やるな。見直したぞ。よく狐のような小さな獲物を一撃で仕留められたものよ」

 セシリアが額に薄っすら汗を掻き、得意げな顔を向けてくる。

「どうよ。これが、私の二つ目の勇者技。『勇者の弓』よ」


「狐を仕留めるのは初めてではなかろう。よく、荒野に来て狩りはするのか?」

 セシリアが上機嫌で答える。

「街から近い場所でも、状況によっては、狩りをしなければいけないのよ。だから、仕事をこなしていくうちに慣れたわ。ここは野兎とかも獲れるのよ」


 褒めながらも、カエサルは勇者技を分析していた。

(こっちの勇者技も長時間は使えぬようじゃな。狐や小動物を仕留めるには向いておるのかもしれん。じゃが、戦闘には不向きよのう。かといって、正直に言えば機嫌を損ねるかもしれん)


 本心を隠して褒める。

「いやいや、天晴れな腕前。猟師であれば、さぞや活躍できたろう」

 セシリアが怒った顔で異を唱えた。

「あのね。私は勇者よ。強大な悪に立ち向かうために選ばれた人間なの。猟師になるために生まれてきたわけじゃないのよ。この技も悪と闘うためのものよ」


(悪と戦うと宣言されてものう。セシリアの『勇者の弓』では、子熊に通用すればいいほうじゃろう。親の(ひぐま)には通用するまい。なまじ、勇者技などを授けられたばかりに、危険な道に進むことはあるまい)


 気になったので尋ねる。

「お主は、転職とか考えた過去はないのか?」

 セシリアの顔が、怒りに歪む。

「ないわよ。勇者は勇者。勇者に決まったときから勇者なのよ」


「そう、勇者、勇者と、どこぞの田舎町の町長選挙のように連呼せずとも、聞こえておるわい」

 セシリアは膨れっ面で言い放つ。

「その話は、もうしなくていいわ。時間の無駄よ」


(セシリアがパーティと上手くいかなくなった理由は、勇者の肩書きのせいかもしれぬのう。本人は勇者の期待に応えねばと思うが、実力が着いていかん。そのくせ、下手なプライドがあるから、衝突したのであろうな)


 セシリアの背中を見ながら思う。

(これは、セシリアの背中を温かく見守ってやるしかないか)

 気を取り直して声を掛ける。

「餌は手に入った。あとは、餌にボボンガが喰いつくかだが、こればかりは運か」


 セシリアは、きりっとした顔で断言した。

「餌にはきっと食いつくわ。ボボンガはガゼルより狐が好きなのよ。特に狐の内臓がね」

「荒野では栄養豊富な餌がない。動物の内臓はご馳走なのかもしれんな。美食で育った我も、たまに、下々(しもじも)のモツ煮込みとかが、食べたくなる時がある」


 セシリアがぎこちない態度で答える。

「モツは好きじゃないわ。香辛料たくさん入れば食べられるわ。でも、それだと高く付くから、普通の肉を食べるほうが好き」

「そうか、なら、この仕事が終わったら。焼き肉でも喰いに行くか?」


「うん」と気のない返事があった。

(何じゃ? 気のない返事じゃのう。さっきのやりとりを、まだ気にしておるのか。素直ではないのう。ここは「そうね、行きましょう」とか答えておけばいいじゃろう)

 開けた場所に狐を置いて、十五mは慣れた岩陰に隠れる。


 昼頃になると、ボボンガがやってきた。

「来おったぞ、ボボンガじゃ。セシリアの読み通りじゃ」

「静かに。気付かれたら、おしまいよ」


 ボボンガは上空で狐の屍骸を見つけると、警戒するように、上空を旋回する。五分ほど旋回してからボボンガが地上に降りてきた。ボボンガが狐の屍骸を突き始める。

(ここまでは問題なし。さて、ここからがセシリアの腕の見せどころじゃな)

「いくわよ」とセシリアが岩陰から飛び出した。


 カエサルは言われたとおりに閃光玉を投げた。

 閃光玉は投げると、空中で割れて強烈な光を出す。

 カエサルは加減して投げたつもりだった。閃光玉は割れたが、破片が超高速でボボンガの顎を直撃する。


 柔らかい素材といえ、亜音速に近い速度で飛んで行けば、威力は馬鹿にならない。

 ボボンガは顎に強烈な衝撃を受け、仰け反った。衝撃でボボンガの脳が揺れ、気絶した。

 セシリアがボボンガに近づいた時には、ボボンガは泡を吹いて痙攣(けいれん)していた。

(しもうた、やり過ぎたか)


 カエサルには何が起きたか、わかった。けれども、セシリアには理解できていなかった。

 セシリアがポカンとした顔で困惑する。

「あれ? ボボンガが閃光玉で気絶した? 何で?」


 カエサルはセシリアの横に行き、声を掛ける。

「よいだろう。これで、安全に装置を付けられる。ささ、早よう、早よう」

 セシリアは納得が行かない顔で感想を口にする

「そうなんだけど、ボボンガが閃光玉で気絶するなんて、初めて見たわ」


「そういう時もたまにはあるじゃろう。きっと、気の小さなボボンガじゃったんだろう」

 セシリアは装置をボボンガの体に付ける。二人は気絶しているボボンガの元を安全に離れた。

(ふー、危ないところじゃった。ここで、実力が露見すれば、力関係がおかしくなるからのう)


 ホーエンハイムの町に戻る途で、尾行してくる人間の存在にカエサルは気が付いた。

 尾行者は気配を消して()けてきているつもりだろう。だが、カエサルにはまるわかりだった。

(嫌な奴じゃな。殺気は感じない。だが、引ったくりの機会を狙うコソ泥のような悪意を感じるぞ)


 それとなく、セシリアに聞く。

「こんな、荒野で後を尾けてくる人間がいるとすれば、どんな人間であろうな?」

 セシリアが呑気な顔で教えてくれる

「あまり、感じのいいものではないわね。野盗の類かもしれないから、注意が必要ね」


(野盗の類ね。退治しておくか。冒険の障害は排除するに限る。これもまた冒険よ)

 カエサルは保存食と一緒に買っておいた胡桃(くるみ)を取り出す。胡桃を食べる振りをする。

 何気ない動作で後ろを振り返り、胡桃を指で弾いた。胡桃が尾行者の喉に当った。

 尾行者はゆっくりと、岩陰に倒れ込んで消えた。


(急所の喉仏が潰れたから、死んだかどうかは、微妙なところよのう。何にせよ、これで心配ない)

 先頭を行くセシリアが穏やかな顔で振り返る。

「どうかしたの?」

「別に。我は、ただ、小腹が空いたから胡桃を喰うておるだけじゃ」

「素手で胡桃が割れるんだ。握力が強いのね」とセシリアは何も気付かず前を向く。


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