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第六話 ボボンガの巣を見つけて

 夕方に荒野の端に戻ってきた。着いた場所は、人間よりも大きな岩が転がる岩場だった。

 セシリアが岩陰に身を隠して、真剣な顔をして小声で話す。

「見つけたわ、ボボンガの巣よ。巣の主もいるようね」


 そっと岩陰から、セシリアが指し示した方角を確認する。

 二百m先に、高さ八m、直径二十mほどの円柱状の岩があった。岩の上に木と草で作られた巣があった。

「これで、セシリアが見失のうても、ここに戻ってくればボボンガにまた会える。これは大きな進展じゃ。いやいや、一安心、一安心。合わせて、二安心」


 セシリアが不機嫌な顔で意見する。

「私が失敗する前提で話をしないでくれる? 追跡は得意なのよ」

「そうじゃったのう。セシリアは、優秀な銀等級の冒険者じゃったな。もうちょいとで、金等級に手が届く。いや、足が届く、かな?」


 セシリアが、むっとした顔で感想を口にする。

「何か、(とげ)がある言い方ね」

「そのようなことはないぞ。考えすぎる女は、いくら美人でも、もてんぞ。たまには褒められたら、犬のように素直に喜んだら、どうじゃ?」


 セシリアが不機嫌な顔をして意見する。

「何か、カエサルの褒め言葉って、含みがあるのよね」

 巣を眺めていると、ピンク色の大きな鳥の顔が見えた。鳥の顔は大きさが一mほどあり、(からす)に似ていた。


「あれが、ボボンガか? それで、これからどうするのじゃ?」

 セシリアが落ち着いた顔で提案する。

「ボボンガは、日が落ちると眠って、朝になったら活動するわ。ここで朝になるまで待ちましょう。ボボンガがいなくなった後の巣を調査したいわ」


「何を食べているか、(ひな)がいるのかを調べるのか? 容易(たやす)い仕事よのう。朝飯前どころか、朝の洗顔前じゃ」

 セシリアが、ちょっとばかし怖い顔で注意する

「簡単に言ってくれるわね。巣の中を見ることでわかる情報は多いのよ。それこそ、おおよその活動範囲がわかるわ」


(セシリアは、ボボンガの生態をある程度まで知っておるようじゃな。戦闘能力は当てにならぬが、この手の調査では頼もしいのう)

「行動範囲がわかれば、他のボボンガの縄張りもわかるかもしれん。ボボンガは絶滅危惧種でもあるまいから、これの他にも、まだいるだろうからな、それも調査するのか」


 セシリアが機嫌もよく教えてくれた。

「調査依頼の範囲によるわね。調査を頼まれた、範囲内なら他にボボンガがいるなら調査するわ。でも、依頼書にあった区域は狭いから、こいつ一頭の調査になるわ」

(依頼人は知りたい範囲を小分けにして依頼を出しているんじゃな。なるほど、それで、似たような依頼が日に二件も出る展開もあるのか)

「なら、思ったより早く、調査が済みそうじゃな。朝飯前じゃな」


 セシリアが表情を引き締める。

「冒険に油断は禁物よ。どこで何が待っているかわからないわ」

(少しは起伏がほしいものじゃが、無理は言うまい。何せ、我は、まだ青銅等級じゃからの。能ある魔王は角を隠す、じゃ)


 交替で眠りに就き、朝を待つ。

 朝日が昇ると、セシリアの予想通りにボボンガが巣から飛び立って行った。


 セシリアと一緒に岩陰を抜け出す。

 ロープを手にしたセシリアが指示する

「ここは、私が先に上ってロープを垂らすから、待っていて」

「これぐらいなら、手を借りずとも登れるぞ。ひょひょいのひょいじゃ」


 セシリアが真面目な顔で指示を出す。

「危険な行為は、できるだけ減らすのが鉄則よ」

「皆で危険を冒す必要はないか。じゃが、この程度の岩、危険には見えんがのう。幼児用の滑り台と、さして変わらん」


「滑り台だって、滑り損なって頭から砂に突っ込むことが、あるでしょうが。誰かが危険を冒すことで他のメンバーの安全を確保できる。なら、他のメンバーは無理をしないものよ」

「それが、冒険者の心得なのか。なかなか天晴(あっぱ)れな心意気よのう」


 セシリアが真剣な顔でロープを肩に掛ける。

登攀(とうはん)に慣れているのは私だから私が先に登るわ」

「なら、下で待つとするか。安心して登れ。万一、登り損なって落ちたら、御姫様抱っこで、受け止めてやるわ」


「だから、馬鹿にしないでよ。これしきの岩なんて簡単に登ってやるわよ」

(リーダーの自覚か。でも、少々、気負い気味の気がするのう)

 セシリアは滑らかな動きで、すいすいと岩を登っていった。

(ほう、中々に器用なものよのう。登攀は猿並に上手いのう)


 カエサルは、正直に言えば空が飛べる。だが、人間は飛べないと知っていた。なので、ロープが下りてくるのを待った。

 ロープを伝わって、巣へと上がる。セシリアが感心した顔で褒める。

「ロープを昇る姿は様になっているわね。単なるお坊ちゃんではないようね」


「これしき、幼児の遊び同然じゃな。この十倍、二十倍の高さでも、朝飯前じゃ。百倍となると、夕飯後になるが」

 カエサルは小さい頃から命綱なしで『龍墓の断崖』(深さ約四百m)を登って遊んだりしていた。

 セシリアが馬鹿にしたように笑う。


「なら、今度は百mの断崖に連れていくから登ってみてよ。もし、登りきれたら、何でも一つ言うことを聞いてあげるわ」

「そのような安請け合いして、後で青くなっても知らんぞ」

 セシリアは挑戦的な態度で言い放つ。

「その言葉、そっくりそのまま返すわ」


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