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第五話 ボボンガを追え

 その日、ボボンガは見つからなかった。夜になったので交替で休み。朝を迎える。

 朝食の席でセシリアが難しい顔をして話す。

「おかしいわね。ここまで手懸かりが何もないだなんて。ここは町までも遠いわ。ボボンガの活動範囲が広まったのかしら」

「モンスターが町の近くにいないなら、よい状況だろうに」


 セシリアが真剣な顔で説明する。

「どのモンスターにも縄張りがあるのよ」

「ボボンガの縄張りの中を歩いていれば、遭遇してもよいはずじゃ。とすると、縄張りに異変が起きておるのか」


「縄張りが乱れる時はそのモンスターにとっては好ましくない何かが、起きているの。たとえば、より強力なモンスターが現れたとかね」

「それは、妙じゃな。町から離れていくのなら、町に強力なモンスターがいないとおかしいぞ。そんな強力な存在なんかが町に来たのなら、町はただでは済むまい」


 セシリアが真面目な顔で頷く。

「カエサルの言う通りなのよね。でも、そんな強力なモンスターは、町の周辺には出ていない。でも、何か嫌な予感がする。勇者の勘よ」

(セシリアの勘なら、全く当てにはならぬな。それに、町にいても強大な力なぞ感じぬ。きっと、何か別の事情があるのだろう)


 食事を終えて、ボボンガ捜しに取り掛かる。

 昼過ぎになって、灌木が生える背の低い草原に出た。雨季がまだなので、地面は乾燥して灰色に近い。潅木は高さが二mを超えず、草は水分が足りていないのか、黄色みがかっていた。時折、兎や狐などの小動物が見えた。


 セシリアは困った顔で愚痴る。

「ついにサバナまで来ちゃったわね。ここら辺が、ボボンガが出る境界なのよね」

「なら、ここで痕跡がなければ捜索範囲を広げる必要があるのう」


 カエサルは草原に落ちている羽根を見つけた。羽根は長さ三十㎝ほどで、中央が膨らみ、先端が尖ったピンク色の羽根だった。

 カエサルは生物が発する固有の生体エネルギーたる気を感知できた。なので、カエサルは羽根を拾った時点で、だいたい羽根の主がどこにいるのか見当が付いた。


 ボボンガのものと思われるが、念のために羽根をセシリアに渡す。

「こんなものがそこの(くさむら)に落ちておったぞ、ボボンガのものであろう」


 セシリアが真摯(しんし)な顔で羽根を鑑定する。

「この大きなピンクの羽根はボボンガのものよ。どうやら、棲息区域が変わったようね。よし、痕跡を追うわよ」

「ここらが冒険の本番じゃな」


 だが、セシリアは地面を難しい顔をして地面と睨めっこするばかりで、動かない。

「どうした、セシリアよ。早くボボンガを発見して調査せぬのか? 日が暮れるぞ」

 セシリアが厳しい顔で怒る。

「今、ボボンガがどっちに行ったか、調べているわ」

(何だ、セシリアにはわからぬのか。使えん友よのう)


「ボボンガはこっちだ。行くぞ」

 セシリアは腰に手を当て、挑戦的な顔で意見する。

「随分と自信あり気に発言するのね。痕跡を追う作業は熟練の冒険者でも難しいのよ」

(気配を消しているわけでなし、そんな難しい作業ではなかろう。気を追えば見つけられる。それとも、勇者とは攻撃に特化しており、狩りや捜索には不向きなのかのう)


 セシリアはむくれた。

「何、その顔、私の教えが嘘だと思うの。いいわ。調査依頼の難しさを知るいい機会だわ。なら、ボボンガの痕跡を探してごらんなさい」

 二十分ほど歩くと、空を飛んでいくボボンガを見つけた。

「ほら、あの空を東に飛んでいくピンク色の鳥が、そうじゃろう」


 セシリアが一瞬、言葉に詰まってから、居直った。

「運がいいわね。でも、何にでも偶然はあるわ」

「我はわかっておったのじゃがな」


「これで傲慢になると手痛い目に遭うわよ。さあ、ボボンガが陸で何をしていたか調べるわよ」

(これは、あれじゃな、セシリアは当てにならん。我がしっかりせんと、依頼は、要らぬ時間を要するか、失敗するぞ)

「そうか、調査は迅速に頼むぞ」


 セシリアが険しい顔で、ボボンガの飛び立った跡を調べる。

 飛び立った跡には、ガゼルの死体が残されていた。

「ボボンガはここでガゼルを狩って食べていたわね。かなり念入りに(くちばし)が入っているわ。よほど空腹だったのね。さて、飛び立ったボボンガはどこに行ったかよ」

 セシリアは難しい顔で考え込む。


「それは、あっちじゃろう」とカエサルはボボンガの気を察知して、方向を指差した。

 セシリアが真面目な顔で注意する。

「幸運は二度と来ないわよ。あてずっぽうに行動してはダメ、無駄足を踏むだけじゃなく痕跡も見失うわ」


「なら、セシリアは、どっちに行ったと思うのじゃ」

「だから、それを調べているのよ」


 十分ほど掛けてから、セシリアは結論を出す。

「こっちよ。ボボンガはこっちに移動したわ」

 セシリアが指し示した方角は、カエサルがさきほど指摘した方向と同じだった。

「それ、さっき、我が教えた方向と一緒よのう」


 セシリアは気まずそうに横を向く。

にぶいのか、それとも、認めたくないのか。どちらにしろ、あまり五月蝿(うるさ)く指摘すると、こんどは(へそ)を曲げのであろうな)

「まあ、そういう展開も、百回に一回くらいは、あるわよ。とにかく行くわよ」

「もっと、頼ってもらってもいいのじゃがな」


 移動していると、カエサルはボボンガが移動する気を感じた。

(何じゃ? 我らが近づくと移動するのう。面倒な奴じゃな。いや、これはもしかすると我の気を感じておるのかもしれんのう。気を念入りに消しておくか)


「どうしたの、カエサル。停まったりして、急ぎましょう」

 セシリアが呼ぶ。

(もう、そっちには、おらんのじゃが、教えても無駄なのが歯痒いのう。これも、冒険のスパイスと思うて、諦めるしかないか)


 早足に歩いて行くと、二十分ほどで大きな湖に出る。

 対岸が見えなかったので、かなり広いと思われた。湖では白や黒の野鳥が身を休め、草食動物が水を飲んでいた。

「なかなか、綺麗な場所よのう。こんなところで休息を摂るのも、よいかもしれん」


 セシリアが険しい顔で忠告する。

「そう思うでしょう。でも、ここはドンガレオンの狩猟場よ」

「それは、どんなモンスターなのじゃ」


「ドンガレオンは茶色の大型の飛竜よ。知能が高い上に体も大きいわ。今の私たちが遭遇すれば、大変に危険な相手よ」

「うん? でも、ドンガレオンの狩猟場だとすると、ボボンガは知らずに入ったのか?」


 セシリアがボボンガの羽根を発見して、難しい顔で語る。

「知らずに水を飲みに来た、はないわね。おそらく、何か事情があって、危険と知りつつも、水を飲みに来るしかなかったのよ」

「謎は深まるばかりか。よし、ボボンガを追うぞ。こっちじゃ」

 カエサルは道を示して歩き出す。


 セシリアは、うんざりした顔で止める。

「また、ボボンガの行き先がわかると発言するの。いい加減にしにて、幸運も三度は続かないわよ」

「よいわ。なら、どっちに行くのじゃ?」


 セシリアが難しい顔をして、痕跡と十分ほど格闘して、結論を出す。

「わかったわ。こっちよ」

 セシリアの示した方角は、カエサルが示した方向とまたも同じだった。


 カエサルは、ちょぴりセシリアを見直した。

(気を感じずして、痕跡から移動した場所が推測できるのか。セシリアは意外に使えるかもしれんのう。痩せても枯れても、銀等級とは、このことか)


 セシリアが膨れ面で応じる。

「何よ、その顔? なら、こっちに最初から行けって意見したかったの?」

「そうではない。さすがは銀等級、実に見事な分析力じゃと、つくづく感心していたところよ」

「そう、ありがとうございました」と、セシリアが怒った顔で歩き出す。

(褒めてやったのに、何を怒っておるのじゃ? 全く理解しがたい女子(おなご)じゃ)


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