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第二十八話 勇者審問

 宿屋で一眠りして、市場にチーズを持って行く。食料品を扱う店にチーズを持って行くと、シェルトが教えてくれた通りに、チーズは金貨に換わった。

(チーズを三つ運んで金貨一枚の儲けか。走れば一日で金貨一枚儲かるが、それほど面白くない仕事ゆえ、そう何度もやる必要もないか)

 冒険者ギルドに行ってパーティ募集掲示板を見ると、募集があった。


 デボラに話を持ってゆく。

「カイエンなる男が仲間を捜しておるそうじゃの? 話は聞きたいが、どこじゃ?」

 デボラは申し訳なさそうに詫びる。

「カイエンさんなら、昨日、ベルハイムに行く商人の護衛で町を出たわ。たぶん、一週間は、戻らないと思う」


(そういえば、昨日、帰ってくるところで商隊とすれ違ったのう。あれがそうであったか)

「そうか。それは残念」

(追いかけてもよいが、また行き違いになると面倒じゃ。ここは素直に待つか。金もあることだし、生活には困らん)


 カエサルは冒険者の酒場で噂話を聞きながら過ごす。

 若い男の冒険者が真面目な顔で噂していた。

「聞いたか。勇者審問官の話。近々ホーエンハイムの町に来るらしいぜ」

「聞いたよ。上手くいけば、俺にも勇者の道が開けるかもな」


 噂話に耳を立てると、どこも勇者審問官の話が頻繁にされていた。

(勇者審問官とは何ぞや?)

 デボラに聞きたかった。だが、デボラは仕事で忙しそうなので、デボラの手が空くのを待った。

 冒険者の酒場にサスキアが入ってくるのが見えた。サスキアが座った席の向かいに座り直す。


 サスキアはカエサルを避けてはいなかったが、歓迎している様子もなかった。

(これは、パーティに誘っても期待が薄いな。でも、話し掛けなければ可能性は零じゃ)

「サスキアよ。我とパーティを組まぬか」

「嫌よ」とサスキアは、つんとした顔で即答した。


「可愛げのない女子じゃな。少しは考える素振りがあっても、いいじゃろう」

 サスキアは不機嫌に応じる。

「私は勇者審問官の勇者審問を受けるの」


「そういえば、よく聞くが、勇者審問とは何ぞや?」

 サスキアが意外そうな顔をして教えてくれた。

「知らないの? 勇者になるには、勇者育成機関に行って試験を受ける必要があるのよ。でも、事情があって育成機関まで行けない人は勇者審問官から検定を受けて試験の代わりにできるのよ」


「そんな、便利な制度があるのか」

「勇者審問は、お金を払えば誰でも受けられる。試験を受けてなるより簡単って噂されているわ。ただ。素質は求められるけどね」


「それで、勇者審問を受けるのと、我が誘いを断る理由が、どう関係するのじゃ」

 サスキアは真面目な顔で理由を教えてくれた。

「勇者審問に受かっても、勇者候補生になるだけで勇者にはなれない。育成機関に行って教育を受けなければならないのよ。だから、勇者審問を受けて勇者候補生になる私はパーティを組めないのよ」

「なら、落ちたら組めるのか?」


 サスキアは怒った。

「あなたね、誰が落ちる前提で、勇者審問を受ける人間がいるのよ。私は勇者審問に受かる。受かって勇者への道を開くのよ」

(サスキアは簡単に言うが、物事は簡単にはいかんのだろうな)


 三日後、冒険者ギルドに、白い長い服を着た女性が護衛を伴ってやってきた。女性は三十になるかならないかで、腰まである長い金髪をしていた。

 目はぱっちりしており、赤い唇が印象的だった。女性はアンクを模した杖を持ち、額には銀のサークレットをしていた。


 誰かの囁きが聞こえる。

「来たよ。あの杖とサークレットは、勇者審問官の証だ。勇者審問官が、この町に来たんだよ」

 デボラが丁寧な態度で対応に出る。

「よく、いらっしゃいました。テレシア様。ギルド・マスターがお待ちです」

「お出迎えありがとうございます」とテレシアは微笑み、ギルドの奥へと続く扉を潜る。


 ほどなくして、冒険者ギルドの掲示板に一枚の紙が張り出される。紙には多くの冒険者が注目した。

 内容は勇者審問の開催に関係するものだった。

 勇者審問は一日に五人までの予約制。簡単な質問と勇者の資質を見つけるための魔法によるもので時間は十五分程度。ただ、勇者審問を申し込むには、金貨三枚が必要だった。

(ほう、金貨三枚か。なかなか、いい金額を取るのう)


 カエサルは紙をじっと食い入るように見るサスキアの存在に気が付いた。

困惑した顔で若い冒険者が(ささや)く。

「おい、金貨三枚って何だよ。勇者審問は金貨一枚じゃなかったのかよ」

「三枚かー。これは、ちょっと考えるな」


 張り出された紙を見たサスキアの顔には、躊躇(ためら)いの色が浮かんでいた。

 カエサルはピンと来た。

(何じゃ、サスキアの奴。検定料が高すぎて、持ち合わせがないのか)

「うまい話がある」と、カエサルはサスキアに声を掛ける。


 サスキアは、疑わしい視線を向けてきた。だが、カエサルの誘いに応じて、密談部屋に来た。

「勇者審問を受けるに当って、いくら足りぬ? 足りない分を貸してもいいぞ」

 サスキアは厳しい表情で尋ねる。

「利子は、どれくらいよ?」


「利子は、要らぬ。その代わり、勇者審問に落ちたら、我とパーティを組んで、返済してくれ」

「条件は、それだけ?」


「他にはない。それだけじゃ。勇者候補生になれば、どうせ、奨学金とか後援者が付くのであろう。受かった時は、その金で返してくれればいい」

 サスキアはカエサルの提案を疑った。

「確かに美味しい話だけど、何でそんな話を私にするの?」


(カイエンのパーティに入れなかった時の保険じゃな。最近はついていないから、これくらいしておかないと、また独りよ。カイエンのパーティには入れた時は、手切れ金として借金を帳消しにすればよい)

「そこは、考えなくていい。この話を受けるか、受けないか、だけ聞かせてくれ」


 サスキアは神妙な顔で頼んだ。

「わかったわ。カエサルの話を受けるわ。金貨二枚を貸して」

「契約成立じゃな」


 カエサルは金貨二枚をサスキアに渡した。

 勇者審問は翌日から行われた。三十人からなる冒険者が勇者審問を受けた。


 結果、合格者は四人出た。その中には、サスキアもいた。

 サスキアは大いに喜んだ。

「ありがとう、カエサル。カエサルのおかげで、勇者への道が開けたわ」

「そうか、よかったのう」

(むう、まずいのう。予想に反して、サスキアが受かりおったぞ)


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