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第二十一話 勇者の証

 カエサルは密談部屋を出る。ミアが不貞腐れた顔で酒場の端にいたので声を掛ける。

「ミアよ、一つ訊きたい。お主、偽勇者か?」

 ミアがきっと目を吊り上げて、胸元から紐の付いた光る金色のメダルを取り出す。

「私は本物よ。この通り、勇者の証だって持っているわ」


 カエサルは勇者の証をまじまじと見る。

「なるほど。勇者は自らの身の証を立てるために、勇者の証を持っておるのか」

 ミアが険しい顔のままメダルを首から外して、カエサルに渡す。

 カエサルがメダルを手にすると、途端にメダルは光を失って黒ずんだ。

「やや、メダルの色が消え失せよった。なぜじゃ?」


 ミアは怒った顔で告げる。

「勇者の証は認定された勇者意以外が持つと、光を失うようにできているのよ」

「なるほどのう。勇者の成り済まし防止か。ちゃんと考えているものよう」


 ミアは不機嫌な顔で説明する。

「それだけじゃないわ。メダルには特殊な仕掛けがしてあって、冒険者ギルドのような大きな施設では、きちんと本人の確認用に使えるのよ」


「疑って悪かったのう」とメダルを返す。

 メダルはミアの手に戻ると、再び金色の光を取り戻した。

 カエサルは、ミアから離れた場所にいる、暗い顔をしたリアに近づく。

「リアよ。勇者の証を持っていたら、見せてくれ」


 リアも、メダルを見せてくれた。やはり、リアが持つと黄金に輝き、カエサルが持つと黒ずんだ。カエサルは、メダルをリアに返す。

(ミアのメダルにも、リアのメダルにも、違いがなさそうに見えるのう。だが、偽造は本当に不可能なんじゃろうか?)


「すまぬ、リアよ、今日は、ちと仕事を休みにしたいが、どうじゃろう」

 リアは冴えない顔をしたが、了承してくれた。

「私はいいですけど。明日はきちんと仕事をしましょう」


 カエサルは魔族の酒場に行ってサーラを訪ねる。サーラは機嫌よく会ってくれた。

「坊ちゃまから尋ねて来てくれるなんて、嬉しい限りです。冒険者なぞ辞めて、見合いをする気になりましたか? 見合いのほうが、よっぽど有意義ですよ」

「見合いの話は、やめい。今日はちょっと聞きたい話があって、来た。勇者が持つ、勇者の証だ。あれは本当に偽造できないのか?」


 サーラは笑って答えた。

「この世に金と時間があれば、破れないセキュリティーなんて、ありません。高度な技術と設備さえあれば、勇者の証といえど、偽造できます」

「偽造された勇者の証の入手難易度はどれくらいだ?」


 サーラが小首を傾げる。

「そうですね。造幣局の奥に金貨鋳造機が置かれていますよね」

「それは、あるであろうな。警備も厳しい場所であろう?」


「金貨鋳造機のある部屋に誰にも咎められずに、外部から侵入するのと同じくらいの難しさでしょうか」

「なるほど、大泥棒なら入れるが、こそ泥なら無理な水準か」


 サーラが軽い調子で、偽装に否定的意見を述べる。

「でも、普通の人間ならやりませんね。偽の勇者証を作るメリットと、事件が露見した時のデメリットを比較した時、デメリットのほうが大きいですからね」

「全財産を没収の上、市中引き回しで、絞首刑、当りか」


「国により死刑の方法は違いますが、この国では絞首刑ですね」

「念のために尋ねるが、ホーエンハイムの町に勇者の証を偽造できそうな人間や魔族はいるか?」


 サーラは苦笑いして答える。

「サーラといえど、街の人間と魔族を全て監視しているわけではないのでわかりません。ですが、思い当たる人間はおらず、設備もないでしょう」

(あまり役に立たんが、ないよりは、よい情報よ)


「あい、わかった。ささやかだが褒美を取らす。見合い相手の絵と経歴くらいなら、見てやるぞ。ほら、あるなら出せ」

 サーラが真面目な顔で礼を述べる。

「ありがたき幸せ。サーラも『あの見合いの件は、どうなった』と上司から、せっつかれて困っていたところ。坊ちゃまにやる気がなくても、中身ぐらい見てもらえるだろうと、怒られて頭が痛めていたところです」


 サーラは頭を下げて、十冊の冊子を取り出す。

 冊子は二ページ目に絵が描いてあった。三ページがプロフィールになっていて、四ページ目が推薦文となっている。


 カエサルは十冊に一通り目を通して感想を口にする。

「今回は、なし、じゃな。それにしても、よくもまあ、こんなに見合いの話があるものじゃ。中には、前に断った、娘も入っていた気がするがのう」


 サーラはあっさりとした態度で内情を語る。

「龍滅公と灰の後継者のご息女ですね。龍滅公は現魔王様の力不足を常日頃から口にしているお方。どうにかして、坊ちゃまの血統をもって魔族を盛り上げたいのでしょう」


 カエサルは冊子を返して告げる。

「魔族の隆盛だけを気に懸けている御老体でもあるまい」

 サーラは畏まった態度で教える。

「そうでしょうね。再び自分の家から魔王を出して、政治の実権も欲しいのでしょう」


(ほんに政治が絡むと厄介じゃが、政治なき闘争の時代よりは、ましか)

「灰の後継者も、同じような理由か?」

 サーラが素っ気ない態度で、すらすらと解説する。

「あそこは、先代の十二代の灰燼の魔王であるマニウス様を選出したまでは、よかったです。だが、マニウス様が亡くなると、僅か十年で一気に没落した感があります」


「そうであったか。権力者の世界も、厳しいものよのう」

 サーラは冷たい顔で切り捨てる。

「なので、まだ、家名の印象が残っているうちに、何とか盛り返そうと、必死なのでしょう」


「政治には疎いが、何とか、なりそうなものなのか?」

 サーラは、あまりに気にした様子もなく、つれなく語る。

「大きな戦争で武功をあげるか、ご息女がぼっちゃまと結婚するかしないと、無理でしょうね」


「そうか、では、家の衰退は止まらんのう」

 カエサルはサーラのいる宿屋を出る。

(勇者の証の偽造の線は、なさそうじゃの。リアならやりそうにないし。ミアだって死刑の危険性を冒してまで勇者を名乗りたいわけでもあるまい)


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