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第十六話 セシリアの結末

 夜になる前に十人のお助け隊がやってきた。お助け隊はロキュスたち四人に応急手当を施す。

 治療を担当した人物は黒髪で褐色肌の四十代の女性冒険者だった。女性冒険者は赤い厚手の服にポケットのたくさん付いた黒のベストを着ていた。


 セシリアが真剣な顔で、お助け隊の治療担当の女性に聞く。

「あの、ロキュスたちは大丈夫なんでしょうか?」

 治療担当の女性が優しい顔で教える。

「しばらくは町で安静が必要だけど、命に別状はないわ」

「良かった」と、セシリアは安堵した。


 セシリアは疲れたのか、その日はすぐに眠った。

(今日は疲れる作業だらけじゃったからの。ゆっくりと眠ると良いぞ)

 夜が明け、お助け隊と別れる。


 セシリアが元気よく宣言する。

「さあ、ボボンガに付けた装置の回収に行くわよ」

「記録がきちんと取れていると、いいがのう」


 セシリアとカエサルはボボンガの巣に行く。

 ボボンガはおらず、巣には二つに割れた行動記録装置が落ちていた。

 セシリアが、がっくりと項垂(うなだ)れる。


 落ち込むセシリアを慰める。

「これは、耐久性の改善が必要そうじゃのう」

「でも、中の情報は無事かも知れない。いいわ、一度、町に帰りましょう」


 町に戻る傍ら、セシリアに話し掛ける。

「のう、セシリアよ。良かったら、依頼は失敗扱いにしても良いんじゃぞ。ロキュスの側にいたいじゃろう」

 セシリアが複雑な表情をする。

「個人的な事情で依頼を未達成のまま終えたくないわ」


「ならば、行動記録装置の中身が無事なら、このまま依頼を終えて、次の依頼をすぐには受けない。中身が駄目になっていたら、調査に再び出向く――で良いか」

 セシリアが穏やかな顔で頼んだ。

「そうね、それでお願いするわ」

(何じゃ、セシリアの奴、急に素直になった気がするのう)


 セシリアが魔道士に装置の解析の依頼をする間、カエサルは冒険者ギルドで待つ。

 デボラが感じの良い顔で話し掛けてくる。

「お帰りなさい。カエサルくん、冒険はどうだった?」

「まあ、色々あったが、満足するものではなかった。次に期待じゃな」


 デボラが微笑んで慰める。

「初めは上手くいかないものよ。無事に帰ってこられただけでも良しとしなきゃ」

「そういうものかのう」

「そういうものです」とデボラが理知的な顔で(さと)す。


 セシリアが帰ってきた。セシリアの表情は明るかった。

「カエサル、朗報よ。行動記録装置だけど、外見は壊れていたけど、記録が入っている部分は無事だったわ」

「無事か。それは、ついておったな。これは、幸運の星が巡ってきたのかもしれぬ」


 セシリアは浮き浮きした態度で説明する。

「魔道士が、行動記録装置の範囲を地図に記してくれるわ。地図の完成には、あと三日ほしいって」

「そうか。なら、三日はロキュスの元にいてやれるのう」

 セシリアが照れる。

「もう、からかわないでよ」


「思いを伝えるんじゃろう? 御免なさい、って」

 セシリアは柔和な笑みを浮かべて頷いた。

「うん。今なら素直に言える気がする」

 セシリアは元気よく冒険者ギルドを出て行った。


 三日後、カエサルは冒険者ギルドでセシリアと再会する

 セシリアは地図を納品した報酬と、野盗に懸かっていた懸賞金を持って、カエサルの元に来る。

「カエサル、報奨金と懸賞金を分配するわよ」

 セシリアが密談部屋に入っていくので、()いていった。


 銀貨と金貨を袋から出して、等分する。

(四人から六人用の仕事の報酬に、野盗十人分の懸賞金だから、二人で分けると結構な額よのう。こうして、二人で仕事を回していくのも、いいかもしれんな。仲間が一人なら支援に手が回らなくなる事態は、ないじゃろう)


 金を分け終わると、セシリアが明るい顔で告げる。

「あのね、私、ロキュスからプロポーズを受けたの。私、ロキュスと結婚する」

「そうか、それは、めでたいな」


 セシリアが爽やかな表情で宣言した。

「だから、パーティを解散するわ」

「何? ちょっと待て。なぜ、そうなる?」


 セシリアが、さばさばした態度で明るく語る。

「だって、主婦業と冒険者は、両立できないわ。それに『勇気の爆発』を使った私には、もう奥の手がない。だから、ちょうど良いと思ったのよ。勇者を引退するのにも」

「セシリアによくても、我には都合が悪いわ。なら、せめて、ロキュスたちのパーティに我を紹介せい」


 セシリアは残念そうな顔で説く。

「紹介はできないわ。ロキュスは私と一緒に田舎に帰るし、アルベルトは雑貨屋を始める。他の二人は別のパーティに行くから、ロキュスのパーティも解散なのよ」

(何とも、急な解散よのう。でも、セシリアの幸せを考えるなら、これは良いタイミングかもしれないのう。セシリアの冒険者としての実力は、頭打ちのようじゃからな)


 残念だが、諦めるのが一番に思えた。

「そうか、ならば仕方ないか。セシリアとは上手くやれると思ったのだがな」

 セシリアが寂しげ気に微笑む。

「私も、カエサルとなら上手くやれると思った。だけど、素直な気持ちになったら、別の道が開けたわ。だから、私は勇者とは別の道に進む。ばいばい、カエサル」


 セシリアは密談部屋から出ていった。

「我は、また独りか、こういう展開もあるのが冒険、なのか? のう」


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