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第十二話 消えた冒険者の謎

 カエサルは宿屋に帰って一泊し、昼に冒険者ギルドに顔を出した。

 セシリアが機嫌の良い顔で冒険者ギルドにやって来る。

「ボボンガの体に付いている行動記録装置を回収に行くわよ。あとは魔道士に中身の解析を依頼して、行動範囲を割り出すわ」


「きちんと記録が取れていると、いいのう。もし、これで装置が作動しておらねば、せっかくの仕事が無駄になる。冒険は大いに結構だが、無駄足は御免被りたい」

 二人がボボンガの巣に向かおうとすると、デボラがセシリアを呼び止める。


 デボラの表情は芳しくなかった。

「セシリアさん、お尋ねしたい内容があります。ボボンガの調査に行ったロキュスさんのパーティを、どこかで見ませんでしたか?」


 セシリアの顔色が変わった。

「遭っていないわ。ロキュスたちに何かあったの? 詳しく教えて」

 デボラが冴えない顔で、事情を説明する。

「ボボンガの調査依頼を受けたロキュスさんが、帰還予定日を越えても戻らないんです。調査が遅れているだけかもしれませんが、少し気になったものですから」


「野外に出ていれば、色々とアクシデントも起きよう。いささか心配し過ぎだと思うぞ。過保護はろくな結果を招かん」

 セシリアが緊迫した顔で頼んだ。

「おかしいわね。期日にきっちりしているロキュスにしては、妙ね。何か気になるわ。ロキュスたちはどの辺りの調査に行ったの、地図を見せて」


(何じゃ、緊急の依頼か、何ごとも一筋縄ではいかんものよのう。それに、セシリアの緊張した様子。ロキュスとは、タダならぬ仲なのかもしれん)

「我らも急ぐ依頼を受けているわけではないから、探す手間は惜しまん。見てのとおり、我は頼り甲斐のある太っ腹なことでは人後に落ちん」


 地図を見て、セシリアは難しい顔をする。

「ロキュスたちの行動経路を推測すると、サバンナの中に入っていった可能性があるわね」

「荒野ではなく、サバナか。ロキュスたちも我と同じようなルートで入ったのかもしれんな。だが、遭遇はせんかった。行き違いになっていたら、とっくに戻って来てもいいはずだが」


 デボラが暗い顔で心配を吐露(とろ)する。

「あまり悪い事態を考えたくないのですが、サバナの王者であるドンガレオンと遭遇したのかもしれません」

(サバナには大型の飛竜がいると言うておったの。ロキュスたちがセシリアと同じ程度の実力なら、残念な結末もあるか。また、死体から識別証を回収してくる仕事になるやもしれぬ)


「ドンガレオンに遭遇した可能性はあるじゃろう。だが、一人くらいは根性のある奴がいて帰ってきそうな気もするがのう。別の可能性はないのか?」

 セシリアが真剣な顔で頼んだ。

「カエサル。お願いがあるわ。目標を変更してロキュスたちの捜索に行きたいけど、頼める?」


「我は別に構わんぞ。ボボンガは逃げぬようじゃからの。心配事があって、仕事が手に着かねば、簡単な仕事でも事故を起こすかもしれぬ。なら、セシリアの不安を取り除くのが先でよい」

「ありがとう、待っていて。装備をもっと動き易い革鎧に替えてくる」


「あい、わかった、我はこれで充分ゆえ、さっさと着替えてくるがよい」

 真面目な顔でセシリアが着替えのために席を外した。

 カエサルはデボラに尋ねる。

「何だか、セシリアがいつにもなく真剣じゃな。ロキュスとセシリアは、どんな間柄なんじゃ? 教えられる、範囲で教えてくれ」


 デボラが弱った顔で、ロキュスとセシリアの関係を教えてくれる。

「ロキュスさんはセシリアさんと最初にパーティを組んだ時のメンバーです。関係としては、お知り合い以上の仲だったと申しましょうか」

「なるほど、喧嘩別れしたかもしれぬ。じゃが、かつての友が窮地と思えば、助けに行きたくもなるか。とすると、案外セシリアはまだロキュスを大切に思っておるのかもしれんのう」


 デボラが憂いを帯びた顔で告げる。

「カエサルさんの推測は当っていると思います。でなければ、捜索にセシリアさんが志願するとは思えません」

 セシリアが戻ってきたので、サバナに向けて歩いて行く。

「あえて、不吉な内容を訊くぞ、セシリアよ。もし、ロキュスたちがドンガレオンに出遭っていたら、どうなる? 正直なところを聞きたい」


 セシリアは暗い顔で答える。

「必ず死人が出るわ。一人でも生き残れば、いいほう。でも、ロキュスは必ず死ぬわね。あいつはパーティが危機に陥った時に、他のメンバーを逃がそうとするから」

(これはドンガレオンに遭っていたら、ロキュスの生存は絶望的じゃな。ロキュスが死ねばセシリアの心に与える影響も大きい。もしかすると、ロキュスの死を機に、セシリアは冒険者を引退するかもしれぬ)


 気が滅入る展開だが、充分に考えられた。

(引退は五分五分じゃろうな。セシリアには好感を持っていただけに、残念じゃ。もし、セシリアが抜ければ、我はまた独りよのう。いや、悪い予想は止めておくか)

 気になったので確認しておく

「もし、ロキュスの安否がわからぬ時は、ドンガレオンの巣まで行くのか?」


 セシリアが難しい顔で告げる。

「サバナでロキュスたちの痕跡が見つけられるかどうかによるわね。無理はしたくない。でも、ロキュスの痕跡がドンガレオンの巣に続いていた時は……」

「行くのか?」


 セシリアが諦めた顔で静かに答える。

「行かないわ。私が行ってもどうにかなるものでもない。それに、カエサルを危険に曝すわけにいかないもの」

「我の心配なら無用じゃよ。一度、ドンガレオンに遭うてみるのも、いいやもしれぬ。我はセシリアに従いていくぞ。セシリアは仲間じゃ」


 セシリアが寂しげに微笑む。

「ありがとう、カエサル。でも、仲間だからこそ頼めない内容もあるのよ」

(これは、あれじゃな、ロキュスがドンガレオンの巣に連れていかれたと知ったら、独りで行く気じゃな。決意がまるわかりじゃ。その時は気付かれぬようにして、こっそり助けてやるか)


 サバナに着いた時には夜になりかけていた。

 セシリアはロキュスの痕跡を探そうとしたので、注意する。

「待つのじゃ、セシリアよ。これから本格的に暗くなる。痕跡を探すのも無理であろう。今日の捜索は中止してはどうじゃ?」


 セシリアが苦い顔で、歯切れも悪く伝える。

「そうね。暗い中を歩くのは危険ね。急いで野営の準備をしましょう」

「それがよかろう。無理をしていざと言う時に力を出せぬでは、本末転倒よ」


 開けた土地を見つけて、火を(おこ)して焚き火の準備をする。

 セシリアの表情は常に暗かった。そこで、改めてセシリアにロキュスとの関係を訊く。

「こうして捜しに来たのまでは、良い。セシリアよ、ロキュスとはどんな奴なのじゃ? 教えられる範囲で良い。教えてくれ」

「私をパーティから追放した、嫌な奴だった。一緒の時は喧嘩ばかりだったわ」


 セシリアの顔を窺う。だが、嫌な過去を思い出している顔ではなかった。むしろ、懐かしい思い出に浸っている顔だった。

(素直ではないのう。喧嘩もしたが、楽しい思いもたくさんしたのじゃろう)

「そうか、それでは、今でもロキュスを(うら)んでおるのか?」


 セシリアが寂しげに微笑む。

「昔の思い出よ。今は、そう、昔の不器用な自分のほうが嫌になるわ」

「過去は変えられん。それでも、乗り越えてやり直す心境にはなれる。やり直したいのか?」


 セシリアが悲しさと寂しさが入り混じった顔で告げる。

「そうね。でも、もう無理よ。私は勇者なのだから、勇者を追い出した人間とは、もう二度と、パーティは組めない」

「そう決め着けることもなかろう。セシリアが望むのなら、我は、ロキュスをパーティに入れてもいいぞ」


 セシリアは暗い表情で、淡々と語る。

「駄目よ。ロキュスにはもう、仲間が三人もいるもの」

(合流すると六人か。意思決定ができぬほど大きな集団でもあるまい。だが、セシリアが(こだわ)って気にしているのなら、合流は不可能よのう)

「なら、無理には勧めん。ただ、ロキュスを発見することを祈ろう」


「そうね、見つけないと、御免なさいも言えない」

「いいたいことがあるなら、これを機に言うたほうがいいぞ。人の命は短い」

 交替で見張りをして朝を迎える。セシリアからはすぐに捜索を再開したい雰囲気が出ていた。

 早朝のサバナを捜索すると、カエサルは遠くに焚き火の跡を発見した。


(距離にして三㎞か。人間の眼では発見しづらいから、適当に言いつくろって近づくか)

「セシリアよ。何か焦げ臭いぞ」

 セシリアが臭いを嗅ぐ動作をしてから、不思議な顔をする。

「別に、そんな匂いは感じないわよ」


「いやいや、するぞ、こっちじゃ、こっちじゃ」

 カエサルは焚き火のあった方角に誘導する。

 焚き火の跡がわかる場所まで来ると、セシリアは怖い顔をして走り出した。

「これは、キャンプの跡よ。最近、誰かがここで野営していたんだわ」


 キャンプの周りには、大勢の人間の足跡があった。

(ロキュスたちが何人で行動していたかは知らないが、ちと多いように見えるのう)


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