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第十一話 サーラの提案

 サーラの部屋は紫を基調とした部屋だった。部屋に入ると丸テーブルがある。テーブルを挟んで、椅子が二脚あった。

 サーラは奥側の席に腰掛けると、もう一つの席を勧め明るい顔で告げる。

「何かお飲みになりますか? 高級酒でも、果実でも、生血でも、使い魔にすぐに用意させます。遠慮なく(おっしゃ)ってください。お坊ちゃま関連のお金は経費で落ちるので、どうせ私の金ではありません」


 カエサルは素直に怒りの感情をぶつけた。

「要らぬわ。用件はすぐに済む。今日はサーラの過保護ぶりについて苦言を申しに来た。人間に圧力を掛けて特別扱いさせるのは止めさせい。冒険が冒険でなくなるわ。あれでは下手な役者の芝居も同然よ」


 サーラが、さらりとくさす。

「下手な芝居になるのか、上手い芝居になるのか――は演じる役者にもよりますね。良い役者が演じる喜劇は好きですが」

「我を道化と(けな)したいか。今回はサーラの(てのひら)の上で踊っていたようなものよ。そのような過保護を誰が望んだ? 返答によっては、その細首を、大根か牛蒡(ごぼう)のように、引っこ抜くぞ」


 サーラが穏やかな顔で(なだ)める。

「お坊ちゃま、過保護などではありません。人間の世界では、金持ちや権力者が貧乏人と同じスタートラインに立つ状況などないのです。富める者、力ある者は、恵まれて同然なのです。これは魔族も同じです」


 サーラの言葉はある意味で真理だと思う。だが、今回に限っていえば、サーラの計らいは完全に不要だった。

 カエサルは目に力を入れてサーラを睨みつける。

「我には力がある。なればこそ、恵まれた場所からのスタートは、不要なのじゃ。全てを我が力で成し遂げたい。それとも、我にはそこまでの力はないと愚弄(ぐろう)するか」


 サーラは澄ました顔で意見する。

「お坊ちゃまの力を否定はしません。お坊ちゃまは、成長途中とはいえ、現魔王様である第十三代魔王のガイウス様に匹敵する力がおありです。このまま成長を続けていけば、お父様に匹敵する力を付ける日も来るでしょう」


「なれば、放って置いてくれ。我は一人で何でもできる。何もかもお膳立てする必要は、なしじゃ」

サーラは優しい顔で懇々(こんこん)と説く。

「そうはいきません。お坊ちゃまは魔族の期待の星です。もし、ここでお坊ちゃまに何かあれば、魔族衰退の道が止まりません。お坊ちゃまの血統は絶やしてならぬのです」


「また、血統の話か、聞き飽きたわ。我が魔王を継ごうが、誰と結婚しようが、指図されるいわれは一切(いっさい)なし。我は、我の道を行くのみ」


 全ての魔王は始まりの魔王であるユリウスの子孫である。

 だが、代が進むに従い、ユリウスの血が薄くなると、魔王の力は段々と弱くなっていった。

 第十三代ともなると、もはや魔王といえど、他の魔族を圧倒する力はなくなっていた。

 対して、カエサルは始まりの魔王の息子。力は成長すれば、二代目魔王に匹敵する。

 ここで、カエサルを次期魔王にするか、婿に迎えることで魔族の隆盛を迎えんとする動きが、魔族にあった。


 サーラは髪の毛を指に巻き、弱った顔をする。

「そうは突っ撥ねられましても、私も魔族会議の役人。給与を貰っている関係上、働かなければならないのです。魔族も今は就職難。この職を失うと実家に仕送りができません」

 カエサルは怒りを表現して脅した。

「そなたの経済事情は我が覇道に関係なし。とにかく、我の冒険に介入するのは、止めい。止めぬのなら、こちらから討って出るぞ」


 サーラは澄ました顔で申し出た。

「ならば、最低限の支援だけは、受けてください。これは、お坊ちゃまと一緒に冒険する人間のためでもあります。そう、全てがお坊ちゃまのためではないのです」

「言い方を変えても駄目じゃ。我を愚弄するな。我が弱くて人間共の足を引っ張るとでも思うておるのか。(たわ)けが! 我は強い」


 サーラが表情を曇らせて、言い返す。

「逆です。お坊ちゃまは強すぎる。そんな、お坊ちゃまに従いて行くとなると、最低でもこのサーラと同等の実力がないと無理です。現にお坊ちゃまに()いていったジョセは、石になったでしょう」

(痛いところを突いてくるのう。だが、ここで押し切られた、負けじゃ)

「でも、元に戻してやったわい」


 サーラは真剣な顔で、ピシャリと告げる。

「元に戻れたのは、我らの支援があったからこそ、です。厳しい内容を告げますが、お坊ちゃまは、自分のことしか考えておられません」

「何を言う! きちんと考えおるわ!」


 サーラが真剣な顔のまま畳み掛ける。

「私どもの支援は、お坊ちゃまのためではありません。これは、供の者として受け取って当然の手当てなのです。私だって危険手当なしに、危険な仕事には行きたくありません」

「危険には相応の報酬が必要なのは認める。だが、やりすぎじゃ」


 サーラがきっとした顔で強い口調で意見する。

「勇者が恩恵を与るように、魔王のご子息も、当然に恩恵を受けてしかるべきなのです。ましてや、これはお坊ちゃまのためではなく、一緒に冒険に行く弱き人間たちへの救済措置なのです」

「そう指摘されると、そんな気もするが、口の上手いサーラに、まんまと騙されている気もするぞ」


 サーラが幾分か芝居がかかった顔で下を向く。

「そんな。騙してなぞ、おりません、私が、いつ坊ちゃまを騙そうしました」

「過去に山ほどあるぞ。飯を喰いに行ったら見合いだった。狩りに行ったら見合いだった。旅行に行ったら見合いだったり――とかな」


 サーラは澄ました顔で、さらりと否定する。

「そんな、あれは偶然です。偶々(たまたま)、全て知り合いの良家の子女がいただけです」

「一度や、二度なら、わかる。だが、立て続けに二十回の偶然はないであろう」


「偶然とは、可能性がある限り起こり得るものなのです。ですから、我々の支援は遠慮なくお受けください。全ては仲間のためと思って」

(「ですから」の使い方が、おかしいじゃろう。意見も飛躍しておる気がする。だが、仲間の安全を思えば、ここは引き受けたほうがよいのか。ジョセたちもすぐに石になりおったしのう)


 カエサルは数秒ほど迷ったが、決断した。

「いいであろう。魔力玉と健康保険はいいが、だが、それ以上はするな。特に我を不採算事業のように扱い、補助金を出すのは、やめい」


 サーラが神妙な顔で頭を下げる。

「わかりました。では、存分に冒険を楽しんできてください」

「頼まれずと楽しんでくるわ」



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