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第十話 町の置かれた立場

 窓を見るとクレセント錠が掛かっていたので、ちょいとばかり念力を使い鍵を開ける。

 カエサルは立ち上がって窓を開け、ジャンプして窓から部屋の中に飛び込んだ

 レンブラントが驚きの表情で抗議する。

「何だね、君は? そんなところから入ってきて」


「行儀の悪さには謝ろう。我は今、お主が話題にしていたカエサルじゃ。話は聞かせてもらったぞ」

 名乗りを上げると、レンブラントは面喰らった。

「何ですと? 貴方がカエサルくん?」


「くんは、不要でよいぞ。お互いに少々、面白くない話をしなければならぬようじゃからの」

レンブラントは困惑しながらも申し出た。

「とりあえず、識別証を見せてもらえますか」


「ふん」とカエサルは識別証を投げる、レンブラントは受け取って確認する。

レンブラントが識別証を確認すると、畏まった態度で識別証を返した。

「これは失礼しました。それで、何の御用でしょうか?」

「先ほどの話は聞いておったわ。なぜ、余計な介入をする? 誰に頼まれた?」


 レンブラントは礼儀正しく席を勧める。

「どうぞ、お掛けください」とレンブラントがソファーを勧めるが、断った。

「要らぬわ。お主が正直に話せば、すぐに終わる話題じゃ」


 レンブラントは困った顔をしたが、打ち明けた。

「魔族のサーラ様からの依頼です」

 サーラは、よく知っていた。魔族会議の役人である。

 カエサルが断っても、断っても、縁談を持ってくる、厄介な魔族だった。


「裏で糸を引いておった人物はサーラか。余計な真似をしおって。レンブラントよ、サーラの要求は。放って置いてよいぞ」

 レンブラントは苦い顔で反対する。

「そうは行きません。カエサルくんは知らないでしょうが、この町特有の事情があるのです」


「何じゃ? この町に、我を客人として扱え。さもなければ。明日にでも町を攻めるとでも、サーラに脅されておるのか? 安心せい。サーラには、そんな権限はない」

 レンブラントが弱った顔で説明した

「違います。この町の税収の四割は、魔族が持ち込んだ品に掛けられる関税です。サーラ様は、要求を飲まなければ、町との取引を禁止すると(おっしゃ)いました」


「そんなもの、やれるものならやってみろと、突っ撥ねればよいではないか。こじ)れて戦争になっても、我は町に加勢するぞ」

 レンブラントは弱った顔のまま内情を説明する。

「そうではないのです。この町は荒野にあります。作物も家畜も育ちがよくありません。魔族領から持ち込まれる珍しい品を売買することで、成り立っているのです」


(利益によって結びついておるのか。これは、レンブラントを説得するのは無理じゃな)

「わかった、ならば、我がサーラを説得する。だから、余計な介入を、今後はしないでもらいたい」

 レンブラントは、ほっとした顔を浮かべて安堵した

「わかりました。では、サーラ様からの報告を待ちます」


「それと、セシリアのことじゃが、セシリアを脅していたのう。あれは、どういう経緯じゃ?」

 レンブラントが表情を(やわ)らげて説明する。

「勇者の資格は五年で更新があります。セシリアは今年がちょうど五年目です。ただ、セシリアには、大きな功績がありません」


「何となく、わかるわ。剣も弓も、それほど達者なわけではないからのう」

「セシリアは、このままでは勇者資格がなくなります。ただ、後援者が勇者協会に寄付金を納めれば、貢献ありと見なされます」


「我のお守をすれば、金を出してやると持ち掛けたか」

 レンブラントは気が楽になったのか、ぺらぺらと語る。

「他にも、カエサルさんを連れて行くメリットとして、救難信号を上げる魔力玉を寄贈。冒険で怪我をしても、町の職員として健康保険の適用があります。健康保険は自己負担が三割で治療を受けられます」


「中々に手厚い助成よのう」

「さらに、今回から支度金として金貨の十枚を支給。また、一回の冒険について、無事に戻ってきた場合は、金貨三枚を支給する約束です」

(何じゃ、この優遇措置は! これでは、我を連れて歩けば利益だらけだぞ。まさに、補助金付けの不採算事業も同然。腹が立つのう)


「それは、やりすぎじゃろう。どこまで、我を厄介者扱いする気じゃ」

 レンブラントは大人しい態度で打ち明ける

「金の報酬はジョセたちに断られたので、追加で今回から上乗せしました」


「事情はわかった。ならば、サーラに話を付けてくる」

 カエサルは町庁舎を出てサーラの気を探る。

 サーラは気を隠していなかった。サーラは町の西側にある商業地区にいた。


 商業地区は魔族の商館がある。商館から少し離れた場所にある魔族用の酒場兼宿屋からサーラの気を感じた。

 酒場兼宿屋の広さは周囲が二百mの二階建て。建物は黒煉瓦を積んで作られていた。


 酒場のドアを開ける。角、牙、翼を生やした様々な格好のお客が六十人ほどいて、視線を向けてくる。

 カエサルはそのまま二階に上がっていこうとした。古い黒のローブを着た悪魔が立ちはだかる。

 悪魔の顔はフードで見えないが、目深に被ったフードの奥から爛々(らんらん)と光る赤い目が覗き、足は半透明になっていた。


 悪魔が男の声で警告する。

「小僧、ここはお前が来ていい場所ではない。命が惜しいのなら即刻に立ち去れ」

(何じゃ、こいつは? 酒場の用心棒的な悪魔か? 小物よのう)

 カエサルが追い払おうすると、悪魔の男の横に、黒い煙が立ち上る。


 煙の中から銀髪でセミロングの女性が現れる。女性の年齢は三十くらい。目つきは優しく、小さな口をしている。

 服装は赤のコルセット・ベストの上から黄色のボレロを着ていた。下は膝まである赤のスカートを穿いて、銀色のヒールのない靴を履いていた。


 女性の名前は知っていた。探しているサーラだった。サーラはにこやかな顔のまま、男の悪魔の首筋を素早く手刀で打った。

 ドサッと音がして、男の悪魔は一撃で倒れる。


 サーラは、にこやかな顔で店員に指示する。

「こいつをじゃまにならない場所に片付けて。それで目が覚めたら私の部屋に来るように伝えて。命までは取らないから」


 人間の姿をした給仕が二人やって来て、気絶した悪魔を部屋の隅に運んでいく。

 サーラはにこにこ顔で告げる。

「そろそろ来る頃だと思いました。さあ、二階で話しましょう」


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