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シャドーダンス2 東京炎上作戦  作者: 六青ゆーせー
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2通学路

「えっ、静香ちゃんも桜庭学園を受験するの?」


小田切誠は受験生だった。

年明けの2月には入学試験が待っている。

重たい12月になるはずだったが、1か月ほど前から、急速に仲良くなった霧峰静香によって、誠の12月は随分明るくなった。


誠は、それまで、あまり人と仲良くすることが苦手で、親しい友達も出来なかったのだが、一月前、ある殺人事件を目撃し、自身殺されそうになったことで影の能力に目覚めた。

内調に救出され、現在は二等陸士として、毎日厳しい訓練を受けていた。


そのせいなのか、あるいは静香の大人しい性格ゆえか、霧峰静香とは話していても疲れることは無かった。

家が近いこともあり、誠と静香は朝の登校を一緒に歩くようになっていた。


誠と静香の横を、無数の生徒が追い越していく。

別に話に夢中、という訳ではない。

誠が足を怪我したため、ゆっくりとした速度でしか歩けないのだ。


「都立にしようと思っていたんだけど、あんまり偏差値が伸びなくって。

でも誠君って、もっと上の学校を狙っているんでしょ」


1か月前までの誠は、確かに上の学校を狙っていた。

だが美鳥とレディさんが桜庭学園にいると聞いて気が変わった。

2人とも誠が尊敬する先輩だし、どちらかというと人と関わるのが苦手な誠に、2人とも優しかった。

また、内閣調査室の影繰りの本部があるのが浜松町のため、通うのが楽でもあった。


「なんか大学進学のためだけに高校を選ぶって、つまらないな、と思うんだ。両親とも話し合って桜庭学園にしたんだよ」


誠は、そろそろ、と用心深く歩きながら、話した。

時折、痛そうな顔をするので、静香も心配していた。

実際のところ、誠の痛みの元は、足ではなく、下着の中だった。

誠に影の指導をしてくれている教官はアクトレスと言い、優しくて親切な女性なのだが、口は悪かった。


しかも鼻に関してはレディ先輩を越える嗅覚を持っていて、初めて口を聞いた時、言われた言葉が、チンカス臭い坊や、だった。

沢山の人の前で言われて、誠は蹲ってしまった。

周りの人は影の力を使い過ぎたせいだ、と言っていたが、そんなことはなかった。


誠は毎日、本部の訓練以外でも起きている間はほとんど、影を出しているが疲れたことは無い。

チンカス、と、臭い、と言う2つのキーワードに打ちのめされたのだ。


それから入浴時には丹念な手入れを行っていたが、昨日もアクトレス教官に止めの一言を言われてしまった。


「んー、誠はいつでも、爽やかなチンカスの香りがするなぁ」


美鳥とレディ先輩がいる前で言われたのだ。

他にも、本部で知り合った影の訓練を受ける仲間が沢山いた!

その後、更衣室で仲間の一人、青山一郎に顔色が悪い、と言われたが。原因ははっきりしていた。


そんな誠にレディ先輩は、自分もゲボチンカスと言われた、と告白してくれた。

その言葉に、誠はとてつもないシンパシーを感じた。


だが、もう無理だ。

そのうち僕の仇名がチンカス君にでもなってしまったら!

誠には耐えられなかった。


その夜、誠は浴室に籠って徹底的な洗浄を行ったが、同時に洗浄をしないでいい肉体改造にも取り掛かった。

そのため、痛くて寝返りを打つたび跳び起きて、朝を迎えた。

霧峰静香と話しながらも、今日だけは一人で登校したかった、と誠は思っていた。


そんな調子で教室に入り、一見何でもない風を装いながら必死に痛みを耐え忍んでいた誠に、電話がかかった。

授業中だったので、こっそり電話に出ると、威勢のいいアクトレス教官の酒焼けした声がスマホから響いた。


「一大事だ。

全ての影繰りに召集がかかった。誠もすぐ来い!」


久々の大仕事に、アクトレス教官はノリノリの様子だった。


誠は、教諭に、祖父の具合が悪くなった、と告げた。

政府機関を通じて、誠の急用は不問にされている。

すぐに教科書をカバンに詰め、誠はそろそろと教室を出て、トイレに直行した。


そう…。

このままでは、戦うことなどできるわけがない…。

トイレを出るなり、すっきりした誠は、走り出した。

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