1目覚め
「レディ!
起きてくれレディ!」
ベッドで揺さぶられ、レディこと春川順平は、重い瞼を開いた。
「んんっ、ミオ。
どうしたんだ? 遅刻か?」
春川順平は高校一年だ。
普段は男子高校生として、今時珍しい学ランを着て、青物横丁のマンションから浜松町にある私立桜庭学園に通っている。
だが、もう一つの顔は、美しい少女であり、ボクシングの達人ミオのパートナー、レディとして、内調の一等陸士の肩書も持っていた。
中学二年の時に、それまで抑えていた自分の感情を押えられなくなり、男の娘となり、ミオのマンションに家出してきた。
それから、多少の紆余曲折があり、今はダブルベッドでミオと一緒に寝る中になっている。
いつもは、七時半にミオが起こしてくれる。
その時間に起きれば、順平はじっくり朝のお肌の手入れをして、ピカピカの素肌で登校できる。
の、だが、大抵は何度か起こされ、そのたびにベッドに沈み、八時になって飛び起きる。
そのため、素肌には常に、二つ、三つのニキビが浮き上がった状態で、それが順平の最大の悩みだった。
「違うんだ、ニユースを見てくれ!」
下らない、とベッドに沈みかけた順平だが、次のミオの言葉で跳び起きた。
「君の炎と同じ影が、今朝、大門駅を焼いたんだ!」
へ…、と体がベッドの上に起き上がり、ええっ! と叫んで、立ち上がった。
順平は小柄だった。
身長も百五十を僅かに超えた程度。
愛らしいフリルのついたネグリジェに身を包んでいるため、素っぴんでも少女に見える。
「ま…、まさか、あいつが帰って来たのか!」
ミオは、女性ボクサーとして一度はプロにもなった。
ただ身長が百七十五を超えており、プロで戦うにも相手がいない。
十代半ばで影繰り一本に職業を絞り、現在二十八で三等陸曹の階級にある。
プロを辞めた時点でスカートを履かなくなり、成人式はスーツで出席した。
短い髪をポマードで固めているのが常だが、朝は髪を下ろして、ジーンズとセーター姿だった。
彼女の胸は、常に抑えつけられ、酷使されているにもかかわらず、今はDカップの豊かな突起を揺らしていた。
ミオはタブレットを突きつけた。
「内調の調査だ。
君と同じ影、まず間違いあるまい」
俺と同じ炎か…。
あいつ…。
順平は男に戻って、呟いた。
「ミオ。
今日は風邪で休むと、学校に電話してくれ!」
決然と、ショートボブの髪に包まれた顔に、どこか男子の決意を滲ませて、順平はネグリジェを乱暴に脱ぎ捨てた。
「あっ」
と、ミオが喜色を浮かべる。
登校時には男物のカラービキニに履き替えるが、寝るときは女物の可愛らしい下着を愛用している。
ただ早朝は、十代男子は致し方のない状況にあり、普段はそれをミオに見られないよう、わざわざネグリジェを着ているのだ。
少々、顔を赤らめながらも、順平は愛らしい下着を自分で剥ぎ取り、カラービキニに着替えた。
「ミオ、ダウンジングの用意をしてくれ!」
順平ことレディの影の技は、三本の巨大分銅で、周囲を爆破しまくる豪快な技だが、それ以外に影のオーラを纏う事によって、嗅覚、聴覚、視力が何倍にも増幅される。
また、幼い頃から振り子を使って探し物を見つけるダウンジング能力を持っていた。
順平は、ミオが取り出した、東京の全紙版の地図を前に、金の鎖のついたラピスラズリの振り子を揺らめかせた。