64話
「鍛冶を始めます!」
自分以外に誰もいない作業部屋で、力強く両手で天を突く千春。
いつになくテンションが高めだった。
希少素材である太陽石を手に入れ、それを実際に使って武器を作るのにかかった時間を考えれば、熟成されすぎた期待値が爆発するのも仕方ないというものだった。
熟成されすぎて発酵しかけたのは主に千春の凡ミスのせいなのだけれど。
『ワンッ』
その凡ミスのおかげで出会えたポチも、主人の邪魔にならない位置でお座り待機中。
ぱたぱたと尻尾が大きく揺れていた。
もうすでに子狼というサイズではないけれど、千春にとっては可愛い家族。
「よーしよし」
わしゃわしゃと撫でれば尻尾の動きが大きく激しくなる。
普段であれば、そこからポチの全身を撫でまわし、興奮したポチに押し倒されて顔じゅうをベタベタに舐め回されるまでがワンセット。
しかし今日は千春の意思を総動員して頭を撫でるに留める。
「続きは鍛冶作業が終わってからね」
『クゥ~ン』
悲し気なポチの鳴き声に鈍りそうになる決意を奮い立たせて、千春は炉の前に立つ。
少年から譲ってもらったレシピは、すでに使用して素材さえ揃っていれば作れるようにしてある。
鍛冶師としての職業レベルも満たしている。
半透明のパネルをタッチ操作して素材を選択。
「まず『黒鋼』『ミスリル』『オリハルコン』の三種類を合成」
パネルに表示されている『合成開始』がタッチできるようになった事を確認して、千春はタッチする。
ゲージの光っている部分でタイミングよく『ふいご』を踏んで一定の火力を保つミニゲームをクリアすれば完成する。
ラック値や鍛冶師レベルが高いと簡単になっていくため、リズムゲームにあまり自信のない千春でもクリアできる難度のミニゲームになっている。
何度も繰り返してきた作業ではあるため、失敗する事無く無事に特殊合成金属が出来上がる。
今度は『太陽石』に『光幼精のはね』『光精霊の鱗粉』を合成する。
もちろん、ここでもミニゲームはある。
極彩色の水で満たされた大きな壺の中に太陽石を入れ、光幼精のはねと光精霊の鱗粉を入れる。
その入れる枚数、量を壺の中の水の色を見て調整しなければいけない。
ヒントとして壺に入れる時に天の声が聞こえるので、それに従えばそう難しいミニゲームではない。
ちなみに、このミニゲームに失敗すると素材はゴミ素材となるので今回のように貴重な素材を使用する場合は細心の注意が必要だった。
天の声に従う事で、太陽石は無事に『フォトンスフィア』として生まれ変わった。
「あとは特殊合成金属とフォトンスフィアを合成すれば完成だ」
緊張する作業の峠は越えた。
さすがに太陽石の加工に失敗した場合は、もう一度、操花を倒して再入手する気にはなれず、潔く諦めた可能性が高かっただろう。
普通の武器などの場合は、ここで属性石などを混ぜる事で武器に属性効果を付与する事が可能なのだが、今回はしない。
フォトンスフィアの光属性が最初から備わっており、そこに属性石を足せば単純に二つの属性効果を持つ武器になるのでは? と考えたのは千春だけではない。
攻略サイトで調べた結果『それをするとフォトンスフィアの効果が消える』と書き込まれていた。
当たり前だが、それは失敗作。
千春は先達の助言に感謝して、レシピに従った仕上げをする。
「さあ、あと一息!」
鍛冶作業の仕上げはハンマーで素材を打つミニゲーム。
何度か打ち、打つことでゲージが増えるのだが、そのゲージを超えないように調節する必要がある。
上がり幅はランダムで、水をかけると少しゲージを減少させる事もできる。
ただ水は何度も自由に使えるものではなく使用回数制限が設けられていた。
そしてゲージは一本ではなく、今回は八本もある。
ゲージの本数は効果の強い装備であればあるほど増え、この八本という本数は千春の製作した装備品の中では最大数だった。
それらを丁寧に、ゲージを超えないように注意しながら、水を使って微調整しつつ最後まで作業を進める。
ゲージを超えると完成後の品質に影響し、その品質は装備品パラメーターに影響するため、失敗しないに越したことはない。
「できたー……」
しょせんはゲーム。
ただの遊びだという事は千春もわかっている。
それでも膨大な時間をかけて用意した事を思えば真剣に取り組むのは当然だと思う。
「『最高品質』の『ヘリオス』!」
見た目は黒色の基調に、白色で羽ばたく鳥のシルエットの描かれたハンドガン。
弾丸は実弾ではなく魔力弾で、一発ごとにMPを消費する。
光属性と無属性に弾丸の種類を切り替えられるが、無属性弾の方がMPの消費は大きい。
光属性武器の属性を変化させるからだと思われる。
他の属性弾は撃てない。
ヘリオスの特性はもう一つ。
「えっと……『フォームチェンジ』!」
読んでいた説明文に書かれていた起動キーを唱えると、ガシャンッと音を立ててヘリオスが変形した。
銃身が太く、そして長くなった。
増えた分の質量を構成しているのは魔力。
「これがショットガンフォーム」
もう一度「フォームチェンジ」と唱えるとシャープな形状に。
「これがマシンガンフォーム」
三度目のフォームチェンジを唱えると銃身が長くなり、空中にレンズが浮かんだ。
そのレンズは望遠効果を備えていた。
「ライフル」
基本形状は『ハンドガン』。
第一形態は『ショットガン』。
第二形態は『マシンガン』。
第三形態は『ライフル』。
状況に応じて形態を変化させてオールラウンドに戦える。
それがヘリオスの強みなのだが、必然、それを使いこなすには非常に高いプレイヤースキルを必要とする。
加えて、
「使えそうなのはハンドガンとショットガンだけっぽい。ショットガンもハンドガンより消費するMPは大きいけど許容範囲かな、かろうじてだけど。マシンガンは一発の消費はハンドガンよりも軽いんだけどね……。ライフルは問題外ですハイ」
弾として消費するMP関連が問題だった。
特にライフル。
かなり強力な弾丸を撃てるが、その威力に比例して消費するMPもかなり大きい。
望遠効果のあるレンズの効力を使用している間もMPを消費する、というのも不安要素だった。
「でもカッコいいから装備して使うけどね。それにポチが前衛として一緒に戦ってくれるから、後衛装備は私にとっても都合がいいし。頑張って使えるように練習しよ。だから改めてよろしくね、ポチ」
『ワンッ』
声をかけると遊んでもらえると思ったポチに千春は押し倒され、顔中を舐めつくされた。
補足。
無属性弾丸は魔力をそのまま弾丸としたものです。
本来であれば属性を加える方が消費魔力は増えそうですが、ヘリオスの場合は光属性の弾丸を放つ事に特化している武器という設定上、無属性の方が消費魔力が大きいという形にしました。




