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41話 

 

「あれ?」


 鍛冶工房。


 千春は素材置場にしている部屋の一角に手を伸ばして、それに気付いた。


 そこはミスリル鉱石を置いていた場所で、そこが空になっていたのである。


 否。


 正確には少しだけ残っている。


 けれどその数は4個で、インゴットに精錬するには1個足りない。


 現存の4個でも現実であれば小さくはなるだろうけれど精錬できなくはないだろう。


 が、ここはゲームの世界で、この世界では精錬するにはミスリルインゴットの精錬にはミスリル鉱石が5個必要という仕様。


 だから4個では精錬できない。


「採ってきてもらう……?」


 頼めるパーティはノエルたちの『メイド兎隊(正式なパーティ名になった)』だ。


 けれど現在、彼女たちはアラロワナ火山の先。


 第三大陸ウルスラを支配する魔王の配下の居城『双児宮』の攻略中。


 そのために先日まで千春も彼女たちの装備を強化していたため間違いない。


 であるからこそ千春としても彼女たちには目的を達成してもらいたいと考えていた。


「ステータス」


 久しぶりに開いたステータス画面。


 そこには「名前:千春」「レベル:23(+64)」「種族:人」とある。


 レベルのほとんどは前回のスカイギル討伐イベントで上がったもの。


 あとは鍛冶作業中に二回ほどレベルアップしている。


『HP:563 MP:152 STR:54 VIT:33 AGI:74 DEX:57 INT:37』


 鍛冶多目の行動は千春のステータスにも少なくない影響を及ぼしていた。


 特にSTRとDEX部分に。


 力と器用は鍛冶職には欠かせないパラメータでもあるから。


 AGIはメイン職業である暗殺者の恩恵で元から上がりやすい。


 炎帝装備の数値も加えればAGI:164にも到達する。


 これは最前線で活躍する攻略組エースパーティの盗賊並の数値である。


「あの時よりもいっぱいレベルアップしてるし、大丈夫だよね……?」


 千春は必要なものをストレージに詰め込んで、拠点を出た。



  ▼  ▼  ▼



 千春がNPCテレポーターにお願いして送ってもらった場所はミスリル鉱石を採掘できる山頂ダンジョンである。


 相変わらずの人の多さに千春の心臓はすでに限界を訴え始めていた。


 それに、


「……なんかわたしすっごい見られてない?」


 視線を感じる。


 それも一人や二人ではなく、もしかしたらこの場全員の視線が自分に集中してるんじゃないかと錯覚するほどの視線を。


「あのさ、ちょっといい? もしよかったら俺たちと一緒に」


「ぴいっ!!?」


「行かない、か…………はっや」


 パーティに千春を誘おうとした男性プレイヤーに後ろから唐突に声を掛けられて、字句通り逃げるようにダンジョンの中に飛び込んでいった。


 ちなみにこの男性プレイヤー。


 掲示板や噂で見聞きして、うさみみ商人の事を知っている。


 鍛冶職であれば戦闘は苦手だろうと護衛をし、その報酬に属性装備を無償で譲り受けようと考えて声をかけた。


 失敗に終わったし、レベル15になったばかりの彼がどこまで護衛として役に立つかは不明だけれど。



  ▼  ▼  ▼



 逃げ出してダンジョンに飛び込んだ千春。


「……びっくりした。最近は後ろから男の人に声を掛けられる回数も減ってたから油断してたよ」


 それは偏(ひとえ)に最近の千春は商売以外で外出はしていなくて、その商売に関しても掲示板の紳士淑女たちが主に|自分の購買欲求のために《、、、、、、、、、、、》千春を陰ながら見守り、時に護っているからである。


 そんな紳士淑女たちの胸に芽生えた新しい感情。


 それは『はじめてのおつかい』を見守る親の気持ちだったそうだ。


 始まり方はともかく。


 久しぶりのダンジョンである。


 アリの巣を彷彿とさせる細長く曲がりくねった道の先にある開けた空間。


 そこでは先着のプレイヤーたちがソルジャーアントと戦闘を繰り広げていた。


 二匹のソルジャーアントを囲んで攻撃するプレイヤーの数は6人。


 ヘイト管理もしっかり行っているらしく、危なげなくソルジャーアントへダメージを与えていく。


 その部屋には未採掘ポイントが二箇所ある。


 ここで彼らがソルジャーアントを引きつけてくれているからと横取りするのはルール違反だ。


 だから千春はその部屋を通過して先に進む。


 途中、警戒するように彼らは千春を見るけれど、それに目を合わせないようにして千春は速歩で先に進んだ。


 同じような場所を何カ所か進み、ダンジョンも中間地点を超えたあたりになるとプレイヤーの数は劇的に減少する。


 ここから先は一部屋の大きさも、そこにいるソルジャーアントの数も急激に広く、そして多くなるからだ。


 そして千春はここまで一切戦闘していないのに疲れ果てていた。


「ううっ、まさかこんなにも見られるなんて……」


 というか横取りされないように警戒して、先着のプレイヤーたちは通過するために部屋を通り抜ける千春の事を睨むのだ。


 そういう視線も以前であれば【気配遮断・Ⅳ】の効果で向けられなかった。


 けれど初心者救済用の【気配遮断】はもうない。


 今ある【気配遮断・Ⅳ】では、せいぜい一瞬だけ対象の気を逸らす事ができる程度。


 しかもプレイヤーの場合は小型マップにアイコンが映るため、その程度では何の意味もない。


 むしろ、そんな事をすれば余計に警戒され、もっと多くの視線を無駄に集めるだけ。


 ちなみに上記は千春の実際の経験に基づいた事実である。


 それでもここから先にはプレイヤーの数は激減する。


 それだけが千春の救いだった。


 帰りの事は意図的に忘却している。


 そうしなければ千春の心が折れるから。


「よし! いっぱい【採掘】して帰ろう!」


 てくてくと奥へと歩いて進む。


 剥き出しの岩壁には等間隔にランタンのようなものが設置されていてダンジョンの中でもわりと明るい。


 少し歩いた先に部屋があった。


 かなり広い楕円形の空間にはソルジャーアント8匹が思い思いの事をしていた。


 とはいえ岩壁しかない空間だ。


 ソルジャーアントもただ無為に歩き回っているだけなのだけれど。


 千春は炎帝の短刀を後ろ腰から抜刀して構える。


 そして慎重に、足音を殺して部屋に一歩を踏み入れた瞬間。


 これまでまったく別方向に向いていたソルジャーアントが千春に向いた。


「ぴ?」


 ガチガチガチッ。


 威嚇音の大合唱。


 そして一斉に押し寄せてきた。


「ぴいいいぃぃいいぃいいいっ!!?!?」


 これまで【気配遮断・Ⅳ】というチートスキルのあった千春にとって、多数のモンスターに一斉に押し寄せられるのは初体験。


 その圧迫感は尋常ではなかった。


 それでもだ。


「お、おおおお男の人たちに追いかけ回されるよりは怖くないもん!」


 二回目の行脚商人の途中で逃げ帰った時の事である。


 あの時の窮地を思えば、この程度は危機でも何でもない。


 と思い込んで戦闘開始。


 千春は炎帝の短刀を構え直し、八本の脚で先頭を駆けるソルジャーアントを攻撃対象として選択。


 全力で地を蹴った。


 肉薄し、ソルジャーアントは顎を開き、刃物のような二本の前肢を振り上げる。


 千春の首を切断しようと交差するように水平にソルジャーアントの前肢が動く。


 それを千春は高いAGI値で回避し、ついでにソルジャーアントの側面に回り込んで攻撃。


「【ダブルスラッシュ】!」


 一本の短刀での連撃は『×』の字が描かれた。


 それはソルジャーアントの中で一番脆い場所。


 頭部と胴体の繋ぎ目の一点に集中しており、千春の攻撃エフェクトはソルジャーアントの首に命中。


 その瞬間には光と化して消滅する。


 遺されたキューブは後で回収するとして、今は目の前の七匹になったソルジャーアントに集中。


 仲間がやられて警戒したのか威嚇音がさっきまでより大きくなった。


「男の人たちより怖くないもん!」


 もう一度、先程と同じ事を叫んで千春と七匹のソルジャーアントは激突した。



  ▼  ▼  ▼



 結果から言えば、その空間にあった未採掘ポイントは4箇所ともはずれだった。


 ほぼ石。


 たまに鉄鉱石、黒鋼鉱。


 そして一個だけミスリル鉱石。


 この一個を持ち帰れば一回はミスリルインゴットが精錬できる。


 しかしだ。


 千春はミスリルインゴットを精錬するのに不足していた一個のミスリル鉱石を採掘するためだけに、ここまできたわけではない。


「次の部屋に期待しよう!」


 意気揚々と千春は奥へと進んでいった。


 最終的な結果は石82個。


 鉄鉱石26個。


 黒鋼鉱15個。


 ミスリル鉱石3個。


 しょんぼり家路に着き、その途中で噴水広場の近くを通過して、気付いた。


 現在の千春の所持金は500万Gほど。


「他のプレイヤーさんに依頼すればいいんじゃん……」


 今度こそ千春の精神力は底を尽き、拠点に立ち寄ってからログアウトする予定を繰り上げ、今この場で今日はログアウトした。


 後日談。


 ミスリル鉱石採掘依頼は翌日に出し、少し高めの金額設定で依頼したからか、三日後には多くの依頼達成報告をメール受信し、その全てを買い取った。


 全部で300万Gほどだった。


「お金持ちって凄い……」


 お金の力を強く実感した千春だった。


 

久しぶりの一人旅でした。


あまり無双感はでませんでしたけど。


今後は少しずつ千春の一人ダンジョン攻略も増える、かも……?


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― 新着の感想 ―
[一言] 《小説家になろう(○○○○○○○)》 こんな感じのやり方じゃなかったでしたっけ?間違ってたらごめんなさい
[一言] その商売に関しても掲示板の紳士淑女たちが主に|自分の購買欲求のために《、、、、、、、、、、、》千春を陰ながら見守り、時に護っているからである。 → その商売に関しても掲示板の紳士淑女たちが…
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