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14話

 

 最近の千冬は学校が終わるとすぐ家に帰り『エンドワールド』にログインしている。


 友人に付き合い寄り道をして帰る事もあるが、それは本当に少ない。


 誘われると断れない性格なのは自分でも知っているため、声を掛けられる前に教室を飛び出しているというのもある。


 おかげで千冬に(彼氏)が出来たとの誤解が生じていたりもするのだが、彼女は全く気が付いていない。


 ともかく。


 今日も真っ先に教室を飛び出した千冬は制服がシワにならないように整えてハンガーにかけ、部屋着に着替えてからベッドに横になり、ヘッドギアを装着して『エンドワールド』の世界へログインする。



  ▼  ▼  ▼



 ログインした場所は転移ゲートのある噴水広場ではない。


 前回のアップデートで拠点持ちのプレイヤーはログイン場所に拠点も選択可能となった。


 千春も拠点に設定し直している。


 ログインし、部屋の隅に昨日採ってきた鉱石たちが山になっているのを見て千春は満足気にニヤニヤする。


 そこでようやく「ん?」と疑問の声を上げた。


「メールが来てる」


 それは『エンドワールド』内でのみ有効な、キャラアカウントを利用したメール機能。


 フレンド登録した者と連絡を取る手段として用意されていたものである。


 今までぼっちプレイだった千春は完全に存在すら忘れていた機能。


「…………あ、ケイさんからだ」


 千春に負けず劣らずの細身で小柄な少女を思い出す。


 身の丈を倍する巨大剣を使っていた戦士である。


「昨日わたしだけ残った事を心配してくれてたんだ」


 最前線で発見されたミスリル鉱石が採掘できるダンジョン。


 普通はパーティで挑むダンジョンに千春はソロで挑んでいた所での出会い。


 パーティを組んでもらえるような友人も、パーティに入れてほしいと知らないプレイヤーに言える社交性もないためのソロ活動だった。


 ケイからのメールには千春のその後を心配する内容から始まり、自分たちは無事に生きてダンジョンを出られた結果報告が書かれている。


 その間に何処のケーキが美味しい、どこどこの小物が可愛い、学校での友達とのあれこれなど、明らかにリアルの事情だと思われるものまで差し挟まれていたりする。


 場合によっては、この情報だけで住んでいる場所を特定される恐れもあるため教えない方が絶対にいい情報である。


「ケイさん……」


 VRMMO初心者の千春でも、否、初心者だからこそ微に入り細を穿つように注意書きを読みこんでからゲームを開始しているため、それが推奨されていない行為だと知っている。


 ケイを心配しつつメールを最後まで読み進めると、最後の一文に本題が書かれていた。


『ちーちゃんの空いてる日を教えてほしいんだ。都合は合わせるから今度パーティ組もうよ!』


 実際のメールは女の子らしい絵文字いっぱいの文章であった。


「パーティ……」


 興味はある。


 友人と一緒に遊べたら楽しいだろうと千春も思う。


 しかしだ。


「足引っ張りそうで、うぅ、想像しただけで胃が……」


 自分がパーティ間連携の不和を生みそうで怖かった。


 何よりも邪魔者扱いで、誘った事を後悔されるかもしれないと思うと、もうダメだった。


 邪魔者扱いされ、誰かに落胆されるくらいなら初めから何もしない。


 したくない。


 それが千春の処世術だった。


「でもお断りするにも言葉選びは大事だよね……。え? どうしたらいいの? 何て言えばいいの!?」


 あわあわと挙動不審になり始める千春。


 立ったり座ったりを繰り返し始め、汚れてもいない部屋の掃除を始めだした。


 当然、その間も時間は刻一刻と刻まれている。


 それが千春の焦りを煽る。


「えっと、とりあえず何でもいいから返信しないと!」


 決意して千春は『返信』をタッチする。


「まずは……」


 生きて帰る手助けができてよかったです。


 わたしも無事に死なずに戻れました、などを伝える。


 リアルに繋がりかねない情報を簡単に教えるのは止めた方がいい、という事も伝えようとして、余計なお世話だと思われるかもしれないと考えて今回は止めておいた。


 次があり、それでも同じようなメールが送られてきた時は伝えようと決めて。


「最後に……『戦闘は苦手なのでパーティを組む話は遠慮させてください』で送信!」


 青色のボードに表示される『送信しました』の文字。


 ホッと息を吐いて送信したメールの文面に間違いがないかを確認する。


「え? な、何でええぇぇーーっ!?!!?」


 文面に致命的な間違いを発見して絶叫が木霊した。



  ▼  ▼  ▼



「あ、返信きた」


「何だって?」


 ラグアにある拠点の一つでケイが声を上げた。


 ソファに座っていたルシは、その言葉に背後を振り返る。


 同じくソファで本を読んでいたノエルもだ。


「ちーちゃんが『パーティ組む話はお待ちしています』って! さっそく予定組まないとだね、これは!」


「何か文面、変じゃねえ?」


「ただの打ち間違いじゃない? ルシだって多いじゃん」


 ケイにツッコまれてルシは納得する。


 確かにこれは千春の打ち間違いメールである。


 ただし予測変換をそのまま使って間違いに気付かず送信してしまったパターンの打ち間違い。


 まさか『Yes』と『No』まで間違えている事にまで気付ける者は誰もいないまま話は進んでしまった。


「いつが空いてる?」


 ケイは二人の予定を確認する。


「あたしはいつでもいいよ。二人に合わせるさ」


「私も千春さんに合わせられるように予定を組みますから」


「じゃあ今日!」


 そのケイの言葉にノエルとルシはがっかりと肩を落とした。


 そしてノエルが苦言を呈しようとして、


「……冗談だよ? さすがに私も今日いきなりがダメな事くらいわかってるよ?」


 その前にケイが冗談だったと口にした。


 お気楽な声音に、本当かよ、と言いたげな視線を向けるルシ。


「本当かよ?」


 実際に言った。


「本当だよ! 失礼だな! ルシは本当に失礼だな!」


 頬を膨らませて子供の様に『私、怒ってます』を表現するケイ。


 話を逸らすように、話を戻すようにノエルが仲介に入る。


 そうしなければフレンドリーファイアのない『エンドワールド』で不毛な、終わらない闘争が始まる事を彼女は身をもって知っているからである。


「それで? いつにするの?」


 それだけで単純なケイは先程までの憤慨を忘れて笑顔を見せる。


「明日!」


 予想していた答えの一つだったのだろう。


 がっかり感に襲われたノエルは再び、今度はさっきよりも大きく肩を落とすのだった。


 

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