1話
自宅の部屋。
学校から帰ってきた白峰千冬は脱いだ制服をハンガーにかけ、しわにならないように綺麗にかけてから下着姿のままでベッドに横になる。
枕元に置いてあるヘッドギアを装着。
「ログイン」
音声認識によりヘッドギアが起動。
自動的にインターネットに接続され、千冬の意識は電脳世界に移行する。
ログイン画面でパスワードを入力し、ヘッドギアにインストールしてあるゲームを起動する。
彼女のヘッドギアには三種類のVRMMORPGがインストールされている。
千冬がインストールしているのは視覚聴覚のみのVRではなく、三つとも五感全てで没入するタイプのVR。
その中から彼女は『エンドワールド』というゲームを選択する。
魔王に支配された世界を救うのを目的とした王道RPGである。
「ダイブ」
音声認識により彼女の五感は『エンドワールド』の世界へと没入した。
▼ ▼ ▼
今、千冬の見ている景色は背景に『0』と『1』が無数に走る世界。
もちろんここはまだ『エンドワールド』ではない。
というのも、まだ千冬は『エンドワールド』を始めていない。
今日初めてプレイするゲームだった。
「まずはキャラメイクからね」
性別は選択できる。
当たり前のように『女』を選んだ。
次に『種族』。
『人』を筆頭に『エルフ』『ドワーフ』『ホビット』などがある。
変わり種だと『ナーガ』『アンデッド』などの人外も選択が可能だった。
「うーん。やっぱり人かな」
エルフに憧れないわけではないが、性能的に万能型の人を千冬は選んだ。
エルフは弓と魔法に特化した種族で扱いが難しいと説明書きにあったのも断念した理由の一つだったりする。
千冬はゲーム自体あまり得意ではないのだ。
その後も『髪色』『瞳色』『肌色』と選ぶ。
容姿や背格好は現実と非現実とでの差異を少なくするために大きくは変えられない仕様になっている。
なら人外はどうなるというツッコミが聞こえてきそうだが、そこはその分、素のステータスが高く設定されている。
つまり人外は慣れるまで操作に苦戦するが、慣れてしまえば高火力で他プレイヤーを圧倒できる可能性も秘めている、という事だ。
キャラメイクを終えて、最後に職業を選ぶ。
職業はメインとサブの二つを最初に選べる。
どちらをメインにするかはプレイヤーの手で常に変えられる仕様になっている。
ただ、ここで選んだ職業を変えることはできない。
例外はあるが、基本的には変えられないと考えて問題はない。
「剣士、格闘家、魔法使い、僧侶、盗賊、盾士……」
他にも多くの職業が並んでいる。
双剣士、騎士などもあれば、鍛冶師、薬師、錬金術師などの生産職も豊富だった。
「あ、暗殺者って名前はアレだけど回避能力が一番高いんだ」
回避が高ければ攻撃を簡単に躱せるってことだよね? と素人的判断で千冬は最初の職業に『暗殺者』を選んだ。
これが地雷なのだが、暗殺者は確かに回避特化のキャラメイクが可能だ。
しかし当然ながらそこには高いプレイヤースキルが要求される。
素人が、特にゲームというものに初めて触れてから三ヵ月程度の千冬に扱えるはずもない。
そうとも気付かず千冬はもう一つの職業を探す。
回復系にしようかそれともお薬を自前で用意できるようにしようか、と夢を膨らませていた。
そして探していると視界端にある『?』が点滅している事に気が付いた。
そこをタッチして表示させる。
『エンドワールドでは一部を除いて装備した武器や防具には耐久値が設けられています。耐久値が『0』になった武器や防具は壊れてしまいますので、その前に鍛冶屋、鍛冶師に頼んで武器をメンテナンスしてもらうようにしましょう』
「そうなんだ」
使えば壊れるのは当然ね、と千冬は特に文句もなく納得する。
であればだ。
「やっぱり武器や防具のメンテナンスにはお金がかかるものだよね?」
それなら、という理由から千冬は二つ目の職業に『鍛冶師』を選んだ。
自分でメンテナンスできればお金がかからないと考えたからだ。
実際にこの考え方をするプレイヤーは多く、サブ職として鍛冶師は薬師に次ぐ人気職だった。
中には『剣士』と『魔法使い』で『魔法剣士』としている者もいるが。
これでキャラメイクは完了だ。
「最後に名前を入力してください、か」
千冬はそのまま『千冬』と入力しそうになって、考え直す。
さすがに実名で登録するのが不味いことくらいは千冬でも知っている。
「んー」
少し考えて千冬は『千春』と入力した。
冬の次は春でしょ、という短絡的指向からの命名だ。
そうやって名前を決めた所で千冬の、千春の視界は白く染められ、目が眩んだ状態から落ち着くと千春は大きな噴水広場に立っていた。
「ここが『エンドワールド』の世界……!」
太陽の陽射しの暖かさも、頬を撫でる風の匂いもある。
レンガを積んで建てた家屋が並ぶ通りは異国情緒を感じさせるからだろうか。
吹く風の匂いには異国の香りを感じられるような、そんな気がした千春だった。




