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彼(女)は彼岸に咲く花  作者: 耳デカネコ目イヌ科キツネ属
第1章「KO U ERA」
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3話 『発見』

最近なんか持久力つけたくて

♢バイクの音で目覚めると庭の木の下に。


「あ、今、何時だ…それにこのバイクの音うるせーし」


♢スマホを取り出すと時計は午後9時を示す。最近シンドバットの家周辺で香水の匂いを撒き散らしながらバイクが走っていることがここ最近多い。


「なんで起こさないかな…しかも雨が降ってるし」


♢少し高圧的に彼は母に尋ねる。しかし母は全くペースを崩さず答える。


「明日が休日だから」


「それに先輩は…?」


「葉ちゃん?なんかさっきうちに来てたわね。泊まるとか言って…外は暑そうだったから今は部屋に上げて…」


「ん…!?」


♢シンドバットは駆け足で2階へ向かう。


「おいおいおいどういうことですか!?」


「着替えとかは持ってきたよ、他にもお泊まり用のセットはひと通り」


「…なるほど、俺が寝ていた隙に」


♢悪い笑みを浮かべた葉、何を言っても聞く耳なしと判断してシンドバットは折れた。


「いつもみたくバットと同じベッドに寝るから大丈夫」


♢葉のペースに呑み込まれるシンドバット、それを通り過がりの中三次男(彼女持ち)のアットワープは鼻で笑いどこかへ去っていく。部屋は片付いてはいるもののベッドにはスケッチブック、教科書、ノートが散乱していた。それらを見られたことにショックでため息をつく。


「汚くてすみません…」


「私の家よりいいよ!」


♢彼女はマンガが売れ、家を買ったのだが予想外に大きく管理が追いつかないうえにそもそも彼女は生活管理能力が皆無なせいで家に一人にさせるとすぐゴミだらけになる。


「…わかりましたよ、また今度掃除に向かいます」


「ありがとう、優しいバット好き!」


「…むう」


♢シンドバットは彼女の我儘なところやだらしないところも含めて無自覚に愛している。


「もー、少しはしっかりしてくださいね」


♢面倒見がいがあると言っても流石に将来が心配なので最低限の生活スキルは身につけて欲しいとは思っていた。


「将来はかわいい主夫に面倒見てもらうからいいの」


「はいはい、見つかるといいですね…?」


♢外から物騒な音が聞こえる。治安保護局の車と救急車だ。通り過ぎるかと思ったら近所で止まった。治安局の車は複数台のようでシンドバットらも気になりベッドに乗り窓を開け身を乗り出す。


「うわ事件だよ、見てあれ」


♢外が酷い雨の中、葉が指を指すのは、救急車に運ばれていくのは、ヒクヒクと動く赤い塊だ。あれは凡そ元の形状を持っていないが、ひと目でわかった。人だ。それも子供、親と思われる二人は涙を流していた。


「人間…連続少年皮剥事件」


♢シンドバットは平静を装うが初めて見る凄惨なそれに吐き気を催す。一方、葉はやけに落ち着いている様子でいた。


「随分とイマドキな事件だね」


♢目の前の惨事をシンドバットは睨むよう見つめる。


「つらいなら目を閉じてもいいんだよ?」


♢葉は優しい言葉でシンドバットの目に手を添えるが彼はそれを払う。


「目を凝らしていただけです。あの人はお隣さんです。それにあの子はまだ6歳でした」


♢葉は何も言わず、優しく彼の頭を撫でた。


「…」


「犯人、見つかってほしいですね」


「うん」


♢流石に限界かシンドバットは背後に倒れる。それを受け止めてたのは後ろの葉だった。


「はー、吐きそ」


♢苦笑しつつシンドバットは葉に身を任せた。初めて見た凄惨な死体に精神的にやられたのだろうか。


「昔バットが私を助けてくれた時かなりやばい時あったよね、それは大丈夫だったの?」


「あー自分のは大丈夫なんですよ」


「不思議な…私は気が狂いそうだったよ…」


♢シンドバットは葉に寄りかかったまま目を瞑る。


「あれ?お風呂も入らず眠っちゃうの?」


「あ、入らなきゃ…先輩は湯船に浸かる派でしたよね。準備してくるので待っててください」


「…うん!」


♢シンドバットは下の階に降りる。


「…はあ、。今年行った初詣のオミクジ…大凶だったし今年はついてないのかな…まあ死ななきゃなんとかなるか」


♢お湯はりボタンを押し、彼は愚痴を零しながら上の階に戻る。葉が四つん這いで部屋を漁っていたその尻を彼は蹴り上げる。


「あーん♡」


「何してるんですか?!」


「探索」


「また訳の分からないことを…でもまあ、多分お探しのものならスマホにありますよ」


♢たぶん葉はシンドバットの秘蔵の薄い本を探そうとしていたのだろうと彼は確信していた。


「え、それはズルいよ」


「ズルいも何も見られたくないものは見られないところに隠すものですよ?」


「あーん、いけずぅ」


♢葉は立ち上がり抱きかかり尻を揉む。彼は満更でもない顔で顔を朱く染めるがそれでも振り払う。小さく葉は息を乱す。


「んっ…」


「…あ」


「押し倒せよ」


♢シンドバットは直ぐに離す。しかし葉は拗ねてしまう。何と返そうか悩んでいると、ピッピッと浴槽が満たされた音がする。

 

「…風呂が沸いたので先入っていいですよ」


「一緒に入ろー」


「狭いから嫌ですよ」


♢抱きつく葉を力づくで引き剥がそうとするも離れなくむしろ体が折れるような鈍い痛みが生じる。


「折れますからや、やめて下さい」


「むー…」


「あー、痛いです」


「あ……ごめん」


♢手を離すとスマホが鳴る。タイヨウから通話が来て珍しいと思い慌てて出る。


「先輩、静かにしててくださいね」


♢葉は親指を立ててOKサインをだした。


『なんだい?』


『…死んだ』


♢いきなりの物騒な言葉にシンドバットは言葉を失う。続けてタイヨウは述べる。その口調は至って平静なものだった。


『部活から帰ったらおとうさんとおにいさんが』


♢彼女の父と兄は彼女の母の再婚相手で母が死んでからはいろんな意味で虐待を受けていた。周りは気づいていても口にされることは彼女が嫌がっていたので口を閉じていた。


『…なんで俺たちに』


『…まーくんも』


『まず治安保護を呼べ』


『うん…』


♢まーくんとは犬耳を持つタイヨウの彼氏、典型的なDV彼氏であり、同時に泥沼のような愛を持っている。その愛の示し方が歪曲している男だ。


♢シンドバットは通話を切り葉に呼びかける。


「先輩、行きますよ…タイヨウの家に」


「場所知らないよ?」


「案内しますから!」


♢珍しいシンドバットからの無茶振り、彼女は断ることなく治安保護の目に付くことのない静かさで移動、雨が酷くなっていく中案内されながら佐鳥邸へ向かう。


♢治安保護はまだ来ておらず、シンドバットは「来た」とメッセージを送る。既読はすぐ付き玄関がすぐ開き門前のシンドバットに抱きつこうとする。しかしそれは葉によって阻まられる。


「…皮剥か?」


♢前髪を耳にかけているタイヨウは黙って頷く、その顔には冷静さも感じ取れた。


「3人とも皮を剥がされて死んでた」


♢雨のせいかその顔は悲しみと歓び、二つの感情が入り組んでいる気もした。


「…どうして俺を?」


「一人が怖いから泊めて…」


「でも…男の家には不味いよね?それになんか凄く落ち着いてるし」


♢葉は鋭く尋ねる。


「怖いですよ!…紅先輩に連絡してもダメで…シンドバットの所だと思って…二人以外頼れなくて…それに友達が少ないですし向島は家がかなり遠いから」


♢治安保護が着く。第一にして唯一の目撃者のタイヨウはもちろんシンドバットや葉も巻き込まれて聴取された。3人は解放された段階で既に11:45、タイヨウが荷物を取り出し葉に乗りシンドバット宅に辿り着いた頃には12:05だ。


「大変なことになったなあ…」


「お人好しなんだからもう」


♢シンドバットは頭を抱える。しかし彼は取り敢えず今すべきことはわかっていた。


「まずタイヨウの靴を置きに下に降りようか」


♢彼らは窓から出入りしていたので靴を持ち下にまず向かう。


「タイヨウが泊まることは伝えておくから二人は風呂いってて…ぬるかったらまあ少し抜いて暖かいの入れといていいよ。狭いと思うから我慢するか順番に入っちゃって」


♢シンドバットは親の寝室へ、二人はバスルームへ向かった。


「バットってほんとお人好しだよね」


「そうですね…先が心配です」


「……私は二人とも心配だけどね。今のタイヨウちゃんのその目とか」


♢目付きの悪さを指摘されたと勘違いし耳にかけてた髪を下ろす。


「目付きが悪いとかじゃなくて、さっきはあんなこと言ったけど私も悪し!」


「じゃあどういうことで…?」


♢やはりタイヨウの玃の力も、葉程に妖術への耐性が高いと図らずも防がれてしまうのだろう。


「彼氏への依存具合」


「痛いところに言葉を投げるのですね…」


「すぐわかったよ、ヤバいって…バットも気づいてたけど触れなかった。彼は人に甘いから自分の好奇心より他人の心を選んだんだと思うけど私はそういうことができなくて…まあ話したくないなら話さなくていいけど」


♢タイヨウはバスルーム手前で立ち止まりため息をつく。そしてその目は黒く澱んでいた。


「私は誰より彼を愛していました。殴られ蹴られ罵られ…でも彼は最後に私に謝罪し泣き縋り愛を叫ぶのです…そんなクズな彼がたまらなく愛おしい…おかしいですよね」


「いや、そうでもないと思うよ?ね。ハニー♡」


♢タイヨウはハッと驚き後ろに振り向く。のうのうとしたシンドバットが後ろにいた。


「風呂に入らないの?」


「聞いてた?」


「…早く入った方がいい、冷める」


♢タイヨウはハッと驚き後ろに振り向く。のうのうとしたシンドバットが後ろにいた。


♢シンドバットはそれ以上何も言わず二階へ上る。


「君にはどう見える?」


「?」


「バットだよ、玃の力で読めるんでしょ?心」


♢葉が尋ねるとタイヨウは深く心配するような弱々しい眼差しをした。そして、そこから何を言いたいか理解したのか葉は彼女の肩に手を置く。


「その心配は杞憂だよ」



♢シンドバットはベッドに倒れ込み式の見当たらない問題とにらめっこする。そもそもこの問いに答案があるのかすら彼は見いだせていなかった。


♢一日じゃ思考がまとまらないと諦めシンドバットはスマホを取り出しブラウザを開き淡々と文字を打つ。


「(はあ…しかしよくもまあ皆飽きもせずに俺の妄想劇に付いてこれるよな…Revive…商業誌にしても売れますよってこれはそういう、作品じゃないんだけどな)」


♢スマホを枕の下に、ねじ込み、暗証番号ロックの引き出しから一枚の写真立てを取り出す。そこに映るのは笑顔でこちらにピースをする葉だ。


「はあ…ダメだ。何もわからない…嫌な予感がする…でも、なんとかなるかな」


♢葉がいればなんでもできるしどうにでもなると彼の脳が根拠の無い脳死したような答えを出す。


♢それではダメだと首を振るいまた考える。それでも彼は何も思いつかず結果として思考を放棄し始めてしまう。そしてシンドバットが何となく外を見るとまだ治安保護が働いていた。時刻は日を跨いているというのにブラックもいいところだ、とシンドバットはあの仕事は…大変だなと彼は再び横たわる。


「…」


♢まじまじと天井を見つめる。しかし答えなんかそこにはなく諦めかけた彼を眠気が襲う。


「…犯人とか分かるわけないよな」


♢本日2度目の夢の世界への扉が開く。愛しの恋人の写真を抱きしめながら…

走り始めました

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