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聖印×妖の共闘戦記―追憶乃書―  作者: 愛崎 四葉
第六章 烙印一族と二重刻印の秘密
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第九十三話 内に秘めた憎しみ

 陸丸達は、ある異変に気付いていた。

 それは、朧が、寺院のどこにもいないという事だ。

 くまなく探したのだが、朧の姿は見当たらない。

 いつの間にか、外に出たようだ。

 焦燥に駆られた陸丸達は、地下牢から出てきた九十九にこの事を告げた。


「朧がいない?本当か?」


「ほ、本当でごぜぇやす……」


 陸丸達は、何度も探したのだ。

 だが、どこを探しても、本当に朧は、見つからなかった。

 九十九も、朧が、外に出てしまった事に気付いたのであった。


「すまぬ、わしらが、もっと早く気付いていたら……」


「朧殿が、いなくなる事はなかったでござるよ……」


 陸丸達は、自分達を責める。

 もし、朧の側にいたら、もっと早く、朧がいない事に気付いていたら、このような事にはならなかったであろう。

 そう思うと、自分達が、情けない。

 こう言う時にこそ、寄り添うべきだったのだと。

 落ち込む陸丸達に対して、九十九は、頭を撫でた。


「お前らのせいじゃねぇ。こうなったのは、俺に責任がある」


 朧がいなくなった事を聞かされた九十九も、自分を責めていたのだ。

 朧の側にいてやるべきだったと。


「お前らは、瑠璃達にこの事を伝えてこい。俺は、朧を探してみる」


「わ、わかったでごぜぇやす!」


 九十九は、瑠璃達に朧がいなくなった事を告げるようにと陸丸達に頼み、陸丸達は、慌てて、瑠璃達の元へと走っていく。

 九十九も、走りだし、峰藍寺を出て、朧の元へと急いだ。


――どこへ行きやがったんだ!朧、頼むから、無事でいろよ!


 九十九は、不安に駆られていた。

 朧は、千里の元へ向かったのではないかと。

 真相を確かめに。

 九十九は、気付いていたのだ。

 朧が、未だ、千里が柚月に呪いをかけた事を信じられずにいた事を。

 当然だ。

 朧は、千里の相棒だ。

 受け入れられるはずがない。

 やはり、朧に告げるべきではなかったと後悔し、焦燥に駆られた。

 朧の気配を探りながら、朧の元へと急いだ。



 ついに、千里が、本性を明かしたのだ。

 自分が、柚月に呪いをかけたと、明かして。

 もはや、朧は、否定することさえできなくなっていた。


「なぜだ……なぜこんなことを……」


 朧は、千里を問い詰める。

 こぶしを握り、体を震わせながら。

 怒りがふつふつとこみ上げてくるのが朧には感じられる。

 それほど、許せないのだ。

 千里の事を。


「信じてたのに……俺は、信じてたんだぞ!」


 朧の怒号が響き渡る。

 朧は、千里に裏切られた感覚に陥っていた。

 ずっと、仲間だと思っていた千里。

 それなのに、なぜ、このような事をしたのか。

 朧は、未だ理解できなかった。

 責められ、追い詰められた千里は、瞳に憎悪を宿し、朧をにらんだ。


「信じてた?なぜ、信じられる」


「え?」


 今度は、千里が、朧に問いただす。

 なぜ、こんな自分を受け入れ、信じられたのか。

 千里も、理解できなかったからだ。

 だからこそ、朧に問いかけた。

 だが、朧は、動揺したのか、答える事はできなかった。


「知ってるんだろ?餡里が、どんな目に合ったのか」


 千里は、さらに、疑問を朧にぶつける。

 餡里に、どのような過去があったのかを。

 朧も餡里について調べ、知ってしまった。

 聖印一族が、餡里にどんな仕打ちをしてきたのか。

 それゆえに、餡里の気持ち、餡里が聖印一族を憎んでいる理由を理解したのだ。

 それゆえに、千里は問いただした。

 これでもまだ、千里がしてきたことを理解できないのかと言うかのように。

 朧は、言葉を失った。

 だが、千里は、続けた。

 今まで、溜め込んできた怒りを朧にぶつけるかのように。


「五百年前、俺は、元々人の姿をした妖じゃない。龍の姿をした妖だった。餡里は、混血人として生まれたんだ。けど、そのころは、混血人は、受け入れられない存在だった。そのせいで、餡里は忌み嫌われてたんだ。見てて辛かった……」


 五百年前、妖であった千里は、安城家に憑依する妖として、聖印京にいた。

 道具のように使役されていた千里は、聖印一族を受け入れる事はできなかったが、一部の人間を受け入れていた。

 それは、千里の主であり、餡里だ。

 彼らは、千里を忌み嫌うことはなかったからだ。

 道具ではなく、相棒として、仲間として、千里を迎え入れてくれた。 

 だからこそ、千里は、彼らの優しさを受け入れた。

 それ以来、ずっと、千里は、見てきたのだろう。

 混血人として生まれたせいで、周囲から蔑まれ、疎まれてきた幼い餡里を。

 その度、涙を餡里は、流していた。

 何もしてあげられず、千里は、悔やんでいたのであった。


「それに、餡里は、真城家の聖印能力しか発動できなかったんだ。それも、変化で来たのは、妖刀だ」


「妖刀……。そうか、あれは、千里が、妖刀に変化できたのは……」


「餡里の真城家の聖印能力を吸収したからだ」


 妖である千里が、妖刀に変化できる理由は、餡里の聖印能力を吸収したからだ。 

 つまり、元々は、餡里の能力だった。


「妖刀なんか、誰一人扱えやしない。役立たずだって、あいつは、罵倒された。あいつが、悪いわけじゃないのに」


 妖刀を扱える人間は、いなかった。

 聖印一族でさえも。

 それゆえに、餡里は、さらに疎まれてしまった。 

 なぜ、妖刀にしか変化できないのか。

 餡里は、役立たずだと。

 餡里だって、好き好んで混血人として生まれたわけではないし、妖刀に変化する能力を得たわけではない。

 全ては、偶然だ。

 そのため、千里は、餡里の気持ちが痛いほど伝わり、理解していた。


「けど、あいつは、覚醒した。蓮城家の聖印能力を発動できるようになったんだ。あいつは、二重刻印をその身に宿してたんだ。まぁ、親が、二重刻印のことについて知らなかったから、隠してたらしいけどな」


 だが、あることをきっかけに、餡里は、もう一つの能力、連城家の聖印能力を覚醒させ、発動したのだ。

 実際は、餡里は、真城家と連城家の二つの聖印、二重刻印をその身に宿していた。

 だが、二重刻印の真実を知らない両親は、周囲に気付かれないように、ある術を使って、真城家の聖印だけ見えるようにし、二重刻印を隠していたのであった。

 つまり、全ては、身勝手な両親のせいで、餡里は、疎まれることとなった。

 だが、餡里にとっては、どうでもよかった。

 なぜなら、二重刻印は、強い力を発揮できたためだ。

 二つの聖印を駆使することができるのは、餡里のみ。

 それゆえに、周囲は、手のひらを返すように、餡里に優しく接するようになった。


「あいつは、幸せそうだった。必要とされ始めたんだ。当然だよな。なのに……それなのに……」


 二重刻印を持つ者だと知らされた餡里は、一番幸せそうだった。

 必要とされていると感じていたからなのであろう。 

 餡里の様子をうかがっていた千里も幸せな気分に浸っていた。

 本当によかったと。

 だが、幸せは、長くは続かなかった。

 思い返したのか、千里は怒りが、こみ上げてくる。

 聖印一族を許せなくなるほどに。


「あいつらは、力欲しさに、欲望のままに、餡里を三重刻印を持つ者にさせようとしたんだ!」


 千里は、今でも覚えている。

 嫌がっている餡里を無理やり、実験の被験者にし、強引に聖印渡しの術を発動したことを。

 彼らのしたことは、千里は今でも許せなかった。

 それゆえに、その怒りを朧にぶつけるように叫んだのであった。


「あいつらのせいで、安城家の聖印を取り込んだ餡里は三重刻印をその身に宿して、暴走した。同じ実験の被験者になった奴らは、全員妖人になったんだ。餡里を除いてな」


 身勝手な大人達のせいで、餡里は被験者となり、三重刻印をその身に宿すことになった。

 実験は、無事に成功したかに思われた。 

 だが、悲劇は、起こった。

 実験の被験者になった人間は、全員妖人となってしまった。

 そして、餡里も、無理やり千里を憑依させることになり、聖印の暴走が起こってしまった。


「俺は、餡里に憑依させられ、暴走した餡里を止めた。けど、完全には止められなかった。俺は、餡里の記憶と真城家の聖印を取り込んだ。それが、今の俺だ」


 暴走し始めた餡里を止めたのは、千里だ。

 妖気を発動して、餡里の聖印を無理やり引きはがそうと試みた。

 そうすることで、餡里を助けようとしたのだ。

 千里のおかげで、餡里は、妖人にならずに済んだ。

 だが、その結果、千里が、餡里の記憶と真城家の聖印を取り込んでしまい、千里は、人の姿、餡里と瓜二つの顔を持つ特殊な妖人となってしまった。


「餡里は、助かったが、事件を起こしたとみなされて、聖印一族から、隊士から終われる身となったんだ。俺は、許せなかった。なんで、餡里が、こんな目に合わなきゃならない!」


 語り始めた千里は、怒りを止める事はできそうにない。

 ずっと、溜め込んでいたのだ。

 当然だろう。

 餡里は、何も悪くないというのに、反逆者扱いされて、処刑される身となって、追われた。

 このような事を許せるはずがなかった。


「全部、お前達のせいだろう!」


 千里は、全ての怒りを朧に粒けるかのように叫んだ。

 これには、さすがの朧も、言葉が出てこなかった。

 餡里のことを思えば、反論できるはずがない。

 千里は、さらに、話を続けた。


「だから、俺は、妖刀となって、一族を殺してやったんだ。まぁ、結局は捕らえられて、封印されたけどな。餡里は、本堂の地下に。俺は、地獄にな」


「本当に、地獄に封印されていたのか……」


 当時、千里は、聖印一族を許すことは、できなかった。

 それは、餡里もだ。 

 それゆえに、二人は、結託して、追いかけてきた聖印一族を、隊士達を皆殺しにした。

 そして、大罪者扱いされて、千里と餡里は、捕らえられ、封印され、眠りについた。

 五百年もの間。


「そうだ。五百年後、俺は、目覚めた。そして、柚月を刀で刺して、呪いをかけた」


「なぜだ?」


 朧は、千里に問いかける。

 餡里と千里の怒りは、十分に分かった。

 だが、だからと言って、なぜ、柚月が呪いをかけなければならない。

 それは、許されることではない。

 朧には到底理解できなかった。


「……餡里を取り戻すためだ」


 千里は、答えた。

 全ては、餡里の為だと。


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