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聖印×妖の共闘戦記―追憶乃書―  作者: 愛崎 四葉
第五章 安城家の娘の結末
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第六十七話 夢の続き

 餡里や瑠璃達が、聖印京から逃れてから、聖印京は、落ち着きを取り戻しつつある。

 これと言った大きな問題は、起こっていない。

 妖が侵入したとの報告も受けていないようだ。

 と言っても、それは、今だけの事。

 いつ、餡里や瑠璃達が、姿を現すかは、時間の問題であろう。

 その前に、彼らの事を知る必要がある。

 彼らを知り、対策を練らなければならない。

 餡里の野望を、瑠璃達の目的を食い止めるためには。

 だが、重要な手掛かりは得られていない。

 餡里と同じ顔を持つ千里は、混乱が落ち着くまでは、一時、静居の元で監視されることとなっていた。

 彼が、本当に、罪を償うために、自分達の側に着いたのか、疑心暗鬼に陥っている者達もいるようだ。

 そのため、千里から話を聞くことができずにいた朧達。

 勝吏や月読に相談し、千里の面会を申し込むことにし、体を休めることとした。

 その時、朧は、また、奇妙な夢を見ることとなる。

 あの夢の続きだ。

 朧の視点は、明らかに人ではない。

 妖のようだ。

 しかも、彼は、「千里」と呼ばれている。

 彼は、あの二人の少女と、千里によく似た容姿を持つ少年と共に、灰色の髪を持ち、ひげを生やした男性の話を聞いていた。


「え?実験をするの?」


 少年が、男性に尋ねる。

 実験とは、何なのだろうか。

 男性は、少年達にもわかるように説明し始めた。


「そう、君は、二重刻印を生まれながらにして持っているだろ?」


「うん」


 男性は、確かめるように少年に尋ね、少年は、うなずいた。

 確かに、少年は、二重刻印を持っている。

 それゆえに、周囲に疎まれていたが、大事な存在として扱われている。

 環境が変わるほど、二重刻印とは、重要な力を持っているという事であった。


「二重刻印を持つ混血人が、自然に生まれるのを待つのは、時間がかかり過ぎてしまう。下手したら、君以外生まれない可能性だってある」


 聖印一族が、聖印を手に入れてから、もう千年は立つ。

 今では、純血人よりも、混血人の方が、多いのだが、二重刻印を持つ人間は、未だ現れていない。

 記録によれば、一人しか生まれていないという。

 それも、五百年前の話だ。

 ゆえに、二重刻印を持つ混血人が現れるのは、ごく稀であり、生まれてくる可能性は、無いに等しいと言っても過言ではないだろう。


「だからね、私達は、研究したんだ」


「研究?どんな研究なの?」


 快活な少女は、興味を持ったのか、男性に尋ねた。


「人工的に二重刻印を生み出す研究だよ」


 男性は、快活な少女の問いに優しく答えた。

 自然に待っていられないのであれば、自分達で生み出すしか方法はない。

 人工的に生み出そうと考えたのだろう。


「それは、見つかったのですか?」


 今度は、おしとやかな少女が、静かに尋ねる。


「うん、見つかったよ。最も効率的かつ成功率が高い方法がね」


 どうやら、方法は見つかったようだ。

 それも、確信を持って。

 効率的かつ成功率が高い方法とは、どのようなものなのだろうか。

 実に、興味深い話であった。

 それが、本当に、成功するのであれば、戦力は拡大するはずだ。

 妖にとって、驚異的な存在になると言えよう。


「どんな方法?」


 少年は、男性に問いかける。

 朧も、興味が湧いたのか、男性の答えをじっと待っていた。

 尋ねられた男性は、自信を持って答えた。

 まるで、その話をするのを待ちわびていたかのように。

 彼らに話したくて、うずうずしていたかのように。


「聖印渡しだよ」


「聖印渡し?」


 聞いたことない言葉だ。

 聖印渡しとは、いったいどのような方法なのだろうか。

 朧は、正直なところ、自分の中に秘めたもう一つの聖印を具現化させるものだとばかり思い込んでいた。

 だが、そうではないらしい。

 それは、少年達も同様のようだ。

 首をかしげる少年達に対して、男性は、話を続けた。


「他の家から聖印をもらうんだ」


「……大丈夫なの?渡した人達は、どうなるの?」


「本当に、それって、成功するんですか?」


 男性が話す聖印渡しと言うのは、他の家の人間から聖印をもらう事のようだ。

 確かに、うちに秘めている具現化よりは、効率的かつ成功率は高いと見える。

 だが、本当に、安全なのかは、別問題だ。

 二人の少女が口々に尋ねる。

 問題性がないのか、懸念しているのだろう。

 聖印を渡すという事は、ただの人間に成り下がることになる。

 戦う力を失い、地位までも失われてしまうという事だ。

 しかも、聖印を他の人間に渡すことなど、不可能のように思える。

 陰陽術などでそう簡単にできるとは思えない。

 少年も、不安視するが、その不安を取り除くかのように、男性は、答えを導きだした。


「うん。大丈夫だよ。危険性はない」


 男性は、危険はないと、話すが、具体的な説明はしていない。

 それゆえに、あまりにも説得力に欠けている。

 少年達の不安をぬぐえたとは、朧も思えなかった。

 だが、男性は、思いがけない言葉を口にし始めた。


「それに、軍師様にご報告して、実験を行う許可をもらったんだ」


「軍師様が?」


 なんと、男性は、静居から実験を行う許可を得たというのだ。

 確かに、実験を行うのであれば、必ず、静居の許可が必要になる。

 安全面を考慮しなければならないからだ。

 それゆえに、許可を得られなかった実験も、多数あった。

 静居は、それほど、慎重に判断しているという事なのであろう。

 だが、今回の実験を静居は、許可したようだ。

 男性は、その証拠として、許可するという記載されている文を少年達に見せる。

 朧の目にも確かに、実験を許可すると記載されており、さらには、静居の名が、文に刻まれていた。

 これこそ、静居が、実験を許可したという証拠であった。


「軍師様が、許可したとなれば、君達も安心だろう?」


「うん!軍師様が言うんだったら、大丈夫!」


「問題は、ないという事ですね」


 静居の言葉は、絶対だ。

 それほど、彼は、影響力を持っている。

 聖印一族なら、誰もが崇拝し、信頼しきっているのだから。

 静居から許可を得たと知らされた少年達は、安堵した様子を見せていた。


「でも、どうして、それを僕達に話してくれたの?」


 少年は、男性に尋ねる。

 実験が、安全であるという事は、わかったのだが、なぜ、自分達に話したのだろうか。

 自分達は、隊士ではあるし、少年は、二重刻印を持つ貴重な存在だ。

 だとしても、それを説明した理由にはならない。

 尋ねられた男性は、言いにくそうに、少年に理由を語り始めた。


「……実験の被験者になってほしいんだ。もし、この実験が成功すれば、君は三重刻印を持つ者になれる。さらなる力を得ることができるんだよ」


「僕が……」


 男性が、少年達に、実験の事について話した理由は、少年に被験者になってほしかったからだ。

 さらなる力を得る為、そして、二重刻印を持つ者が、三重刻印となったら、どのような強力な力となるか、知りたいがために、少年に懇願したのだ。

 少年は、あっけにとられていた。

 確かに、三重刻印となれば、今以上に、必要とされるであろう。

 だが、どうしてだろうか。

 少年は、うなずこうとしない。

 心のどこかで、不安がぬぐえなかったからだ。

 静居が、許可したというのに、その実験を心から拒否したがっている自分に戸惑い、言葉を詰まらせた。


「君達のどちらかにも、協力してもらいたいんだけど、いいかな?」


  急なお願いであったため、答えを出せないのだろうと判断した男性は、少年の答えを待ち、二人の少女達にも、懇願する。

 少年に、聖印を渡してほしいと。


「わ、私が……」


 おしとやかな少女が、恐る恐る手を上げようとする。

 彼女も、少年と同様に、不安を完全には拭えていないからだ。

 本当に、安全なのか、聖印を渡してしまったら自分は、どうなってしまうのか。

 具体的な説明がない以上、納得できないのが本音だ。

 いくら、静居が許可したと言えど。

 と言っても、快活な少女にはやらせたくない。

 そのため、自分を犠牲にする覚悟で、少女は、聖印を渡すことを覚悟して、名乗りを上げとうとした。

 だが……。


「あたしがやる!」


「え?」


 おしとやかな少女が、名乗り終える前に、快活な少女が、名乗りを上げてしまった。

 これには、少年も、おしとやかな少女も、そして、朧も驚いている。 

 なぜなら、快活な少女は、その実験は、安全だと信じ切っているからだ。


「で、でも……」


「大丈夫!そんなに怖い実験じゃないんでしょ?」


「うん。そうだよ」


「なら、大丈夫だよ」


 おしとやかな少女が、快活な少女の身を案じるが、快活な少女は、大丈夫だと確信を持っているようだ。

 快活な少女が、名乗りを上げた事で、男性は、喜んだ様子を見せている。

 もう、引き留めることなど不可能に等しい。

 おしとやかな少女は、彼女も実験の被験者になる事を受け入れるしかなかった。

 だが、少年は、未だ受け入れられない。

 少年は、助けを求めるかのように、朧に視線を送った。


「千里……大丈夫だと、思う?」


 少年は、「千里」と呼び、尋ねる。

 尋ねられた朧は、静かにこくりとうなずいた。

 もちろん、朧の意思ではない。

 「千里」と呼ばれた彼の意思であった。


「わかった」


 「千里」から答えを受け取った少年は、うなずく。

 彼が、大丈夫だと言うのなら、大丈夫なのだろうと。

 少年は、今度は、朧から男性へと視線を変えた。


「やり……ます……」


 少年は、覚悟を決めたように実験の被験者になる事を受け入れる。

 不安をぬぐえないまま。

 おしとやかな少女は、何も言えぬまま、うつむいた。

 二人を引き留める事もできないまま。


「ありがとう、じゃあ、さっそくやろうか」


「うん。いこっ!」


 少年と快活な少女の承諾を受けた男性は、彼らを案内し始める。

 快活な少女は、少年の手を取り、歩き始めた。

 おしとやかな少女も、朧を連れて歩き始める。

 実験に納得できないまま、大人たちの言う事を聞くがままに。



 ここで、朧は、現実へと呼び戻される。

 いつもの見慣れた鳳城家の屋敷の離れの部屋が、朧の目に映った。


「い、今のは……」


 朧は、忘れもしないあの夢の内容を思い返すように、起き上がる。

 千里によく似た容姿の少年。

 その少年は、見覚えのある人物であった。


「あの子は……餡里?」


 朧は、夢に出てくる少年の正体に気付く。

 あの少年は、面の男……真城餡里であると。


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