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聖印×妖の共闘戦記―追憶乃書―  作者: 愛崎 四葉
第四章 嫉妬と衝撃の事実
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第六十話 彼の妖気をたどった先に

 朧達は、千里を探すために、裏門を通って、外に出ている。

 どうやら、朧達は、千里が外に出たと踏んだらしい。

 外に出て、森へと入った朧達は、分かれて探すこととなる。

 朧は、千里を探すが、千里の姿は、どこにも見当たらなかった。


「いない……。どこに行ったんだ?」


 朧は、周囲を見回すが、千里の姿はない。

 妖気を探り当てようとするが、わずかに感じられるだけで、どこにいるのかは、特定できず、千里の妖気とも確定することもできない為、千里を探す手掛かりとは、なっていない。

 朧は、焦燥に駆られ始めた。


「朧!」


「陸丸!」


 陸丸が、朧の元へと戻ってくる。

 朧も、陸丸の元へと駆け寄った。


「どうでごぜぇやしたか!?」


 陸丸が、朧に尋ねるが、朧は、残念そうに首を横に振った。


「見つからない。陸丸の方は?」


「あっしもでごぜぇやす」


 朧も陸丸に尋ねるが、陸丸も、残念そうに答える。

 どうやら、陸丸も、見つけられなかったようだ。

 空蘭と海親が、空から探している為、彼らが見つけてくれることを祈るしかなさそうであった。


「まだ、遠くには行ってないと思うんだけど……」


 妖気を近くに感じるという事は、遠くにはいないようだ。

 だが、近くというわけでもないらしい。

 早くしなければ、千里は、遠ざかってしまうが、この入り組んだ森の中で探そうにも見つける事は至難の業だ。

 かといって、慎重になって探してなどいられない。

 朧は、ますます、焦燥に駆られていた。


「聖印門から、出たってことはないでごぜぇやしょうか?」


「それはない。あいつは、目立つから、見つからないように、裏門から外に出たと思うんだ」


 陸丸は、聖印門から出た可能性があるのではと尋ねるは、朧は、それはないと断定する。

 千里は、妖だ。

 あの恰好では、どう考えても目立ってしまう。

 誰にも知られないように外に出るには、裏門から出た方が得策だ。

 それに、もし、本当に聖印門から出たというならば、目撃情報が出るはずだ。

 屋敷では、そのような情報はなかった。

 だとすれば、裏門から出たであろうと朧は、推測していた。


「しかし、なぜ、外にいると思ったんですかい?」


 陸丸は、もう一つ気になっていたことがある。

 なぜ、千里は、屋敷にはいないとわかったのか。

 なぜ、外に出たと推測したのか。

 そう推測した理由を朧は、陸丸に説明した。


「……屋敷の中に妖気を感じられなかったからだ」


「千里の、ですかい?」


「うん」


 朧が推測した理由は、千里の妖気を感じられなかったからだ。

 最初に目覚めた時は、千里の妖気は感じられた。

 眠っていた為、少し弱弱しく感じられたのだが。

 だが、勝吏と月読と別れ、千里に会おうとした時、すでに、千里の妖気は、感じられなかった。

 とすれば、離れに千里はいないことになる。

 だが、外に出たと推測した理由は、これだけではなかった。


「それに、千里が離れにいないってことは、屋敷にもいないって思うんだ。聖印京にいるとは思えない。騒ぎになりそうだからな」


 もう一つの理由は、やはり、目撃情報がないという事だ。

 もし、千里が、屋敷から出たのであれば、奉公人や女房が、自分や陸丸達に、知らせるであろう。

 もしくは、勝吏や月読にだ。

 だが、その情報はないと言える。

 なぜなら、あの時の勝吏と月読は、冷静だったからだ。

 もし、千里がいないと知らされていれば、困惑し、自分の元に来ることもなかったであろう。

 と考えると、千里は、誰にも気付かれないように、聖印京の外に出たことになる。

 これを踏まえて、朧は、千里は、裏門から聖印京の外に出たのだと確信したのであった。

 と言っても、肝心の千里の姿は見当たらない。

 森にいると、推測はしているが、確信は、得られなかった。

 そんな時であった。


「朧!」


「空蘭!海親!」


 空蘭と海親が、朧の元へ戻ってきた。


「どうだった?」


「さっぱりじゃ」


「どこへ行ったんでござろうか……」


 朧は、空蘭と海親に尋ねるが、二人とも見つけていないらしい。 

 やはり、この入り組んだ森の中では、見つけるのは困難を極めるようだ。

 手掛かりは、得られなかった。


「もう一度、妖気を探ってみる……」


 朧は、目を閉じて、意識を集中させる。

 妖気を探り当てるしかない。

 焦る心を抑え、朧は、千里の妖気を探した。


――集中しろ。千里の妖気を探すんだ。どこかにいるはずだ。


 朧は、集中して、千里の妖気を探し続ける。

 千里が、この森にいると信じて。

 陸丸達も、他の妖と遭遇しても、朧を守れるように、朧に背を向けて警戒している。

 その時だった。


「っ!」


 朧は、何かを感じ取ったのか、目を見開き、体が硬直している。

 その表情は、何かを信じたくないと否定しているかのようだ。

 朧の反応に気付いた陸丸達は、振り返り朧の元へ駆け寄った。


「お、朧?」


「どうしたでござるか?」


 陸丸達は、朧の様子をうかがうように、上を見上げる。

 だが、朧は、目を見開いたまま、動こうとも、話そうともしない。

 一体、何があったのだろうか。

 千里の身に何かあったのであろうかと、不安に駆られた陸丸達であったが、冷静さを取り戻そうと、朧が、震えながらも、話し始めた。


「いた……けど……」


「けど?どうしたんじゃ?何かあったのか?」


 千里はいたようだ。

 だが、朧の様子はおかしい。

 何かを否定したいと感じているように。

 空蘭は、朧を心配し、尋ねる。

 朧は、息を吐き、心を落ち着かせて、話を続けた。


「誰かと戦ってる。それも、妖と……」


「え!?」


 なんと、千里は、妖と戦っているらしいようだ。

 陸丸達は、驚愕する。

 おそらく、強大な妖と見て間違いないであろう。

 千里ならば、妖に囲まれても、一瞬で倒してしまうだろうから。


――それに、この妖気は……。


 朧は、千里と戦っている妖の事を考えようとしている。

 だが、考えている暇はない。

 千里が、窮地に立たされている可能性も高いのだから。


「行くぞ!」


「へい!」


 朧は、千里を助ける為に、走り始め、陸丸達も、慌てて朧の後を追った。

 不安と焦燥が、朧の中で混ざり合っているかのような感覚を認識しながら。



 千里は、赤い瞳の男と死闘を繰り広げていた。

 短刀を握りしめ、抵抗するかのように。

 だが、千里は、腕や足を切られ、血が流れている。

 それでも、赤い瞳の男は、猛獣のごとく、容赦なく、千里に向けて刀を振り下ろす。

 今度こそ、千里を殺さんとするために。

 千里は、またもや、ギリギリのところで回避した。


「ちっ!」


 赤い瞳の男は、舌打ちをする。

 相当、苛立っているようだ。

 布で、表情は見えないが、殺気と妖気が増している。

 膨れ上がっていくかのように。

 千里は、構え、赤い瞳の男は、刀を肩に担いだ。


「いつまでも、逃げてんじゃねぇよ。さっさと、殺されろ」


「……断る」


「なんでだよ」


「……」


 なぜ、殺されるのを拒否したのか尋ねる赤い瞳の男。

 だが、千里は、答えようとしない。

 答えられなかったのだ。

 何のために、生きているのか、今の千里には、答えが出なかった。


「答えるつもりはねぇか。まぁ、いい。どうせ……」


 千里は、自分の問いに答えないと考え、赤い瞳の男は、構える。

 千里が、答えたところで、状況は変わるわけではない。

 なぜなら、赤い瞳の男は、千里を殺そうとしているのだから。

 千里の答えなど、赤い瞳の男にとって無意味であった。


「てめぇは、死ぬんだからな!」


 赤い瞳の男は、千里に向けて、刀を振り下ろす。

 容赦なく、感情任せに。

 千里は、防御態勢に入る。

 ここで、回避することは難しいと判断したようだ。

 だが、その時であった。


「っ!」


 赤い瞳の男と千里は、驚愕していた。

 なぜなら、朧が、千里の前に立ち、紅椿で、赤い瞳の男の刀を受け止めていたからだ。

 間一髪で、朧は、間に合った。


「朧!」


 千里は、朧が駆け付けに来た事に驚愕しているようだが、来たのは、朧だけではない。

 陸丸達は、千里を守るように、前に出て、赤い瞳の男を威嚇した。

 だが、赤い瞳の男は、目を見開いたまま、硬直している。

 赤い瞳の男の目に映ったのは、朧が手にしている紅椿であった。


「それは……紅椿!」


「やっぱり、わかるんだな。これが、紅椿だって。姉さんの宝刀だって」


「……」


 朧が、今、手にしている刀は、妖刀・千里ではなく、姉である椿が愛用していた宝刀・紅椿だ。

 それを、知っている妖などたった一人しかいない。

 紅椿だと気付いた彼を見て、朧は、確信した。

 彼が、何者なのかを。


「……ずっと、ずっと、考えてたんだ。お前の事。誰なのかって。お前が、俺を助けてくれた時から……」


 朧が、赤い瞳の男の正体について考えるようになったのは、朧が暴走し、それを止めた時の事だ。

 懐かしい声で、自分の名を呼んだ。

 やはり、そんな妖は、たった一人しかいない。

 だが、朧は、それを否定した。

 もし、朧の予想が当たっているなら、信じたくなかったからだ。

 彼が、瑠璃達の側について、聖印一族を滅ぼそうとしているなどと。


「なんでだよ……なんで……こんなことしたんだ?」


「……」


 朧は、赤い瞳の男に問いかける。

 だが、赤い瞳の男は、答えようとしない。

 ただ、黙って、朧に視線を向けているだけであった。


「答えろよ……」


 朧は、赤い瞳の男に懇願するかのように話す。

 それでも、赤い瞳の男は、答えようとしない。

 正体を明かそうとも……。

 だが、朧は、声を震わせ、叫んだ。


「答えろ!九十九!」


 朧の声が、森に響き渡る。

 千里も、陸丸達も、驚愕し、目を見開いていた。

 信じられないと言わんばかりの表情を浮かべたまま。

 確かに、朧は、彼の名を呼んだのだ。

 「九十九」と。

 彼は、朧の親友であり、ずっと、ずっと、朧が、探し求めていた人物であった。


「ちっ。お前にだけは、知られたくなかったんだがな」


 赤い瞳の男は、舌打ちをし、布を外す。

 彼の姿を見た朧は、衝撃を受けたような表情をしていた。

 彼だとわかっていながら。

 彼は、銀髪の長い髪と血のような真っ赤な瞳を持ち、髪と同じ頭に耳が生えている妖狐だ。

 その姿は、間違いなく、朧の探していた人物。

 朧が、会いたがっていた九十九であった。


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