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聖印×妖の共闘戦記―追憶乃書―  作者: 愛崎 四葉
第三章 激闘!運命の三つ巴
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第三十八話 黒猫と三つ目男

 明け方、まだ、静けさが残っている。

 女房や奉公人が、働き始めたばかりだ。

 未だ、不穏な動きはない。

 と言いたいところだが、それは、彼らの視界からは見えていないだけ。

 敵は、すでに動き始めていた。

 最初に動き始めたのは、瑠璃達の方だ。

 千城家の分家の屋根に上り、様子をうかがっている。

 目立つ場所に立っているというのに、誰も気付いていない。

 まるで、そこには、誰もいないかのように。

 今回は、鬼と蛇男を除いた計五人が屋敷に侵入したようだ。


「さぁて。お目当ての人物は、どこかなぁー」


 男は、手を額の前に出し、掌を地平線と水平にして、眺めている。

 誰かを探しているようだ。

 だが、男の右隣にいる少女、瑠璃は、何か違和感を持ったかのように、男をじっと見ている。

 男は、瑠璃の視線にいち早く気付いた。


「ん?どしたかなぁ?」


「目星、ついてる。違う?」


「あ、気付いてた?」


「うん」


 瑠璃は、冷静に、尋ねる。

 どうやら、男は、目的の人物を把握しているようだ。

 瑠璃に完全に見抜かれている。

 だが、男は、態度を変えず、飄々とした様子で訊ね、瑠璃は、静かにうなずいた。


「わかりやすぎんだよ。あんたは」


「ぼ、僕も、そう思います……」


 瑠璃に続いて語りかけてきたのは、瑠璃の右隣にいる女性とその女性の右隣にいる少年だ。

 女性は、話し方から豪快さがにじみ出おり、反対に少年は、と弱弱しく感じられた。

 女性は、あきれた様子で、少年は、おどおどとした様子を見せている。

 どうやら、彼らも、男の真意を見抜いているようだ。

 と言っても、男は、隠していたつもりはないらしい。

 緊迫しているというのに、気付いていないふりを堂々として見せたのだ。


「そっか。じゃあ、もう少し、気付かれないように演技しよっと」


「はぁ……たく」


 男は、反省する気は全くない。

 女性は、あきれ返り、ため息をついたのであった。


「あ、あの……もうそろそろ、動きませんか?き、気付かれそうだし」


「問題ない。誰も、気付くわけがない」


「そうだよ。あんたは、本当、心配性なんだから」


「で、でも……」


 少年は、心配性なのだろう。

 奉公人や女房に気付かれないかと怯えているようだ。

 だが、瑠璃も、女性も、冷静で、堂々としている。

 それも、自分達は気付かれないであろうと何か自信を持っているかのようだ。

 だが、やはり、心配しているのであろう。

 少年は、おどおどしたまま、奉公人や女房に視線を向ける。

 彼らの様子が気になるようだ。


「まぁまぁ。ここに長居するのも確かによくないし。動こうか」


 少年を擁護するかのように、男は、語りかける。

 奉公人や女房は、気付かないが、聖印一族に見抜かれる可能性を懸念しているのかもしれない。

 男は、動こうと話すと、左隣の男の肩に手を置いた。

 

「と、いうわけだから、何かあったら、よろしくね」


「……おう。奴らが、来たら、動けばいいんだったな?」


「そうそう、そういう事だから」


「……わかった」


 どうやら、この左隣の男は、別行動をとるらしい。

 左隣の男は、淡々と問いかけ、うなずき、踵を返すかのように、瑠璃達に背を向け、いとも簡単に屋根から飛び降りた。

 彼の行動を見届けた瑠璃達は、再び、視線を奉公人は女房へと向けた。


「じゃあ、行こっか」


「了解した」


 瑠璃達も、屋根から飛び降り、着地する。

 庭へ堂々と。

 だが、飛び降りたというのに、奉公人も女房も、誰一人気付いていないまま廊下を歩いている。

 おそらく、男が、姿を消す術か何かを発動しているのであろう。

 瑠璃は、冷酷な表情を浮かべたまま、堂々と歩き始める。

 瑠璃に続いて、男達も、歩き始める。

 だが、やはり、誰も、瑠璃達の存在に気付いていないかのように、日常を送っていた。



 そんな事は知る由もない朧達は、部屋で、待機している。

 だが、一人足りない。

 それは、和巳だ。

 和巳は、早朝、目覚め、朝食を済ませた後、気になることがあるから、行ってくると朧に告げて、部屋を出た。

 だが、行先は、告げていない。

 何が、気になるのかさえも、不明だ。

 しかも、すぐに戻ると言ったっきり戻ってこないのであった。


「……」


 初瀬姫は、ぶすっと口をへの字に曲げて、黙っている。

 和巳が、戻ってこない為、相当、イライラしているらしい。

 最初は、待っていた朧達であったが、待ちくたびれたのか、次第に初瀬姫の機嫌が悪くなっていった。

 会話をしながら待っていた朧達も、初瀬姫が変わっていく様を目の当たりにし、居心地が悪くなり、だんまりしてしまう。

 次第には、誰もが、言葉を失い、沈黙が続いた状態となった。


「か、帰ってこないな。和巳……」


「どこいったんで、ごぜぇやしょうね?」


「急に気になることがあると言いだしてそれっきりじゃしのぅ」


 朧が沈黙を破り、陸丸達に話しかける。

 陸丸と空蘭も、空気を読んだのか、朧に話を合わせつつ、初瀬姫の様子をうかがった。

 和巳の帰りを待ちわびながら、早く返ってこいと心の中で何度も何度も叫びながら。


「そろそろ、帰ってくるかもしれんでござるな」


「待つしかないだろう」


「……」


 海親は、帰ってくるのではないかと初瀬姫のご機嫌をうかがいながら、語りかける。

 だが、千里は、相変わらずの冷静さで、待つしかないと言ってのける。

 それが、気に入らなかったのか、初瀬姫は、さらに、機嫌が悪くなった。

 朧は、小さくため息をつき、逆効果であったと沈黙を破った事を悔い改めたのであった。


「もう、我慢ならないですわ!なんで、自分勝手に行動するんですのよ!あの軽薄男!」


 苛立ちが頂点に立ったのか、初瀬姫は、感情任せに叫び、立ち上がる。

 朧は、初瀬姫は、和巳を苦手意識どころか、嫌悪しているのでは、とうすうす気づいていたのだが、やはり、そのようだ。

 初瀬姫は、軽率な行動を繰り返す和巳の事を快く思っていないらしい。

 その気持ちは、朧も十分に理解している。

 和巳は、女性と会えば、すぐに口説きにかかる軽率な行動が目立つため、女性から慕われるか、嫌悪されるか極端にわかれているのだ。

 初瀬姫は、後者であろう。

 その和巳が、自分勝手な行動をしているがゆえに、初瀬姫は、不機嫌になったのだ。

 自分を護衛し、調査をなければならないはずなのに、どこへ行っているのだと。


「ま、まぁまぁ、落ち着いて、初瀬」


「まだ、そんなに時間たってないぞ」


「……わかりましたわ」


 怒りを燃やす初瀬姫に対して、朧は慌てながら、千里はやはり冷静さを保ちながら、初瀬姫をなだめるように諭す。

 朧に言われたからなのかは、不明だが、初瀬姫は、怒りを収めたようで、静かに座り、和巳が戻ってくるのを待つことにした。

 朧は、内心、安堵しており、息を静かに吐く。

 もちろん、初瀬姫に気付かれないように。


「和巳は、ああ見えて、しっかりしてるから。もう少し、待とう」


「朧がそう言うなら、待ちますけど……」


 朧は、和巳を擁護するように話す。

 朧の事は信用できるらしく、初瀬姫はおとなしく待ってくれそうであった。

 だが、何か気になったようで、朧の顔をじっと見つめ始めた初瀬姫なのであった。


「何?」


「いいえ、和巳とずいぶんと仲がいいんですのね」


「うん。そうだな。俺と和巳は、親友だから」


 朧は、満面の笑みを込めてさらりと言ってのける。

 恥ずかしげもなく。

 嫉妬したのか、初瀬姫は、口を尖がらせた。

 だが、朧は、その理由に気付いていない様子であった。


「性格は、真逆だって言うのに」


「確かにな」


「は、ははは……」


 確かに、朧と和巳の性格は真逆だ。

 和巳は、軽薄さが目立つが、朧は硬派な印象が見受けられるであろう。

 そんな真逆の二人が、親友だというから驚きだ。

 初瀬姫も千里も、信じられない様子を見せる。

 そんな二人を見て、苦笑するしかない朧であった。


「どうして、仲良くなったんですの?」


「四年前、和巳が、声をかけてくれたんだ」


 そんな二人が、なぜ、あそこまで仲がいいのか、初瀬姫は、気になったようで、朧に尋ねる。

 朧と和巳が、出会ったのは、四年前の出来事だ。

 一年の修行を得て、討伐隊の所属となった朧は、朝、任務後、夕食後には、必ず、修行を行っていた。

 それは、柚月と九十九を探す旅に出るためだ。

 七歳の頃から寝たきりの状態であり、十二歳になり、柚月と九十九のおかげで、ようやく、呪いが消え去り、体を動かせるようになった朧にとっては、訓練は、相当厳しいものであっただろう。

 それでも、訓練を始めてから一年で討伐隊に所属となったのは、異例中の異例だ。

 普通なら、二、三年は修行を積むのだから。

 だが、厳しい修行に耐え、人の何倍もの努力を積み重ね、彼の意思を感じ取った月読が、決断を下したからなのであろう。

 朧を、柚月と九十九に会わせるために。

 もちろん、朧の実力も考慮しての事だ。

 だが、それでも、朧にとって、修行が足りないと感じたのだ。

 一日でも早く強くなり、旅に出たかった。

 そのため、毎日のように、厳しい修行を続けてきた。

 朧が、討伐隊に所属してから一か月後の事だ。

 和巳が、声をかけてきてくれたのは。

 朧と同じ班だった和巳は、任務を終え、すぐさま道場へ向かった朧の後を追うかのように道場に入り、朧に声をかけた。

 修行の相手をしてやると。

 それ以降、彼らは、次第に仲良くなり、いつしか、親友と呼べる間柄になっていったのであった。


「どうして、声をかけてくれたかは、わからない。でも、それから、ずっと仲がいいんだ」


「そうですの」


「まぁ、最初は、ああいう性格だって知って、驚いたけど」


「ですわよね、本当」


 朧は、和巳が、声をかけるまでは、彼とは任務以外では、話したことがない。

 そのため、女性に声をかける和巳を見た時は、心底驚いたという。

 和巳は、朧に、自分みたいに女性に声をかけて見たらどうだと誘ったこともあったが、もちろん、朧は、断ったらしい。

 和巳の言動には、あきれることはあるが、見ていて飽きない事も事実だ。

 だからこそ、そんな和巳を親友として受け入れられたのかもしれない。

 和巳の事を話していくうちに、朧達は、笑顔がにこやかになった。


「和巳、まだ、帰ってこないのかな……」


 朧は、和巳を待ち続けた。

 和巳が、戻ってくるだろうと信じて。



「なんだか、物騒な世の中になりましたね」


「ええ、怖い怖い」


 奉公人と女房が、お菓子を手に持ち、廊下を歩いている。 

 上等のお菓子のようだ。

 聖印一族か、はたまた、貴族に頂いたのであろう。

 おそらく、朧達か、千城家の人々に配って回るつもりなのであろう。

 だが、二人は、妖の侵入や、新たな敵について語りあい、怯えているようだ。

 そんな時であった。


「きゃあっ!」


 突然、どこからか黒猫が現れ、二人にぶつかりそうになりながらも、横切っていく。

 二人は、慌てて立ち止まり、横切った猫に目をやった。

 すると、奉公人は、あることに気付いた。


「お、おい、あれ!」


 奉公人が、黒猫に向かって指を指す。

 なんと、猫は、お菓子を口にくわえていたのであった。

 気付かれてしまったと感づいたのか、黒猫は、そのまま逃走するかのように、走りだしてしまった。


「いつの間に……」


「待て!」


 逃げ出した黒猫を二人は、追いかける。

 屋敷に出る前に、捕まえなければならないのだから。



 逃げ続けた黒猫であったが、誰もいない静かな倉庫の前まで、追い詰められてしまう。

 奉公人と女房は、黒猫を逃がすまいと、両側から、立ちふさがり、黒猫の退路を断ってから、飛びかかるように黒猫を取り押さえた。


「捕まえたぞ、悪戯しやがって!」


「それを返しなさい!」


 もがき、暴れまわる黒猫に対して、二人は、必死に逃がすまいと取り押さえる。

 だが、その時であった。

 彼らの前に、妖・三つ目男が、現れたのは。


「そいつは俺のもんだ。勝手に触んなよ」


「あ、ああ……」


 漆黒の短髪に、額に第三の漆黒の眼を持つ三つ目男は、奉公人と女房をにらみつける。

 突然、どこからともなく現れた三つ目男に対して、奉公人も女房も腰を抜かしたように驚き、身が硬直してしまう。

 なぜ、結界が張ってあるのに、侵入できたのか、それすらも、考えられないほどに、彼らは、怯えているようだ。

 解放された黒猫は、すまし顔で、二人を見ている。

 まるで、勝ち誇ったかのように。

 怯える二人に対して、三つ目男は、容赦なく、にらみつけた。


「さっさと、眠れ!」


 男は、叫び、三つ目から、妖気が放たれる。

 その妖気に覆われた二人は、三つ目男に暗示をかけられたかのように、眠りについた。

 すると、瑠璃と布をかぶった男が、三つ目男と黒猫の前に現れた。


「はぁい、ご苦労さん」


「これでいいんだろ?」


「そうそう、これで、俺達も、潜入できるよ」


 布をかぶった男は、三つ目男に声をかける。

 三つ目男は、めんどくさそうに、尋ねるが、男は、嬉しそうに軽快にうなずいた。


「たく、なんで、こんな事……」


「仕方がない。これも、目的を達成させるため」


「わかってるよ」


 黒猫は、呟く。

 どうやら、この黒猫は、会話ができるようだ。

 ただの猫というわけではないらしい。

 おそらく、妖なのであろう。

 黒猫もまた、めんどくさそうにつぶやくが、瑠璃が、目的を達成させるためだとなだめるように諭す。

 もちろん、黒猫もわかっているようでうなずいた。


「じゃあ、始めようか」


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