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聖印×妖の共闘戦記―追憶乃書―  作者: 愛崎 四葉
第三章 激闘!運命の三つ巴
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第三十五話 千年桜の秘密

「千年桜が……結界の……」


 なんと、勝吏から出た言葉は、衝撃の事実であった。

 千年桜が、結界の核であるというのだ。

 つまり、この千年桜が、奪われてしまうと、結界が解かれることになる。

 そうなれば、妖が侵入し、混乱の世となってしまうであろう。

 これには、千里ですらも、驚いている。

 聖印京の秘匿を知ったのだから、当然であろう。


「これを知っているのは、ごく少数と言う事なのか?」


「そうだ。軍師様と我々、大将と武官、各家の当主と次期当主、側近のみが知っている」


「じゃあ、兄さんも……」


 千里が訪ね、勝吏は、答える。

 やはり、知っているのは、ごく少数のみのようだ。

 そして、「次期当主」と言う言葉を耳にした朧は、柚月も知っていたのではと、勘ぐる。

 彼は、次期当主であり、周囲に期待されていたのだから。


「知っていた。月読が、勉強させていたからな」


 予想通りだ。

 柚月も、千年桜について知っていたようだ。

 月読が、この事についても、勉強させていたようだ。


「今まで、千年桜の存在は、知られてはいなかったし、危険性もなかった。妖は、聖印京には入れぬしな。用意に近づくことは不可能と言われている。だが……」


「今回は、烙印一族と面の男が狙っている。どちらも、妖を引き連れていくことができる。結界をすり抜けて……ですね」


 今までの敵は、妖のみ。

 妖は、結界をすり抜ける事は不可能である。

 赤い月の日のみ、すり抜ける事はできるが、千年桜については、知らなかったのであろう。

 知っていたのなら、真っ先に狙われていたはずだ。

 だが、今回は、面の男と烙印一族が、狙っている。

 どちらも、妖ではなく人間だ。

 侵入することなど、至極たやすい。

 千年桜が奪われてしまう危険性は、十分にある。

 おそらく、千年桜の本質を知っての事であろう。

 だからこそ、瑠璃は、聖印一族を滅ぼすために、千年桜を奪うと宣言したのだ。

 しかも、彼らは、妖を率いれる事が可能だ。

 どうやってかは、未だ不明。

 それゆえに、危惧しなければならない問題であった。


「千年桜だけは、なんとしても、守りきらなければならない。そのための作戦は、すでに立ててある」


「どんな作戦だ?」


 事件が終息した後、勝吏達は、緊急会議を開いたようで、作戦も立ててあった。

 千里は、勝吏に尋ねる。

 おそらく、自分達も、関わりのあることだと感じたからなのだろう。

 勝吏は、千里の問いに答えた。


「千城家の分家の護衛につくことだ」


「千城家の分家の護衛?」


「そうだ。江堵様に、千年桜のことについて聞いてな。千城家の分家は、千年桜の結界を張っているそうだ。どうやって張ってあるかは、教えてはもらえなかった。おそらく、重要機密事項なのであろう。」


 千城家の護衛と聞いて、首を傾げた朧。

 護衛と千年桜を守る事と何の関係があるのか、思いつかなかったからだ。

 だが、勝吏は、説明する。

 江堵曰く、千年桜は、千城家の分家が、結界を張って、守ってきたそうだ。

 詳細は、詳しくは江堵も語れなかったらしい。 

 当然であろう。

 千年桜は、結界の核。

 そう簡単に、知られてはならない。

 聖印一族、ひいては、聖印京の今後を左右する情報なのだから。

 そのため、千城家は、長らくの間、千年桜について、語ることはなかったようだ。

 だが、瑠璃達も、面の男達も、千城家が、千年桜を守るために、結界を張っているという事を知っている可能性が高い。

 だからこそ、あえて、奪うと宣言したのであろう。


「分家のみなさんを護衛するという事でしょうか?」


「いや、初瀬姫の護衛だ」


「は、初瀬姫!?」


 勝吏の口から、「初瀬姫」の名が、飛び出て、朧は、思わず目を開け、驚愕してしまう。

 なんと、護衛の対象は、朧の婚約者である初瀬姫であった。

 正直、あの初瀬姫が、そんな重要な任務についているとは、思ってもみなかったのであろう。

 もちろん、そんな事を考えていたとなると、失礼に値し、初瀬姫が激怒しかねないので、口が裂けても言えないのだが。


「うむ、初瀬姫が結界を張っているそうだ。江堵様も彼女の護衛をしてほしいと、依頼があってな。お前に任せようと思っていたところだ」


「そうでしたか」


 初瀬姫の護衛となると、朧が、護衛の任務につくのは、と予感していたようだ。

 「初瀬姫」の名が出た瞬間に。

 婚約者なのだから当然であろう。

 いや、初瀬姫が、朧を指名したのではないかと思うほどだ。

 なぜなら、初瀬姫は、朧を慕っている。

 朧が、驚くほどに。

 当初、勝吏は、朧を呼ぶつもりなのであったが、朧達が、ここを訪れた事により、事情を説明し、任務を告げたのであろう。


「他に誰が、護衛する予定なんだ?」


「朧と千里、陸丸、空蘭、海親だ」


「少人数で、ですか?」


「あちらのご意向なんだ。お前達で、初瀬姫を護衛してほしいとな。何か知ら理由があるのであろう。聖印一族とは、そういうものだ」


 千年桜は、千城家にとっては、重要機密事項。 

 あまり、外部に知られたくないのであろう。

 そのため、婚約者である朧と彼の仲間である千里達が、今回の任務に適していると江堵は、判断したようだ。

 秘密を抱えていきるというのは、聖印一族には、よくある事。

 それも、他の家でさえも、知らせていない事もある。

 これもまた、人々を守るためだ。

 聞こえはいいが、内容によっては、単に隠蔽と捉えられる事もある。

 何せ、聖印一族は、高貴ではあるが、欲深い思慮を持っている者もいるのだから。

 だが、今回の場合は、純粋に、人々を守るために外部漏れを防いだと言っても過言ではなかった。

 重要任務を任された朧ではあるが、どこか、不安げだ。

 おそらく、自分が指揮を執らなければならないのではないかと、思っているのであろう。

 いや、自分が指揮を執るしかないと考えているようで、顔がこわばり始める。

 それもそのはず、これは、初瀬姫の命だけでなく、聖印京に住む全ての人々の命がかかっているのだから。


「不安であるなら、天城和巳にも加わってもらおう。それでよいか?」


「良いのですか?」


「うむ」


 朧の心情を察してか勝吏は、朧に助け船を出すかのように、尋ねる。

 朧は、尋ねると、勝吏は、うなずいた。

 朧には、期待しているが、朧だけでは、荷が重い任務でもあるだろうと察していたようだ。

 もちろん、千里達も、朧の味方だ。

 彼らも、支えてくれるであろう。

 と言っても、状況を把握しているのは、朧のみだ。

 となれば、朧が中心となって、作戦を立てるしかない。 

 しかし、朧の事をよく知る和巳が、加わってくれるのであれば、朧も心強いであろう。

 何より、彼は、討伐隊の隊長だ。

 行方不明となってしまった柚月に代わって、隊を引っ張ってきてくれたのは、間違いなく和巳である。

 その功績も考え、勝吏は、和巳にも加わってもらう事を提案したのであろう。


「では、お願いいたします」


 朧は、頭を下げる。

 拒む理由などない。

 和巳が、いてくれるとなるとどんなに心強いか、朧も知っているからだ。


「わかった。では、あちらには伝えておこう。明日、任務を開始してほしい」


「わかりました」


「ああ」


「頼んだぞ。朧、千里」


 こうして、朧達は、勝吏から重要な任務を与えられることとなった。

 

 

 勝吏と話し終えた朧は、和巳の元へ行き、任務について報告する。

 その後、朧は、鳳城家の離れへ戻り、烙印一族、妖人、そして、千年桜の事と初瀬姫の護衛の件を陸丸達に伝えたのであった。

 

「そうでごぜぇやしたか。重要な任務を与えられたでごぜぇやすなぁ」


「そうだな」


 護衛の任務を与えられた陸丸達も、いささか、緊張しているようだ。

 聖印京の今後を左右する重要任務であるため、当然と言えば当然なのだが。


「で、和巳は、なんと申しておったんじゃ?」


「……」


「どうしたでござるか?朧殿」


 この任務について聞かされた和巳が、どんな反応をしたのか気になったのか、空欄は、朧に尋ねてみる。

 だが、朧は、黙ったままだ。

 苦い顔を浮かべながら。

 不思議に思ったのか、海親は、朧に尋ねてみた。

 何か、あったのではないかと。


「それが……和巳の奴、初瀬姫に会えるって聞いて、嬉しそうでさ。重要性をわかってるとは思うんだけど……あいつなりに……」


「相変わらずでごぜぇやすな」


「うん」


 朧曰く、和巳は、任務よりも、初瀬姫に会うことを待ち望んでいるようだ。

 和巳らしい反応なのだが、もう少し、この任務がどれほど重要であるか、考えてほしいものだと、朧は、半ばあきれていたのであった。

 もちろん、軽率な行動が目立つ和巳ではあるが、この任務がいかに重要であるかは、承知しているだろうと思っている。

 和巳は、本心をはぐらかしてしまう事があるため、朧は察しているようだ。


「絶対、初瀬姫も千年桜を守りやしょうね!」


「わしらは、協力するぞ!」


「どこまでも、朧殿についていくでござる!」


 陸丸達は、気合を入れるかのように、朧を支えるかのように、朧に伝える。

 本当に彼らは、頼もしい。

 不安を取り除いてくれるかのようだ。

 朧は、彼らに感謝していた。


「ありがとう」


 朧は、微笑む。

 それも、満面の笑みで。

 陸丸達や千里がいてくれるから、朧は、太陽のような笑みを浮かべられることができるのであろう。

 この先、何があっても。



 夜になり、朧は、庭に出て月を眺めている。

 闇夜に浮かぶ月は、朧を照らし続けている。

 いよいよ、明日だ。

 必ず、守り通さなければならない。

 朧は、強い想いを胸に秘め、決意していた。

 その時だった。


「朧」


「千里」


 千里が、朧に歩み寄り、声をかける。

 朧は、振り返り、千里の名を呼んだ。


「緊張してるのか?」


「うん。でも、やるよ。絶対に、守ってみせる」


 やはり、重要任務だ。

 緊張しないわけがない。

 だが、朧の決意は固かった。

 千里は、朧の決意をくみ取った。


「……俺も協力する」


「ありがとう」


 千里も、朧を支えると誓い、朧に伝える。

 朧は、微笑み、懐から、小袋を取り出して、さらに、その小袋から、白い貝殻を取り出し、眺めた。


――たとえ、君が相手でも。……瑠璃。


 朧は、密かに覚悟を決めていた。

 たとえ、相手が瑠璃であっても、彼女と刃を交え、傷つけあうことになっても、千年桜を守り抜くと。

 だが、朧も千里も、この時は、まだ知る由もなかった。

 自分達に、異変が訪れるなどとと。

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