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聖印×妖の共闘戦記―追憶乃書―  作者: 愛崎 四葉
第二章 闇夜に消える者達
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第三十話 暗闇の中の彼女

 朧が、千里の気配を感じ、強引に店の中へと乗り込む中、再び、あの布をかぶった男が、屋根の上に乗り、覗き込むようにして、朧達を観察している。

 だが、目立つ場所にいるというのに、誰も気付いておらず、見向きもせず、素通りしているようだ。


「あーあ。見つけちゃったか。まさか、あの共通点を見つけるとはね。さすが」


 朧達の会話を聞いていたのであろうか。

 男は、朧達が、共通点を見つけた事を知っている。

 やはり、この男の狙いは、黒い星がついている衣服を着ている者達のようだ。

 そして、恵麻を殺そうと考えているらしい。

 だが、朧達が、彼女が狙われている事に気付いてしまった。

 男は、残念そうではあるが、どこか、感心しているようにも見える。

 朧に興味を示しているかのようだ。


「もー。俺って、そんなに信用できない?やれるって言ってるでしょ」


 男は、独り言ではなく、誰かと会話でもしているかのように呟く。

 だが、男の周辺には、誰もいない。

 たった一人で、男は、朧達を観察しているのだ。

 遠くにいるのか、それとも、道具を使っての会話なのかも、今の所は、不明である。


「ん?誰かいる?」


 気配を察したのか、男は振り返る。

 すると、もう一人布をかぶった人間が、男の背後へと現れた。

 背丈からして、宣戦布告を告げた少女と見て間違いないであろう。

 少女は、布を深くかぶっているので、素顔は見えない。

 だが、とても冷酷な雰囲気を醸し出しているように感じる。

 少女は、何も言わず、黙って男の隣へと歩み寄った。


「なんで、お前が、ここにいるのかな?」


「あいつは、最後の一人だから」


 男が、不思議そうに尋ねてくるのに対して、少女は、淡々と説明する。

 どうやら、恵麻が、最後の標的らしい。


「前にも言ったけど、こう言う汚れ仕事は、俺に任せといていいの」


「けど、全員、殺したら動くはず」


「確かに、ね」


 この男は、殺人などの汚れ仕事を主にこなしているようだ。

 その理由は、少女の手を煩わせたくないのか、もしくは、汚したくないのか、どちらかなのだろう。

 だが、全員殺したら、何者かが動くと少女は、予測しているようだ。

 それは、聖印一族なのか。

 もしくは、他の誰かなのかは、不明だ。

 もしもの場合に備えて、今回は、少女も、聖印京に侵入したと考えて間違いないだろう。

 男は、納得しつつも、残念そうにため息をついた。


「って、あの子は?」


「残してきた。目立つから」


「まぁ、そうだね」


 少女は、常に誰かと行動を共にしているのであろうか。

 男は、「あの子」がいない事に違和感を感じて尋ねる。

 「あの子」が、誰なのかは、不明だが、おそらく、あの美しい鬼か、蛇男と見て間違いないだろう。

 彼らは、布をかぶっておらず、目立っていたのだから。


「ここに来た気持ちは、わかるけど。俺に任せておいて。お前は、見届けてくれればいいから」


「……わかった」


 男は、少女の肩に手を置く。

 なぜ、危険を冒してまで、少女がここに来たのか、男は、少女の心情を理解しているようだ。

 だが、やはり、少女の手を借りるつもりはないらしい。

 最後の標的も、男が仕留めるつもりのようだ。

 少女は、こくりとうなずく。

 布をかぶっているため、表情が全く見えない。

 彼女が、男の言ったことに納得しているのかどうかも。

 


 彼らが動きだそうとしている事とは、知る由もない朧は、とらわれた千里を見て、驚愕していた。


「千里!」


 千里の元へ駆け寄る朧。

 千里は、殴られた形跡も、怪我を負っている様子もない。

 どうやら、とらわれただけのようだ。

 安堵した朧は、急いで、腕を縛っている縄をほどき始めた。


「朧!?なぜ、ここに!?」


「狙われてる人がこの店の人だってわかったんだ!けど、千里は、どうして……」


「それが……」


 問題は、恵麻が、なぜ、千里をとらえたかだ。

 妖だからと言う理由ではないだろう。

 だとしても、それ以外の理由は、見当もつかない。

 千里がどういった経緯で捕らえられたのか、朧は、尋ねる。

 千里は、説明しようとするが、見上げた瞬間、何かに気付いたように、目を見開き、驚愕させた。


「朧!上だ!」


「え?」


 千里が、叫び、朧は、上を見上げる。

 すると、恵麻が、短刀を手にして、朧の顔に突き刺そうと、短刀を振り下ろした。


「っ!」


 間一髪で、朧はよける。

 朧は、頬を切られたらしく、血が流れ始め、朧は、血を手で拭い、体制を整える。

 恵麻は、まるで、妖のように目を光らせて、朧をにらんでいる。

 彼女が、人間ではないように思えた朧は、背筋に悪寒が走った。


「まさか、見られてしまったとは」


「お前は、何者だ!」


「知る必要などない!」


 恵麻は、もう一度、朧に向けて短刀を振り下ろす。

 朧は、かわし、短刀は、壁に深く突き刺さる。

 恵麻は、朧を殺そうとしているようだ。

 だが、今の朧にとっては、不利な状況だ。

 何せ、灯がない状態の為、恵麻の姿をとらえることができない。

 恵麻の攻撃は、かわせているものの、それは、短刀が格子からわずかに漏れる月の光で光っているからだ。

 その光に警戒して、かろうじてかわしていると言っても過言ではない。

 朧は、体制を整えて、立ち上がり、紅椿を鞘から抜こうとする。

 だが、それよりも早く、恵麻が俊敏に動き、朧の心臓にめがけて、刺そうとする。

 朧は、かろうじて、かわせたものの、恵麻は、すぐさま、逆手に持ち、朧に斬りかかる。

 その俊敏な動きに朧は、ついについていくことができず、右腕を切られてしまった。


――強い……。この人……人間じゃない!


 恵麻の動きは、明らかに人間の動きではない。

 本当に妖のように感じる。

 人間にしては素早すぎる。

 それに加えて、暗闇の状態では、太刀打ちできない。

 彼女の素早さに舌を巻く朧。

 だが、恵麻は、容赦なく、朧に斬りかかった。


「朧!」


 朧を探していた陸丸達が、ようやく、たどり着いたようだ。

 朧の危機を察知し、陸丸が、恵麻の右腕を噛み、空蘭が、恵麻の左腕に、爪を立て、海親が、恵麻の足に巻き付く。

 陸丸達は、三人がかりで、恵麻の動きを封じることに成功した。

 だが、そう思ったのもつかの間。

 恵麻が、妖気を発し、陸丸達を吹き飛ばした。


「皆!」


 朧が、鞘から紅椿を抜き、構える。

 恵麻が、再び、朧に斬りかかろうとした。

 だが、その時だ。


「何やってんだ!?」


「っ!」


 和巳が、四季を使って、宝珠から灯をともす。

 これにより、朧の眼は、恵麻の姿をとらえる事に成功した。

 その姿は、もはや、人間ではない。

 かといって、妖でもない。

 黒かった髪は、血のように紅に変化しており、目も髪と同様に紅だ。

 食いしばる歯は、牙へと変わっている。

 爪も、鋭利で長い。

 まるで、人間と妖が、融合した姿であった。

 灯に照らされた恵麻は、動揺し、一瞬の隙が生まれる。

 朧は、その隙を逃さず、恵麻に足払いをかけ、恵麻は、大きくのけぞりながら、仰向けになって倒れる。

 朧は、馬乗りになって、恵麻の首元に、紅椿を突きつけ、動きを封じた。

 命の危機を感じたのか、朧の息が荒い。

 朧は、呼吸を繰り返して、息を整えた。

 和巳は、千里の元へと駆け付け、縄を解き始める。

 豹変してしまった恵麻を警戒しながら。


「もう一度聞く。お前は、何者だ?なぜ、千里をとらえた?」


 朧は、刃先を恵麻の首に近づける。

 抵抗することも、黙り込むことも不可能だと察した恵麻は、不敵な笑みを浮かべて、口を開けた。


「この者は……我が同胞であり、主だからだ」


「同胞?」


「そうだ!邪魔は、させぬぞ!」


「ぐっ!」


「朧!」


 恵麻は、再び、妖気を放つ。

 その妖気は、風圧となり、朧を吹き飛ばした。

 千里の縄を解いた和巳が、朧の元を駆け付ける。

 その隙をついて、恵麻は、勢いよく部屋を飛び出した。

 恵麻は、そのまま、店の外へと飛びだしていった。


「きゃあっ!」


「な、なんだ!?」


 恵麻にぶつかりそうになった通りかあった通行人が、慌てて、足を止める。

 恵麻は、気にも止めることなく、屋根へと飛び移る。

 その行動は、人間ではなく、妖そのものと言ったところであろう。

 その異様な光景に、人々は、あっけにとられ、呆然と立ち尽くした。


「待て!」


 朧達も、続けて、外に出る。

 恵麻を追いかける為、陸丸達は巨大化し、朧は陸丸に、千里は空蘭に、和巳は海親に乗った。

 朧達は、屋根へと飛び移りながら、恵麻を追う。

 だが、恵麻は、速度を緩めない。

 距離がなかなか縮まらず、朧達は、焦燥にかられた。


「あいつ、妖だったのか?」


「みたいだな」


 恵麻の異様な姿と異常な速度を見た和巳は、ようやく、彼女が人間ではない事に気付く。

 朧も確信しうなずいた。

 和巳は、千里の事が気になったのか、千里の方へと視線を向けた。


「ねぇ、千里。なんで、あの人に捕まったの?」


「……最初に捕まえられたのは、あの女じゃない。別の女だ」


「別の?」


 千里は、妙な事を口にし、和巳は、尋ねる。

 「最初」や「別の」と言う言葉が、朧達も引っ掛かる。

 千里は、恵麻一人に狙われていたわけではなさそうだ。

 複数の人間に狙われたことになる。

 よくよく考えれば、恵麻は、千里の事を「同胞」や「主」と言っていた。

 複数の人間が、千里を狙っていたとしても、不思議ではなかった。


「第五の被害者にだ」


「え?」


 なんと、最初に千里をとらえたのは、第五の被害者のようだ。

 と言う事は、第五の被害者も、恵麻と同じ妖に近い存在だったのだろうか。

 いや、彼女達だけでなく、他の被害者たちも、妖に近い存在だった可能性が浮上する。

 黒い星は、彼らが人間ではない事を示していたのかもしれない。

 となると、犯人は、それを知ってて殺したのだろうか。


「俺は、抵抗しようとして、もがいた。だが、そいつは、殺された」


「布をかぶったやつにだね」


「ああ」


 ここまで、説明を聞いたら、朧も見当がつく。

 第五の被害者は、千里をとらえようとしたのだが、布をかぶった男に殺されてしまったようだ。

 だが、もちろん、それだけでは、千里の動向は探れないし、千里もすべて語ったとは、言いきれないであろう。

 千里は、話を続けた。


「俺は、そいつと戦った。だが、逃げられたんだ」


「千里、その時、そいつを切ったりしなかった?」


「ああ、切ったぞ」


「やっぱり」


 千里は、犯人を捕らえようとして、戦ったが、逃げられたらしい。

 しかし、彼は、犯人に傷を負わせている。

 千里の短刀に血がついたのもその時のようで、朧達は、納得した。

 

「俺は、そいつを追おうとしたんだが、あの女に捕まったんだ」


「へぇ、女の人に人気なんだ。焼けるねぇ」


「妖だがな」


 犯人を追いかけようとした千里は、恵麻に捕まってしまったらしい。

 その時に、あの短刀を落としてしまったのであろう。

 これで、全てがはっきりした。

 千里は、犯人と共謀していたわけではない。

 むしろ、千里こそが被害者のようなものであろう。

 千里の身の潔白が、証明できそうだと胸をなでおろしたい朧であったが、その余裕はまだない。

 なぜなら、恵麻をとらえないことには、証明はできないのだ。

 だが、恵麻は、逃げ続けている。

 彼女との距離は縮まらなかった。


「追いつけねぇでごせぇやす!」


「まずいでござるな」


「ここは、挟み撃ちにしたほうがいいかもしれぬ!」


「では、拙者が、左から」


「わしは、右から攻めるぞ!」

 

 空蘭と海親が両側から、攻めて、恵麻をとらえようと動き始める。

 しかし……。


「待て!」


 朧が、二人を制止させる。

 なぜなら、恵麻の前に、あの布をかぶった男が立ちはだかっていたからだ。

 いつの間にか、誰も気付くことができないままで。


「はぁい。やっと、会えたね」


 男は、不敵な笑みを恵麻に対して、浮かべていた。


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