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聖印×妖の共闘戦記―追憶乃書―  作者: 愛崎 四葉
第二章 闇夜に消える者達
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第二十三話 殺人事件

 殺人事件が起こり、朧と千里達は、現場へと駆け付ける。

 と言っても、任務ではない。

 殺人事件が起こったという情報を聞きつけ、向かったようだ。

 和巳も同様に、任務ではなく、情報を聞きつけ、現場に来ていたようであった。

 殺人事件が起こるのは、珍しくないのだが、あの賑やかな街道で堂々と起こったというのだ。

 昨日の宣戦布告の件もあって、関係しているのではないかと不安に駆られ、今に至った。 

 先に現場に来ていた和巳と合流した朧と千里は、倒れている男を覗き込むように見ていた。


「短刀で、一突きか……」


「しかも、この街道で堂々と」


 被害者は、男性、年齢は、二十代後半。

 一か月前に、この聖印京に移ってきたらしく、商売を始めたばかりだったという。

 だが、今夜は、店を早めに閉め、知り合いの元に行く予定だったようだ。

 その道中で、殺されてしまったらしい。

 短刀で、背中を一突きされて。


「殺した奴は、布をかぶってたから顔は見えなかったらしい」


「布をかぶってたのか……」


 和巳が、淡々と朧と千里に説明する。

 この件の情報は、密偵隊に聞いたらしい。

 殺人事件などの管轄は、密偵隊だ。

 事件が起こった後、すぐさま、現場に到着した密偵隊は、被害者の情報収集と犯人の手掛かりを追って、調査を開始していた。

 被害者の情報がわかったのも、密偵隊の功績によるものであろう。

 密偵隊の調査の結果、犯人は、殺害した後、「まずは、一人目」と呟いたらしく、連続殺人事件の予告をして去っていったらしい。

 犯人は、布をかぶって顔を隠していたようで、誰なのかは、特定できていない。

 だが、捕らえる前に、すぐさま、屋根に上って、飛び降りてしまったらしく、その後の行方は、わからずじまいであった。


「昨日の奴らが犯人ってことか」


「だとしても、おかしい」


「何が?」


 犯人は、昨日宣戦布告をしたあの集団の誰かと見て間違いなさそうだ。

 だが、朧は、違和感を持っている。

 何がおかしいのか、和巳は、朧に問いかけた。


「昨日、宣戦布告した奴らは、俺達、聖印一族を抹殺するって言ってたんだ。なのに、殺されたのは、一般人だ。どうしてだ?」


「……確かに」


 朧の意見を聞いた千里は、納得したようにうなずく。

 昨日、確かに、彼らは、自分達、聖印一族を抹殺すると堂々と宣言したのだ。

 だが、実際に狙われてしまったのは、聖印一族でも、一般隊士でもなく、この街に住んでいた一般人だ。

 つまり、聖印一族とは、無関係の人間が殺されたということになる。

 宣戦布告をしておきながら、一般人を殺害するというのは、あまりにも不自然のように感じられた。


「それに、堂々と殺すなら、やっぱり、初めから聖印一族を狙ったはずだ。こんな事件が起こったら、警戒するし」


「何かほかの目的がある、あるいは……」


「彼らに見せかけての犯行かもしれない」


「手掛かりさえあれば、いいんだが」


 今回の事件は、大勢の人がいる場所で、起こっている。

 だからこそ、余計に違和感しか生まれない。

 暗殺にしては、目立ち過ぎている。

 これでは、聖印一族も、一般隊士も警戒し、第二の事件を起こすことは難しくなるはず。

 となれば、犯人は、別の目的があって、殺害を決行したのか、あるいは、彼らに見せかけた犯行だったのかのどちらかということになる。

 手掛かりが少ない以上判断するのは、きわめて困難を強いられたのであった。


「で、陸丸達は、どうした?」


「外に出てる。手掛かりがないか、調べてもらってる。陸丸は、目がいいんだ。空蘭と海親は、飛べるから、犯人の行方がわかるかもしれない」


「だといいんだがな」


 和巳は、朧に尋ねる。

 お供の陸丸達の姿が見当たらない事に違和感を覚えたようだ。

 朧は、説明した。

 陸丸達は、調査の為、外に出ていると。

 陸丸は、目利きがいい、そのため、この真夜中でも犯人の足跡を見つけられる可能性がある。

 犯人の足取りを掴めるかもしれない。

 空蘭と海親は、空を飛べる。

 まだ、犯人は遠くへ行っていないはずだ。

 それに、妖に襲われたとしても、彼らなら、返り討ちにしてしまうだろう。

 そのため、彼らに望みをかけるしかなかったのだ。

 千里も、彼らが手掛かりを見つけてくれることを祈るばかりであった。

 被害者の周辺をくまなく確認しながら手掛かりを探していた朧は、何かを見つけたようで、しゃがみ込み、首元を覗き込むように見ていた。


――黒い鬼の紋?変わった紋だな。


 朧が気になったのは、被害者が身に着けていた服の紋だ。

 その紋は黒い鬼が服に刻まれている。

 それも、裾ではなく、単の首元あたりにだ。

 模様としては、不自然だ。

 それも、黒い鬼とは、傍から見れば、不気味に感じてしまうのではないだろうか。

 鬼に興味を持った人物なのだろうか。

 そう考えた朧であったが、今回の事件とは、関係がないようにも思えてきた。


「見事な暗殺だなぁ、こりゃあ」


「師匠!」


「虎徹様!」


 朧たちの元へ歩み寄ってきたのは、虎徹だ。

 虎徹も、事件の事を聞いて真っ先に飛んできたらしい。 

 虎徹は、覗き込むようにして被害者を見ている。

 しかし、「見事な」と、感心してしまうところが、あきれてしまいそうだ。

 しかも、殺人ではなく、暗殺だとさらりと言ってのけるところも、虎徹らしい。

 なぜ、暗殺だと思ったのか、聞きたいくらいだが、尋ねる前に、虎徹は、朧達に問いかけた。


「よう。どうだ?手掛かりは、見つかったか?」


「いえ、まだです」


「陸丸達が、探してくれてます」


「そうか。あいつらに、期待するしかなさそうだな」


 やはり、虎徹もお手上げの状態らしい。

 犯人の行方や手掛かりが見つかっていない以上、犯人の特定は、判断しにくい。

 虎徹も、陸丸達が手掛かりを見つけてくれることを祈るしかなかったようであった。


「朧!」


 陸丸の声がする。

 どうやら、朧の元に戻ってきたようだ。

 声のする方角へ顔を向けると、陸丸が朧の元へと駆け付けた。


「陸丸、どうだった?」


「まったく、見つからねぇでごぜぇやす。足跡が、見つからねぇんですよ!」


「足跡が見つからない?」


「あとは、空蘭と海親に任せるしかねぇでごぜぇやす」


 陸丸が言うには、聖印京の外周をくまなく調べたというのだが、足跡一つ見つかっていないようだ。

 外周をくまなくと言うと、時間がかかりそうなのだが、巨大化できる陸丸なら、短時間で調査ができる。

 陸丸の速さは、妖随一と言っても過言ではないだろう。

 そのため、すぐに犯人の足跡を見つけ出せると自信を持っていた陸丸であったが、その足跡が一つも見つかっていないという。

 足跡がないというのは、不自然だ。

 聖印京の外の地面は、土なのだから、足跡は残るはず。

 しかも、この夜に外に出る人間は、めったにいない。

 つまり、真新しい足跡があれば、犯人のものだとすぐに判別できるはずだ。

 だが、犯人の足跡がないとなると、飛んでいったとでもいうのだろうか。

 空蘭や海親のような飛ぶことのできる妖に乗って移動できれば、可能だが、それこそ、目立ってしまうだろう。

 ますます、違和感しか残らなかった。


「戻ってきたぞ」


 千里が、空蘭と海親に気付いたようで空を見上げる。

 朧達も空を見上げると空蘭と海親が、朧の元へと戻ってきた。


「空欄!海親!」


「どうだったでごぜぇやすか!?」


 陸丸は、空蘭と海親に尋ねる。

 空蘭と海親に期待した朧達であったが、彼らは、首を横に振っていた。


「駄目じゃ。犯人らしきものはおらん」


「拙者も見つからなかったでござるよ」


「手掛かりはなしか……」


 空蘭と海親の結果を聞いた千里は、冷静に答える。

 空蘭と海親は、巨大化して二手に分かれて犯人の行方を追った。

 他の街まで、範囲を広げて探したのだが、犯人らしき人物は、見つかっていない。

 人間の足で、遠くへ行けるはずがない。

 自分達なら、見つけられるはずだ。

 そう自負していた空蘭と海親も、犯人を見つけられず、落ち込んでいる様子。

 朧は、励ますかのように、陸丸達の頭を撫でていた。


「明日の夜、俺達で巡回しかなさそうだね。朧、頼める?」


「もちろんさ」


 和巳は、決意した。

 巡回し、犯人を捕まえるしかないと。

 犯人は、近いうちに、また、犯行にでるだろう。

 警戒しておく必要がある。

 和巳の懇願に、朧も承諾し、うなずいた。

 みすみす、犯人を野放しにしておきたくはなかったからだ。

 真実をつかむ為に、朧達も、犯人捜しをすることを決意した。


「月読には、俺から言っておく。うちの隊にも言っておくから、頼んだぞ」


「ありがとうございます。助かります」


 虎徹も、協力してくれる。

 討伐隊が、事件の調査をする為に、巡回することは、月読に話してくれるようだ。

 だが、それだけではなく、警護隊にも巡回させるよう命じてくれるようだ。

 これで、犯人も動くことは、きわめて困難となるだろう。

 和巳は、虎徹の粋な計らいに感謝したのであった。



 日付が変わり、時間が過ぎ、夜となる。

 朧と千里達は、南聖地区に集合した。

 街は、昨日の事件の事もあってか、減ってきているように感じる。

 屋台が立ち並んではいるが、客が少ないようだ。

 この状態だと、犯人が来るかどうかは、定かではないが、油断は禁物だ。

 こう言う時にこそ、犯人が動く可能性もあるからであった。


「俺達は、西に行く。東の方は、頼んだよ」


「任せろ!」


 朧達は、二手に分かれて行動することとなった。

 和巳は、隊士を引き連れて、西へ、朧は、千里達と共に東へと巡回することとなった。


「朧、いいんですかい?和巳と一緒に行動しなくても」


「うん。これでいいんだ」


「どうしてじゃ?」


 巡回と聞いていた陸丸達は、二手に分かれて行動するとは、聞いておらず、朧に疑問を投げかける。

 朧は、これでいいと言うが、空蘭は、その意図がわからず、朧に尋ねた。


「事件が起こったんだ。聖印寮が警戒するだろ?となれば、犯人も警戒するはずだ。慎重に行動する可能性がある。けど、俺達は、見た目は、隊士じゃない」


「妖を連れてれば、一般人のようなものだな」


 事件が起これば、聖印寮は警戒して、巡回を強化する。

 実際、今、和巳達、討伐隊と警護隊が、合同で巡回を行っている。

 そうなる事は、犯人も予測済みであろう。

 隊士達を警戒し、視界を潜り抜けて犯行に及ぶはずだ。

 だが、朧は、千里達、妖達を引き連れている。

 どこからどう見ても隊士には、見えないはずだ。

 となれば、犯人は、油断をする可能性があるだろう。


「うん。となれば、犯人も……」


「動くかもしれない、ということでござるな」


「そういう事」


「兄さんみたいに、誘導作戦はできないけど、暗殺を止める事は、できるはずだ」


 実は、この作戦を提案したのは、朧だ。

 大勢で行動するよりも、二手に分かれて行動したほうが、効率がいいように思えたからだ。

 朧の作戦を聞いた和巳も、提案を受け入れ、実行した。

 柚月が最も得意とした誘導作戦が、どこまで犯人に通じるかはわからないが、少なくとも、暗殺を止められるであろうと、朧は、確信していた。

 しかし……。


「きゃあああっ!」


 その確信は、瞬く間にして崩れ落ちてしまう。

 なんと、女性の悲鳴が近くで聞こえたからだ。


「なっ!」


「まさか……もう、殺されたって言うのか!?」


 巡回を始めて、まだ、時間は立っていない。

 それなのに、もう、事件が起こってしまったというのであろうか。

 不安がよぎる朧達であった。


「急ぐぞ!」


 朧達は、悲鳴が聞こえたほうへと急いだ。

 悪い予感が間違ってくれればいいと願いながら。

 だが、その予感は、当たってしまうこととなってしまった。


「!」


 朧達は、悲鳴が聞こえた方角へと走っていく。

 どうやら、悲鳴が聞こえた場所は、お店の前のようだ。

 その証拠に、悲鳴を聞いて、駆け付けたのか、人々が、群がっている。

 朧は、人々をかき分けて、前に進んだ。

 かき分けて進むと、男性が血を流して倒れていた。

 しかも、店主である女性の目の前で。

 背中には刃が刺さった後が残っていた。


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