第二十話 反乱の幕開け
陸丸達が、駆け付けたのと同時に勝吏と月読も朧達の元へ駆け付けていた。
朧の背後で、陸丸達の様子をうかがう勝吏と月読。
いや、心配しているのは、陸丸達が、人間を襲うのではないかと言う事ではない。
陸丸達を見た隊士達が、陸丸達を襲ってしまうのではないかと不安に駆られたからであった。
「勝吏様……」
「わかっておる。だが……」
勝吏は、不安に駆られながらも、隊士達の様子をうかがっていた。
彼らなら、わかってくれるのではないかと一つの望みにかけて。
巨大化した陸丸達を見た隊士達は、息を飲む。
彼らは、まだ陸丸達の事を知らされていない。
陸丸達が、敵か味方なのかが判断つかないようだ。
もし、彼らが襲ってきたらと恐怖を抱いているのであろう。
だが、そんな事を陸丸達は、気にも留めていない。
なぜなら、陸丸達は、朧を助けたい一心でここに来たのだから。
「朧!助太刀に来たでごぜぇやす!」
「ここは、わしらにまかせい!」
「聖印京は、拙者達が守るでござる!」
陸丸達の決意は固い。
たとえ、自分達の身がどうなろうとも、朧が反対しようとも、朧を守り抜くつもりだ。
彼らの強い意志は、朧にも、そして、隊士達にもひしひしと伝わっていた。
朧は、それだけで胸が熱くなりそうだ。
ひどいことをしてしまったというのに、陸丸達は、朧を助けに来たのだから。
「皆……」
「いいねぇ、ちょうどいいところに来てくれたよ」
「和巳……」
「正直、猫の手も借りたいところだったからね」
和巳は、片目をつむりながら、朧の肩に手を置く。
陸丸達は、この戦場を変えてくれる。
そう、予想していたのであろう。
陸丸達は、和巳達にとっても、大きな戦力となりうる。
今は、妖でさえも力を借りたいところだったのだ。
「全隊士に告げる!この妖たちと共に、聖印京を守るぞ!」
和巳の号令の元、隊士達は、雄たけびを上げるかのように、こぶしを上げて叫ぶ。
さすがは、和巳と言ったところであろう。
彼は、隊士に信頼されているようだ。
隊士達は、次々と駆けだしていく。
希望を取り戻したかのように。
和巳も、隊士達に続いて、駆けだしていった。
「皆を守るぞ!」
「おう!」
朧達も、駆けだしていく。
地上の妖を陸丸が爪で引き裂き、空蘭が空中にいる妖達を爪で鷲掴みしてたたき落とし、海親が雨を降らせて傷ついた隊士達の傷を癒していった。
次々と現れる妖に対しても陸丸達は果敢に攻めていく。
これこそ、彼らが、得意とする連携だ。
彼らのおかげで、朧は幾多の危機を乗り越えてきたのだ。
朧も、妖刀・千里を薙ぎ払うように振るい、妖を切り裂いていく。
彼らが、戦に加わった事により、劣勢から優勢へと変化し始めた。
だが、その時だ。
一人の女性が、外に出たのは。
「あの子……どこ行ったの?」
その女性は、赤い月の日、操られてしまった妖と共にいた女性だ。
誰かを探しているらしい。
戦いが激しさを増す中、女性は探し続けた。
しかし、一匹の妖が女性の存在に気付き、女性へと襲い掛かっていくが、女性は、まだ気付いていなかった。
「危ない!」
女性の危機を察知した朧は、女性の元へと駆けだしていく。
朧の声を聞いた女性は、振り向くが、妖が女性の背後に迫り、爪を振り上げていた。
朧は、女性の元へと急ぐが、間に合わない。
女性は、恐怖で身が硬直し、逃げる事も、かわすことも不可能だ。
妖は、容赦なく、女性に向かって爪を振り下ろした。
「っ!」
肉がきれる嫌な音が聖印京に響き、血が飛びとった。
だが、その血は、女性のものではない。
なぜなら、女性は、妖に守られからだ。
共に、過ごし、赤い月の日に操られ、人々を襲ってしまった家族同然の妖に。
あの時、確かに、あの妖は、人々を襲ったのだが、その直後、自我を取り戻し、女性を守ったのだ。
もちろん、女性もその事を知っており、事が落ち着くまで、妖と共に身を隠していたのだった。
妖を守るために。
だが、妖達が侵入した時に、はぐれてしまい、女性は、妖を探していたのだ。
女性を妖を抱きかかえ、妖は、意識が薄れかけていた。
「う、うそ!やだ、死なないで!」
女性は、今にも泣き叫びそうだ。
それほど、大事なのであろう。
たとえ、妖と言えど、家族のように大事にしてきたのが、朧にも、そして、隊士達にも伝わってきた。
「海親!」
「はいでござる!」
朧に命じられた海親は、女性の元へと駆け付け、雨を降らせる。
すると、妖の傷は一瞬にして癒え、妖は、女性を守るように前に出て、雄たけびを上げた。
その雄たけびは、威嚇するかのようではない。
まるで、叱咤するかのようだ。
雄たけびが、止むと今度は、建物から、続々と妖達が、出現した。
彼らは、人々と共に暮らしてきた妖であった。
あの雄たけびは、妖達に対しての叱咤なのであろう。
妖の想いに応えるかのように彼らは現れたのであった。
――妖達が……。
「ここを守ろうとしてくれてるのか……?」
妖達は、朧達の前に出る。
彼らも、聖印京を守ろうとしてくれているのだ。
強い絆で結ばれているのは、陸丸達だけではない。
ここで過ごしてきた妖達も、同様に人と強い絆で結ばれているのだ。
一度は、操られ、人々を襲ったことに苦悩しただろう。
それでも、共に暮らしてきた人々は、責めることはしなかったようだ。
他の人間が何と言おうと、彼らの味方となったのであろう。
朧や女性のように。
その想いに応えるかのように、妖達は、朧たちと共に戦おうとしているのであった。
「いいじゃない。妖との共闘も悪くないね!」
「そうだな」
朧達は、構える。
人間と妖の共闘が始まろうとしていた。
「行くぞ!」
朧は、先陣を切って駆けだしていく。
それに続いて、和巳達や陸丸達も駆けだしていった。
聖印京は、もはや乱戦状態だ。
だが、劣勢を強いられているわけではない。
人間と妖達の結束力により、妖達は徐々に減り始めたのだ。
共に守りたいという強い意志が、聖印京を守り抜こうとしたいた瞬間であった。
――朧、やるぞ!
「うん!」
千里が、朧に妖気を送りだす。
朧の眼は、紫に変わり、跳躍した。
妖気の力を身にまとっているからか、人間では、確実に飛べない距離を飛びあがっていた朧であった。
朧は、千里を地面に向けて構えた。
「はあああっ!」
朧は、そのまま下降し、千里を妖に突き刺す。
さらに、朧は、妖気を放出し、一気に妖を討伐していった。
今までに感じたことない力だ。
まるで、自分が妖になったような感覚であった。
荒い息を繰り返した朧は、息を整えて、周辺を見回す。
侵入してきた大群の妖は、もうどこにもいなかった。
「これで、終わったか?」
「たぶんね……」
朧は、和巳に確かめる。
どうやら、本当に、妖達は全滅したようだ。
朧は、安堵し、息を吐いた。
「千里、戻れ」
――ああ。
朧に命じられ、千里は、妖刀から、元の姿へと戻る。
その時、かぶっていた布を外した。
現状を察した千里は、妖であることを隠す必要はなくなったと察したのであろう。
千里を見た和巳も、隊士達も一瞬驚くが、恐れを抱いていない。
千里を受け入れたようであった。
和巳は、一歩前に出て、隊士や妖達を見回した。
「俺達の……勝ちだ!」
和巳は、声を高々に上げる。
隊士達や妖達は、勝利を確信し、雄たけびを上げた。
妖に抱き付く隊士もおり、彼らと共に守り抜いたのだと、朧は改めて実感していた。
その時であった。
「あのぅ……朧……」
元の姿に戻った陸丸達が、おずおずと朧の前に出る。
朧も千里も彼らに気付き、陸丸達を見ている。
陸丸達は、落ち込んだような表情を見せていた。
反省しているのであろう。
朧の事も考えずに、行動してしまった事を。
「お前達……」
「も、申し訳ねぇでごぜぇやす!あっしら、言いつけを……」
「いいんだ」
「え?」
言いつけを破り、来てしまった事を謝罪する陸丸。
だが、朧は、怒っておらず、いいと話す。
陸丸達は、驚愕し、朧を見上げた。
朧は、穏やかな表情を陸丸達に見せていた。
「いいんだよ、そんな事。来てくれて、ありがとう。本当に、助かった。それと……八つ当たりして、ごめん」
朧は、頭を下げる。
伝えたかった言葉を陸丸達に伝えられたのであった。
「わしらこそ、申し訳なかった」
「朧殿の気持ちを知らないで……」
空蘭、海親も、朧に謝罪する。
彼らもまた、朧に伝えたかった言葉を伝えられたのであった。
「やっぱり、父さん達に話してみる。陸丸達は……ううん、ここにいる妖達を信じてほしいって!」
「朧……!」
ここで、朧は、決意した。
いや、改めて実感したと言っても過言ではないだろう。
陸丸達、共に暮らしてきた妖達も含めて、彼らは、信じられる仲間であり、家族なのだと。
それを勝吏達に伝えるべきだと考えたのだ。
もし、彼らを監禁してしまっては、せっかくの絆が、壊れてしまうだろう。
陸丸達は、感動したのか、嬉しそうに朧の元へと飛びこんでいく。
朧も、嬉しそうに陸丸達に抱き付いた。
彼らのやり取りを見守っていた千里は、安堵した様子で、朧達を見ていたのであった。
だが、彼らのやり取りを見ていたのは、千里だけではない。
共に戦ってきた勝吏や月読も朧達の様子を見守っていたのであった。
「勝吏様」
「うむ……監禁の件は、改めて、話し合わねばな」
勝吏と月読も決意を固めた。
今ここで暮らしている妖達の事をについて、もう一度、話し合い、競技していく必要があると。
彼らがいなければ、聖印京は滅んでしまった可能性もあるのだから。
妖達との絆がより一層高まったのを感じ、喜ぶ人々。
聖印京に再び、平穏がもたらされたと感じたのであった。
だが、それも、一瞬でもろく崩れ去ってしまうのであった。
「お、鬼だ!鬼がいるぞ!」
「蛇男もいる!」
人々の叫び声が聞こ始める。
なんと、鬼が現れたというのだ。
だが、現れたのは、鬼だけではなく、蛇男もいるという。
新手の敵なのかと驚愕した朧達は、叫ぶ始めた人々を見ると、人々は、聖印門の屋根の方を指さしている。
朧達は、聖印門の屋根の方へと視線を向けると、そこにいたのは、金髪に黄金の人瞳を持つ美しい女鬼と緑の髪と目を持つ怪しげな蛇男。
そして、布をかぶって顔を隠した五人の人間が、朧達の前に姿を現したのであった。
「なんだ、こいつら……」
和巳は、愕然としている。
彼らは、まるで、聖印京を滅ぼしに来たように思えたからだ。
それほど、殺気を感じている。
反乱者が、現れたように隊士達も朧も感じていたのであった。
「お前達は、何者だ!お前達が、妖達を引き入れたのか!?」
「我々は、聖印一族に仇なす者だ」
「仇なす者……?」
勝吏は、問いただすと、少女の声が聞こえる。
その少女の声は、とても冷酷な印象だ。
どうやら、真ん中の人間が、少女のようだ。
朧は、目を見開き、愕然とする。
仇なすものとは、いったいどういうことなのだろうか。
彼らは、胸騒ぎがし、不安がよぎった。
「我々は……お前達に聖印一族を抹殺する」
「なっ!」
「これは……宣戦布告だ」
少女は、朧達に宣戦布告した。
聖印一族を抹殺すると宣言して。
この時、朧は、まだ知る由もなかった。
自分が、この戦いに巻き込まれ、残酷と衝撃の真実を知ることになるとは……。




