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聖印×妖の共闘戦記―追憶乃書―  作者: 愛崎 四葉
第九章 仲間達の決意と親子の再会
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第百三十三話 そして、動きだす

 翌日、朧達は、いつものように任務を終え、鳳城家の屋敷の離れで、調べている。

 今回は、天利堂についてだ。 

 餡里達がいると思われる場所だが、天利堂の位置など、建物の構造などをしっかりと把握しなければならない。

 彼らは、ここにいた場合、対処法などの作戦も練っておかなければ、全滅する可能性があるからだ。

 朧は、陸丸の情報を頼りに、地図を眺めて、天利堂の居場所を確認した。


「天利堂は、ここからだとそんなに遠くないんだな」


「そうでごぜぇやすね。近くもないと思いやすが」


 天利堂は、峰藍寺と同じ方角にあるようだ。

 峰藍寺よりも、もっと遠くに位置する。

 それほど遠いというわけではなさそうだ。

 かといって、近いというわけではない。

 そういった情報を得るだけでも、十分だ。

 最短の道は、どこになるのか。

 途中で、休める場所などがあるのかも把握できるからであった。


「けど、ここら辺って……」


「何もなかったのぅ」


 朧は、天利堂の周辺を思いだす。

 一度、この辺りも、朧達は旅したことがあったのだ。

 だが、朧達の記憶している限り、平地であり、建物はなかったように思える。

 それは、空蘭も、同じようで、首をかしげていた。


「と言う事は、峰藍寺と同じで、何らかの方法で結界を張っているかもしれないということでござるな」


「だろうな」


 海親は、あることに気付く。

 天利堂は、峰藍寺と同じで、結界を張り、視界から消している可能性が高いのだ。

 餡里なら、やれないことはないだろう。

 術か、あるいは、妖を操ったうえで、視界から消しているのかもしれない。

 朧も同じことを思っていたようでうなずいた。


「陸丸、この事については、何か知ってるか?」


「すんません。何も」


「そっか……」

 

 朧は、陸丸に尋ねてみるが、陸丸も知らないらしい。

 と言う事は、視界から消している方法を探る必要があるようだ。


「けど、あるはずのものが見えなかったってことは、あるって言う証拠だ。餡里達もそこにいる可能性が高いってことだ」


「そうでごぜぇやすな」


 あるはずの天利堂が、見えなくなっているという事は、餡里達もそこにいる可能性が高い。

 いや、いるとみて間違いないだろう。

 可能性から、確信へと変わった朧。

 ならば、視界から消している方法さえわかれば、また一歩、餡里達に近づいたことになるだろう。

 問題は、どうやって調べるかだ。

 うかつに近づくのは、危険すぎる。

 朧達は、思考を巡らせる必要があると思考を巡らせた。

 その時だ。


「朧!」


「和巳、初瀬も!」


 初瀬姫と和巳が、いつものように、離れへと駆け付ける。

 だが、二人の様子が変だ。

 いつも以上に、ニコニコとほほ笑んでいる。

 何か嬉しいことでもあったのだろうか。

 そう感じるほど、にこやかな表情を浮かべているのであった。


「どうしたんじゃ?何か、うれしいことでもあったのか?」


「うん、俺じゃないけど」


「と言う事は、初瀬姫殿に何か嬉しい事があったということでござるか?」


「残念ながら、わたくしではございませんわ」


 何かあったのかと尋ねる空蘭と海親。

 だが、初瀬姫と和巳は、首を横に振る。 

 残念そうな顔を一切せずに。

 二人に嬉しいことがあったのではないとしたら、なぜ、笑っているのだろうか。

 朧達は、不思議でならなかった。


「じゃあ、誰だ?」


「朧、だよ」


「え?俺?」


 朧は、初瀬姫と和巳に尋ねる。

 すると、和巳は、朧にとってうれしいことがあったのだと答えた。

 だが、朧は、心当たりがまるでない。

 キョトンとする朧に対して、初瀬姫と和巳はお互いに顔を見合わせ、声に出して笑っていたのであった。


「透馬から伝言だ。双子ちゃんに関して、分かったことがあるらしいよ」


 和巳は、何があったのかを、明かす。

 なんと、透馬から文をもらったようだ。

 茜と藍に関して、分かったことがあるらしい。

 そのため、朧達に、来てほしいと文に書いて、術で送ったのだろう。

 つまりは、瑠璃が、朧に会いたがっているという事だ。

 そう感じた朧は、あっけにとられつつも、うれしそうな表情を見せる。

 ころころと変わる朧の様子に対して、初瀬姫も和巳もほほえましく思えたのであった。


「もちろん、行くよね?瑠璃ちゃんに会いに」


「行く!」


 和巳の質問に、即答で返す朧。

 今すぐにでも瑠璃に会いたいようだ。

 彼の様子は、まるで、子供のよう。

 陸丸達も、朧の様子を見て、声に出して笑いそうになるのをこらえていた。


「あらあら、即答ですわね」


「予想通り、かな?」


 朧の反応は、予想通りと言ったところなのであろう。

 しかし、予想通り過ぎて、笑ってしまいそうだ。

 だが、面白いのは、矢代の別邸に行ってからなのであろう。

 初瀬姫達は、期待しつつ、さっそく、朧と共に矢代の別邸に向かうことにしたのであった。



 建物から出た餡里は、外を眺めている。

 しかも、待ち遠しい様子で、笑みを浮かべてだ。

 まるで、企んでいるようにしか思えない。

 そんな餡里の元に千里が、歩み寄った。

 

「餡里」


「準備が整ったそうだ」


「分かった」


 千里は、餡里に淡々と報告する。

 準備とはいったい何なのだろうか。

 報告を聞いた餡里は、穏やかな表情でうなずく。

 その表情から、恐ろしさを感じるほどだ。


「じゃあ、行こうか。連れてってくれるね、千里」


「……ああ」


 餡里が、優しく尋ねると、千里は、静かにうなずく。

 「連れてってくれるね」と言ったという事は、餡里達が向かう場所は、聖印京ではないらしい。

 と言う事は、峰藍寺なのだろうか、あるいは、瑠璃達がいる矢代の別邸なのだろうか。

 前者ならいいのだが、もし、後者だった場合、最悪の事態となるだろう。

 餡里は、笑みを浮かべたまま、千里、楼、白奈岐、豪眞、そして、大量の妖達と共に、歩き始めた。


 

 餡里が動き始めてしまったとは知らない朧達は、矢代の別邸にたどり着く。

 瑠璃達が朧を出迎え、朧を見るなり、瑠璃が、嬉しそうに朧の元へ駆け付け、朧も瑠璃の元へと駆け付けた。


「急に呼びだしてごめん。忙しかった?」


「ううん、俺なら、大丈夫だ。呼んでくれてありがとう」


 二人が、見つめ合ってほほ笑む。

 全くもって、ほほえましいやり取りだ。

 初瀬姫達は、二人の様子を見て、楽しそうににこやかにしていた。

 当然、ある一人を除いて。


「コホン!」


「あ……」


 二人のやり取りを見るに耐えなかったのか、あるいは、最高に苛立ったのか柘榴がわざとらしく咳払いをする。

 朧と瑠璃が、我に返り、柘榴へと視線を移した。

 柘榴は、目を細め、朧をにらむ。

 明らかに、朧に対して、敵視している様子であった。


「まったく、なんで、君とまた、会うことになるんだろうね」


「ご、ごめん……」


 柘榴が、皮肉を込め、朧がたじたじになる。

 初瀬姫達にとっては、このやり取りは、最高に面白い。

 何度見ても飽きないほどだ。

 朧は、柘榴の様子を伺いながら、恐る恐る瑠璃に尋ねた。


「そ、それで……茜と藍について、分かったって聞いたんだけど……」


「あ、うん」


 瑠璃も、柘榴の様子を伺いながら、うなずく。

 心を落ち着かせるように一呼吸おいて、朧達に語り始めた。

 茜と藍のことについて。


「茜と藍の魂は、封印されてる」


「魂が!?」


「うん」


 なんと、茜と藍の魂は、封印されているというのだ。

 これには、朧達も驚いた様子だ。

 おそらく、茜と藍の魂は、藍が人身御供となった後に何らかの形で封印されたのだろう。


「何のために?」


「わからない。でも、記録書に書いてあった。二人の魂が望んだことだと」


 なぜ、二人の魂が封印を望んだのかは、朧達には不明だ。

 もしかしたら、千里と餡里の動きを封じるためか、あるいは、彼らを食い止めるためになのかもしれない。

 二人も願っているのだろう。

 千里と餡里を止めたいと。

 天利堂に施された術についても、二人なら何か知っているかもしれない。

 そう思うと、朧は、二人の魂を解放し、話を聞くべきだと考えた。


「二人がどこに封印されてるかわかるか?」


「うん……二人は……」


 瑠璃は、語りだそうとする。

 二人の魂がどこに封印されているのか。

 だが、その時であった。


「ちょっと、待つっす!」


「え?」


 真登が、急に慌てた様子で、声を荒げる。

 全員が、驚愕し、真登へと視線を向けた。

 いったい何があったというのであろうか。

 真登は、遠くからでも、気配を察知できる。

 視力もいい。

 となれば、何かを見つけたとみて間違いないのだが、彼の様子を見る限り、最悪の事態が起こっているのではないか。

 朧達は、そう不安に駆られたのであった。


「真登、どうした?」


「……妖達が、近づいてきてるっす!」


「っ!」


 柘榴の問いに対し、真登が慌てて答える。

 なんと、妖達が、ここに近づいてきてると言うのだ。

 真登の言った通り、餡里達は、大群の妖を連れて、矢代の別邸に迫ってきていた。


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