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聖印×妖の共闘戦記―追憶乃書―  作者: 愛崎 四葉
第八章 兄弟の絆、九十九の想い
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第百十七話 親友だからだ

 朧は、餡里と相対する。

 餡里を止めるべく、刃を向けて。


「間違いないみたいだね。君、本当に朧なんだ……」


「そうだ」


 朧の声を聞いたからなのか、朧の意思を感じ取ったからなのか、ついに、餡里は、目の前にいる男が朧なのだと確信する。

 あの忌まわしき意思は、朧そのものなのだと感じて。

 そう思うと、怒りを露わにしてしまいそうだ。

 すぐにでも、殺してやりたい。

 だが、悟られないように、余裕の笑みを浮かべてみせる。

 彼は、柚月に殺させてやると心の中で激しい憎悪を燃やしながら、決断して。


「ちっ。楼の奴、食い止められなかったのか……」


 朧が、ここへ来たという事は、楼は、朧を食い止められなかったという事だ。

 餡里は、少しばかり、苛立ちを隠せず、舌打ちをして、呟いた。

 それもそのはず、楼が朧と陸丸の前に現れた直後、陸丸は、楼と戦って、朧を先に行かせたのだ。

 朧を餡里の元へと向かわせるために。

 これも、兄としてのけじめをつけるつもりなのであろう。

 弟である楼までも巻き込んでしまった責任を取るために。


「まぁ、いいか。どうせ、君も殺す予定だったし。ここで、死んでもらうよ」


 餡里は、本心を偽る。

 朧を殺すことを目的とはしていない。

 柚月を駒としたうえで、朧を殺すつもりだ。

 なんとも、悪趣味な考えなのであろう。

 だが、餡里は、なぜか、朧を絶望に突き落としてやりたいと無性に思っているのだ。

 それは、千里以上に執着しているようにも感じる。

 千里が相棒と認めたからなのか、それとも、別の理由があるからなのか。

 今の餡里には、結論は出ないようであった。

 それでも、悟られないように、あえて、殺すと宣言する。

 これも、柚月を捕らえる為であった。


「だったら、止めてやる」


 朧は、眉を細める。

 餡里と交戦する覚悟はできているようだ。

 これも、柚月を救うため。

 そして、餡里と止めるためであった。


「来い!餡里!」


「望むところだ!」


 餡里は、朧に襲い掛かる。

 鋭利な足を朧につきつけようとして。

 だが、朧は、瞬時に回避し、餡里の足を斬り落とす。

 切り落とされ、血が飛び散る。

 餡里は、悲鳴を上げ、後退し始めた。

 一瞬の出来事であった。

 餡里ですらも何があったのか、わからなかったぐらいだ。

 

――朧の奴、強くなってやがる!


――あの短時間で、何があったの?


 朧の瞬時の反応を見ていた九十九も瑠璃も驚きを隠せない。

 あの朧が、妖を憑依させた餡里を一瞬でも追い詰めたのだ。

 今までとは見違えるほど、素早い動きで。 

 まるで、封じられていた動きが解放されたかのようだ。

 九十九も瑠璃も、朧が、格段に強くなっているのを感じ取っている。

 聖印京に戻ってから、再び、ここに来るまでの間に何があったというのだろうか。

 二人には、想像がつかなかった。


「こいつ、動きが!」


 餡里は、内心、舌を巻いていた。

 彼も同様に、朧が格段に強くなっている事を悟ったのだ。

 だが、なぜなのかは、彼も、理解できていない。

 それゆえに、動揺を隠せなかった。

 足を切り落とされた餡里であったが、すぐに再生させた。

 どうやら、憑依させている妖は、再生能力を持っているらしい。

 天鬼ほどではないが、足の一つや二つ、瞬時に再生できるのであろう。

 だが、それでも、朧は、動じることなく、次の攻撃へと移るために、餡里に迫る。

 朧は、餡里を追い詰めて、妖を操り、憑依化を無理やり解かせようとしているのだ。

 足を斬り落としたのは、餡里をひるませるため。

 傷つけるのは、不本意ではあるが、それくらいしなければ、餡里を追い詰める事はできない。

 致し方ないと判断し、朧は、餡里の足を切り落としにかかった。


「ちっ!」


 劣勢を強いられた餡里は、朧の刃を回避するために、すぐさま、土の中へと潜り込む。

 これなら、朧も手が出せまいと、確信を得ながら。


「な、なんだ!?」


 土の中に潜った餡里を見た朧は、思わず立ち止まってしまう。

 餡里が何をしたのか、状況を把握できていなのだろう。

 餡里は、どこへ行ってしまったのか、目で追うこともできず、朧は、戸惑った。


「また、潜りやがった!」


「これじゃあ、見つけられない」


 九十九も瑠璃も、舌を巻く。

 餡里が土の中に潜ってしまったら、彼の居場所を把握できず、劣勢を強いられてしまうからだ。

 いくら、強くなった朧でも。

 二人は、焦燥に駆られ、見回すが、やはり、餡里の気配を探る事は不可能であった。


「妖気をたどれない……」


「土に潜ったからな。妖気を弱めて、移動しやがってるんだ」


 朧でさえも、餡里の妖気を探れないようだ。

 やはり、餡里は、自分が土の中に潜れば、居場所を知られないと知っているようだ。

 妖気を察知できない理由を九十九は、朧に教えた。


「九十九、餡里は、何の妖を憑依させたんだ?」


小景(こかげ)って言う百足の妖だ。それも、土に潜むことができるらしい。こいつのせいで、気配をたどれねぇんだよ」


「厄介だな……」


 餡里が、憑依させている妖と言うのは、小景と言う名の百足の妖怪らしい。

 朧は、百足は、再生能力にたけている妖だと聞いたことがあった。

 それも、足だけであるが。

 彼は、憑依させることにより、発動できる技・土潜(どせん)によって、土の中に身をひそめることができるようだ。

 この技のせいで、気配はおろか、妖気でさえも、探る事は容易ではない。

 いつ、どこで、現れるかもしれない状況で二人は、戦いを繰り広げていたというのだ。

 今の餡里は、朧達にとって、恐ろしく、厄介な相手であろう。


「けど、今なら……」


 朧は、ある提案が、浮かんだようだ。

 餡里が、土に潜っているというのであれば、こちらが、作戦を立てていても、気付かれることはまずない。

 ならば、これは、絶好の機会かもしれない。

 餡里は、自分が二重刻印をその身に宿している事も、制御に成功したことも、まだ、知らないはずだ。

 作戦を立て、餡里に対抗するには、今しかなかった。


「九十九、頼みがあるんだ」


「なんだ?」


「まだ、契約は、続いているはずだ。だから……」


 朧は、ある提案を九十九に持ちかける。

 彼は、推測したようだ。

 蓮城家の聖印能力によって、九十九とは十年前から契約が続いている。

 契約を破棄してもいない。

 朧には、感じているのだ。

 まだ、九十九との契約は続いているのだと。 


「俺に、憑依してほしいんだ」


「え?」


 九十九との契約が続いているからこそ、憑依もすぐに可能であろう。

 朧は、そう判断したようだ。

 妖を憑依させるには、自身の聖印と妖の妖気を同調しなければならない。

 そうでなければ、瑠璃達のように、憑依することなどできないのだ。

 妖に体を乗っ取られ、殺されてしまうのだから。

 だが、蓮城家の聖印によって契約されているし、その影響により、九十九は、朧に憑依したことが何度もある。

 今にして思えば、安城家の聖印もあったからこそ、できたのであろう。

 それゆえに、同調させる必要はないだろう。

 何より、九十九とは、親友だ。

 契約していなかったとしても、同調などすぐにできるはず。

 朧は、そう確信していたがために、九十九に憑依してほしいと懇願したのだ。

 これには、九十九も瑠璃も驚きを隠せなかった。


「ひょ、憑依って……。けど、お前……」


「俺のことなら心配いらない。二重刻印を制御することができたんだ。頼むよ、九十九!」


「……」


 九十九は、自分が朧に憑依する事で、また、暴走してしまうのではないかと懸念し、朧の身を案じるがゆえに、ためらってしまう。

 だが、朧は、自分は、二重刻印を制御で来た事を明かす。

 だからこそ、今しかないのだ。

 餡里を止めるためには。

 朧は、再度、強く懇願する。

 だが、九十九は、朧の身を案じてしまい、承諾することができなかった。

 その時だ。

 朧の足元から、土が盛り上がり始めたのは。


「うあっ!」


「朧!」


 朧が、土が盛り上がっている事に気付いた直後、打ち上げられてしまい、朧は、上空に吹き飛ばされてしまう。

 九十九も、跳躍し、朧の救出へと向かうが、まだ遠い。

 手を伸ばしても、届かず、九十九は、歯噛みした。

 九十九とは違い、風圧に耐えられず、体勢を整えられない朧。

 ここぞとばかりに、餡里は、容赦なく、朧に迫る。

 九十九よりも、早く。

 餡里の鋭利な足が、朧の体に向けて突き刺そうとしていた。

 

「おらっ!」


「九十九!」


 だが、九十九も、あきらめるわけがない。

 餡里を踏み台にして、さらに跳躍し、さらに、餡里をひるませることに成功した。

 その隙に、九十九は、朧の元へとたどり着いた。


「自信はあるんだよな?朧」


「もちろんさ」


 九十九は、朧に問いかけ、手を伸ばす。

 制御は、完璧なのかと。

 信じていないわけではない。

 むしろ、朧を信じているからこその問いだ。

 もちろん、朧は、うなずく。

 自信に満ちた表情を浮かべて。

 九十九は、もはや、疑う余地はないと判断したのであった。


「……仕方がねぇな。信じてやるよ。お前の事!」


「ありがとう、九十九!」


「あったりめぇだろ?だって、俺達は……」


「うん、だって、俺達は……」


 餡里の鋭利な足が、二人に迫っていく。

 だが、九十九は、振り返る事も、反撃するために、明枇を構える様子も見せず、背を向けたままだ。

 ただ、朧に向かって手を伸ばしていた。

 朧を信じることにしたようだ。

 朧が、制御できたというのなら制御できたのであろう。

 だが、それは、当たり前の事であった。

 なぜなら、朧と九十九は……。


「「親友だからだ!」」


 朧と九十九は、互いの手をつかむ。

 「親友」だと声をそろえながら。

 その時だ。

 朧の体が光り始め、九十九さえも、取り込んでいく。

 九十九の体から妖気が沸き起こり、その妖気は、朧さえも包みこむようだ。

 餡里は、その光に吹き飛ばされ、地面へと降下した。


「ぐっ!」


 吹き飛ばされた餡里は、体勢を整えて着地する。

 餡里の後を追うように、朧も勢いよく降下し、着地した。

 その瞬間、瑠璃と餡里は、信じられない様子で、目を見開き、驚愕していた。


「な、何だよ……。お前、なんで……」


「朧……妖を憑依させられるようになったの?」


 餡里は、何が起こったのか、現状を把握できていない。

 だが、瑠璃は、察したようだ。

 朧が、九十九を憑依することができるようになったのだと。

 それも、聖印を暴走させずに。

 朧の姿は、九十九のように紅の瞳を持ち、銀髪と同じ色の耳と尻尾を生やし、刺青が体中に刻まれている。

 朧が、聖印能力・憑依・九十九(ひょうい・つくも)を発動させることに成功した瞬間であった。


――なるほどな。やるようになったじゃねぇか、朧。


 九十九は、確信していた。

 朧が、二重刻印を制御できるようになったのだと。

 朧は、妖刀・明枇を手にし、構えた。

 明枇の影響を受けることなく。


「覚悟しろ、餡里!」


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