表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖印×妖の共闘戦記―追憶乃書―  作者: 愛崎 四葉
第八章 兄弟の絆、九十九の想い
116/162

第百十五話 狙われた柚月

「千里と餡里が、兄さんを狙ってる……?」


 朧は、衝撃を受けたようだ。

 愕然としている。

 わかってはいたものの、やはり、真実を聞かされるとそう簡単には受け入れられない。

 だが、なぜ、千里と餡里は、柚月を狙っているのだろうか。

 彼は、二人にとって、脅威となるはず。

 朧には、二人の狙いが、理解できなかった。


「ほ、本当に、あの子……餡里は、そう言ったんですかい?」


 陸丸は、未だ、信じられない様子で、和泉と時雨に尋ねる。

 餡里が、罪を重ねようとしている事に衝撃を受けているようだ。

 それも、朧の兄である柚月を奪おうと。


「聞き間違いするわけないさ。あいつは、そう言ったんだ」


 和泉は、確信しているようだ。

 餡里は、本当に、柚月を狙っているのだと。

 和泉と時雨は、思い返しながら、朧達に語り始めた。

 彼らが、襲撃に来たのは、朧達がここに来る半刻前の事だった。



 瑠璃、柘榴、美鬼、真登、和泉、時雨、そして、九十九は部屋に集まっている。

 今後の作戦を練っていたのだ。

 柚月の事もある。

 千里を手に入れた餡里は、何か、仕掛けてくるであろうと推測したからであった。


「で、これから、どうするつもりだ?あまり、時間はかけられねぇんだろ?」


「そうだけど。もしかして、つくもんは、朧を待たずに、柚君を助けようとしてるの?」


「……」


 柘榴の問いに、九十九は黙ってしまう。

 その理由は、柘榴の言う通りだったからだ。

 朧は、自分が、柚月の呪いを解くといい、九十九に無茶はするなと言っているが、待っている時間はない。

 柚月の呪いは、今も侵攻している。

 朧が、方法を見つける前に、九十九は、柚月を救おうとしているらしい。

 それほど、九十九は、内心焦っていたのであった。


「焦りは、禁物。朧を、信じてあげて」


「だそうだよ」


「……わかってる」


 瑠璃が、九十九を諭す。

 信じているからだ。

 朧なら、柚月を救えるのではないかと。

 それに、焦ったところで、本当の意味で柚月を救えるとは限らない。

 九十九が、自分の命を犠牲にし、柚月の体は救えても、心までも救うことはできないのだから。

 柘榴も、その事を理解している。

 それゆえに、九十九に待つように諭したのだ。

 九十九も、焦燥に駆られそうになるのを抑えながら、承諾した。

 朧を信じて待つと。

 だが、異変は突然やってくる。

 それも、容赦なく。

 誰かが、急いで走ってくる音が、峰藍寺に響き渡る。

 何か、起こったに違いない。

 そう察した瑠璃達であったが、その直後、綾姫が、慌てて部屋に入ってきた。


「大変よ!」


「綾姫!どうしたの?」


 綾姫の慌てぶりは尋常ではない。

 どうやら、緊急事態が起こったようだ。

 瑠璃達は、息を飲み、綾姫に何があったのか、尋ねた。


「結界を破られたわ!」


「け、結界を!?ど、どうしてですか!?」


「わからない。妖刀で斬られた感覚がしたの。今は、夏乃と景時と透馬が、外に出てるわ!」


 なんと、今度は、結界をすり抜けて侵入したのではなく、結界が破られてしまったというのだ。

 それも、妖刀で結界を斬られたらしい。

 つまり、その妖刀は、強力であり、驚異的であるとうかがえる。

 その妖刀が、どんなものなのか、瑠璃達は、いとも簡単に推測できた。

 そんな妖刀を扱えるのは、ただ一人しかいない。

 誰が、結界を破壊し、侵入してきたのか、瑠璃達は、察してしまった。


「もしかして、居場所がわかったの?」


 おそらく、結界を破壊したのは、餡里だ。

 餡里が、妖刀・千里を携えて、結界をきったのであろう。

 と言う事は、餡里は、自分達の居場所を特定したことになる。

 どうやってなのかは、不明だ。

 だが、今は、そのような事を考えている暇など到底なかった。


「柘榴、行きましょう!」


「嫌な予感がするっすよ」


 状況を察した美鬼と真登が、慌てて柘榴に告げる。

 今すぐ、外に出るべきだと。

 千里と餡里が、襲撃してきたのだ。

 おそらく、楼達もいるであろう。

 そうなれば、夏乃達の身にも危険が迫っていることになる。

 自分達も、外に出て戦うしか選択は、残されていなかった。


「……わかった」


 柘榴は、判断した。

 ここは、外に出るべきなのだと。

 餡里達を迎え撃つべきなのだと。

 だが、その前に、やるべきことがある。 

 柘榴は、そう、判断して、瑠璃の方へと視線を移した。


「瑠璃、柚君をお願いしていいかな?」


「……了解した」


 やるべきことと言うのは、柚月の事だ。

 万が一、突破される可能性がある。

 そうなれば、柚月の身にも危険が迫ることになるであろう。

 今、柚月は、体を動かせる状態ではない。 

 となれば、瑠璃に、柚月の事を頼むしかなかった。

 それも、瑠璃を守るためだ。

 おそらく、餡里は、瑠璃の命を狙っているだろう。

 自分を殺すことのできる瑠璃を懸念しているはずだ。

 それゆえに、瑠璃を戦いの前線に出すつもりなど毛頭なかった。


「つくもんとみっきーも瑠璃についていってあげて」


「言われなくてもそうするつもりだ」


「わたくしに、任せてください」


 柘榴は、九十九と美鬼に瑠璃の事を託す。

 柚月と瑠璃を守ってほしいと願って。

 もちろん、九十九も美鬼もそのつもりだ。

 柚月と瑠璃を守りたいと願っているのだから。

 彼らの意思を聞いた柘榴は、安堵し、決意を固めた。

 千里と餡里を迎え撃つことを。


「行くよ」


 柘榴は、真登、和泉、時雨、綾姫を連れて、外へ向かう。

 柚月を守るために。

 瑠璃も、九十九、美鬼と共に、柚月の元へと向かい始めた。



 柘榴達は、急いで外に出る。

 外で、餡里と戦いを繰り広げている夏乃、景時、透馬の姿を目にした。

 彼らは、傷を負い、息も絶え絶えになっている。

 彼らに対して、餡里は、無傷であり、余裕の表情を浮かべていた。

 しかも、たった一人で、夏乃達と戦いを繰り広げていたようだ。

 力の差は、歴然であると改めて実感した柘榴達であった。


「やはり、お前か、餡里……」


「やぁ。柘榴」


 柘榴は、餡里をにらみつける。

 やはり、襲撃してきたのは、餡里のようだ。

 嫌な予感が当たってしまい、息を飲む柘榴達。

 対して、餡里は、余裕の笑みを浮かべたまま、手を上げて挨拶を交わすような態度をとった。

 まるで、彼らを挑発するかのように。


「何しに来たんだい!」


「迎えに来たんだよ」


「む、迎えって?」


 和泉が、吼えるように怒りを露わにして、問いただす。

 依然として平然とした態度をとっている餡里は、堂々と答えた。

 迎えに来たのだと。

 だが、迎えに来たとは、どういう意味なのだろうか。

 時雨は、恐る恐る餡里に疑問を投げかけた。


「……柚月を迎えに来た」


「なぜ、柚月を!」


「だって、彼は、妖になる寸前だろう?」


「……」


 餡里が、襲撃した理由は、柚月を迎えに来たためだ千里が答える。

 怒りのあまり、叫びながら、問いただす綾姫。

 柚月を迎えに来たのは、彼が妖になる寸前だと知っているからであった。

 おそらく、千里が呪いの力を察したためであろう。

 真相に迫られたのか誰一人答える事はできなかった。


「彼みたいな妖が必要なんだ。朧を殺す材料にもなる!彼みたいな強い妖は、僕なら制御できるしね。ね?僕が彼を欲しい理由、わかったでしょ?」


 餡里は、柚月を欲している理由を語る。

 柚月は、強い聖印をその身に宿している。

 そのため、九十九のように強力な力を宿したまま、妖に転じることになるだろう。

 しかも、自分達の駒とすれば、朧は、柚月に手出しすることは不可能だ。

 いや、誰も、手出しすることはできない。

 つまり、柚月は、千里と餡里にとって、どんな手を使ってでも、手に入れたい駒なのだ。


「柚月は妖でも、朧君を殺す材料でもないわ!」


 柚月は、まだ、自分の中に住み着く妖と戦っている。

 それに、彼は、朧を殺す材料でもない。

 そんな事をさせるわけがない。

 綾姫は、怒りをぶつけるように、叫び、餡里をにらみつけた。


「ごめんごめん。そう、怒らないでよ。でも、必要なんだ。本当に」


 綾姫に、怒りをぶつけられても、依然として、余裕の笑みを浮かべる餡里。

 よほど、自信があるのだろう。

 自分は、柚月を手に入れられると。


「よこせ」


「断るって言ったら?」


「じゃあ、仕方がない。君達を殺して、彼を手に入れよう。もともと、そのつもりだったしね」


 千里が、前に出て、柚月を差し出すよう命じる。

 だが、柘榴達が、そう簡単に柚月を差し出すわけがない。

 千里も餡里も、それは、わかっていた。

 そのため、力づくでも、柚月を手に入れるつもりだ。

 どれだけの血が流れようと構わない。

 なぜなら、瑠璃達を殺すことも目的としているのだから。

 千里と餡里、そして、楼達は、構える。

 目的を果たすために。


「柘榴」


「うん」


 真登が、餡里達に聞こえないように、小声で、柘榴の名を呼ぶ。

 柘榴もうなずき、霧隠を手にした。


「和泉、時雨、後は、頼んだよ」


「了解」


「わ、わかりました」


 柘榴は、小声で、和泉と時雨に、指示する。

 二人は、柘榴が何をするのか、わかっているようで、淡々とうなずいた。

 餡里達が、襲い掛かり、和泉達も、餡里に向かっていく。

 その隙に柘榴は、霧脈を発動して、真登と共に姿を消し、峰藍寺へと戻り始めた。

 瑠璃達に、この事を伝え、柚月を強引に逃がすために。



 思い返しながら説明した和泉と時雨。

 朧達も、息を飲み、緊張感が走った。

 あの後、柚月達は、どうなったのか。

 彼らの身を案じ、和泉と時雨の話を静かに聞いていた。


「あたしらが、戦って時間を稼いでる間に、柘榴は、瑠璃達と一緒に柚月を連れて逃げたはずだ」


「餡里は、あの後、峰藍寺に入り、柚月さんがいなくなった事に気付いたんです」


「それで、兄さんを追ったってことか」


「そういう事さ。あたしらも、追ったんだけどね。柚月も餡里達も、見つからなかった。もしかしたら、戻ってきたかもしれないと思って、ここに来たのさ」


 和泉達は、餡里達と死闘を繰り広げた後、餡里は、強引に突破し、峰藍寺に入ったようだ。

 だが、肝心の柚月の姿は、どこにもない。

 和泉達が、時間を稼いだため、柚月は、逃げることができたのだ。

 彼が逃げた事に気付いた餡里は、千里、楼達と共に、柚月の行方を追った。

 当然、和泉達も、二手に分かれて、柚月達と餡里達を追ったのだが、行方はわからずじまい。

 柚月達が、戻った可能性もあると考え、この峰藍寺に戻り、朧達と合流したのであった。


「皆は、無事?」


「何とかね」


 朧は、餡里達と死闘を繰り広げた綾姫達の身を案じ、和泉と時雨に尋ねる。

 どうやら、綾姫達は、無事のようだ。

 安堵したい朧なのだが、油断は、禁物だ。

 餡里達の行方がわからない以上、どこで、誰が交戦しているのかさえ、察することができないのだから。


「なら、探すしかない」


 柚月達の行方も未だ見つかっていない。

 となれば、自分達も柚月達を捜索するしかないのだ。

 朧は、決心し、陸丸達の方へと振り向いた。


「行くぞ、皆!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ