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聖印×妖の共闘戦記―追憶乃書―  作者: 愛崎 四葉
第七章 朧と餡里の過去
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第百十三話 全てを解放する

 苦戦していた初瀬姫と和巳の前に、朧が現れる。

 それも、陸丸達を連れて。

 この時の朧は、別人のように思えた。

 未だ、見慣れない銀髪のせいなのか。

 それとも、彼の背中が、頼もしく見えたからなのか。

 朧が、一段と成長したように、二人は、思えてならなかった。


「大丈夫か?」


「え、ええ」


「遅いんだけど?」


「ごめん」


 朧は、二人の身を案じて、声をかける。

 初瀬姫は、あっけにとられたままうなずき、和巳は、嫌味を言ってのける。

 もちろん、相手が、朧だからだ。

 本当に、怒りを露わにしているわけではない。

 親友であるが故の発言であった。

 朧も、わかっていながら、笑みを浮かべたまま、謝罪した。

 しかし、そのようなやり取りをしている場合ではないようだ。


「ま、また操られたでごぜぇやすよ!」


「これでは、きりがないぞ!」


「あの巨大な妖も、何とかしないといけないでござるというのに……」


 陸丸達が、口々に言い始める。

 その場にいた妖達が一斉に、気を失って人々に乗り移ってしまったのだ。

 それも、強引に。

 これでは、きりがない。

 長期戦となってしまうであろう。

 それに、本堂付近には、あの巨大な妖の塊がいる。

 あの巨大な妖の塊にたどり着くには、操られている妖達を解放しなければならない。

 朧達にとって前途多難な状態だ。

 だが、今は、戦うしかない。

 そう、覚悟を決め、構えた初瀬姫と和巳であったが、朧が、手を横に広げて、制止した。


「皆、下がれ!」


 朧が、叫び、初瀬姫達は、思わず、一歩下がってしまう。

 だが、妖に憑依されてしまった人々は、一斉に、朧に襲い掛かった。 

 それでも、朧は、その場から離れようとはせず、立ち止まったままだ。

 初瀬姫も和巳も朧の身に危険が迫っていると、感じ取り、朧の元へ駆け寄ろうとするが、陸丸達は、何かを察したのか、その場から、一歩も動こうとしない。

 ついに、人々が持つ刀が、朧を貫かんと迫る。 

 だが、その時であった。

 朧が、動くことなく蓮城家の聖印能力・解放・多重を発動したのは。

 これにより、再び、妖が解放され、街の人々の体から出ていき、人々は、眠りについた。


「い、今、何を……」


 和巳は、あっけにとられている。

 先ほどもそうだったが、朧は、一瞬にして多数の妖を解放し、憑依されてしまった人々も救ったのだ。

 かつて、自分が操られていた時にもそうしたように。


「操られてるのは、妖だ。だから、解放した」


「それって、聖印能力を発動したってことですの?」


「うん」


 朧の答えに、初瀬姫も和巳も気付いたようだ。

 朧が、聖印能力を発動したという事に。

 そのおかげで妖達は、解放されたのだった。


「使いこなせるようになったんだ」


「うん」


 ついに、朧は、聖印能力を開花させ、発動できるようになったのだ。

 これには、初瀬姫も、和巳も、喜んでいるようだ。

 今まで、聖印能力を覚醒させられなかった朧が、二重刻印の持ち主であるとわかり、さらに、その二つの聖印を制御できるようになった。

 初瀬姫や和巳達にとっても、心強い。

 今の朧なら、この戦いに勝利することができるであろうと確信しているからだ。

 だが、喜んでいる場合ではない。

 あの巨大な妖の塊が、暴れ始めたのだ。

 妖を刃と化して、飛ばし、建物を破壊し始めている。

 隊士達は、宝刀や宝器で対抗しているが、今回の巨大な妖の塊は、今まで以上に多くの妖が集まってできている。

 そのため、大きさも、妖の数も、強さも、今までとは桁違いであった。


「これは、大物じゃのう」


「餡里は、聖印京を滅ぼすつもりでござるよ!」


「でも、やるしかない。ここで、立ち止まってたら、二人を助けることなんてできないはずだ!」


 巨大な妖の塊の恐ろしさを目の当たりにした空蘭と海親は、舌を巻いている。

 これほどの強さを持っている巨大な妖の塊を相手にするのは、容易ではないと悟っているからだ。

 だが、戦い、勝利するしかない。

 ここで、立ち止まっているようなら、餡里も千里にも勝つことはできず、助けることすらも、不可能であるだろう。

 朧の言葉を耳にした陸丸達は、気合が入ったようで、巨大化し、巨大な妖に臆することなく、構えた。


「初瀬姫、結界を張ってほしいんだ。頼めるか?」


「ええ、もちろんですわ!」


 朧は、振り返り、初瀬姫に懇願する。

 結界を張り、人々を守るように。

 もちろん、初瀬姫も、断るはずがない。

 朧の為なら、命を捧げる覚悟などとうにできている。

 強力な結界など何度でも張ってやると決意しているのであった。


「和巳は、もし、妖達が来た時に、防いでほしいんだ。なるべく傷つけないようにしてほしい」


「無茶言うね。でも、やるよ」


 和巳には、妖達が襲撃しても、討伐せず、なるべく傷つけないように、戦ってほしいと懇願する。

 無茶な懇願だ。

 あちらは、自分達を殺す気でかかっている。

 それなのに、その妖を殺すな、斬るなと言っているのだ。

 だが、朧は、考えがあっての事だろう。

 文句を言いながらも、和巳は、承諾した。

 それほど、朧を信用しているからだ。


「皆、いけるか?」


「合点でごぜぇやす!」


 朧は、陸丸の背に乗って、問いかける。

 もちろん、陸丸達は、準備万端だ。

 いつでも、出撃できる。

 それを聞いた朧は、ぐっと力を込め、顔を上げた。


「行くぞ!」


 朧の号令の元、陸丸は、地面をけり、走りだす。

 空蘭も海親も、陸丸に続いて、進み始める。

 妖達を解放する為に。

 初瀬姫は、結界・凛界楽章を発動し、和巳が、四季を構える。

 人々を妖から守るために。

 巨大な妖の塊は、朧に向かって、妖を飛ばした。

 妖は、刃と化し、朧へと向かっていく。

 朧は、紅椿を鞘から引き抜くが、刃を自分に向けたまま、構え、陸丸と共に進んでいく。

 刃と化した妖達が、一斉に朧に迫った。

 だが、朧が、ひるむことはない。

 なんと、峰内を放ち、攻撃を防いで、すぐさま、解放・多重を発動したのであった。


「峰内で、防いだって言うんですの?」


「無謀すぎるでしょ……」


 次々と襲い掛かる妖に対して、刃を向けることなく、峰内で、攻撃を防ぎ、さらには、解放・多重を発動して、妖を解放していく朧。

 これには、初瀬姫も和巳も、驚いているようだ。

 朧の真の力は、強力であり、心強い事は、二人も実感している。

 それに、今、襲ってきている妖達は、操られているだけであり、非はない事もわかっていた。

 だからこそ、朧は、妖達を傷つけることなく、解放したのだろうが、一歩間違えれば、重傷を負う可能性だってある。

 それでも、朧は、妖を傷つけるつもりは、毛頭ないようだ。

 大勢の妖達を解放してく朧であったが、妖の数が多すぎて、思うように、前に進めなかった。


「さすがに、簡単には、解放は難しそうだな」


 今回の巨大な妖の塊は、一筋縄ではいかない。

 全ての妖を解放するには、時間がかかりそうだ。

 だが、時間を駆けている余裕はない。

 手っ取り早い方法はないかと、朧は、模索しながら、妖を解放していった。


「核となっている妖がいるはずでごぜぇやす。その妖を解放すれば……」


「皆、解放できるってことだな」


「へい!」


「なら、その妖を解放するぞ!」


 どうやら、強い妖気を持った妖が核となっているようだ。

 これも、餡里の聖印能力によってなのだろう。

 その妖を解放すれば、全ての妖を解放することにもつながるらしい。

 朧達は、その核となっている妖の元へと目指すことを決意した。

 巨大な妖の塊は、容赦なく、朧達に向かって、刃と化した妖を放ってくる。

 空蘭と海親に刃とかした妖を食い止めさせることで、陸丸は、核となっている妖の元へと目指すことだけに集中し、駆けだしていった。

 彼らの連携は、見事なものだ。

 陸丸が、妖に変化することで発動が可能となる技・陸虎ノ盾(りくとらのたて)を発動して、陸の盾を作る事で、妖を防ぎつつ、上空へと飛び移る。

 だが、それでも、防ぎきれなかった妖は、海親が、尻尾で妖を打ち払い、空蘭が、妖に変化することで発動が可能となる技・空鳥乃天(そらどりのてん)を発動し、海親を連れて、すぐさま、陸丸の元へ空間移動していく。

 連携が乱れることなく、朧を乗せた陸丸は、進んでいく。

 巨大な妖の塊は、大きさも、数も、強さも、桁違いではあるが、一つだけ欠点がある。

 それは、速さだ。

 巨大であるがゆえに、無数の妖をつないでいるがゆえに、動きが遅い。

 その欠点をついて、陸丸は、巨大な妖の腕に飛び移り、上を目指した。


「朧!」


「うん!」


 陸丸が、巨大な妖の塊の肩まで登りあがると、跳躍する。

 狙いは、心臓部分だ。

 そこに、核となっている妖がいる。

 朧は、陸丸から飛び降りて、念じる。

 聖印と一体になっていくのを感じながら。


「はああっ!」


 朧が、核となっている妖に向かって、聖印能力・解放・多重を発動する。

 それにより、核となっていた妖は、解放され、一瞬にして、巨大な妖の塊となっていた妖達も、解放された。

 さらには、人々に憑依していた妖も解放されたようだ。

 妖達は、朧達に危害を加えることなく、聖印京から飛び去っていった。

 妖を解放することに成功した朧は、下降し始めたが、空蘭が朧を乗せ、飛びあがった。


「大丈夫か?朧」


「うん。ありがとう、空蘭」


 空蘭は、朧の身を案じるが、どうやら、朧は、無事のようだ。

 怪我一つ負うことなく、聖印京を守る事に成功した。


「海親!」


 朧の指示で、海親は、海竜之雨(かいりゅうのあめ)を発動する。

 それは、妖に変化する事で可能となる技であった。

 海竜之雨により、人々も妖達も、傷が癒えていく。

 朧達は、初瀬姫と和巳の元へとたどり着き、朧は空蘭から降りた。


「やるじゃん」


「本当、強くなりましたわね」


「……うん」

 

 朧の戦いを見守っていた初瀬姫と和巳は、感激しているようだ。

 朧は、本当に強くなったのだと、実感して。

 朧自身も、自分は強くなったと実感しているようだ。

 だが、感じ取ったのは、強さだけではないようであった。


――聖印を発動して、やっと分かった。これが、二重刻印の力なんだ。だからこそ、できることがある。兄さんに住み着いている妖を操って、俺の体内に憑依させれば、兄さんの呪いは、解けるかもしれない。


 朧は、自身の二重刻印を駆使して、柚月を救えると考えているようだ。

 柚月に住み着いている妖を操り、自分の体内に憑依させて、柚月の呪いを解くことは、本来なら、不可能だ。

 だが、二重刻印を持っているからこそ、不可能を可能にできるかもしれない。

 それに、朧の体内に憑依させたとしたら、朧の身に悪影響を及ぼすであろう。

 朧自身に、呪いがかかってしまうかもしれない。

 朧がやろうとしている事は、無謀であり、無茶苦茶だ。

 それでも、もし、妖と向き合うことができたなら、呪いの発動を止めることができるかもしれない。

 朧は、そう考えているようであった。


――やるしかないんだ!


 もう、迷っている時間はない。

 朧は、自身の力にかける事を決意していた。

 たとえ、この身が呪いにかけられたとしても。

 


 餡里は、操っている千里と楼、白奈岐、豪眞を連れて、とある場所に来ていた。


「やっと、見つけたよ。これも、千里のおかげだ」


「……俺は、呪いを探っただけだ」


「そうだね」


 なんと、餡里達が、たどり着いた場所は、峰藍寺だ。

 瑠璃達の居場所を特定したようだ。

 それも、千里が、柚月に向けて放った呪いを探った事により、見つけてしまったらしい。

 何もない平地のように見えるが、餡里には感じているのであろう。

 目の前に、瑠璃達がいると。


「さあ、行こうか」


 餡里は、進み始める。

 瑠璃達を殺すために。


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