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聖印×妖の共闘戦記―追憶乃書―  作者: 愛崎 四葉
第七章 朧と餡里の過去
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第百九話 全てを失った

 信じられない話であった。

 自分の命とも言える聖印に妖気を取り込むなど、考えられない事だ。

 正気の沙汰ではない。

 本来なら、禁じられた実験であったであろう。

 それが、聖印渡しの正体などと受け入れがたい事であった。


「妖気を……取り込むなんて……」


「信じられないでしょうね。ですが、もう、これしかない。私は、そう思ってしまったのです」


 高清も、今となっては、信じられない事だ。

 いや、悲劇が起こったからこそ、恐ろしさを実感したのだろう。

 だが、その時は、恐ろしいと、危険だと思うこともなかった。

 人工的に二重刻印を増やす方法は、もう、これしかない。

 高清達は、追い詰められていたのだ。

 失敗した挙句、五年も、結論に至っていないのだから。

 だからこそ、冷静さを失い、判断力が乏しくなってしまったのだろう。


「ですが、これ以上、犠牲者は増やしたくない。そのため、聖印渡しの最初の被験者は、私、春日、要の三人。複写を安城家の頼んだのです」


「なぜ、安城家に頼んだのだ?」


 高清達は、五年前の悲劇を繰り返したくない。

 犠牲者を出さないようにするために、自分達が、被験者になろうと決意したのだ。

 だが、自分達だけでは、この実験は行えない。

 そのため、高清達は、安城家に協力を依頼した。

 聖印を複写し、渡してもらえるように。

 しかし、なぜ、安城家を選んだのだろうか。

 勝吏は、高清に尋ねた。


「……安城家の聖印能力・憑依は、私達にとって、手に入れたい能力でした。それに、私は陸虎の妖、春日は空鳥の妖、要は海蛇の妖に変化できました。なので、相性は、良いのではないかと……。いえ、結局は、欲望に負けたのです……」


 安城家を選んだ理由は、安城家の聖印を欲したからだ。

 妖に変化することしかできない真城家にとって、妖を憑依させ、戦闘能力を高める安城家の聖印能力は、憧れであった。

 それゆえに、安城家の聖印を手に入れたいと欲望に負けたのだ。

 だが、それだけではない。

 高清達は、妖に変化できるため、相性はよいのではないかと考えたようだ。

 それは、研究の末の結果だった。

 それも、言い訳だったのかもしれない。

 安城家の聖印を手に入れるために。


「安城家には、詳しい実験の事は、話しませんでした。密命でしたし、千代乃の時のように、反対されては困るからでした。ですが、憑依の力を制御できると嘘をつき、安城家に実験に参加してもらうこととなったのです」


 安城家には、聖印渡しについての詳細は、説明しなかった。

 ただ、実験に参加してほしいと。

 詳細を知られれば、懸念され、反対される恐れがあったからだ。

 かつて、千代乃が反対したように。

 もしかしたら、静居にも知れ渡ってしまうかもしれない。

 それを、恐れ、高清達は、安城家の人間に詳細を話さなかった。

 だが、安城家が、承諾するはずがない。

 もちろん、高清達も、わかっていた。

 そのため、嘘をついたのだ。

 聖印の力を増幅させ、妖を操り、憑依させやすくする実験だと。

 実際、安城家は、妖を捕らえ、憑依させていたのだが、強い妖を操ることまではできず、命を落とした事があった。

 強力な力を持っていたが、制御できなかったのだ。

 だが、制御できると言われれば、安城家も承諾しないはずがない。

 彼らは、実験の参加に同意したのだ。

 この時、高清達は、罪悪感を持っていなかった。

 これで、実験を行えると、己の事だけを考えていたのであった。


「実験を行い、私達は、二重刻印をその身に宿すことに成功しました」


「安城家には、聖印渡しはしなかったのか?」


「実験が、成功したと確信し、大将に報告してからやるつもりでした。ですが、それは、叶わなかったのです……。なぜなら、実験は、失敗していたからでした」


 実験を行った結果、高清達は、二重刻印をその身に宿すことに成功したのだ。

 どれほど、喜んだだろうか。

 どれほど、涙を流しただろうか。

 その時が、幸せの絶頂だったと言えよう。

 これで、実験は、成功だ。

 あとは、大将に報告し、安城家にも、詳細を明かし、聖印を渡そう。

 きっと、彼らも、喜んでくれる。

 高清達は、そう信じて疑わなかった。

 だが、それは、叶わなかった。

 実験は、失敗していた。

 高清達は、まだ、この事に気付いていなかった。


「私達は、捕らえた妖を使って、憑依させました。私は陸虎の妖、春日は空鳥の妖、要は海蛇の妖を」


 実験後、高清達は、研究所で、すぐさま、実験の為に、捕らえていた妖を憑依させたのであった。

 自分達が、変化させることのできる妖と同じ妖を。


「憑依化には、成功しましたが、直後に、異変が起こったのです。私達の聖印は、暴走し始めました」


「聖印が、暴走!?」


「だろうな。妖気を取り入れたのだ。無事であるはずがない」


「月読様の言う通りでした。妖気が混じった聖印は、暴走しないはずなかったのです。私は、こんなことにも気付きもしなかった……」


 妖を憑依をさせることに成功した高清達であったが、すぐさま、異変が起こった。

 聖印は、暴走をし始めたのだ。

 当然だ。

 妖気を取り込んだ状態だ。

 異変が起こらなはずがない。

 だが、この時の高清達は、気付きもしなかったのだ。

 そんな簡単なことに。


「聖印が暴走してしまい、私達は、妖を憑依させたまま、人間に戻ることはできませんでした。それが……」


「妖人、なのか?」


「はい……」


 暴走の結果、高清達は、人間に戻ることができなくなった。

 憑依させた妖と融合してしまったのだ。

 それこそが、妖人であった。

 妖人になり果てた事で、高清達は、ようやく自分達の過ちに気付いたのだ。

 だが、時すでに遅し。

 妖人となってしまった直後、さらなる悲劇が高清達を待ち受けていた。


「そして、悲劇はさらに起こったのです。複写に協力してくれた安城家の者が、命を落としたのです」


「え!?」


 なんと、安城家の者が命を落としたというのだ。

 それも、聖印の暴走によって。

 これには、朧達も驚愕し、言葉を失った。

 高清達も、愕然とし、絶望していたそうだ。

 まさか、安城家の者が、命を落とすなどと思いもよらなかったであろう。

 また、被害者を出してしまったのだ。

 今度は、自分達の欲望に巻き込まれて。


「まさか、原因は、妖気を、取り込んだから?」


「……そうです」


 死の原因は、妖気だ。

 実験により、抽出した妖気によって安城家の者は命を落としてしまったのだ。

 妖気に体が耐えられなかったのであろう。

 安城家の人間は、ひどく苦しんだ末、命を落としたという。

 彼らが、苦しみ、死んでいくのを目の当たりにした高清達は、衝撃を受け、愕然としたという。

 二重刻印を持ったからこそ、妖人となり、妖気を取り入れてしまったからこそ、命を落としてしまった。


「私達は、ようやく、己の過ちに気付きました……」


 高清達は、妖人と言う姿になり果て、犠牲者を出してしまった。

 実験が終わった時には、何も得ることはできなかったのだ。

 いや、全てを失ったと言っても過言ではないだろう。

 本来の姿も、名誉も、そして、家族も失った。

 残されたものは、何一つなかった。

 取り返しのつかない事をしてしまったと高清達は、後悔し始めたのだった。


「私達は、術で、大将に文を送ったのです。、自分が妖人となってしまったこと、聖印渡しを行ったものが亡くなってしまったこと、研究を中止させるようにと」


 冷静さを取り戻した高清達は、すぐさま、大将に術を使って文を送ったのだ。

 人工的な二重刻印化は、きわめて危険である事を伝えるために。

 自分達が妖人となり、命を落とした事を告げたのだ。

 偽ることなく、真実を全て記載した。

 これ以上の犠牲者を出させないために。

 そして、自分達のような妖人を誕生させないために。


「その後、私達は、聖印京から、逃げました。このような姿では、戻れないと考えて……。餡里に真実を告げずに」


 真実を記載した文を送った高清達は、妖人のまま姿を消したのだ。

 誰にも気付かれないように。

 家族に真実を告げる事もしないで。

 餡里は、捨てられたと思ったであろう。

 だが、逃げるしかなかったのだ。

 この姿で餡里の前に出ることなどできるはずがない。

 もし、全てを知ってしまったら、餡里は、軽蔑するであろう。

 また、周囲からひどい扱いを受けるかもしれない。

 それだけは、避けたかった。

 だが、今にして思えば、逃げたかったのかもしれない。

 罪の重さから。

 餡里と向き合うのを恐れて。


「ですが……」


 高清達は、これで、研究は中止となったはずだ。

 そう、思い込んで今まで生きてきたのだ。

 楼霊塔で、楼達と再会するまでは。

 彼らとの再会を思いだした高清達は、確信していた。

 まだ、悲劇は続いていたのだと。


「研究は、続けられていたようです」


 高清は、悔しそうな表情を浮かべ、衝撃の事実を告げた。


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