表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖印×妖の共闘戦記―追憶乃書―  作者: 愛崎 四葉
第七章 朧と餡里の過去
100/162

第九十九話 消せない過去があったとしても

 高清達は、妖に戻り、陸丸、空蘭、海親として、朧が、目覚めるのを九十九と共に待っていた。

 と言っても、陸丸達の表情は暗い。

 それもそうであろう。

 柚月が呪いにかかった事、相棒である千里の裏切りは、朧にとって、堪えたはずだ。

 平気なはずがなかった。


「朧、大丈夫でごぜぇやしょうか……」


「千里が、裏切ったからのぅ……」


「朧殿、無理してないといいんでござるが……」


 何より、大事な兄である柚月に呪いをかけたのが、千里であったことは、朧も相当の衝撃を受けたはず。

 だが、朧は、心配をかけまいと、平然を装うに違いない。

 朧は、そうやって、本音を隠し、一人で背負い込んできたのだ。

 それが、余計に陸丸達を心配させていたのであった。

 また、同じように、無理をするのではないかと。


「大丈夫に決まってんだろ」


「え?」


 陸丸達の心配をよそに九十九は、朧なら大丈夫だと言ってのける。

 陸丸達は、驚き、九十九に視線を送った。

 なぜ、そう言いきれるのか、理由を知りたくて。


「あいつは、強い。俺達が思ってる以上にな」


 見ないうちに、朧は、本当に強くなった。

 身も心もだ。 

 どんなことがあったとしても、朧なら、前を向いて進めるはずであろうと予想していた。

 そう考えられたのは、陸丸達が、いたからだ。

 陸丸達が、朧の支えとなっているからこそ、朧は、立ち直れる。

 それほど、陸丸達の存在は、大きいように九十九は、思えた。


「そ、そうでごぜぇやすね。さすが、九十九」


「ま、俺は、あいつの親友だからな」


 九十九の話を聞いた陸丸達は、うなずく。

 朧なら、きっと、立ち直れると信じて。

 九十九は、照れながらも、朧の親友である為、当然だと話した。

 すると、陸丸達は、再び、暗い顔を見せる。

 それも、何か、思いつめたような雰囲気だ。

 なぜ、そのような表情をしたのか、九十九は、気付いていた。

 それでも、聞こうとはしなかった。

 なぜなら、誰でも、聞かれたくない過去があることを九十九は、知っているからであった。

 陸丸達は、迷っていたのだ。

 九十九に聞くべきなのか。

 だが、陸丸は、葛藤の末、意を決して、九十九に尋ねた。


「……なら、聞きたいことがあるでごぜぇやすよ」


「なんだ?」


「朧は、あっしらの事、どう思ってると思いますかい?」


「仲間だと思ってるんじゃねぇのか?」


 朧は、本性を隠し続けていた自分達の事をどう思っているのか。

 陸丸達は、気になっていたようだ。

 それゆえに、九十九に尋ねたのだ。

 九十九は、陸丸達に聞き返す。

 朧は、陸丸達の事を仲間だと思っているはずだ。

 ずっと、旅してきた仲間だ。

 陸丸達が、どのような姿であっても、それは、変わらないはず。

 ゆえに、愚問のように九十九は、思えた。

 だが、それでも、陸丸達の不安は取り除けなかったようだ。


「……でも、あっしらの過去を聞いたら、どう思うでごぜぇやしょうか」


 陸丸は、思いつめたような表情で九十九に尋ねる。

 もし、自分達の過去を朧が知ったら、どうなるか、不安に駆られているようだ。

 もしかしたら、千里の時のように、決別することになるかもしれない。

 陸丸達は、それだけは、避けたかった。


「何かあったのか?」


「わしらは、大罪を犯したのじゃよ」


「拙者達のせいで、安城家と真城家は……」


 空蘭と海親は、過去に大罪を犯したのだと九十九に明かす。

 彼らの犯した罪により、安城家と真城家は、烙印一族になったようだ。

 つまり、全ての原因は、自分達にある。 

 そう、思い、責めているのであろう。

 陸丸達は、不安に駆られ、言葉を詰まらせる。

 消したくても、消せない過去が、陸丸達を苦しめていたのであった。


「……お前らが、どんな罪を背負っていたとしても、朧は、お前らを受け入れる」


「なぜ、そう思うんですかい?」


 思いつめる彼らに対して、九十九は、朧なら陸丸達を受け入れるはずだと、堂々と答える。

 だが、その理由が、陸丸達には、わからない。

 それゆえに、陸丸は、九十九に尋ねた。

 なぜ、そう言いきれるのかを。


「俺も、そうだったからだ」


 九十九は、打ち明けた。

 かつて、自分も、罪を犯した事を。


「俺は、あいつの姉・椿を殺した。けど、あいつは、俺を受け入れてくれたんだ。俺の過去を知った後もな」

 

 九十九は、朧の姉・椿を殺した。

 殺すしかなかったのだ。

 天鬼に憑依された彼女を救うには。

 だが、それでも、罪は罪。

 九十九も、罪を犯し、一人、背負い込み、思いつめていたのだ。

 だが、朧は、最初は、衝撃を受け、戸惑ったものの、そんな自分を受け入れてくれたのだ。

 しかも、理由も聞かずに。

 受け入れた理由は、朧が、九十九を信じていたからだ。

 椿を殺したのも、何か理由があると。

 本当は、千里の事も受け入れたかったのであろう。

 きっと、何か理由があるのだと。

 千里が、過去を悔いているのなら、尚更だ。

 だが、千里は、それに、気付かずに、悪役を演じてしまった。

 自ら、朧の元から遠ざかったのだ。

 そんな千里の心情を朧も、陸丸達も、未だ、気付いていない。

 ゆえに、彼らは決別してしまった。

 ただ、それだけの事であった。

 陸丸達も、過去を打ち明け、向き合うことで、朧は、受け入れてくれるであろう。

 九十九は、そう思えてならなかった。


「信じてやれよ。俺が、言うんだ。まちがいねぇだろ?」


「へい」


 九十九の励ましにより、陸丸達は、うなずき、自信を取り戻した。

 そして、朧に全てを打ち明けようと決心したのであった。



 だが、陸丸達も、九十九も、知る由はなかった。

 朧が、自分の聖印が、鳳城家のものではなく、二重刻印であることに衝撃を受けているなどと。

 何度、背中を見ても、あの鳳城家の紋ではない。

 朧は、現状を受け入れる事ができず、戸惑っていた。


「俺の聖印は……鳳城家ものでも、天城家のものでもない。これは、蓮城家と……」


「安城家……」


 瑠璃が、呟く。

 なんと、朧の聖印は、蓮城家と安城家のものだというのだ。

 だが、勝吏は鳳城家出身、月読は天城家出身。

 ゆえに、朧が、蓮城家と安城家の聖印をその身に宿して生まれる事は、現実的には、不可能であった。


「どうして……」


「さあね、俺にもさっぱりだよ」

 

 なぜ、自分が、蓮城家と安城家の聖印を二重刻印として、その身に宿しているのか、不明だ。

 それは、瑠璃と柘榴にも分らない。

 ゆえに、朧に尋ねてみたのだが、やはり、彼も知らないようであった。


「柘榴は、いつ、気付いたんだ?」


「君の怪我を治そうとした時だよ。皆、驚いてた。柚君もつくもんもね」


 朧の聖印が、二重刻印であることを知ったのは、朧の治療に取り掛かった時だ。

 怪我がないか状態を見る為、服を脱がせた時、発見した。

 朧が、二重刻印を持つ者であると。

 二重刻印を見た時、誰もが驚いた。

 どうやら、柚月でさえも、この事は知らなかったようだ。

 しかし、朧は、昨日の朝、着替えた時に、鏡で自分の聖印を見たのだが、その時は、鳳城家の聖印だったはずだ。

 それなのに、なぜ、今になって二重刻印が朧の背中に浮かび上がったのだろうか。

 それも、鳳城家と天城家の聖印ではなく。

 朧は、ますます、理解できなかった。


「君、つくもんを憑依させたんでしょ?その時に封じられてた聖印が、覚醒したんじゃない?」


「聖印が、封じられてた?」


「たぶんね。君が、聖印を発動できなかったのは、聖印が封じられてて、つくもんを憑依させたのが、きっかけで、封印が解かれたと思うんだけど」


「……」


 柘榴は、二重刻印が浮かび上がった過程を推測する。

 朧の聖印は、何かしらの方法で封じられていたのではないかと。 

 それゆえに、聖印を発動できなかった可能性がある。

 そう考えれば、千年桜を守る時、朧の聖印が暴走したのも、何かしらのきっかけで、朧の聖印が無理やり、解放されたからではないだろうか。

 そして、今回も、何かしらのきっかけにより、聖印が暴走し、九十九を憑依させ、聖印が封じられなかったため、二重刻印として、完全に覚醒したのではないか。

 柘榴は、そう予想していたのであった。

 柘榴の推測を聞いた朧は、黙ってしまう。

 どうやら、心当たりがあるようであった。


「まぁ、これは、あくまで、俺の推測だけどね」


 柘榴は、自分の説明は、あくまで推測であり、確証はないと告げる。

 つまり、真実には、たどり着けていない。

 そう考えた朧は、ふと、立ち上がった。 


「どこに行くの?」


「聖印京に戻る。けど、その前に、兄さんに会いたい。会わせてくれないか?」


 朧は、聖印京に戻るつもりだ。

 今回の事を勝吏と月読に話し、自身の出生について聞くつもりなのだろう。

 自分が、何者であるかを知らなければならない。

 そう、朧は、決意したようだ。

 たとえ、どんな真実が朧を待っていようとも。

 だが、その前に、朧は、柚月に会うつもりだ。

 会って、もう一度、話したいと願った。

 そのために、朧は、柘榴に懇願した。


「……わかった。いいよ。今回だけ、特別」


「ありがとう」


「本当、調子狂うよ。君と話してると」


 柘榴は、意地悪そうに、承諾するのだが、朧は、素直にお礼を言う。

 嫌味を言ったつもりなのだが、朧には通用しないようだ。

 これには、さすがの柘榴も手をこまねいている様子。

 だが、いらだった様子は見せなかった。

 瑠璃は、おかしかったのか、ふと、笑みを見せていた。

 朧にも、柘榴にも気付かれないように。



 朧は、一人、地下牢へと入る。

 静かで暗い場所だ。

 柚月は、ずっと、この場所で、一人で、耐えていたのだろうか。 

 そう思うと、朧は、心苦しかった。

 なぜなら、自分も、同じ経験をしたことがあったから。

 と言っても、朧の方が、幾分か良いほうなのだろう。

 明るい日差しが入る部屋の中で、九十九と共に過ごせたのだから。

 そう思うと、朧は、やるせない気持ちが膨れ上がっていく。

 もっと、早く、ここにたどり着けていればと後悔するほどに。

 だが、今は、過去を悔やんでいる場合ではない。

 朧は、柚月を助ける為に、自分がやれることをしようと決意し、この地下牢を歩いていた。

 そして、朧は、柚月がいる牢の前へと立ち止まった。


「兄さん……」


「朧……」


 朧が、来た事に気付いた柚月は、苦しそうに息をしながらも、顔を上げて、朧を見た。

 朧と柚月は、再び、対面したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ