『鍛冶屋のトム爺さん』
トム爺さんは加治屋です。
毎日「トッテンカントッテンカントッテンカン
トッテンカントッテンカントッテンカン」
ああいそがしい。
おやつがすんでも
「トッテンカントッテンカントッテンカン
トッテンカントッテンカントッテンカン」
そんな毎日でした。
ある日、
仕事が終わると、工場の小さな窓から、
すてきな星空が見えました。
「おう、シリウスじゃあ無いかい。」
紺色の大きな空が、
小さな窓から見えた時、
トム爺さんの目から、
銀色のなみだが、
ぽろりとこぼれました。
明くる朝、
トム爺さんの工場から、
「トッテンカントッテンカントッテンカン
トッテンカントッテンカントッテンカン」
いつもより元気な音が聞こえて来ました。
「トッテンカントッテンカントッテンカン
トッテンカントッテンカントッテンカン」
「トム爺さん~。」
「おお、ジムじゃあないか。」
「何を作っているんだい。」
「はっはっは。」
工場の屋根をつき抜けて、まっ赤なロケットが、
かがやいていました。
「わ~い。ロケットだ。」
「そう、シリウス号だ。」
「すごいじゃあないですか。」
「わしの子供からの夢だった。」
トム爺さんは二十メートルのロケットを
ハンマー一つで叩きあげてしまった。
「じゃが、ジムよ笑ってくれ。」
「どうかしたの。」
「ロケットはロケットでもわしのシリウス号は、
エンジンが無い。」
「ふ~ん。」
「加治屋にはロケットは造れても、
造れるのはロケットの皮くらいのものさ。」
「でも、とてもかっこうが良いとぼくはおもう。」
「ジムやありがとう。」
トム爺さんはぽろりと、なみだをこぼした。
つぎの日、トム爺さんの工場に五人の宇宙飛行士がやって来ました。
トム爺さんがおどろいていると、
「われら宇宙飛行士は、
トム爺さんのロケットで宇宙たんけんに行こうと思う。」
トム爺さんとジムを合わせて七人が乗り込むと、
シリウス号にはエンジンも、
そうじゅうレバーも付いていました。
「まるで夢のようですね。」
「はっはっは。」
「それでは出発。」
ロケットはむらさき色の炎を上げて、ぶるぶるぶるとふるえると、
ズッシ~ンと大きな音を出して飛び出しました。
「キャッホ~ッ。」
「良いぞ。」
「すてきだね。」
真っ白い雲をかきわけて
シリウス号は、
ゆっくりと昇りはじめました。
上空に昇って行くと青空はしだいに暗くなりました。
昼間でもお星さまが ぴかりぴかりと光っています。
見上げれば丸い窓の外にはシリウスが、真っ白な光を出
していました。
トム爺さんはロケットの窓を開けると、
思わずシリウスに手をのばしました。
「あ、ちちちっ。」
と、トム爺さんは目をさましました。