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―2―

 屋敷を離れてほどなく森が現れた。

 手入れのされている部分は屋敷を取り囲む一帯だけで、歩いているうちに徐々にうっそうとした雑木林に変わる。

「この辺りは手入れされていないのですね」

 シーラが言うと、

「人手が足りんのじゃよ」

 ただ一言、庭師が言った。

 そのまま庭師は口を閉じ、歩き続ける。

 そんな雰囲気の庭師から離れ、アタシは列の後ろに下がる。

 ラヴフェイムが何気なく空を見上げていた。

「いい天気で良かったね」

「空からの襲撃とか予想しておくか?」

「まさかのワイバーン?」

 何気に混ぜっ返したアタシの言葉に、

「それはまさかすぎる」

 ジャギが反応する。

「大丈夫、魔法がある」

「それ1日1回しか使えないとか言わないよね」

「大丈夫。明日がんばる」

「あしたがんばるって……」

 何となくラヴフェイムの生き方を見たようで、脱力気味にアタシは繰り返す。

「あしたがんばる、ねぇ」

 うらやましい言葉だ。

「大丈夫。7回チャンスはある」

 一歩前から振り返り、なぜか自信たっぷりにエファが言う。

「期限いっぱい使う気マンマンだなぁ」

「酒と食事が楽しみだ」

「それが目的か」

 笑う。

 この5人とパーティを組んでから、アタシは自分が笑いの沸点が低い事を知った。

 今まで誰かと軽口を叩いて笑うって事があまりなかった。それが理由かもしれない。

 お追従でない笑いは、楽しいんだな。

「そろそろ現場だぞ」

 先頭のグリッドが声をかけてくる。

 気づけば先頭を歩く庭師と少し距離が離れていた。

 あんまりふざけていると、庭師にあれこれ告げ口されるかも知れない

 唇に人差し指1本、しーっと指を当て、にやりと笑って先頭組に追い付く。

 と、ほんのり甘い香りが鼻をくすぐった。

 それとほぼ同時に、見た目にもしっかりした柵が見え始めた。

 高さはアタシの胸の高さ位。つまり、1メートちょっとといったところ。確かにこれでは、四足の動物が柵を超えるのは難しい。

「高いところの実は無事みたいですね」

「高いところは鳥にやられるで、先に採っちまいたいんじゃが、はしごをかけてあいつらにいたずらされてはかなわんのでな」

「毎日はしごを片付ければよいのでは?」

「はしごを毎日持ち歩くのは重労働じゃ」

 誰がそんな無駄な事を、と言外に庭師は切り捨て、

「早く何とかせんと、渡り鳥どもに実を食われてしまう」

 なるほど、だから一週間きげんつきなのか。

 呟いた庭師の言葉にアタシは何となく納得する。

 だからメイドはアタシたちを見て、あんなに安堵したのか。

 だからグリッドが不審に思う程、報酬が良かったのか。

 何となく納得しながらアタシは庭師の背中を追う。

 それが早とちりにならない事を祈りつつ。

「ここじゃ」

 庭師が立ち止まる。その目の前の柵には、確かに何かが……暴力的な知性のある何かが叩き壊した跡が残されていた。

「このままでは収穫もままならん。わしらが育てた果実が全部ダメになっちまう」

 悔しそうに、庭師が言った。

「なるほど。ところで、この足跡は?」

「わしらのものではないわい」

 庭師は靴を履いた足を指さす。その足跡は、形は崩れていたが裸足のものだった。

「一昨日雨が降ってぬかるんでいたからの」

 足跡は小さい。

「乾けば足跡は消えるかな。どうする? 追うか?」

熱源判定インフラビジョン使おうか? 1日1回だけど」

「それは今このタイミングで使う魔法か?」

「大丈夫。明日がある」

「まだ言うか」

 ギャグは3回繰り返すというけれど、ラヴフェイムの表情からはそれが笑いを誘ったものなのか何なのか、アタシには正直よくわからなかった。

「少なくとも今は必要ないだろう。足跡がいつついたか判らない以上、無駄打ちになる可能性の方が高い。それに」

 グリッドが息1つついたタイミングで言った。

「足跡を隠さないようなやつらだ」

 足跡を見据え言外に告げる。

『これは、雑魚だ』と。

 言葉に出さないのは、庭師に聞かれたくないからか。

 雑魚だからって報酬下げられたら、がっかりだものな。うん。

 隣でエファも頷いていた。アンタもか。むしろアンタにがっかりだ。

「それでは、どうする?」

 ジャギが確認するように問う。

「まだ日は高い。足跡を追ってみよう」

 日の高さを確認し、グリッドが言う。

「とりあえず、ねぐらの場所が判れば出直しても良いし」

 エファが妥協点を告げ、

「様子見、様子見。初日からそんなに飛ばす事は無い」

 ラヴフェイムの言葉に全員が頷いた。

 ちなみに、シーラはヤル気マンマンである。口を挟まないのは、絶妙なタイミングでグリッドが口を押えているわけで……。

「ではわしはここで帰らせてもらうぞ。頼んだからの」

 そんなアタシたちの思惑を知ってか知らずか庭師が言い、背を向ける。

「では、領主様によろしくお伝えください」

 背中で手を上げる庭師に、アタシたちも背を向けた。


 足跡を追うことしばし。

 足跡は、いかにも小物の魔物が好きそうな洞窟の入り口にまっすぐ向かっていた。

「さて。思ったより早くねぐらを見つけてしまったわけですね。ダイスの神に感謝です」

「さあ、早く滅しましょう」

 エファの言葉には誰一人突っ込まず、むしろ被せる勢いのシーラがキラキラしながら言う。

 ホントにシーラは闇の生物嫌いな。

 嫌いすぎてドキドキしちゃうのか? この胸の高鳴りを剣に込めて、的な?

「だが、奴らのねぐらがここ一つとは限らんだろう?」

 暗闇に入るにあたり、冷静にグリッドが言う。

「それも一理ある。だが、いくつかあったとしてもここもねぐらだ。潰しておくに越したことはない」

 シーラに中てられたのか、戦う気満々のジャギ。

「だが、罠やでかいのがいたら」

「ま、やばくなったら逃げればいいさ。調査報告でも報酬はもらえる」

 後ろからさらりとラヴフェイムが言う。

 結局、その言葉が決め手となった。

 ちなみにアタシに戦闘系の決定権は無い。そんなん無くても結構だ。

 だって、行かなきゃ始まらないんだから。


 洞窟の入り口は天然のもの。覗き込んだ中は広く、空気はひんやりしていた。

「何かいそうな雰囲気ですね」

 呟くエファ。うっすらと獣の臭いが漂っている洞窟の地面は乾いていて、泥のついた足跡が徐々に薄れて行くのがわかった。

 少し進むと広い場所になった。幅は2人並んで歩いても余裕なほどに広い。

 まだ光がかろうじて見えるその通路には、ゴロゴロと岩が転がっているのが見えた。

 差し込む光のせいなのか、岩の影は不自然なほどに暗く見える。

「岩の影に何かいないか見てきてくれるか?」

 声が響かないようにそっと言われ、アタシはうなずき、そして気づく。

 そういえばシーフって探索係だった。うっかり忘れてた。

 いやだなぁ。危険が危ないじゃん。

 とは言っても、自分ひとりの気配を消すくらいアタシにだってお手の物だ。

 とはいえまだ隠密的な技術を身に付けているわけではないので、全員にわちゃわちゃされたら探索も何もあったもんじゃないんだけど。

 それでも最悪見つかったら、戦闘野郎ファイターがいる所まで誘い出して任せれば良い。

 モチはモチ屋って師匠も言っていたしな。モチって何だか知らないけれど。

「何もいないよー」

 あっさりと探索終了し、皆にそう告げると、

「万一に備えて、簡単に陣形組んでおくか」

 グリッドが提案した。

 確かにその方がいざというときに役に立つ。

「シーフ前、バックアタック出来るエルフが後ろ。あとは適当に」

 しかし、ざっくりすぎる陣形決めだった。

「そろそろたいまつ点けましょうか」

 陣営の中ほどにいるエファが言い、火口を切ると、すぐに柔らかい明かりがアタシたちを取り囲んだ。

 ここからが本番、か。


 洞窟はまだ奥へ続いている。

 緩やかに下りながら曲がる。

 進むにつれ、たいまつに照らされる壁の様子が変わった。岩盤から、土肌へ。

明らかに誰かが掘り進めた跡。これがやつらの仕業ならと、全員の緊張が高まる。

「知性の跡が、見られますね」

 エファの呟きが、さらに皆の緊張感をあおる。そういう雰囲気を読まない呟きは、本気で止めてほしい。

 中にいるモノの邪悪さが暗闇と共に膨れてくるようで、アタシは小さく身震いした。

「ああでも、作られたのは随分前ですわ。ただ住み着いているだけでしょう」

 夜目の利くシーラがさらりと断定し、皆の逡巡ビビりを振り払うように歩を進める。

 それに皆がついてゆく形になった。 

「魔術師の実験場の跡っぽいな」

 ラヴフェイムが呟く。

「魔術師の実験って……、悪っぽいな」

「悪ですか? 魔術師は悪なのですか?」

「魔法は偉大だが、検証の場は限られるからな」

「「悪だ」」

「滅しますか?」

「やかましいわ」

 聞き耳を立ててるこっちの身にもなれっつーの。

 とは言え、甲冑の音を完全に消せるわけではなく、相手に耳の良いやつがいれば静かにしていようが多少うるさくしていようが同じっちゃ同じなのだが。

 そこは気分の問題だ。

「実験場なら、何らかの痕跡があるかと思ったんだが」

「おそらく何かの貯蔵用だったのでしょうね」

 進むうちに、木製の扉がたいまつの明かりに照らし出された。

 全員の足が止まる。

 うすっぺらな、見たところ鍵もついていない、ただの木の扉。

 だが、それだけの障害物でも視界を遮られると何とも言えないプレッシャーが襲いかかってくる。

 ここまでに分かれ道はない。

 つまり、この向こうは明らかに敵の領域だ。

 進むか、戻るか。

 相手の数もわからない。

 闇の中での優位性は明らかに向こうの方が上だ。

「さて、どうする?」

 アタシの後ろで、グリッドが問う。

「行くしかないでしょう」

「俺は一旦帰りたいけどな」

「それは早いだろ」

「さあ、早く滅しましょう」

「……とりあえず、メイ、調べて来てくれ」

 促された。扉に罠がないか調べることも、シーフであるアタシの仕事。

 何だかアタシ結局一番危険なんじゃない? と思いつつ、扉の向こうの何かを知るのは特権ぽくって何だか楽しくなってくる。

 アタシは押せば開きそうな木の扉にそっと近づき、聞き耳を立てた。

 そして音もたてず後ろで見守る皆の所に戻り、告げる。

「何か、いるよ。数はわからないけど、一匹じゃない。扉に罠はないみたい。鍵もかかってないから押せば簡単に開くよ」

「わかった。後ろにいてくれ」

 喜んでアタシは後ろに下がる。

 ファイター2人が前に出て、次にクレリックとエルフ、最後尾にマジックユーザーとシーフ。6人いて本当に良かったと思うのは、この、前衛の壁の厚さだ。

「行くぞ」

 扉が開かれる。

 と、果実の甘い匂いと獣の臭いが流れ出て鼻をついた。

「ゴブリンがいますわ。悪ですわ。滅しましょう」

 暗くても目の見えるエルフのシーラが、嬉々として言い切る。やっぱり悪・即・断か。

 ゴブリンとは、あくに属する、小鬼の俗称だ。

 一般的に小さく、緑色の肌を持ち、不潔で、知性は低く戦闘力も低い。

 四足の獣……、犬の毛を刈り鼻を潰して無理矢理立たせたらこの生き物に似るかもしれない。

 ゴブリンは雑食で、簡単にその数を増やす生物だ。そして、数が増えると人をバカにして里や旅人を襲うようになる。

 とにかく小ずるい生き物だといえば、ゴブリンの性根がわかるだろうか。

 同族嫌悪、という言葉がある。

 ケイオスに属するアタシだが、ゴブリンが嫌いだ。

「逃げんな」

 前にいる戦士2人が部屋に押し入る。

「ゴブ―――!」

 戦いが、始まった。

~注釈~

・一部を除き、動物は地球現存種とほぼ同じものだと思ってください。

・亜人種等ファンタジー世界の生物については、一般的に普及しているモノで表現したつもりです。

・魔法等についての説明、書き込みは、ありません。フィーリングだよ。

・今回は戦闘回のハズだったのですが……次回です。

・書いては直し、書いては直しを繰り返しています。進まない(´;ω;`)

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