不可視の目覚め
うわあぁぁぁあ!間に合わなかったぁぁぁあ!日曜に出す予定だったのにいぃぃい!
誤字脱字等があればご報告下さい
やはりというか、なんというか、地面は凄くぬかるんでいた。
しかし、酷いまるで泥沼の様である。感触がヌチャヌチャして気持ち悪い。それだけでなく、粘りけがあり、通常の三割増しで体力を奪ってくる。
そして、奴が愚痴を言いながらやって来た。
「あー、居た居たやっと見つけた。お前ら何でこんな後ろに居るんだよ」
「何でって、自分の心に聞いてくれよ・・・」
「心に聞くってどうやってやるんだ?」
「うん、お前ならそう言うと思ったよ」
やはり、勝には人の心情を察することが出来ないらしい。
「まあ、そんな話は置いといて、今回しんどくね?」
「雨上がりでぬかるんでるからなー」
「余裕そうだな康太」
「いつも山を越えてるからなー、これくらいじゃ何とも無いぞ」
「・・・・・・」
「何だよ?その人外を見るような目は」
「いや、だってさー、皆へとへとなんだぞ?そんな風に涼しい顔してるのお前だけだぜ?」
「さっきもいったろ、俺は雨上がりの時はいつもこんな感じの所歩いてるんだって、だからだと思うけど?」
実は、他の理由が有ったりするのだが、言わないほうが良いだろう。言われてみて改めて周りを見てみると、確かに皆きつそうである。
しかし、女子はまだ分かるが、男子や大人達まできつそうにしている。そんなに急な傾斜では無いと思うのだが。少なくとも僕の中ではなので何とも言えないが。
よし、困ったら人に聞いてみる、これ大事。一人で納得しながら近くの人に声をかける。
「ねえ、この坂ってそんなにきつい?」
「はぁ?きついに決まってんだろ」
なんかキレ気味に返されてしまった。なぜだ!?僕が一人で戦慄していると、呆れので勇斗達が居た。
「お前なー、人に自分と同じものを求めるのは酷だろ」
「勝にだけは言われたくないな」
「?俺は常に人の事を考えて行動してるぞ」
開いた口が塞がらないとは正にこの事だろう、今の僕は酷く間抜けな顔をしてるに違いない、それくらい今の勝の発言は衝撃的だった。勇斗の方に視線を向けると、同じ様に呆けた顔をしていた。
「お前ら何だその顔、まるで俺が変な事言ったみたいじゃないか」
こいつ!まさか自覚が無い!?余りの出来事に二の句が継げないでいた。もし、自覚が無かったとしたら早々にどうにかしなければ・・・。
「え?お前本気でそんな事言ってんの?」
恐る恐る勇斗が尋ねると、当たり前だろ?と言わんばかりの顔をしている。さて、どうしたものか・・・。僕は勇斗の側に行き勝に聞こえない様に小声で話し掛ける。
(おいどうする?あいつあんな事言ってるぞ)
(知るか!俺はあんな奴の事など知らん!)
(お、おう)
(これは俺達の手に負えんあの娘に任せよう)
(あの娘って紅葉ちゃんのことか?)
「お前ら何こそこそやってんだ?」
「いや、何も」
「ん?これは?」
勝が何か見つけた様だ。嫌な予感しかしない。しかも、嫌な予感に限ってよく当たるもので・・・。
「おい!見ろよこのキノコ!」
そう言う勝の手に握られているのは、とても毒々しい色をしたキノコだった。それにしても紫色って・・・始めて見たなそんなキノコ。自分でも頬が引き攣るのを感じた。
「何だそれ、明らかに毒キノコだろ」
「んなもん食ってみないと判んねーだろ」
「え?まさか食べる気か?」
「なに言ってんの?そんなわけねーだろ」
「そうか、なら早くそいつを捨て・・・『他の奴に食わせるんだよ!』・・・待てぇ!死人を出す気か!?」
「おーい、紅葉ーちょっとこれ食ってみてくれ」
「人の話を聞けぇ!」
そう言い紅葉ちゃんの方に歩いていく勝を僕は後ろから蹴り倒した。
「へぶぅ!」
そんな間抜けな声を出して勝は泥の地面に頭から突っ込んだ。紅葉ちゃんが呆然とこっちを見ているが、それ所ではない。
「何しやがる!」
「お前こそ何しようとしてんだ!?紅葉ちゃんにそんな得体の知れない様な物を食べさせる気だっただろ!」
「そうだよ!それがどうかしたか!」
「紅葉ちゃんが毒に当たったらどうする気だ!」
そう言いながら勝からキノコを奪い取り投げ捨てる。
「とりあえずこれで一安心だな」
「あ~あ、もったいない。別に本気じゃねーよ」
「そう言う問題じゃ無いんだが・・・」
と、そこへ紅葉ちゃんが遠慮がちに声を掛けてきた。
「え、えーと、お二人は何を?それと、何故私の名前が?」
「あー、もう終わったから気にしなくていいよ」
「そう言われても・・・気になります・・・」
「うっ・・・」
そこで上目遣いは卑怯だと思う。僕が言い澱んでいると勝が
「紅葉に見たこと無いキノコを食わせようと思って、お前を呼んだら蹴り倒されたんだ」
「そらそうだ、人で試そうとしたんだからな」
「え?勝さん?そんなことしようとしたんですか?」
そう言い僕の後ろに隠れてくる。
「ちょ、人を盾にしないでよ。ていうかなんで事ある毎に僕にくっついてくるの?」
「おいおい、康太察してやれよ」
「勇斗どういう意味だ?」
「んー、それはなー、そいつはお前の事が・・・『わー!わー!言わないで下さい!』・・・悪い悪い」
全く反省の色がない勇斗だった。
「じゃあ、皆この辺りで山菜か何か探せー」
先生に言われ皆バラバラに動き出した。
「んじゃ何か面白そうなの探そうぜー」
「お前こんどは何をやらかす気だ?」
「重税に対する細やかな反抗かな」
「よし、お前に協力しようじゃないか」
「康太さん!?」
紅葉ちゃんの叫びが聞こえた気がしたが気にしない。
「で?まず何を探す?」
「そうだな~、手始めに毒草かな」
「さっきのキノコ捨てなきゃよかったかな」
「まあ、嘆いても始まらん。とりあえず探そう」
「そうだな」
「おい、これバイケイソウじゃないか?」
「んー、多分そうだと思う」
「よっしゃ、まず一つ」
「これ、バレないか?」
「心配無用!慣れない奴はオオバギボウシと見分けが付かないはずだからな!」
「心配だ・・・」
そんな会話をしながら籠にカキシメジやドクカラカサタケやらを放りこんでいく。
「ああ、康太さんが黒く染まっていく・・・」
「よくある光景だから余り気にしない方がいいよ」
後ろからこんな会話が聞こえたが気にしない。気にしたら負け だ!
「あ、ナメコっぽいのはっけーん」
「それ、ドクアジロガサじゃない?」
「どっちでもいいさ俺らが食う訳でもねーからな」
「本音を言うと?」
「死人が出れば万々歳ってとこかな」
「そう簡単に死人は出ないだろ」
「あー疲れたもういいや、めんどくせぇ」
「おい、発案者しっかりしろ」
「そろそろ戻ろうぜ」
「そうだな」
収穫物(主に毒物)を先生に渡し、籠も預かって貰う。
「じゃあ、遊んできます」
と言った勝に僕は引きずられていく
「ちょ、え?何で引きずるの?」
「逃走防止。それにお前を連れていくと色々くっついてくるからな」
勝の言うとうり何人かついてきている。ついてきているのだが、あっれー、おっかしいなー、知らない人の方が多くないですか?それとも覚えてないだけかな?まあいいや道連れは多いに限るから。
「うおお!こ、これは!」
僕を引きずっていた勝が何か見つけたらしい。やっと解放された・・・と思ったら、頭を掴まれ無理矢理前(勝から見て)を向かされた。首から異音がした気がする。
「これって要石だよな!?」
「煩い、分かったから一旦落ち着いて、あと頭離して、首痛い」
「どれ?」
「これだよ、これ」
そう指で指し示した先には、岩があった・・・。うん、岩だ、何度瞬きして確かめても岩だ。ただ無茶苦茶でかい。軽く8間は超えているだろう。
「でけぇな」
「お前どこ見てんだ?」
「え?あの大岩じゃないの?」
「馬鹿野郎もっと下だよ」
「下?」
そこにあったのはごく普通の要石だった。だが、そこには、普通では無い禍々しい気配が満ちていた。さっきまで気づかなかったのが不思議な位に。
「おい、これは不味くないか?どう考えても普通じゃ無いぞ」
「何言ってんだよ。たかが要石だろ」
「違うこいつは、只の要石じゃ無いぞ」
「なんだよ、康太まさかお前怖いのか?」
「・・・・・」
僕は目を逸らした。怖いなんて一言で片付くような問題じゃないのだ。ここに封じられている何かが解放されればこの辺り一帯を1週間の内に焦土にされそうだ。
「いいか、絶対に封印を解くなよ、触る事もだめだ」
「何言ってんだよ、要石位で大袈裟な奴だな」
そう言い勝はしめ縄を外し札を剥がした。
「「「「うぁぁあ!」」」」
「「きゃぁぁあ!」」
そして、札が剥がれた瞬間僕達は不可視の何かに吹き飛ばされ た。
「ぐっ・・・が・・・」
「・・・っ何だよ」
「う・・・うう」
木に叩き付けられ朦朧とする意識の中状況を分析しようとする。
だが、そんな暇を与えてくれるような優しい敵ではなかった。
何かに最も近かった男子の体を爪の様なものが引き裂いた。
それは大岩の下から腕の様な物だけを出し、辺りの物を引き裂いていた。本能が逃げろ、と警鐘を鳴らしている。
「おい!康太!お前まさかこうなる事を知ってたのか!?」
「そんな訳あるか!嫌な気配が辺りに満ちていただろ!」
「気配?どういう事だそれは」
「まさかお前、気づかなかったのか?」
「只の要石としか感じなかったぞ」
どういう事だ?あれだけの気配に気づかないなんて。
「皆も気づかなかったのか?」
「俺は何も感じなかったぞ」
「私も何も感じませんでした」
「他の人は?」
返事は無かったがそれが答えを物語っていた。
ますます分からない、僕以外に誰も気づかなかったなんて。
「まだ、間に合うかもしれない!」
「待て勝!突っ込むな!」
飛び出した勝を追いかけた。後ろから組み付き、足を払い押し倒す。
「離せ!札と縄を戻せばどうにかなるはずだ!」
「もう、手遅れだよ、お前は封印術使えないだろ。しめ縄も札も術が無ければ只の縄と紙なんだよ」
「じゃあ・・・どうすれば・・・」
「此所から逃げるか、あれと戦って倒すかだな」
「・・・出来るのか?」
「多分無理だろうな、僕が時間を稼いでいる間に逃げてくれ」
「お前はどうする気だ?」
「皆が逃げれたら、僕も逃げるよ」
「殺されるかもしれないんだぞ」
「あいつはまだ腕だけだ。まだ可能性はある」
「可能性って何だよ」
「再封印の可能性だよ」
「封印術がないとだめなんじゃないのか?」
「文献で読んだだけなんだが、やってみる価値はある」
「正気か?」
「これ以上ないくらい正気だよ。だから札としめ縄を置いて逃げてくれ」
「本気なんだな」
「もちろんさ。この足場でまともに動けるのは僕位だからね」
「分かった。死ぬんじゃないぞ」
「そっちこそ、逃げ遅れんなよ」
札としめ縄を受け取った僕は、腕しか見えない何かにを睨み付ける。
「もう一度眠ってくれよ!」
そう言い僕は懐から小太刀を抜いた。
(まさかじっちゃんの教えがこんなところで役に立つとはな)
僕は内心苦笑しながら駆け出した。
出ているのは片腕のみ、一方方向からの攻撃ならなんとか捌ききれるかな。だが、僕は忘れていた目の前のそれが、人智の及ばない存在だということを。
ガキィィ!攻撃を小太刀で受けた僕は弾き飛ばされた。受け流そうとしていたのだが流しきれなかった。
「・・・・っはぁ!?」
空中で体を捻り木の幹に着地をする。
「あんなの流しきれるわけ無いじゃん」
康太に向かって振り払われた腕は周辺の物質をまとめて吹き飛ばしていた。よく見ると大岩が傾いている。どうやらあれも封印の一部分らしい。
「もう時間がないか。突っ込むしかないかな」
人にするなと言った事を自分自身が実行するとは夢にも思わなかった。つい苦笑してしまう。
「問題はどうやって要石まで辿り着くかだな。受けてもだめ、受け流すのは無理、かといって避けれる速度ではない。なら、衝撃がくる前に切り飛ばすしかないかな」
僕は小太刀の鞘を取り出し小太刀を納め居合いの構えをとる。そして、踏み込む瞬間を見極めるため限界まで集中力を高める。
極限まで高めた集中力により全てがゆっくりに見える。
「いける!柳刃流戦闘術:歩行の型:瞬歩!」
「居合いの型:流仙!」
掛け声と共に小太刀を抜き放ち切り上げる。ギチイィ!振り抜かれた腕とぶつかったが、半分ほどしか切れなかった。ギリギリだったが、切り上げていたため攻撃が僅かに上に逸れ、なんとか屈んで回避することができた。
「かったぁ!う~手がビリビリする。でももう一度やれば切れるはず!」
再び小太刀を鞘に納め、踏み込み、寸分違わず同じ場所を切り上げる。ズザアァァ!切り離された腕が振り抜かれた勢いそのままに吹き飛び地面を抉りながら滑っていく。
「よし、後は封印し直すだけだな」
僕は要石にしめ縄を掛け直し、札を構え、封印の呪を唱える。
(たしかこんな感じだったかな)
「世に害をなす悪霊よ、世の理から外れた妖怪よ、今我の示す処にて永き眠りに就くがいい!」
僕は文献にあったとおりの呪を唱え、札を舐め(文献には慣れない者は舐めると霊力を込めやすいと書かれていた)霊力を込めて要石に叩き付けた。
「これでどうだ!」
瞬間、岩の下から出ていた腕は霧散したが、切り放された腕はそうもいかなかった。腕だった物は、闇に包まれると人の形をとり何かを喚きながら襲いかかってきた。
『#$\ク&%▲■ア▽◇△●レお◎▼◆□リヰ〒※○△ヱ!』
「なっ!本体封印したろ!」
人形の影は指突を繰り出してくる。とっさに体を捻ったが肩に攻撃を受けてしまう。すると、影は康太に触れた瞬間何かに弾け飛ばされた様に吹き飛んだ。
「な、なんだ?」
しかし、康太は凄まじい倦怠感に襲われ成す統べなく意識を持っていかれた。
完結済みとなっていたのは事故です。すいません!