2 告白
一〇年前の春のことだ。私は中学二年生であった。中学生活にも程々に慣れ、そしてソフトテニス部に所属し青春を謳歌していた。毎日友人に囲まれ、テニスに明け暮れ、ただ時間が早く流れるのをどこか惜しく感じていた。
勉学の方にもそこそこ励み、学年では上の下、というくらいの順番であった。ホームルームでも委員長を努め、己のクラスのためにとめいいっぱいの奉仕をしていた。
「ねえねえ、本川くん」
夏の頃だったと思う。いや、夏のはずである。あの教室で私は一人、何故か一人で何かをしていたのだ。そこに一人の女子生徒――名前も顔もはっきり今でも覚えている。鷲田和美、私と同じクラスであった――がいつの間にかおり、私に話しかけていた。
「ん、何」と私はなにかしていた手を止め、彼女に振り返る。
「私、あの、吹奏楽部に入ってるんだけど」
「うん」
「よかったら、今度のコンクール、見に来ませんか……?」
「え?」
「あ、いえ、その、いいの、無理にじゃなくて、もし良かったら、で……。はい、これチケット」
と、彼女は私に黄色のチケットを手渡す。
「……ありがとう」
戸惑いながらもそれを受け取り、礼を述べる。彼女は照れ笑いし「暑いねー」と教室を見渡す。
「あのさ、本川くん」
「ん?」
「私と、付き合ってほしい……」
「……それって――」
私は聞き返した。所謂青春の代名詞とも言えよう「恋」が私のもとにも遂に到来したのであると悟った。
「そう、うん。私、本川くんが好き」
「ええと」
私は椅子から立ち上がり、彼女の目を見つめた。どこか憂いを帯びている瞳だった。
「いいよ」
「ほんとに!?」
「うん」
「やった!」
彼女は欣喜雀躍、嬉しそうにその場を後にした。私は呆然としてしばしその場に立ち尽くしていたが、我に返ってそれを片付けるとその教室を出た。なんだか非常にフクザツな気分であった。付き合うということ自体が一体何の意味を為そうというのであろうか。