褒め言葉
女物のショーツとブラジャーを手に取り、一枚一枚、表から裏から顔色一つ変えずに丹念に調べ上げた男は言った。
「こことこことここ。刺繍が甘い。それから、ここ、全部呪が乱れている。我が主の身に着けるものだ、細心の注意を払って作ってくれなければ困ると、再三言ったはずだが」
超高級ランジェリーもかくやという仕上がりのそれを指差し、製作者を非難する。
「うるさいわっ。我が主、我が主と、この従僕馬鹿め! ぬしは細かいんじゃ!! ミクロ単位で呪を織り込んであるのじゃ、カーブや布の合わせ目は、どうやったって歪むに決まっておるじゃろうがっ」
日の光のように美しい女神は、それは恐ろしい顔で、ぎしゃーっとばかりに叫び返した。男は黙って一瞬妙な表情をした。が、すぐにいつもどおりに無表情に厳しい要求を口にした。
「褒めても、言い訳は聞かん。ここの呪のかけなおしを……」
「誰が褒めた。とうとう頭だけでなく耳までおかしくなったか。我がぬしを褒めるなど、あるわけなかろうが」
女神は男を鼻で笑った。そんな女神に、男はしれっとして答えた。
「私のことを、従僕馬鹿と言ったではないか」
「それは貶したんじゃ、あてこすったのじゃ、厭味も通じんのか、この下郎がっ」
男は溜息をついて、やれやれと横に首を振った。
「厭味も満足に言えないとは、仕立ての腕前どころか頭も残念なのだな」
「我の頭は、残念ではないわ!! だいたい、性格の残念なぬしに、言われたくないわ、この腐れ主持ちめっ。去ね、去ね、去ねーーーっ!!!」
女神は持っていた杼を投げつけた。男は危なげなくそれを受け止め、素早く振り下ろして、二人の間のテーブルにめり込ませた。……樫の木を使った硬い一枚板のテーブルである。機織道具の華奢なつくりの杼など、とても刺さるものではない。それをやってのけた男の脅しに、女神も控えていた御付きの者達も蒼褪めた。
「興奮していて、話にならんな。頭を冷してから、これらの呪をかけなおしておけ。明日また取りにくる」
男は一同を睥睨すると、時間が惜しいとばかりに出て行った。
緊張が解けて、御付きの者たちがへなへなと座り込む中、女神は拳を握って、閉まった扉に向かって叫んだ。
「おとといきやがれ、××××ーーーっっっ!!!」
それは、伏字にするしかない、女神にあるまじき暴言だった。
だんだんと女神の威厳が形無しになっていく姿に、とうとう御付きの者たちは、さめざめと泣き出したという。
とある神域でのお話である。