執事の神饌と下着の調達方法
機織部屋の引き戸が、すぱん、と開き、細身の背の高い男が現れた。ぬっと入ってくる。
「神饌をよこせ」
挨拶の一つもない。相手はこの神域で最高位の女神だというのに、敬う態度も見られない。それどころか、座った女神を睥睨し、はやくしろ、と言ってのけた。
女神は厭そうに口元を覆って顔をそむけ、くれておやり、と控えていた御付の者に言い渡した。
殺伐とした沈黙が続くこと五分。神饌を取りに行っていた者が戻り、男へと手渡す。男は白い絹に包まれたそれを確かめ、まあまあか、と呟いた。
キッと女神が視線だけくれる。それへ、しゃあしゃあと男は言った。
「そこ。糸が乱れている。せっかく糸にかけた呪が台無しではないか。我が主が身に着けられるものだ。寸分の隙もあっては困るのだぞ。そのせいで我が主の身に何かあってみよ、どうなるかはわかっているだろうな」
「やかましいわ!! そこはどうせ端切れになる所だから、どうであろうとかまわぬのじゃ!! ええい、ぬしがいると、集中もできんわ!! 去ね!! とっとと出て行かんか!!」
女神は立ち上がって、すさまじい怒気で叫んだ。神気があふれて波状に広がり、うおん、と空気がうなる。
おかげで、余波で御付きの者たちはひっくり返って床に這い蹲ったが、男は涼しい顔で言った。
「今度は、酒も用意しておいてくれ。神気をたっぷり注いだものを頼むぞ」
「知るか、下郎!! 去ね、去ね、去ねーーーーっ!!!!」
「酷い形相だ。女神の威厳も形無しだな」
どこから取り出したのか、鏡を女神の前に突きつけると、呆れた溜息を一つ落として、男は悠々と去っていった。
バリーンッ。きーっっっ!!!!!!
神域全体に、鏡を叩き割った女神の、ヒステリックな声が響き渡った。
その日、地上では、太陽の大フレアのせいで磁気嵐が起き、一時、電子機器が誤作動を起こしたとか起こさなかったとか。
ただし、千世はちょうどお昼時間だったので、特に仕事に支障は出ず、幸せなお弁当タイムを満喫していたという。