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異世界転生魔眼持ち  作者: 山山
旅立ち
8/21

2

城のような家を出るとメイドに案内されて、広い庭を歩く。

この家も未だにその全てを見て回ったわけではない。


それどころか魔法の訓練か体を動かすぐらいの目的でしか庭に出ることは

なかった。ただ膨大な数の本を読んでいただけだ。この体は前世の記憶に

ある体ほど馬鹿ではなく、読んだ内容をすぐに理解できてしまう。

そして次へ次へと読んでいるうちに本を読む速度も日に日に上がっている

事に気付いた。

前世ではここまで本好きだったわけではないが、こうスルスルと頭に入って

きてくれると楽しいものだ。


そんなわけで本の虫となっていたわけだ。それもこれも旅に出るためだ。

戦争が始まったらしいのでなおさら知識は必要になるだろう。


などと考えつつ、大きな屋敷をぐるっと回るとそこに馬車のようなものが

止まっていた。

ようなものというのは繋がれているのが馬ではなくトカゲだったためだ。

いや、正確にはトカゲではない。

ランドドラゴン。その翼を進化の過程で失ったドラゴンだ。

体長約3メートル。翼もなく、ブレスも吐かない。知能も獣の域を脱しない。

人間達の間では貴族のペットとして知られている。

足こそ馬に及ばないが、地中に潜ることでそれを超える速さを出せる。

また、スタミナは圧倒的であり、2,3日程度なら飲まず食わずで走り続けられる。

土を食べているのでエサも必要ない。さらに腐ってもドラゴン。下手な魔物は

自分から道を開ける。

そんな優秀なモンスターなのである。本の情報だが。


「これに乗っていきます。

この森を抜けたところにある村に来てくれているということなので

明日には着くと思われます」


そんなに近くに村があるのに今までこの敷地から出たことすらなかったのか。

まあいいだろう。楽しみが増えるというものだ。



初めての竜車に乗り込む。中は意外と広く快適だ。

食糧はメイドが持ついくらでもはいるバッグ。

異次元バックとでも名付けようか。それに入っている。

自分は何も食べなくても大丈夫なので入っているのは両親が入れた

金だけだ。後の荷物は腰に差したレイピアのみだ。


さて、中に座り込むとメイドは竜の側に座った。

手綱を引くのだろう。

メイドとは特に話すことはないので外の風景を眺めておく。


鬱蒼とした森に入ると意外と道が整備されている。

しかし家に客が来た覚えはない。

高い樹が空を覆い、光は隙間から少し差しているが、やはり暗いという

印象が一番に来る。

生き物の姿は見えない。このランドドラゴンの気配を感じて

逃げ出しているのだろうか。

ランドドラゴンは堂々とした歩みを見せる。

整備されているといっても多少の足場の悪さはあるだろうに全くそんなことは

感じさせない歩みだ。


どれくらいそうしていただろうか。気付けば目を閉じて周りの風景を視ていた。

この眼のことはいまだによく分かっていない。

ただよく見えるだけだ。眼を閉じても見える。

後は力を感じ取るということだろうか。それが魔力なのか別の何かなのかも

分からない。

では、この腰のレイピアについてだ。

あの家にあったのだから普通のレイピアではないだろう。

これは魔法のというより呪いといったものだ。

俺の第六感がそう告げている。

さっきは必死だった。この優秀な体でなければ今頃失神してベッドに運ばれるか、

あの霊に何かしらされていただろう。

この剣は危険だ。間違いなく。しかし、それよりも強くこの剣は役に立つ。

そう感じるのだ。

そっと剣に手をやると剣は小さく震える。返事のつもりだろうか。

手を放すと伝わる振動も止んだ。


俺はなぜこのような世界に生まれ変わったのだろう。

意味なんてないのかもしれない。しかし、こうして暇になると

つい思考がそういった方向にいってしまう。どうにもネガティブだ。


「はぁ」


思わずそんなため息をついてしまうが、それにおもわぬ反応が返ってきた。

メイドがふと小さな笑い声を漏らしたのだ。


「どうした?」


「いえ、ネイ…バシリス様でもやはり両親と離れるのは不安ですか?」


両親と離れるか。そんなことは考えもしなかったがやはり悪魔の子といえ

この歳で両親と離れるのは普通辛いものなのか?

いや、このメイドは…アルマは人間だ。前からそういったことを気に掛けていた。


「そういうわけでは…」


「たぶん、そんな不安も最初だけですよ」


メイドはまた小さく笑った。


「あの御方はいろいろ凄い方なのでそんな不安はすぐになくなると思います」


メイドも知っているのか。両親とメイドの知り合いでこの3人が信頼するという

凄いやつとはどんな者なのだろうか。

人か悪魔かあるいは天使かそれ以外か。分からないがたいそう真面目で

お人好しなのだろう。なんせ知り合いの子とはいえ見たことのないガキの御守を

しながら旅もするというのだから。


男か女か。

そんな呑気なことを考えているといきなり体が跳ね上がり、外へと放りだされた。

地面をゴロゴロと転がり、一本の大樹にその体を受け止められた。

衝撃で口から空気が漏れた。


「いってぇ」


幸い丈夫な体は傷一つなく、何が起きたのかと土を払いながら立ち上がる。

メイドは放り出されたそのまま地面に着地していた。

ランドドラゴンはひっくり返って気絶しており、竜車の荷台は倒れているが

壊れている様子はない。

そして一番気になるのがランドドラゴンのすぐ脇に立つイノシシ。

とはいえ大きさは体長3メートルのランドドラゴンと大差ない。

少し小さいくらいだ

それにしても何か禍々しいものを感じる。この剣ほどではないが。


「バシリス様、危険です。逃げてください」


そうできるならしたいが、どう見ても逃がす気はなさそうだ。

ランドドラゴンの気配が強すぎて強い魔物を呼んだってところか。


「闘う!」


メイドに聞こえるように叫んで腰の剣を抜くとイノシシもその場で地面を蹴り

鼻を鳴らしながらこちらを見る。


「それはA級モンスターです」


A級とは極めて危険なモンスターである。

ランドドラゴンでCランクと言えばその強さは分かるだろうか。


「だが、やるしかねえな」


眼に集中してレイピアを前方に突き出して構える。まだ来ない。


「火球よ 進め ファイアーボール」


これまで幾度となく練習してきたファイアーボールの呪文を唱えて

イノシシに向かって発射する。それとほぼ同時であった。

まさに一瞬。イノシシが地面を蹴りだした瞬間、時が止まった。

いや、そうではない。あのイノシシはこちらに向かって動いている。

風景は何も変わらず、自分の体は一向に動かない。

止まっているファイアーボールにイノシシがぶつかり、次の瞬間には

火の玉は消えた。

なおも進み続けるイノシシを見てやっと気づいた。

これは自分の動体視力が見せているコンマの世界なんだと。

そしてこの場でその世界に生きるのはあのイノシシただ一匹だ。


そのコンマの長い長い時間を前に死を予感していると

その世界にもう一匹の乱入者を見つけた。

あれは、人か…?


イノシシに何か投げるとこっちに向かって飛んできた。

そのまま自分の体を抱えると、後ろへと飛び退く。

そこで初めて、自分の住む世界に帰ってきた。


「あなたは…?」


「よう、待ってるのも退屈だから迎えにきたぜ」


不敵に笑う男の口には鋭い牙が見えた。

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