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異世界転生魔眼持ち  作者: 山山
旅立ち
7/21

1

「近々、戦争になる」


転生して5年、現在8歳。この国の成人は15歳だから

まだ子供だ。しかしその戦争という言葉はいまだ争いから

離れて暮らしている俺からすると現実離れした言葉だ。

父の言葉は自分には重い。



「お前はいまだ弱い。戦うにはあまりに小さすぎる。

俺はお前を知り合いに預けるつもりだ」


高価な椅子に腰かけて目を瞑り、じっと考え込む父の姿は

今までの気楽な悪魔というイメージを一変させるほどのものだ。


「お前の母との共通の知り合いだ。悪いようにはされんだろう。

それに今すぐにとは言わない。準備もいるだろう」


椅子から立ち上がると父はまだ背の小さい自分の元へとゆっくり

と歩いてくる。自然と上目使いに見上げる。


「お前の世話役のアルマもいっしょだ。

そして俺から言うことは一つだけだ。生きろ」


アルマとは世話役のメイドさんのことだ。

ずっと世話になっている。


「はい。この眼に誓って」


「なら、安心だ」


そういうと頭を撫でまわされた。

5年間成長を続け未だその兆しを

見せるこの眼はその父の手にこもる力を感じ取る。

成長と言えば言葉だ。転生してしばらくは上手く言葉が

変換されなかったが、この体はどこまでも優秀らしい。

慣れてくるとあっというまで、今では普通に会話をすることができる。

この体の成長速度には驚かされるばかりだ。



「そういえばいつしか旅をしたいといったらしいな」


アルマか母に聞いたのだろう。いつか話したことがあった。

確かに順調にいけば旅をするつもりだったが。


「はい、でもどうやらそれも難しそうですね」


「いや、むしろ逆だ。これからは嫌というほど連れまわされるぞ」


父は嬉しそうに笑う。やはり信頼のおける相手なんだろう。


「それなら新たな名前がいるな。今のままでは敵に知られるやも知れん」


そういい、父は少しだけ考えるとすぐに口を開いた。


「バシリスだ。お前の名は今日からバシリスとする。

勝手に決めると怒られるかもしれんな」


怒られるとは母にだろう。母は2、3日出かけている。

理由は知り合いに会いに行くということだったが、この様子だと

戦争に関することだろう。

そして新たな名前。今まではどこか自分とは乖離したように

感じていた名前。まるで今初めて名を付けられたようだ。



それから一週間後、自分とメイドは旅立つことになった。

手渡されたのはいくらでも中に物が入るバッグ、中を覗くと

暗闇が広がっていて、思い浮かべたものが表面に出てくるという。

一度入れると思い浮かべないと出てこないので入れたものを忘れると

二度と取り出せないという注意は受けたが、メモをすればそれも心配はない。

中にはある程度の金を入れたと言っていたがそれもこれからの生活で使うことは

無いだろうとのことだった。どうやら父の友人の仕事を手伝うことになるらしい。


そしてこの日が初めてこの大きな家の外に出る日でもある。長い廊下を渡り、

今までさほど気にしていなかった数多くの絵画や壺などその装飾品にも

自然と目が行く。それらは自分の目では価値を判断することなどできないが

それなりに高いものだという察しが付く。

さらに進んでいくと剣や盾などが飾られているのが目に入った。


「何か気になるものがございましたか?」


どうやら一際存在感を感じる剣に見入っていたのを気付かれたらしい。


「旦那様は屋敷の中に気に入ったものがあれば好きに持っていくようにと

おっしゃっていました。バシリス様の眼ならばホンモノを見極めることが

できるであろうと」


確かにあの剣から伝わる存在感はこの眼を通してくるものだ。

これまで幾度となくやってきたように眼に流れる力を断つと

その存在感は鳴りを潜めてそこいらのものとなんら違いが分からなくなる。


「あれ」


そういって指差すとその剣は吸い寄せられたように壁から落ちてくる。

そこから眼を伝わる力はより強力なものとなって体に大きな振動を起こす。

いや、これは本当に振動が起きているわけではない。

体中の力がこの眼に集まっているのだ。あの、まるで生きているかのような

妙な生々しさと人間味を感じるあの剣、いやあれはレイピアか。

ドクドクと鼓動が速くなる。眼に伝わる力と心臓へと送られる血液が

まるで生命力を奪い合っているかのように慌ただしく動き回る。

額から汗が止まらない。なんだあのレイピアは。なんだこの力は。


「大丈夫ですか!!」


メイドが急いで駆け寄ってくるがいつものように軽く返事をする余裕はない。

恐らくこの現象の原因たるレイピアへと焦点を合わせる。レイピアは

ただ変わらずそこに落ちているだけ。だが、眼へと伝わる力が視界をより

クリアなものへと変えていく。そのおかげかこんなにも体の震えは止まらず

汗をだらだら垂らしている状況にかかわらず周りがよく見える。

そして、剣の横に立ち腕を組んでこちらを挑戦的に見つめる半透明な、

亡霊とでもいうべき存在も見えてくる。屈服しろと、そう囁いているかの

ように感じる。その目を見た瞬間に膝を折りそうになる。

しかし、ギリギリ踏みとどまる。生前よりの高いプライドだけで今、俺は

この場に立っている。


「ふっざけんな、、屈するのはお前だ!」


顔を上げてその霊を睨みつける。今の研ぎ澄まされた感覚なら分かる。

この霊はレイピア自身だ。試されているのだろう。この俺が。


「今、すぐその剣に戻れ。お前は、俺が使ってやる」


その霊体を睨みつけながらできうる限界で相手へと命令する。

それと同時に眼に嫌というほど集まってきていた力は霧消し、

同時に霊体も剣へと戻っていく。足は体を支えることができなくなり

長い廊下のカーペットへと吸い込まれる。


「一体何が…」


「はー、はー、大した剣だ。危うくやられるとこだった」


「出るのは明日にしましょう。今日1日は部屋に戻って…」


「いや、出るのは今日だ。少し待て」


眼に急速に集まりだす力の流れをせき止めると今度は全身へと回りだす。

数分後にはもう立ち上がれるほどに回復する。


「よし、もう大丈夫だ。行こう」


「え?本当にだいじょうぶなのですか?」


「ああ、問題ない」


どこから湧いてくるのかこれほどの疲労も数分で回復させる力。

しかしそれだけの力もこの眼にとっては些か不満らしく一度その道を

開けると一目散に眼へと流れ込んでくる。それでもこの眼は貪欲に

溢れる力を蓄え続ける。


「さあ、お前もいくぞ」


もう何の威圧も感じないそのレイピアを腰に差すと、その剣が

ニヤリと笑った気がした。


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