第7話 Would you tell me your name?
前回のあらすじ
奴隷の存在、ヤックデカルチャー。
「そういえば名前、君の名前を聞いてなかった」
町へ向かう道すがら、俺は女の子に話しかける。
見せてもらったタグにも名前は書いてなかった。
No.19 奴隷
所有者 ユーマ
先天性スキル 有
後天性スキル 家事Lv7 片手剣術LV5
たったこれだけだ。
「……私は幼いころから奴隷として育てられてきました。奴隷商人のもとでは奴隷は番号で呼ばれます。自分の名前を知らない私にとっては番号が名前代わりでした。」
まずいことを聞いてしまったかもしれない。この子は自分の名前を認識するよりも前から奴隷として生きてきたのだ。
俺は落ち込ませてしまった償いにと提案をする。
「じゃあ、俺がつけていいか?」
俺には命名スキルがある。人に対して使えるかはわからないが、試してみてもいいだろう。
「ご主人様……」
「ユーマ」
「……ユーマさんがですか?」
まだ名前で呼ぶことに慣れていないようだ。名前で呼ぶたびに恥ずかしそうな顔をする。それがいじらしくも可愛らしくて、つい意地悪したくなる。
「俺も番号じゃなくて名前で呼びたいからね。」
渾身の爽やかスマイルで言ってみる。この爽やかスマイルは評判がよく、凛にもずっとその顔で居ればいいのにと言われたほどだ。無茶言うなっての。
「そんなっ!名前をいただくなんて……よろしいのですか?」
女の子は恐れ多いといった感じで遠慮しながらも、期待を込めた目でこちらを見てくる。吸い込まれそうな青い瞳が期待で輝いてて可愛い。破壊力は抜群だな。
俺は女の子を対象に指定し命名と念じる。
(なんと命名しますか?)
命名できるようだ。
金髪碧眼に愛らしい容姿、なんて名前がいいだろうか。可愛い名前がいいだろう。
俺が1人でうんうん言っていると女の子が不思議そうにこちらを見る。
よし!決めた。
「うん、今日から君はアリスだ。よろしくね、アリス。」
決め手は不思議そうにこちらを見ている時の顔だった。その顔が凛の宝物の「不思議の国のアリス」の表紙のアリスそっくりだったのだ。
「アリス……私の名前……アリス……」
アリスはそう呟くと俯き泣き出してしまった。気に入らなかったのだろうか。
「えっ、ど、どうした?アリスは嫌か?」
慌てる俺にアリスが顔を上げる。
アリスは泣きながら笑っていた。綺麗な青の瞳からはボロボロと涙が出ているのに顔は笑顔だった。
「……違うんです……うれしくて……名前……うれしくて……」
綺麗だった。とっくに太陽は沈み、月が昇っている。
その月明かりに照らされたアリスの顔は、涙でぐしゃぐしゃだったが言葉では表しようのないほど綺麗だった。
「そ、それは……よかった。……改めてよろしくな、アリス。」
アリスは名前を呼ぶたびにうれしそうにする。俺はできるだけたくさん、この子の名前を呼んであげよう。
「……はいっ!ユーマさん!!」
アリスの涙も乾くころに俺たちはやっとザインの町に着いた。
俺は門番にタグを見せる。アリスも俺に習い、タグを差し出す。命名スキルを使ったからかアリスのタグにはしっかりと名前が刻まれていた。
それを見たアリスはまた涙ぐんでいた。門番の前で泣かれてはどう思われるかわからないので、アリスの頭をわしゃわしゃと少し撫でる。
アリスは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。
町に入った俺たちはまずギルドホールを目指す。遺跡で退治したゴブリンの報酬とクズ鉄を売るためだ。
遺跡内でのドロップ品は開拓者ギルドで買い取ってくれるとのことだった。
窓口に着くと俺はお姉さんにタグを差し出す。
「お疲れ様です、ユーマさん。本日の成果はゴブリンソルジャー4匹とクズ鉄4つですね。しめて銀貨7枚と銅貨2枚です。」
どうやらゴブリン1匹で銀貨1枚らしい。クズ鉄は今価格が高騰中とのことで1つ銅貨8枚での買い取りだった。
所持金が銀貨9枚と銅貨2枚になった俺は、昨日泊まった跳ね馬亭へと向かう。2人だといくらになるかと聞いたら奴隷は所有物だから値段に変わりはないと言われた。野宿は避けられたが複雑な心境だ。ちらっとアリスを見る。
「私は大丈夫ですよ。」
アリスは俺の心境を察してか微笑みながら答える。
「じゃあ、食事だけ追加で。あとお湯とタオルをもらえます?」
お湯とタオルは銅貨5枚の追加料金がかかった。タオルといってもほとんど手ぬぐいのような簡素なものだったが。
部屋代銀貨5枚にお湯、食事の追加で合計銀貨6枚と銅貨5枚だ。
俺は部屋に入るとまずアリスに断りを入れ、シャツを脱ぐ。アリスは顔を真っ赤にして目をつぶっています!といったがちらちらこっちを見ていた。バレバレだぞ、アリス。
手ぬぐいをお湯に浸すと体を拭く。
あー、気持ちいい。もとが日本人なので本当は風呂に入りたいがこれで我慢する。
拭き終わると手ぬぐいを綺麗にゆすぎアリスを呼ぶ。
「俺は荷物の整理をしちゃうからその間にアリスも身体拭いちゃいな。」
俺はシャツとベストを着直すとアリスに手ぬぐいを渡す。
「わあっわわわっ私もですか!?」
焦りすぎだろう、アリス。
「さっぱりしたいだろう?俺は向こうを向いているから遠慮なく使ってくれ。」
気遣いのできる男、それが俺!
そんなことを考えていると真っ赤な顔をしたアリスが上目づかいにこちらを見ながら言ってきた。
「……ゆ、ユーマさんがお望みなら……見てても……いいですよ?」
何だ、ただの天使か。
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なんともうれしい限りです。
まだまだ幕が上がったばかりですが、ルインザムライフ!!をよろしくお願いいたします。 1/Mar/2014 真岡ソントク