第2話 聖剣エクスカリバー(棒)
前回のあらすじ
聖剣エクスカリバー(棒)を手に入れた。
命名スキルってもしかして……ハ・ズ・レ?
はぁ、ボーナススキルあるしいいか。騎乗は馬を乗りこなせるとかかな。もともと馬に乗ることはできたけどあんまり得意ではなかったからありがたい。
俺は一応エクスカリバー(棒)をジーパンのベルトに挟む。
「町に行くか……」
1人暮らしすると独り言が多くなるよね。
一応道があるのでこの道に従って進めばどっかしらにつくだろう。
町へ向かう道すがら、俺は自分の所持品について確認する。
エクスカリバー(棒)ジーパン Tシャツが俺の装備だ。……うん。
ポケットには細サンタの餞別と思われる銀貨15枚。これがどの程度の価値なのかもわからん。とりあえずポケットが重い。町に着いたら鞄を買おう。
そのほかには身分証のタグ、動かない携帯電話、ライターくらいか。
まだまだ日は高い。明るいうちに町につきたいなぁ。などと考えていると、道の先に人影が見えてきた。第一村人発見?
「ゴブッ」
うん、どうやら人ではなさそうだ。この世界のゴブリンはゴブッって鳴くのね。
相手はまだこちらに気が付いていない。装備はエクスカリバー(棒)だけだしどうするか。
そうだな、逃げよう。
まだ戦闘は俺には早いな、うん。
ゆっくり、森の中を通って行こう。
パキッ
あっまずい、気付かれたようだ。こんなところでお約束発動しちまったよ。
どうする全力で逃げるか?
こちらに気がついたゴブリンが独特の走り方でやってくる。ちょっと可愛いな、あの走り方。
いっちょ戦ってみるか?
どっちにしろ最初のうちは魔物を狩るなどして日銭を稼ぐ必要があるだろう。
遅かれ早かれ戦うのだ。
俺は腰のエクスカリバー(棒)を抜く。
「ゴブッゴブッ」
ゴブリンの装備はこん棒のようだ。あれで殴られたら痛い。絶対痛い。
木の棒一本でゴブリンに勝てるのか、実験開始だ。やばくなったら逃げよう。全力で。
「ゴブッ」
ブンッ
考えてるうちにゴブリンが襲ってきた。
「うおっつっぶね」
思わず叫ぶ。少し距離をとり、体勢を立て直すとエクスカリバー(棒)を両手で構える。
相手の武器はこん棒だ、攻撃はどうしても大振りになる。それをかわして攻撃を打ち込むのは容易だった。
「ゴッ」
エクスカリバー(棒)が当たった瞬間ゴブリンは肉片となり散らばる。
えっ?ゴブリンの面影もないんだけど。あるのは勢いをつけてバケツからぶちまけたような血痕と肉片だけ。ついでにエクスカリバー(棒)も持ち手から先が消し飛んだ。
「ミンチよりひでぇや……」
そう呟かざるを得ないな、これは。
命名スキル……実はものすごく強い?
ゴブリンといえば雑魚だ。ファンタジーの中では主人公たちにばっさばっさ斬られるのが役割であるといっても過言ではないぐらい雑魚だ。
かといってRPGなどで始めたばっかりのルーキーが一撃で倒せるような相手ではない。
これは命名スキルが強いのか、それともこの世界の魔物が圧倒的に弱いのか。
そういえば細サンタも言ってたな。「人が束になって勝てないような魔物は少ない」って。少ないってことは居るにはいるんだろうけど。
もう少し実験してみる必要がありそうだ。
俺はまた森から一本の棒を拾ってくる。
命名:どうのつるぎ
よし、次にゴブリンに会ったらこのどうのつるぎ(棒)で戦おう。
それでも一撃で倒せたのなら、この世界の魔物というのは人にとって脅威では無いということだ。そして同時に魔物退治が大した稼ぎにならないということでもある。
もし、一撃では倒せなかったら命名スキルで名付けたものは名前並みの強さを得るということか。しかしエクスカリバー(棒)が砕けたということは、耐久値自体は素材のものを引き継ぐのだろう。
つまりエクスカリバーとしての威力に棒が耐えきれなかったのだ。伝説の剣だもん仕方ないね。
俺は命名スキルの可能性について考察しながら道を進んだ。ゴブリンとの戦闘から1時間ほど進んだだろう。日も少し傾いてきたとき前方にゴブリンに襲われている馬車が見えた。
馬車の持ち主らしいおっさんが馬車の屋根の上に上がり棒でゴブリンを突いている。
チャンスだ。あのゴブリンで実験ができる上に助けた礼に町まで乗せてってくれるかもしれない。
俺はゴブリンの視界の外から走りこみ、脳天にどうのつるぎ(棒)を叩きこむ。
ゴブリンは急所を揺らされよろめきながらも俺の方を向いてきた。
ふむ、一撃じゃ倒せないか。さっきのゴブリンと同様に武器はこん棒なので避けては打ち込みを繰り返す。ゴブリンが倒れたのは6回目に打ち込んだ時であった。
これで命名スキルの使い道がわかったぞ。やはり命名したものに名前通りの強さを与えるようだ。その強さの値がどの程度のものなのかは追々検証しよう。
「ありがとうございます、旅のお方。おかげで荷物も命も助かりました。」
馬車の持ち主が屋根の上から下りてくる。身長180センチはあるだろう筋骨隆々のおっさんだった。
それでゴブリンに勝てないのか。筋肉が泣くぞ。
「木の棒一本でゴブリンを倒してしまうとはお強いのですね!私は行商人のクリストフと申します。」
そうか、傍から見たら木の棒でゴブリン撲殺してるように見えるんだな。すごいシュール。
「無事で何よりです、クリストフさん。俺はユーマ、えーっと……放浪者です。ところでどちらに向かわれるのですか?」
「ご存じないのですか?明日、この先にあるザインの町で市が開かれるのです。私はそこで商いを。」
良かった、ちゃんとこの先に町があるようだ。結構歩いたのに全然つかないから不安だったんだよね。
「えーっと、知りませんでした……俺は田舎の出身なので。よかったら町までお供させてはいただけないですか?用心棒ぐらいはできると思いますよ?」
やばくなったらエクスカリバー(棒)を作ればなんとかなるだろう。歩くのも疲れたし、一緒に行けば迷うこともないだろう。
「それは願ってもない申し出です!ぜひこちらからもお願いしたい。」
よかった、のってきた。いや放浪者はちょっと……とか言われたらどうしようかと思った。
「では、乗ってください。順調にいけば日暮れまでには着きますよ。」
ザインの町への道すがら、俺は恥を忍んでクリストフさんにこの世界のことを聞いた。
なぜそんなことを聞くのかと不審な目を向けられたが、田舎の出身なので自分の知識が合っているのか確認したいと言ったら快く教えてくれた。
曰く、この世界には4つの種族がいるらしい。
最も人口が多く、商人・戦士・生産者と幅広い分野で活躍する人族。
ドワーフやエルフなど人と妖精の中間に位置し、独自の技術を生かした生産職に多い陽人族。
吸血鬼やサキュバスなど人と魔物の中間に位置し、長い寿命を生かし知識を蓄えた学者が多い陰人族。
狼人や狐人など人と獣の中間に位置し、高い身体能力を生かし傭兵の多い獣人族。
この4種族がそれぞれ国を持ち、不可侵の誓いを結ぶことで世界が平和に保たれているらしい。
かといって国同士いがみ合ってるわけでもなく、貿易などは活発に行われているそうな。
こりゃ本格的に転生者の使命なんてなさそうだな。とすると俺はこのファンタジーな世界で特に何にも縛られず生きていけばいいのか。
クリストフさんとのおしゃべりの後、俺はザインの町に着くまで自分がこの世界で何をしたいのか考えた。
だがまだ答えは出ない。
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次回からユーマは自分のしたいことを探していきます。
もうそろそろ1人目のヒロインを出したいです(願望)