プロローグ2~ユーマ21歳の夏~
そいつは突然現れた。
夏休み、実家に帰ったはいいが下宿先に大学の課題を忘れてきたことに気が付き、親の車借りて高速を走っていた時のことである。
俺はあまり運転には慣れていないので、できるだけ左車線で安全運転を心掛けていた。夏休みとはいえ世間一般では平日、お盆もまだ先のためあまり混んでいなかったのを覚えている。
前にも後ろにも車はおらず、俺はのんびりと運転していた。のんびりとはいっても100キロは出てる。そんな俺の車をいきなり抜き去って行ったトラックがあった。後ろに車なんていないと思っていた俺はトラックの出現に心底驚き、渾身の二度見をした。首が痛かった。
トラックには「ロズウェルのモビルトイショップ」と書かれている。宇宙人でも売ってんのか?最初はそう思ったが、不意に半年前の凛との会話が蘇る。
本当にあったのか……移動するおもちゃ屋さん。つか高速すっ飛ばしてんぞこのおもちゃ屋。
ともかく俺はこのおもちゃ屋が止まるまでついていきルインザムを買うことを決意する。
凛の奴やりたがってたもんな。もうすぐあいつの誕生日だし、驚かすには持って来いだろう。うん。
しばらくするとトラックはサービスエリアに止まった。俺は近くの駐車スペースに車を止め、トラックの所に向かう。
いったいどんな奴がこんな酔狂なことをやっているのか予想を立てているとトラックから運転手が降りてきた。
タイトなジーンズに包まれた細い足。
雪のように白い肌。
顔全体を覆う豊かな髭。……あれ?
トラックから降りてきたのは痩せたサンタクロースのようなおじいちゃんだった。一瞬美人を期待した俺をあざ笑うかのようにファンキーだ。夏なのに革ジャン着てる。あ、脱いだ。さすがに暑かったか。
俺はそのファンキーな細サンタに声をかける。
「あのー。ルインザムってゲームは取り扱っていますか?」
細サンタがじろりとこちらを見る。怖ぇー。
「ええ、もちろんございますとも。」
腰低っく!超丁寧!見た目とのギャップが半端じゃないな。
「じゃあそれを二つください。」
細サンタは笑顔で頷くとトラックの荷台に入って行った。
ひとついくらだろう。まぁ財布の中には諭吉さんが2人控えているし、足りないことはないだろう。凛も一緒に遊んだ方が喜ぶに違いない。
そんなことを考えていると細サンタが箱を一つ手に戻ってきた。
「申し訳ありません。ルインザムの在庫は一つしかありません。一つでよろしいですかな?」
そんな申し訳なさそうな顔をするなよ、細サンタ。いたたまれなくなるだろう。
「無いものはしょうがないです。じゃあ一つください。」
俺は財布を取り出す。凛が喜んでくれそうなプレゼントが見つかっただけありがたいか。
「では、終わりのない剣と魔法の世界ルインザムがお一つで15800円になります。」
高い!高いよ凛さん!在庫が二つなくてよかった。お金が足りなくて一つキャンセルという恥ずかしめに逢うところだった。
俺はひきつった笑顔で細サンタに諭吉2人を渡す。もぅまぢむり短期のバイトしよ。
「確かに受け取りました。それではルインザムをご満喫ください。」
おつりと箱を俺に渡し、細サンタは満面の笑みで言った。
俺が飲み物を買って車に戻るとトラックはもういなかった。俺は少し休憩すると再び下宿先に向かって移動を開始した。
下宿先に到着し課題を回収する。
そして俺はおもむろにルインザムの箱をテーブルの上に置く。機械の苦手な凛が自ら進んでやりたいとまでいったゲーム。
そしてこのゲームは手元に1つしかない。
そう、人がやっているRPGを横から見ているだけというのはとても苦痛なのだ。
かといってまたあのおもちゃ屋に会える気はしない。
凛が飽きた後に借りるという手もあるが「終わりのない剣と魔法の世界」を謳っているのだ、そうそう飽きないだろう。
やりたい。
俺のファンタジー欲が早くやらせろと主張している。汗が額を流れる。箱と見つめあった姿勢のまま数分を過ごした俺は決意する。
ちょっとだけ!ちょっとだけだから!
凛よ、はまってしまってプレゼントしなかったらごめんよ……
俺は心の中でそうつぶやくと、「終わりのない剣と魔法の世界ルインザム」の箱を開く。
するといきなり目の前が真っ暗になり体の力が抜けるような感覚が俺を襲う。
俺は座った姿勢のまま前のめりに倒れていく。
……あれ?
とりあえず次回から異世界行きたいです(願望)