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『あいつは…俺が殺したはずなんだ。』
講義を受けながら、先輩の言葉を思い出していた。思い出すというより、いつの間にか頭の中に現れては消えるを繰り返している感じだ。
昨日は、それ以降何も話してくれなかった。そして今日はどこかへ消えてしまった。先輩はいったいどこへ行ってしまったんだろうか。
先輩が人を殺す?そんなことがあるのだろうか。腕っぷしはかなりあるけど、決して人に手を出すことはなかったし、感情の起伏は激しいけど、めったなことで怒ることはないし。まぁ妹がからんだらすぐにキレるけど。
もしかしたら、妹がらみで何か事件があったのかもしれない。例えば、由美香と杉並が付き合っていて、先輩がそれに腹を立てたとか。怒りに狂った先輩が、杉並のヒョロヒョロな体に鉄拳をくらわして昇天させたとかはかなりありえる。僕と由美香が一緒にいるだけであんなに暴れたんだ、きっと、手をつないだところを目撃したのかもしれない。いや、キスする瞬間をみてしまったのかも。それなら、ドロップキックをくらわせて、首を絞めるくらいしてしまうかもしれない。杉並は簡単にあの世行きだろうな。
…まぁ。僕の妄想に過ぎないけど。杉並は先輩とケンカしたことないっていっていたし、死にかけたこともないと言っていた。それに…由美香と杉並が付き合っていたなんてありえないし、あってほしくない。
講義はいつものように淡々と進んでいく。教授の黒板をカタカタたたく音と、それをノートに写す鉛筆の音、すぅすぅともれる寝息の音がせまい教室の中で響きあっていた。






