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僕と先輩の真実捜し  作者: 速水 そら
猫が起こした事件
5/7

「いやぁ、昨日はすまんかったな。みるくが体調悪くてな、朝は病院に行っとったんだわ。」


僕は再び杉並の研究室を訪れていた。今日はあの女の人はいないようだ。研究室には僕と杉並と、杉並が抱いている白猫が1匹いるだけだった。きっとこの猫がみるくなのだろう。

「御影さんに聞いたんだけど、くろを見つけてくれたんやって!」

「御影さんって、あの女の人だよね。同期にあんな子いたっけ?」

「・・・今年転科してここの研究室に来たから、近藤は知らんでもしゃーないわ。それより、くろは?連れてきてないみたいだけど。」

探していた猫が見当たらないことに、いらついているようだ。口では笑っているけど、目が血走っている。

「あ、あぁ。・・・ごめん、あれ違ったみたいなんだ。昨日本当の飼い主が見つかってさ、返しちゃった。」

先輩は今日は一緒に来ていない。というより、今日起きたらいなくなっていたのだ。

「ま、マジ。そうか、そうか・・・そうか。」

杉並は明らかに落ち込んでいた。顔は下向き、涙目になっている。

「きょ、今日は別に聞きたいことがあってきたんだ。」

「くろ・・・くろ・・・。」

机に突っ伏し、愛猫の名前をつぶやいていた。僕の話は全く届いてなさそうだ。杉並が抱いている白猫が、机と杉並にはさまれて苦しそうに鳴いている。

「あぁごめんね、みるく。そうだ、そろそろご飯の時間だね。」

僕のことを完全に無視し、台所の方へと歩いていった。白猫も開放されて尻尾を振りながら彼の後ろをついていく。

「あの、聞きたいことがあるんだけど。」

「さぁ今日は栄養満点のプレミアム缶だよ~。」

皿に缶詰のキャットフードを出し、白猫は勢いよく食べ始めた。その様子を眺め微笑んでいる。

「お前、わざとやっていないか?」

一期生のときからそうだが、杉並は猫を中心に世界がまわっている男だ。猫のことになると周りが全く見えなくなる。そしてそのことを自覚していないから、非常にたちが悪い。

「・・・荒波一樹って知ってるか?」

たぶん答えてはくれないとは思ったが聞いてみた。


「・・・一樹くん?知っとるけど。近藤こそ何で知っとるんや?」


僕の方を振り向き、不思議そうに答えてくれた。愛猫を前に、僕の話なんか聞こえてないだろうと思ったから、驚いた。

「高校のときの先輩なんだよ。」

「あぁ、なるほど。」

「杉並は荒波先輩とはどういう仲、なの?」

「一樹くんとは同期さ。前にいた大学の話しやけど。」




杉並が、前にいた大学を中退し、こっちの大学に進学していたのは聞いたことがあった。杉並が僕より2つ年上だということも。しかし、まさか先輩と同じ大学にいたとは。

「俺と一樹くんは学部は違うけど、演劇部で一緒になったんや。」

「へぇ、そうなんだ。杉並が演劇部だなんて、なんか意外だな。」

「近藤だって、高校ん時演劇部に入っていたなんて想像つかんわ。まぁお互い様や。」

今は二人とも演劇部には入っていない。しかも芸術とは無縁の、理系の学部生で、お互い地味だから無理もないか。

「先輩とは、ケンカとかしたことある?」

「ケンカ?ないない。やっても勝ち目ないし。」

確かに、杉並は丸縁眼鏡のひょろ長いもやしみたいな体格だ。僕でもケンカしたら勝てる気がする。

「・・・そろそろ、研究を始めたいんやけどええか。」

机の上で丸くなっている白猫をなでながら、杉並が言った。研究の邪魔をするのは申し訳ない。しかし、一番聞きたいことが残っている。

「あ、あと1つ聞きたいんだけど。」

「なんや?」

目線は白猫に向けられたままだ。

「その・・・、今までで死にかけた経験ってある?」

「なんやそれ?・・・死にかけたことか、あるで。」

目線はそのままに答えた。おもわず椅子から落ちそうになった。そんなあっさりと。

「それって、誰かに殺されかけた・・・とか。」


そのとき白猫が目を開け、僕を睨んだ。僕の言葉に反応するかように、じっと睨んでくる。なんか、怖い。その猫を杉並は落ち着かせるようになでながら、僕の方を振り向いた。

「あれは、いつになるかな。・・・ベランダでみるくが楽しそうに遊んでいたんや。俺もつい一緒に遊びたくなってな、ベランダの柵の上へ上ったんや。そんとき踏み外して、2階から落下や。いやぁ、あんときはさすがに死ぬかと・・・」


話を最後まで聞く必要はない。僕は研究室を後にした。


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