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次の朝、僕は杉並のいる研究室を目指した。自転車でいつも通る道を走る。かごの中には、昨日探しだした小さな箱が入っている。
「おい!こっから出せー!!」
先輩の怒鳴り声が箱の中から聞こえてきた。ガタガタと箱を揺らし、必死に脱獄をしようとしているが、鍵のかかっているため出られることはまずない。
「先輩…僕はもう疲れました。」
「おい、俺をどこへ連れていく気だ!…まさか保健所じゃあないよな。」
一瞬自転車をこぐのを止めた。このまま引き返して街の方に向かうか悩んだ。保健所か、それも悪くないな。しかし、また当初の目的地へ進み始めた。
「…先輩そっくりの猫を探している知り合いがいるんですよ。」
「知り合い?…そいつは女の子か?」
「男ですけど。」
「いや、待て!早まるな、もう一度やり直そう。話し合えば分かりあえるはずだ!」
そこまで露骨な態度をとられると、ツッコむ気もなくなる。
「そいつと暮らしたほうが幸せですよ、猫好きなんで。異常なくらい。」
「俺のことを正直に打ち明けられるのは近藤、お前しかいないんだよ。頼む、これからも仲良くやっていこう、な?」
「…由美香と付き合うのに、もう文句は言いませんか?」
「そんなわけないだろ!!由美香は大切な俺の妹だ!!」
僕は自転車のこぐスピードを上げた。全力で大学を目指した。
研究室には、たぶん同期であろう女の子が1人だけいた。杉並はまだ来てないらしい。杉並の使用している机に案内され、しばらく待つことにした。先輩が箱の中で暴れているので、しっかり抱えて椅子に腰かけた。ガタガタ音がうるさいので、女の子は不愉快そうに僕の方を一瞥したので、若干気まずかったが、我慢して杉並を待った。
机に目を向けると、研究室で遊びに行った時の写真が飾ってあった。3期生のメンバーでキャンプに行ったようだ。
「先輩、これからお世話になる人ですよ。一番左端にいる杉並です。」
先輩にだけ聞こえるように小さな声で話し、先輩の入った箱を机の上においた。すると、ガタガタうるさかったのが止まった。
「杉並…、なんでこいつがここにいるんだ!?」
いきなり先輩が叫び始めた。女の子が機嫌が悪そうに僕をにらみつけたので、僕は研究室から慌てて退出した。
「いきなり叫ぶからびっくりするじゃないですか。」
人気の少ない校舎裏で、先輩に話しかけた。箱の中で先輩はとても静かだった。
「杉並知ってたんですね。どういうつながり何ですか?」
返事がなかった。感情の起伏が激しい先輩だけど、あんなに驚いたところは初めてだった。声が震えて、何か恐怖に怯えていたように感じた。
「あいつがここにいる訳がない。」
唐突に先輩が答えた。いや、声をもらしたといったところか。
「…いる訳がないって、どういうことですか」
「あいつは…俺が殺したはずなんだ。」